小野寺 喜佐雄の試案

バンド“極東ピーコック”のドラマー、小野寺 喜佐雄による不定期ブログ!宣伝も兼ねて。

おんぶの課題

2017-06-26 02:47:33 | 日記
10月に高校時代の友達の結婚式がある。故郷にお呼ばれ、約一年ぶりの王の帰還である。
しかし王は既に、自国が栄華を誇っていた頃の面影など一切残しておらず、当日皆の前に現前するのはただぶくぶくに膨れたフリーターの夢見がちな男。首筋のイボを切除したばかりの化膿止め野郎。
そんなみすぼらしい再会があってなるものか。高尿酸血症の疑いも強いのだ。間違いない。
数年に一度訪れる、「痩せるタイミング」である。

このタイミング、自分の意志では到底引っ張り出せない。
ある日あるときふと思うわけ、「ご飯茶碗に半分でいい」「なんとなく今夜は外走ろう」「お菓子捨てよう」「0キロカロリーの加工食品を次々に買い込もう」。
受け流すのも簡単にできるんだけど、今回はだいぶきてる。
体が勝手に良い方向に動いている。
立ち上がるのを億劫に感じない。
いい。
SNSを見なくとも平穏を取り戻せている。
すごくいい。

あと4ヶ月で何ができるか。
10〜15キロ減らすぐらいはできるんじゃないだろうか。
まず、運動してみようか。
かたくなに、キャラを意識するなど情けないほどかたくなに拒否し続けてきた運動を、始められる範囲から。
まずはウォーキングだろ。

連れと共に夜の近所へ繰り出す。
歩き始める。
入ったことのない路地を狙う。
案外古い住宅が多い。
昭和の名残があるお店の跡地が多い。
平坦な道が少ない(普段歩く駅までの直線ルートには、坂が一回しか無いのに)。
こんな近くに墓も!
懐かしい、人の家の香りや二階の窓から聞こえてくるテレビの音に胸をときめかす。大事なものを取り返せそうな、数年来の、この、なん
「いいから黙って歩け」
言わんばかりのつかつか歩きをしてくる連れの動き。素晴らしい。
俺も意識的に、筋肉を使って、脂肪を燃やして、汗をかいて、空気を吸って、急に運動を初めてできたマメをさっさと処置して、明らかに正しい人間のリズムと無意識の動きを手に入れられるよう励む。
連れをおぶってみる。
あまり軽々しく持てなかったことにお互い笑みが止まらず、呼吸が乱れ、大変愉快な思いをする。

体はだいぶポンコツと化しているようだ。
増えた贅肉が、初めて激しく動いて、炎症を起こしている。痒みと熱さ。恥ずかしさを覚える。
恥じらいがこうじて、ウォーキングの途中でついつい走り始めてしまう。
小学校のときの持久走大会を思い出す。
シャトルランで手をついた体育館の壁を思い出す(勢いを殺せず行き返す度に壁にぶち当たっていたのだ)。
息が上がってからの呼吸法を忘れている。
無理だ! の感覚が何よりも先にやってくる。
たばこを止めたらどうなる? 興味が無尽蔵に湧いて出る。つまらないと思っていたことが、面白そうに思えてくる。
明日も知らない路地へ向かう。今日既に、明日行く方角の目処はつけてある。

ツアー

2017-06-21 17:36:55 | 日記
近所の総合病院へ、ツアーに行ってきた。
耳鼻科→皮膚科→内科。
数日前、突然右耳が聴こえにくくなったのだ。バンド仲間内でも最近話題になっていた突発性難聴の症状を調べた。自分の状態とほぼ同じ症例が幾つも出てきて、血の気が引いた。
現実逃避をして三日ほど放っておいたら、明らかに悪化した。
メンバーに言えないぐらい焦る俺。不安で眠れなくなるほど。
数ヶ月前に受けた健康診断でも、尿酸値に異常が出ていたのを放置したままだった。
どうせなら見て見ぬふりをし続けた髭剃り負けも見てもらおう。太ってから首筋に出来た謎のイボも、二の腕と背中の湿疹のようなものも。
もう全部、全部だ。

病院不精のツケが一気に回ってきた。
さすがに病院へ。
天気はふりしきる大雨。前が見えなくなる。機嫌が良いときは「沖縄を思い出して懐かしい〜」とかたわけたことを言うのだろうが、あいにくそんな余裕をかましていられる精神状態ではない。
とにかく耳が怖いのだ。ほら今日も、遠い。聞こえる音が遠いじゃないか。

