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ひょっこり猫が我が道を行く!

カオスなオリジナル小説が増殖中。
雪ウサギが活躍しつつある、ファンタジー色は濃い目。亀スピードで更新中です。

011 ピドナと魔王殿

2012年07月22日 15時36分26秒 | 小説作業編集用カテゴリ

 猫の私リオ、麗しのエレン姉さま、その妹サラちゃん、眼鏡を掛けた紳士トーマスはロアーヌにある、港町ミュルスから世界最大都市のピドナへとやって来た。
 ピドナには新市街と旧市街があって、“魔王殿”と呼ばれる観光名所まである。それをウリにして客を呼ぶくらいなんだから、ここの市民の人はそれ程不安には思ってはいないのかもしれない。

「おいしっ! この町名物のピドナまんじゅう、なかなかイケますな♪」

 まんじゅうの表面に、想像された魔王の絵が刻まれている。口が開いた可愛いドラゴンの絵で、押印されていた。

「それは良かった。ほら、エレンもサラも温かい内に食べなさい」

 新市街にあるパブに入って、猫の私がマスターにまんじゅうを頼み込む。猫が喋っているのを見たマスターは、驚きの表情で私を見たが今はもう普通に接してくれる。トーマスに人数分のお金を払って貰い、テーブルで食べる事にした。

「ありがと、トーマス。はい、お姉ちゃん」 
「有り難く頂くよ。ムグ・・・美味しい。でも、よくリオはピドナ名物の事を知ってたね。前にもここに来た事あったのかい?」
「むぐぐっ・・・!」

 エレン姉さまに痛い所を突かれた。私、ここから遠い所から来た事にしてたのに!
 皆より先に前に出て、パブの場所に一番乗りし、名物のまんじゅうまで強請(ねだ)ったんなら、ここに精通してなきゃおかしすぎる。やべっ、自分で墓穴掘った!  

「えっと、えっと、わ、私猫だから、鼻がよく利くんだよ。この場所から、美味しそうなまんじゅうの匂いが外まで漂って来たんだよ」
「そ、そうなのかい?」

 椅子に座った私の白い背中をゆっくり撫でて、飲み物を渡してくれるエレン姉さま。温かいフルーツティーを飲み、サラちゃんに抱き上げられてパブを出る。新市街にあるトーマスの家に寄せて貰い、おじいちゃんに出迎えられて部屋へ案内され、ヒト心地つく。

「俺、ちょっと用事があるから皆はここで休憩するなり、観光でもしたらいいよ」
「えっ、トーマスどっか行くの?」 
「直ぐに帰ってくる。暇ならピドナを観光しても良いし、旧市街にある魔王殿を見に行ったらどうだ?」 
 トーマスはそう提案して、自分の家から出て行った。残された私達三人は、お互いの顔を見合わせる。

「だってさ。サラはどうする? ピドナを見て回る?」
「ううーん。“魔王殿”なんて、怖そうな所にはあんまり行きたくないけど・・・リオちゃんは如何したい?」
「あっ、あのっ。私、魔王殿の中を見たいっ! お願いエレン姉さま、サラちゃん!」

 二人に頭を下げて頼み込む。ロマサガ3に来たら、是非とも見たい名所トップ5に入ってる。
 一位はレオニード城、二位は海底宮、三位は聖王廟、四位は雪の町、五位が魔王殿。どの場所へも、比較的強くならないと話にはならない、猛者が揃う場所ばっかり。奥まで行くのは諦めるから、せめて雰囲気だけでも味わいたい。
 
