最終話を読んで書きたくなったので、さぱーと書きました。
ツイッターで流したのと一緒です。
◇ ◇ ◇
【ハチワンダイバーに出てきた現代最強と同じ名前の八極拳士のポジションが駒田シゲオだったときのエピローグ】
あの戦いにおいて、駒田シゲオという男ははたしてなにを果たしたのか。
六年が経過してなお、本人であるシゲオにもわからない。
打って負け、ネズミに度肝を抜かれ、見覚えのあるような女と戦ったところで記憶が途切れ、目覚めたときにはすべてが終わっていた。
しかし、まあいい。
寝ている間にいい勝負があったらしく、のちに映像を見せられて思わず歯ぎしりをしたが、まあいい。
実際のところ、この六年間週三くらいの頻度で寝る前に思い出しては頭を抱えていたのだが、まあいい
なにせ、出くわしてしまったのだから――まあいい。
将棋センターからの帰り道。
そろそろ夕方から夜に差し掛かるというころ。
打ち合わせもなにもなく、本当に唐突に出くわしてしまった。
「久しぶりだな」
腰を低く落として構えを作りながら、シゲオは眼前の相手を見据える。
ホスト風に着こなしたスーツ。
汚れ一つない真っ白なローファー。
同じく白い無造作な髪の下には、獣のように鋭い切れ長の瞳。
麻雀にのめり込んだ六年前よりさらに前、初めて会ったときと何一つ変わらない姿の――『現代最強』に出くわした。
「久し……? ああ。ああ……そうか、アレか。あの、お前、深道のアレのアレか。いたな、やったな、そういや」
ポケットに手を突っ込んだまま、現代最強は一人納得する。
シゲオが構えているというのに、さながら電車でも待っているかのように自然体でただ立っている。
「で、なんだ? お前もアレか。将棋か」
「……そうだ」
シゲオは構えたまま、構えを作らぬ現代最強に返答する。
「そうか。流行ってるな。深道までハマりやがったからな。こちらとしては退屈でたまらんよ」
たった一つの単語が、シゲオの脳内で反響する。
――退屈。
たしかに、現代最強はそう言った。
そう言ったにもかかわらず、構えを作らない。
いまもまだ退屈には変わりないかのように、一向に構えようとしない。
「構えてくれ」
舌打ちをどうにか抑えて、シゲオはかつてと同じ内容を告げる。
「アンタの歴史深い『本物』をもう一度見せてくれ。
もう一度だ。アンタのを越えるために、俺は『最新型』を洗練させてきた」
訝しむように目を細めてから、現代最強はゆっくりと口を開く。
「将棋でか?」
「将棋でだ」
「将棋がなんの役に立つ?」
シゲオが即答すると、現代最強がさらに即質問してきたので、さらに即答する。
「先が読めるようになった。
一手先、二手先、五手先、十手先――すべて読める」
「…………八極拳士は」
「それは知っている。すでに勉強させてもらった。
だが俺の師匠はアキオであって、アンタじゃあない」
被せるように断言し、シゲオはさらに続ける。
訊かれてもいないことを言わねばならない気がした。
「アキオは世界中を渡り歩き、八極拳をベースにあらゆる格闘技を取り入れた男だ。
六年前に出た新作で、アキオは格闘技だけではなくついに将棋まで格闘技に取り入れた。
だから俺は将棋を始めたし、将棋を我流八極拳に取り入れた」
「……そうか。知らんが」
「俺の師匠がアキオで、俺がアキオだ」
「…………そうか。よく分からんが」
「そうだ。『知らん』じゃないし、『分からん』じゃない。
そうなんだ。『知って』、『分かれ』」
言って、シゲオはさらに踏み込む力を強くする。
微かにアスファルトに亀裂が入る音がして、呼応するように現代最強が口元を緩めた。
「二種類だ」
一瞬にして、現代最強の纏う空気が変わる。
「二種類いるんだよ。
俺の前で、その構えをするヤツにはな。
八極拳ってもんを分かってないマヌケと、分かった上で俺を本気にさせてくるマヌケだ」
流れるような動作で、現代最強が構えを取る。
腰を低く落とし、左手は前に出して右手は引く。
その動作において、視線がぶれてしまうことは一切ない。
「お前は――両方だな」
ついに構えを取った現代最強を前に、シゲオは六年間積んだ将棋知識を総動員する。
眼前にいるのは、たった一人にして角行飛車で桂馬で香車で金将で銀将で歩兵で玉将。
こちらは、せいぜい桂馬だ。
何手先に取ることができるのか。
そもそも取ることができるのか。
奇しくも、導き出したと同時に現代最強も呟く。
「『二十八手』だ」 「『一撃』だ」
