一夜明けて痛いところが変わった。
今は右肩関節が痛い。
長時間レーサーに乗って発生する肩関節の痛みは、
次の日まで残っても徐々に和らいでくるものだけど、
今回は夕方になっても一向に治まらないので、
ついに鎮痛剤を服用した。
走行中は無用であった痛み止めが24時間以上経ってから必要になるとは…。
それでは、いざ、後半へ
緩やかな登りをこなすとすぐに三坂峠
S田さんからタイミングよく掲示板に三坂峠の下りに関する情報が書き込まれていた。
高速からのヘアピンがあるとのこと。
情報提供がありがたい。
三坂峠からのダウンヒルは慎重に下ろうということになった。
久万から緩やかな登りをこなすと、すぐに三坂峠からの下りに転じた。
15:39だった。
慎重に…と思いながら下っていくと、間もなくヘアピンがやってきた。
なるほどここかと思いながらさらに下っていくと、
高速コーナーの連続するとても気持ちいい下りであることがわかった。
60km/hでコーナリングできる下りなんて、徳島県内にはまずない。
時折下りの途中で西陽を浴びた松山市内が垣間見えた。
こいつは爽快。
試練の登りという所があるけど、ここは歓喜の下りだった。
ひたすら雨の中を耐えたご褒美だと思った。
あっというまに砥部を通過し松山市内に入った。
愛媛県庁を目指して夕方の松山中心部を走る。
目的地を各県の県庁としたことだけはナイスなアイデアだった。
県庁というのは主要な道路を走っていれば必ず案内表示が出ており、
それの示すとおり走れば地図など頭に入れなくても間違いなくたどり着けるからだ。
道に迷ってムダなタイムロスをする恐れはまずない。
16:37、愛媛県庁到着。
愛媛県庁は風格のある建物。
鳴門先生と二人で正面に腰を下ろし、掲示板に到着報告をした。
スタート前は12時間後の16時に愛媛県庁着を目指していた。
遅れること約40分。
できれば12時間を切りたいと思っていたので、
ちょっと気になる遅れではあった。
愛媛県庁を出て、いよてつ会館横ののローソンに立ち寄った。
店内に入ったところでHORIさんから鳴門先生に連絡があった。
10分ほどでここへ来るとのこと。
トイレに入ったときに顔を見ると目が真っ赤に充血していた。
キャップもなしに雨の中を走ってきたせいだ。
すぐに持っていた目薬を差した。
ローソンではおでんの大根と玉子と糸こんにゃくを食べた。
久しぶりの暖かい食べ物だった。
おでんを食べながら、アメダスでこれからの風向きをチェックしたら、
高松で風速5m、引田で風速7mの向い風。
なんと…。逆風は予想していたけど、強風は吹かないと思っていたのに…。
「陸風、海風ってあるじゃないですか。風向きが変わるかも知れませんよ。」
鳴門先生はそう言った。
期待薄だったとしても今はそう祈るしかない。
そうこう言っているうちにHORIさん登場。
ジャージ姿でレーサーに乗って登場するものと思っていたら、GパンにTシャツ姿。
明日、石鎚のヒルクライムがあるとのことで、今日は走らないとのこと。
よく絞れた体で、練習ができているようだった。
桜三里まではR11よりも、並行して走る県道334号を走る方が2kmほど短い。
事前にマップでそれを確認していたのだけど、
信号の多さなどから果たしてどちらを走るべきなのか、決めかねていた。
HORIさんに聞くと、R11の方がいいということだったので、とりあえず国道を行くことにした。
18:07、桜三里の登りにとりかかる。
300km近く走っているというのに、鳴門先生はダンシングで軽々と登っていった。
前半の不調が嘘のよう。
スイッチONになったみたい。
300kmはアップだったの?