ツアー初日(?)は耳鼻科へ。
「先生、これは一体」
「はいはい、えー、あ、耳垢溜まってますね、ごっそり」
「先生?」
キュウィィィィん。×10。じゅぼぼぼ、ぼ、……ぼ!
「はーい、どうです、これでまだ違和感ありますか? ほら見てくださいこれ」
「え! これ? これですか、耳から? えー……」
どん引きするほど巨大な、化石化した何か。マジで直径1センチはあるんじゃないか。
「奥に押し込んじゃってたんですねー、はあいお大事にい」
診察室を出て耳を澄ます。世界は超クリアな音を立てている。少し顔が赤くなる。

次は皮膚科へ。
てきぱきと患部を観察し、適切なお薬を次々と処方箋に書き足していく美人のお姉さん先生。
パソコンのディスプレイから視線を外さないまま、質問を投げかけてくる。
「結婚なさってるんですか?」
「え、いや、まだ同棲ですが」
「へえ。じゃあそろそろ」
先生にやり。なんでやねん。このやり取りに何の意味があったのか。
「イボは、(病名忘れた)だと思うんですね。肥満になったり、あと女性にできやすいものです。特に健康を害するものではありませんが、どうします、とります?」
「今すぐとれるんですか?」
「液体窒素か、普通に切除ですね」
「サッと終わる方は」
「切除ですね。麻酔はしませんが」
「とらなくても」
「問題ないです。美容というか、そういう問題ですね」
「切ってください」
エンターテイナーなので。隠れてない場所にあるし。
「いいんですか? 痛いかも」
「お願いします」
「じゃあやります。四箇所」
「四箇所! 四箇所ありますか!」
「じっとしてください」
「う」
イボがピンセットで細長く伸ばされ、明らかに皮膚をはさみでじょきりと切る感覚で四箇所切除される。冷や汗が止まらない。「痛みに強いんですね、このでかいの芯が奥にあって大変かもですが、本当にやります?」「やります」「おう」。おうって何先生。
「終わりです。はい、これがとれたやつ。しばらく血止まらないと思うので、化膿止め出します。他の薬もちゃんと塗ってくださいね。お疲れ様でした」

ツアートリは内科。
まずは血液検査。
人間が嫌いそうな強面のマスク坊主が担当してくれた。
俺は血管を見つけにくい体質らしく、今まで幾人もの看護士たちを苦しめてきた経験を持つ。以前若い奴が四本やって諦めて、ベテラン風情のばあさんを連れてきてそのばあさんが二本ミスったときは、もう帰らしてくれ! って叫びそうになった。
しかしマスク坊主さんは上手かった。親指を内側に入れ握らせ、なぜか腕自体を横にぐりっとひねってきた(初めてさせられた動きだ)。そして一発。一発OK。血を抜いている間の沈黙の数分、俺は彼の顔をじっと見つめていた。微動だにしねえ。かっこいい。マスク坊主なんて思って本当に申し訳ない。ありがとう。
検査終了後、おじさん先生には「薬は出さん。痩せろ。28だろ、馬鹿野郎。彼女の作るご飯は美味いのか。頑張るっていうやつは頑張らねえんだ。まずは2,000キロカロリーに毎日おさえろ。絶対だ。痩せろ、死ぬぞ」と説教されただけで終了。
名誉も糞もないほどただシンプルに怒られた。これは辛い。

協力くださった皆さん、ありがとうございました。おつまみのカロリーをリストアップするところから始めよう。

白の強度

2017-06-19 18:51:54 | 日記
PS4で秋に発売される話題作『サイコブレイク2』のイメージ・トレイラーがYouTubeにアップされてた。
ホラーが大丈夫な人はちょっと見てみてほしい。

コレ

濃度の高い、ペンキで上塗りをするときのような圧倒的な「白」の強度を巧みに使った演出。
俺、これ、最悪です。
駄目な恐怖。

マヨネーズがこの世の食べ物で最も苦手で、無理に食べるとゲーしちゃうぐらいなんだけど、嫌いな理由の一つに存在感の強さってのがあって。
このPVの演出と全く同じだと思うんだけど、マヨネーズを上からかけると、下の食べ物が視覚的に見えなくなるじゃないですか。
あれが駄目。
気持ち悪い。