「じゃあ、レッツゴーしよっ♪ さあ、お姉ちゃんも!!」
「サラッ! もう、あんたは何時からこんなに積極的になったんだか・・・」
「あっ、ありがとう!」
 
 サラちゃんに抱き込まれ、トーマスのおじいちゃんにその事を告げると、三人はトーマス家を出る。

***
 傷薬と技の香薬を補充して、道具屋を出るとトーマスの後姿を見つけた。何処へ行くのかとこっそり後をついて行き、階段を下ると新市街とは別の、古びた街並みに出て来た。

「新市街とは全然違うね・・・もしかして格差があるの?」
「本当だね。同じピドナなのに・・・」

 汚れの目立つ石の壁、一部の地面を泥水が占め、覇気の無い人達が行き交う。
 着ている服はお世辞にも身綺麗とは言えなくて、思わず自分達を省みる。三人で驚きつつ、トーマスを尾行しているとボロボロの家に着いた。古びた扉を押し開けると・・・ 

「お、おコンニチハ」
「誰だ!」
「りっ、リオ!? エレンにサラまで・・・あっ、俺の仲間なんです」
「まあ、可愛いお客人だこと。こちらへいらっしゃって下さいな」

 広い部屋にこじんまりとしたベッドが一つ。美人な女の人がベッドの上の背もたれに体を預け、歓迎してくれた。傍に居る男の人は警戒心を解き、トーマスの仲間だと聞くと表情を和らげてくれた。

「名前はリオでっす! 何でか猫やってます。得意な事は肩たたきでっす!!」
「私はエレン。得意な事・・・腕相撲かねぇ」
「妹のサラです。好きなモノはリオちゃんです! 三度のメシより大好きです♪」
「ニャ・・・!(私モノ扱いされてる!)」

 サラちゃんに抱き込まれた状態で、各々(おのおの)自己紹介をする。
 三度の飯より・・・多分冗談で言ったと思うけど、本気にも聞こえるのは今までの行いを見て来たからに違いない。サラちゃんが私に頬ずりする所を見て、女の人は笑っていた。

「私はミューズと言います。是非、私の友達になってください」
「俺はシャール。ミューズ様の助けになってやってくれ」

 目に涙を浮かべ、笑っているミューズさん。今は弱弱しいけど、暫くしたら絶対治ると私は確信してる。部屋の中は質素で、床にも穴が開いてるしボロボロだけど、ほのぼのとした空気に和みつつある時、ドアが勢い良く開かれた。

「大変だよ~、ミッチが、ミッチが!!」
「ミューズちゃまぁぁ!!」

 男の子と女の子が部屋に慌てて入って来た。シャールさんが傍に駆け寄って、彼らに目線を合わし、話を聞き出そうとしている。

「ミッチがどうした?」
「かくれんぼして、もう帰ろうって言ってるのに、全然出てきてくれないの。皆で捜しても見つからないんだよ・・・」

 うわあーーん! と泣く子供二人に、ミューズさんが慰める。立ち上がるシャールさんに、縋る目を向けた。

「シャール、お願い・・・!」
「分かりました。ミッチを捜してきます」
「わ、私達も行きます」

 毛むくじゃらの白い手を上げ、シャールさんに意思を告げる。ここに居るトーマス、エレン姉さま、サラちゃんも勿論ついて行く気は満々だ。五人で家を出ると、目的地の方向へ足早に進みだす。

 魔王殿観光改め、ミッチの救出イベントが始まった――
 ミッチという男の子を捜す為に、シャールさん、トーマスと合流した三人は魔王殿の入口へと繋がる通路を歩く。少し高い位置にある入口の扉へは、距離のある坂道を足早に駆け上がった。

「シャールさんは、以前も魔王殿に来た事があるんですか?」
 
 前を走る灰色の髪の彼に、至極当然な質問をさせて貰った。幾ら私がゲーム画面で内部を網羅したと言っても、実物を間近で見れば戸惑う。やっぱり中に詳しい人が居れば、少年ミッチを捜すのも楽だ。

「昔、腕を上げる為にここで訓練した時がある。ただ、そんなに奥までは行かなかったんだが」 
「魔王殿は冒険者にとっては格好の良い場所だよ。腕試しに内部に入る者がいる位だからね。しかし、最深部までは誰も辿り着けないんだ」
「な、何でなの?」
 