一方、僕はこのあたりから徐々に疲れが見え始めた。
夕闇が迫っていた。
桜三里から東は長い下り。
勢いを得て西条までの区間を一気に駆けた。
このあたりは風もまだ順風だった。
「いい風ですね~。」と鳴門先生が言った。
19:20、西条のスリーFで休憩。
これまで、休憩のたびにおにぎりやパンを補給してきたけど、
固形物が食べにくくなってきた。
気付かないうちに新居浜を通過、土居の登りにかかっていた。
小さなアップダウンだけど、補給困難になってきた体には堪えた。
決して暑くはないのに、顔からいっぱい汗が出てきた。
冷や汗をかきながら走っているのだった。
まだ先は長いというのに…。
土居のアップダウンを終えたところでコンビニで休憩。
ゼリーしか食べられない状態。
その代わり麦茶が美味しい。
麦茶を求めるのは、胃がへたって来ている証拠。
とりあえず高松まではなんとか持たせなければ…。
一方、鳴門先生は相変わらず好調。
伊予三島のあたりからはずっと鳴門先生の付き位置。
後ろで分岐を指示するくらいしかできなくなっていた。
下ハン固定でぐんぐん走る後ろでタラタラと冷や汗を流しながら、
付いていくだけで必死だった。
22:10、三豊のローソン。反対車線だったけどかまわず立ち寄った。
鳴門先生の奥さんがお出迎えに来ていた。
店の外にへたり込んで太腿を揉んでみたら、グニャグニャ。
異常に軟らかかった。
皮下脂肪ばっかりで筋肉がない。
そんなはずはないけど、肉を摘むとなぜか筋肉らしい感触がなかった。
「これでは走れんわなぁ…」思わずそう、つぶやいていた。
「脚終わってます。」と掲示板に書き込んだ。
23:16、坂出の金山トンネル通過。
高松まであと少し。
なんとかここまで付いてきた。
しかし、冷や汗に加え、吐き気でムカムカしてきた。
本当にヤバイ。
0:08、香川県庁到着。
コンビニでバナナ1本を良く噛んで食べ、液キャベを補給した。
これからの向い風が最後の正念場。
幸い走り始めの風はそれほど強くなかった。
へたった胃は元に戻らなかった。
吐き気がひどく、補給なしで徳島までの75kmを走り切らなければならなくなった。
小さなアップダウンが堪えた。
途中からは恐れていた強い向い風にも悩まされた。
もちろん鳴門先生の付き位置のまま。
一人では走行不能に陥っていただろう。
津田のコンビニで鳴門先生が買い物をしている間、外で横になって僅かな仮眠を取った。
仮眠といっても、目をつむってぼんやりしているだけだ。
3:00、引田ローソン。
横になりたかったのに、風が強くて体を休められなかった。
鳴門先生がレーサーに跨ろうとハンドルに手を伸ばすと、
カエルをつかむというハプニングがあったけど、
もはやつっ込む余裕もなく…。
徳島まであと35km。
残り時間は1時間。
引田からの道程はさらに最悪だった。
吐き気に加え、平衡感覚すらなくなって来た。
このままふらふらと落車してしまいそう。
酒に酔って気分最悪でレーサーに乗っているような状況だった。
風さえ防げたら、もうどこでも良かった。
鳴門先生にお願いして北灘のバス停の囲いの中、
パラペットの上に体を横たえた。
どれくらいの時間がたっただろう?
たぶん10分も経ってはいないと思う。
再び目を開けると澄んだ空に星が輝いていた。
「星が綺麗ですねぇ。」鳴門先生も同じことを思っていた。
「何万光年も離れているんですよねぇ。
宇宙には地球以外にも生命体がいる星があるんでしょうかねぇ?」
「それは間違いなくあると思います。
宇宙が生まれて確か137億年経ってるんですよ。
今では宇宙誕生の直後まで遡れるらしいけど、
宇宙が誕生する前はどうなっていたんでしょうかねぇ。」
ゆっくり起き上がって再び走り出した。
鳴門で鳴門先生とお別れし、最後の15kmをトボトボと走った。
ライトのバッテリーが消耗し、ほとんど消えてきた。
体も同じ状態だった。
川内のあたり、15km/hくらいしか出せない状態だった。
歩道を走るママチャリの方が速かった。
5:24、徳島県庁着。
身も心もボロボロ。
写真もピンボケ。
眠気と疲労の中で敗北感だけがしみじみと込み上げてきた。
フライトデッキの走行距離は519kmになっていた。
ネットの走行時間は20時間と4分。
走ってない時間が5分の1もあったことになる。
24時間を切るためには、いかに走ってない時間を切り詰めるかが鍵となる。
いかに効率よく走れるかで勝敗が決まってくる。
多少アベレージを落としても、休憩が10分ですむなら、
頑張って走って20分休憩するよりましである。
その他にも、たとえ僅かであっても無駄な時間は極力排除しなければ、
そういう時間が積もり積もって命取りになる。
とにかく、時間に対してものすごく「しぶちん」で臨まなければならない。
距離は長いけど、クレバーな者のみが成し得る、極めて緻密なゲームなのだと痛感した。
もちろん天候にも左右されるけど、
今回はにーなさんが単独で24時間切りに成功しているのだから、
雨や風を言い訳にすることはできない。
最後に、時計回りよりも反時計回りの方が難易度は高いと思う。
4県庁を時計回りで成功させるのも至難の業だけど、
反時計回りで達成すれば、それは本当に大したものだと思う。
自分が走ってしんどい時を思い出しました。
けど、しばらくしたらまた走りたくなるんですよね。
学習能力がないのかな。
反時計回りは根曳きの登りが+分キツイと思いますが、全体の難易度で言えば時計回りの方がしんどくないですか?
ルートラボを見る限りそう思うんですけどねぇ。
いつもはコメントオフなんですが、
アクセス数が異常な数字になっていたので、開けておきました。
どちらがしんどいかについてのぼくらの判断は、
反時計回りだと三坂峠と根曳峠をきつい方から登ることになるからということです。
でも、本当のところは実際に両方走ってみないとわかりません。
もし、両方走ったとしても、
体や天候が同じコンディションにはならないだろうから、
やっぱり判断は難しいでしょうね。
結局、どっちを信じるかだけだと思います。
それでもやっぱり確かめたいなら、行くしかありませんよ!