だから、住宅をリフォームするときに壁面の色を白塗りして変えている記録映像とか。
『セーラー服と機関銃』で薬師丸ひろ子がセメント漬けにされそうになっているシーンとか。
牛乳やホワイトシチューの見た目とか。
全部苦手。吐きそうになる。

それをここまで意図的に、人に嫌悪感を抱かせるために使ってきたCG映像ってのは、生まれて初めてだ。
立ち直れないぐらい引いたから、ここに書いて少し落ち着こうとしている。
買って積みっぱなしのニーアをそろそろやりたい。

ウィーフォーナフロウ

2017-06-13 23:33:46 | 日記
久しぶりに、岡田さんと二人でスタジオに入った。
やることも特に決めず、楽器をセットして、さあどうするかって間が生まれるかと思いきやそんなことはなく。
気付いたらセッションが始まっている。昔は何かしらのテーマを定めてからでないとセッションなんぞ始められなかった不器用なバンドが、その体が、不器用なまま、不器用なりに自然に何かを一緒に始められるような関係になった。
すげえ普通のことじゃね? と思う人、すげえことなの? とよく分からない人、それぞれに告ぎたい。俺たちには大層なことです。
カラオケに行くのを我慢して二人で音を出して正解だった。
なまりが凄いわ、と嘆く岡田さんを見て、俺も焦ると同時に、だいぶ回復したんだなーこの人と思った。
ちなみに俺はもう回復しっぱなしである。
30分ぐらい適当にやって、俺が一年越しに構想し続けているインストの曲を何曲かやってみた。
「じゃあ、このサビっぽい前奏は、明るい感じで」と伝え、ICレコーダーの録音ボタンを押して始めたセッションで、岡田さんのギターは驚くほど陽気でアメリカンな古さを持ったフレーズを奏でた。
俺は一瞬めちゃくちゃ動揺したけど、岡田さんが無茶苦茶集中していたので、そのまま続行させた。心配になるぐらい集中している。まるでリハビリ。
終わって岡田さんが一言、「苦戦してるわ」。確かにこちらも、そう見受けられました。
「なんていうか、感覚とか、そういうの死んでる感じある?」
「いや、前よりは全然、ようやく曲も出来るようになってきたし。少し前までは、回復がネガティブだったかもしれない」
(“回復”のとらえ方が、ってことだろうか。とにもかくにも、投げやりな態度に見える感じが一切なくなったのはグッドだ)
「その曲やってみましょうか。適当に」
「やってみよう」
(やってみたところ、良い曲だったけど、根っこの部分のDEATH感が半端ない歌だった)
「これ、精神的に良くなってきてから出来たんだよね?」
「そう!」
「まだ問題の渦中にいるような空気なんだけど……」
「マジか」
曲名は忘れた。合ってれば“逍遥(しょうよう)”。
「8分の12拍子で、なんかギターの単音の練習でもしますか」
「オーケー」
1stシングルのカップリングに収録された「平和行進二〇〇六」を彷彿とさせるメロディーが何度か流れた。これも課題だな、と岡田さんは言ってた。
最後に、次回tortoiseの“Prepare Your Coffin”をコピーすることを決め、沖縄時代に作った「異国にて二週間少女」という曲を演奏して二時間の練習が終わった。「異国にて〜」はお互いあまりにも構成を忘れていて、何か大事なものを思い出すどころか、見たこともないような苦笑をお互いに浮かべるオチがついた。
スタジオが入っているビルのエレベーターが壊れ、重い荷物を階段で運ばなければならない状況が、工事が延期していつまでも続いているのだけど、それに関して何かコメントを言うでもなく、別々の車に乗って家路に着いた。岡田さんは、俺がCDに焼いて渡したBitchin Bajas & Bonnie‘Prince’Billyの昨年出したアルバム“Epic Jammers and Fortunate Little Ditties”を気に入ってくれたみたいだ。
車に常備してあるCDケースにそれがなく、今回の帰り道はおとぎ話の『ISLAY』を聴いて帰った。この前テレビで北欧かどこかのウィスキー工場の取材映像が流れていて、そこでアイラという地名がふいに登場して驚いたのを思い出した。家で滅多に飲まないウィスキーを空けてみたくなった。
楽しみにしている結果発表がある。
俺一人の底力を世に試したことがないから、一次評価をいただけるだけでもありがたい話だ。今年の冬には、大事な人たちを安心させられるような報告ができればいいな、とつまらないことを祈る。