【おしまい】
ツイッターで流したのと一緒です。
◇ ◇ ◇
【ハチワンダイバーに出てきた現代最強と同じ名前の八極拳士のポジションが駒田シゲオだったときのエピローグ】
あの戦いにおいて、駒田シゲオという男ははたしてなにを果たしたのか。
六年が経過してなお、本人であるシゲオにもわからない。
打って負け、ネズミに度肝を抜かれ、見覚えのあるような女と戦ったところで記憶が途切れ、目覚めたときにはすべてが終わっていた。
しかし、まあいい。
寝ている間にいい勝負があったらしく、のちに映像を見せられて思わず歯ぎしりをしたが、まあいい。
実際のところ、この六年間週三くらいの頻度で寝る前に思い出しては頭を抱えていたのだが、まあいい
なにせ、出くわしてしまったのだから――まあいい。
将棋センターからの帰り道。
そろそろ夕方から夜に差し掛かるというころ。
打ち合わせもなにもなく、本当に唐突に出くわしてしまった。
「久しぶりだな」
腰を低く落として構えを作りながら、シゲオは眼前の相手を見据える。
ホスト風に着こなしたスーツ。
汚れ一つない真っ白なローファー。
同じく白い無造作な髪の下には、獣のように鋭い切れ長の瞳。
麻雀にのめり込んだ六年前よりさらに前、初めて会ったときと何一つ変わらない姿の――『現代最強』に出くわした。
「久し……? ああ。ああ……そうか、アレか。あの、お前、深道のアレのアレか。いたな、やったな、そういや」
ポケットに手を突っ込んだまま、現代最強は一人納得する。
シゲオが構えているというのに、さながら電車でも待っているかのように自然体でただ立っている。
「で、なんだ? お前もアレか。将棋か」
「……そうだ」
シゲオは構えたまま、構えを作らぬ現代最強に返答する。
「そうか。流行ってるな。深道までハマりやがったからな。こちらとしては退屈でたまらんよ」
たった一つの単語が、シゲオの脳内で反響する。
――退屈。
たしかに、現代最強はそう言った。
そう言ったにもかかわらず、構えを作らない。
いまもまだ退屈には変わりないかのように、一向に構えようとしない。
「構えてくれ」
舌打ちをどうにか抑えて、シゲオはかつてと同じ内容を告げる。
「アンタの歴史深い『本物』をもう一度見せてくれ。
もう一度だ。アンタのを越えるために、俺は『最新型』を洗練させてきた」
訝しむように目を細めてから、現代最強はゆっくりと口を開く。
「将棋でか?」
「将棋でだ」
「将棋がなんの役に立つ?」
シゲオが即答すると、現代最強がさらに即質問してきたので、さらに即答する。
「先が読めるようになった。
一手先、二手先、五手先、十手先――すべて読める」
「…………八極拳士は」
「それは知っている。すでに勉強させてもらった。
だが俺の師匠はアキオであって、アンタじゃあない」
被せるように断言し、シゲオはさらに続ける。
訊かれてもいないことを言わねばならない気がした。
「アキオは世界中を渡り歩き、八極拳をベースにあらゆる格闘技を取り入れた男だ。
六年前に出た新作で、アキオは格闘技だけではなくついに将棋まで格闘技に取り入れた。
だから俺は将棋を始めたし、将棋を我流八極拳に取り入れた」
「……そうか。知らんが」
「俺の師匠がアキオで、俺がアキオだ」
「…………そうか。よく分からんが」
「そうだ。『知らん』じゃないし、『分からん』じゃない。
そうなんだ。『知って』、『分かれ』」
言って、シゲオはさらに踏み込む力を強くする。
微かにアスファルトに亀裂が入る音がして、呼応するように現代最強が口元を緩めた。
「二種類だ」
一瞬にして、現代最強の纏う空気が変わる。
「二種類いるんだよ。
俺の前で、その構えをするヤツにはな。
八極拳ってもんを分かってないマヌケと、分かった上で俺を本気にさせてくるマヌケだ」
流れるような動作で、現代最強が構えを取る。
腰を低く落とし、左手は前に出して右手は引く。
その動作において、視線がぶれてしまうことは一切ない。
「お前は――両方だな」
ついに構えを取った現代最強を前に、シゲオは六年間積んだ将棋知識を総動員する。
眼前にいるのは、たった一人にして角行飛車で桂馬で香車で金将で銀将で歩兵で玉将。
こちらは、せいぜい桂馬だ。
何手先に取ることができるのか。
そもそも取ることができるのか。
奇しくも、導き出したと同時に現代最強も呟く。
「『二十八手』だ」 「『一撃』だ」
【おしまい】