広かる波紋は最初の音楽

…パン、パパン…

スッと幕が上がる。
眩い光に溢れるステージ。
アンコールを求める手拍子が歓喜の拍手にかわった、その時。

そのコは息を切らしながら会場に入ってきた。

(何？あのコ？)
(今さら来てもね～？)

彼女の周囲にそんな「？」が渦巻く。
盛り上がってヒートアップした会場は、
空いていた席のところまで観客であふれている。

全く知らないコだけど、小さく手を振る。

(ここ、入りなよ)
(…え？)

声のない、わずかなやりとり。
遠慮がちにそのコが横にやってきたところで
アンコール一曲目がスタート。

あ。今夜はアンコール一曲目が、前日までと違う！
それを察知して会場は異様なテンション。
ステップを踏みながら、さっきのコをチラッと見る。

腰に手を当て、眉間には深いシワを作ったまま。

…今夜のコンサートはあと二曲でおしまい。イキナリ全開はキツいよね…

でも。

こういう時は、気遣う方が野暮というもの。
私は目一杯、ビートとシンクロ。

一曲目、終了。汗を拭う。

まだ固まった隣のコは動かない、彫刻のように。

そして、最後の曲。特徴的なイントロが始まった瞬間。

「～～～！」

誰よりも大きな声であのコが弾けた。
魔法が解けたみたいに軽快なステップを踏んで、
こちらをほんの瞬間、見た。

…！
うわ、すっごくいい表情(かお)してる。

弾ける笑顔と歓声。

さっきまで、遅れちゃったことなのか、
それとも一緒に来るはずだった人のことを考えていたのか。
泣いちゃうのを我慢するような難しい顔をしてたコとは、思えない。

それにしてもすごいシンクロ。
滅多にお目にかかれない程の気持ちいいステップで曲に合わせている。
負けじと私もギアを上げる。それが周りを更に巻き込んで…
一階席左側、異様なヒートアップ。

たった一曲。
それでも、ココロに響く、届く。

……これが、音楽の力。
…これが、歌の力。
これが、歌に力を込められる人の『チカラ』。

全ての曲の演奏が終わり、メンバー紹介の直前に、

(…サンキュ)

そんな視線を残してそのコは風のように会場を後にした。


本当は会場に来たかった人にも、
本当は笑顔で開演時間に席にいたはずだった人にも。

みんなに小さなイイコトがありますように♪