10月に高校時代の友達の結婚式がある。故郷にお呼ばれ、約一年ぶりの王の帰還である。
しかし王は既に、自国が栄華を誇っていた頃の面影など一切残しておらず、当日皆の前に現前するのはただぶくぶくに膨れたフリーターの夢見がちな男。首筋のイボを切除したばかりの化膿止め野郎。
そんなみすぼらしい再会があってなるものか。高尿酸血症の疑いも強いのだ。間違いない。
数年に一度訪れる、「痩せるタイミング」である。
このタイミング、自分の意志では到底引っ張り出せない。
ある日あるときふと思うわけ、「ご飯茶碗に半分でいい」「なんとなく今夜は外走ろう」「お菓子捨てよう」「0キロカロリーの加工食品を次々に買い込もう」。
受け流すのも簡単にできるんだけど、今回はだいぶきてる。
体が勝手に良い方向に動いている。
立ち上がるのを億劫に感じない。
いい。
SNSを見なくとも平穏を取り戻せている。
すごくいい。
あと4ヶ月で何ができるか。
10〜15キロ減らすぐらいはできるんじゃないだろうか。
まず、運動してみようか。
かたくなに、キャラを意識するなど情けないほどかたくなに拒否し続けてきた運動を、始められる範囲から。
まずはウォーキングだろ。
連れと共に夜の近所へ繰り出す。
歩き始める。
入ったことのない路地を狙う。
案外古い住宅が多い。
昭和の名残があるお店の跡地が多い。
平坦な道が少ない(普段歩く駅までの直線ルートには、坂が一回しか無いのに)。
こんな近くに墓も!
懐かしい、人の家の香りや二階の窓から聞こえてくるテレビの音に胸をときめかす。大事なものを取り返せそうな、数年来の、この、なん
「いいから黙って歩け」
言わんばかりのつかつか歩きをしてくる連れの動き。素晴らしい。
俺も意識的に、筋肉を使って、脂肪を燃やして、汗をかいて、空気を吸って、急に運動を初めてできたマメをさっさと処置して、明らかに正しい人間のリズムと無意識の動きを手に入れられるよう励む。
連れをおぶってみる。
あまり軽々しく持てなかったことにお互い笑みが止まらず、呼吸が乱れ、大変愉快な思いをする。
体はだいぶポンコツと化しているようだ。
増えた贅肉が、初めて激しく動いて、炎症を起こしている。痒みと熱さ。恥ずかしさを覚える。
恥じらいがこうじて、ウォーキングの途中でついつい走り始めてしまう。
小学校のときの持久走大会を思い出す。
シャトルランで手をついた体育館の壁を思い出す(勢いを殺せず行き返す度に壁にぶち当たっていたのだ)。
息が上がってからの呼吸法を忘れている。
無理だ! の感覚が何よりも先にやってくる。
たばこを止めたらどうなる? 興味が無尽蔵に湧いて出る。つまらないと思っていたことが、面白そうに思えてくる。
明日も知らない路地へ向かう。今日既に、明日行く方角の目処はつけてある。
しかし王は既に、自国が栄華を誇っていた頃の面影など一切残しておらず、当日皆の前に現前するのはただぶくぶくに膨れたフリーターの夢見がちな男。首筋のイボを切除したばかりの化膿止め野郎。
そんなみすぼらしい再会があってなるものか。高尿酸血症の疑いも強いのだ。間違いない。
数年に一度訪れる、「痩せるタイミング」である。
このタイミング、自分の意志では到底引っ張り出せない。
ある日あるときふと思うわけ、「ご飯茶碗に半分でいい」「なんとなく今夜は外走ろう」「お菓子捨てよう」「0キロカロリーの加工食品を次々に買い込もう」。
受け流すのも簡単にできるんだけど、今回はだいぶきてる。
体が勝手に良い方向に動いている。
立ち上がるのを億劫に感じない。
いい。
SNSを見なくとも平穏を取り戻せている。
すごくいい。
あと4ヶ月で何ができるか。
10〜15キロ減らすぐらいはできるんじゃないだろうか。
まず、運動してみようか。
かたくなに、キャラを意識するなど情けないほどかたくなに拒否し続けてきた運動を、始められる範囲から。
まずはウォーキングだろ。
連れと共に夜の近所へ繰り出す。
歩き始める。
入ったことのない路地を狙う。
案外古い住宅が多い。
昭和の名残があるお店の跡地が多い。
平坦な道が少ない(普段歩く駅までの直線ルートには、坂が一回しか無いのに)。
こんな近くに墓も!
懐かしい、人の家の香りや二階の窓から聞こえてくるテレビの音に胸をときめかす。大事なものを取り返せそうな、数年来の、この、なん
「いいから黙って歩け」
言わんばかりのつかつか歩きをしてくる連れの動き。素晴らしい。
俺も意識的に、筋肉を使って、脂肪を燃やして、汗をかいて、空気を吸って、急に運動を初めてできたマメをさっさと処置して、明らかに正しい人間のリズムと無意識の動きを手に入れられるよう励む。
連れをおぶってみる。
あまり軽々しく持てなかったことにお互い笑みが止まらず、呼吸が乱れ、大変愉快な思いをする。
体はだいぶポンコツと化しているようだ。
増えた贅肉が、初めて激しく動いて、炎症を起こしている。痒みと熱さ。恥ずかしさを覚える。
恥じらいがこうじて、ウォーキングの途中でついつい走り始めてしまう。
小学校のときの持久走大会を思い出す。
シャトルランで手をついた体育館の壁を思い出す(勢いを殺せず行き返す度に壁にぶち当たっていたのだ)。
息が上がってからの呼吸法を忘れている。
無理だ! の感覚が何よりも先にやってくる。
たばこを止めたらどうなる? 興味が無尽蔵に湧いて出る。つまらないと思っていたことが、面白そうに思えてくる。
明日も知らない路地へ向かう。今日既に、明日行く方角の目処はつけてある。