
クリスチャン・ベイル祭りひそかに続行中。開き直って、新たなカテゴリまで設定してしまいました。
という訳で、本日1月30日はクリスチャン・ベイルさんのお誕生日です。
1974年生まれですから、実際には33歳になったばかりですね。その年齢とは思えないキャリアと演技力には、感銘を通り越して感動を覚えます。
にわかファンではありますが、世界の片隅でこっそりと「おめでとうございます」を言わせて下さい。
私の場合、彼のことはラブ方向で「好き」と言うより、俳優として敬意や畏怖の念すら抱いているのですが、彼が演じた様々な役を見ても、その作品を観ている間は、彼らを「クリスチャン・ベイルという俳優が演じている役」とは思えないんですね。
演技が上手いな、とか、上手く化けたな、とかじゃなくて、ただ、そこに「その人」がいる、としか思えない。
一つの役に対する彼のスタンスやアプローチの仕方ってどんなものなんだろうと思います。役を「作る」その過程が全く見えないし、見当もつきません。画面の中で、彼はただ「その人」としてそこにいる。
と言って、彼自身が役の中に埋没してしまっている訳でもなく、やっぱりそれはクリスチャン・ベイルなんだけど……わかりにくくてすみません。自分でもよくわからないです。
そして、これだけ真の意味で「なりきり」タイプの俳優さんであるにも関わらず、「役者馬鹿」みたいな雰囲気が稀薄なのもまた不思議。
その役にのめり込む過程や、役になる努力の跡が、演技自体の中に見て取れる俳優さんもいて、「役者馬鹿」と呼ばれるのは寧ろそういうタイプの人なのではないでしょうか。
繰り返しになりますが、ベイルの場合、その過程や計算や、「こんなに役作りに苦労しました」という部分が透けて見えることがありません。
たとえば、あれだけ過酷な減量をして、文字通り骨身を削って演じた『マシニスト』でさえも、作品を観る限りでは、激ヤセしたのは「トレヴァー」その人であるとしか思えないのです。
その他、相当アクの強い役でも、これ見よがしなところがないんですね。役へのアプローチが極めてストイックで、「役者のエゴ」が表面に出ないんです。また、そのアプローチの仕方についても、いわゆる「メソッド」演技の体系とは異なる方法論を、自分自身の中に確立している人なのではないかと思います。
上で不用意に「タイプ」などという言葉を使いましたが、実のところ彼はどんな「タイプ」にも属さない人です。
何にもカテゴライズできない。他の誰もなし得ないことを「当たり前」にやってのける。以前にも書いたけれど、その作品や役や監督の要求するものを正確に理解し、それを十全に表現できる。かつ説明的な演技に堕しない。
そういう理由で、やはり私は彼を「天才」と呼びたいです。
それが天性のものか、十代から二十代初めにかけて、数多の名優たちに囲まれ、対峙して来た「英才教育」の賜物かは判りませんが。
俳優の「天才」と言うと、役や監督の要求からはみ出る部分の多い、良く言えばプラスαを感じさせ、悪く言えばエゴが先走る人を指してそう呼ぶことが間々ありますが(その部分が突出し過ぎたり、単なるごまかしだったりすると、「色もの」になってしまうのかも)、一方、正確なデッサンに基づき、一枚の完璧な絵を事もなげに仕上げて見せる天才というのも確かに存在するのだと、彼を見ていて認識を新たにしました。
それにしても、彼の出演作を観れば観るほど、これから "The Prestige" を観るのが怖くなって来ます。
ああヒュー・ジャックマンさん、この天才にあなたは真っ向勝負を挑んだんですか?
なんて怖れを知らない人なんだ。いや「怖れ」を知っているのなら、なんて勇気ある人なんだ……
私は、ヒューのことは、多くの人が言うように "multi talented actor" ではあっても、「天才」だなどと思ったことはありません。歌って踊れて、司会者としても有能なのは、ずば抜けた勘と反射神経、そしてあの美声のなせる業で、それは確かに彼の天分だろうとは思いますが。
感覚的な表現になりますが、ベイルの演技を完璧に美しい一枚の「絵画」であるとするなら、ジャックマンの演技は「音楽」です。
歌やダンスだけではなく、アクションやストレートプレイでも、なめらかに流れたかと思うといきなり転調したり、という感じで、体の中に固有のリズム感のようなものを持っている人なのだと思います。
話をクリスチャンに戻して──撮影中の映画の画像や、新作のトレーラーを見ると、また血まみれ泥まみれになっているみたいです。
それと、別映画に出るごとに、ならまだいいけど、同じ一本の作品の中で、またまた太ったり痩せこけたりしてるんですよ、この人。
役者としては見上げたものだと思うし、まだ若いから出来ることかも知れませんが、見ていると正直言って胸が痛くなります。なんか歳とってから一気にガタが来そうで心配……彼には末永く活躍してほしいから。
順調に行けば、十年後二十年後には、あなたは誰もが尊敬し目標とする俳優となっていると思います。かつて共演したロバート・デュヴァルのように。
だから、あまり無茶はしないで、もう少しご自分を労って下さい。本当にそう思いますよ。