 シャールさんが答え、眼鏡紳士トーマスの補足にサラちゃんが不思議がる。エレン姉さまも興味津々と言った顔で、耳を傾けている。眼鏡を押し上げ、魔王殿の事を語ってくれた。

「噂によると、ある一定の場所にある扉の前でどうしても先に進めないそうだ。トレジャーハンターと呼ぶ、宝を探す連中が愚痴っていたと言う情報を、パブのマスターから聞いたんだ」
「ふーーん、ややこしいんだね」

 実を言うと、今回の私の第二の目的はそれでもある。でも、今の皆のレベルだと、多分一筋縄ではいかないかも・・・しかも、少年ミッチが居る場所って、進む事が出来ない場所よりも手前にいるんだもん。シャールさんが居る時、出来れば一緒について来て欲しいんだけどな。 

「着いたぞ。ここが魔王殿の入口だ」
「キタ――!」

 空を見上げると何故か雲が黄土色・・・って、どっかの居城を思い出した。デンデロデンデロと、効果音がバッチリ聞こえそうだ。勿論、実際にはあの音楽は聴こえ無くて、モチベーションも下がるけど。

「リオちゃん、今度も先に一人で行っちゃ駄目だよ」
「そうだな。リオは、暴走する特徴がある」
「手を握っとかないとね。ね、リオ?」
「う、うん!」

 シャールさんを除いた三人から、お説教されつつ魔王殿のデカイ扉を開けて中に入る。とりあえず、サラちゃんの後ろを歩く事にし、一同は内部に入り込んだ。

010 リオの新たな冒険

2012年07月22日 15時11分29秒 | 小説作業編集用カテゴリ

 ロアーヌ山脈に朝陽が昇る。
 私を入れた七人は、ロアーヌ奪還から宮殿で一夜を過ごし朝を向かえた。軽い朝ごはんを食堂で頂き、謁見の間でミカエルさんにこれからどうするかと談笑してたんだ。そこへ――

「カタリナッ! どうしたの、その髪・・・?」

 一人の女性が瞳に決意を表し、ミカエルさんの居る玉座まで進みだした。 
 目を見開き絶句したモニカちゃんが驚いたのは、彼女の腰まであった紫色の髪が首元までばっさりと切り揃えられていたからだ。
 和やかだった空気が一転、静寂が部屋を支配する。 

「・・・ミカエル様、マスカレイドを盗まれました。本来なら自害するのですが、今一度、取り戻す機会をお与えください」
 
 私を入れた七人は、玉座に近づく彼女の言葉を静かに聞く。ビロード調のドレスを脱ぎ捨て、今着ている服装は既に旅人が着る様な服だ。
 彼女の好きな色なんだろうか、髪の色と揃えた薄紫色の上下服にマントと一本の大剣は、これからの旅立ちを意味するいでたちだ。床に片膝を付き、ミカエルさんの返答を待っている。

「その髪は決意の表しか・・・良いだろう、無事に取り戻してみせよ」
「ありがとうございます。では――」
「しかし、お前ほどの人物に取り入るとは・・・どうやって盗まれたか聞いてもいいか?」
「・・・それだけはっ」
「言いたくないのならそれでいい。取り戻して来るまではロアーヌに帰途する事は許さん」
「はっ、無事に取り戻して参ります」
「カタリナッ」 

 颯爽と謁見の間を出るカタリナさんに、モニカちゃん以外は誰も言葉を発する事が出来なかった。



「ニャ・・・」 

 心にポッカリと穴が空いた気持ちになるのは何でだろう?あんなにロマサガ3が好きで、イベントを見るのも楽しみにしてたのに。実際間近で見ると、自分の力無さに虚しさが込み上げてきた。

「リオちゃん、元気出して。カタリナさんには、きっと何か事情があったんだよ」
「元気出せよ、お前が元気無かったらこっちまでヘコんじまうんだぞ」
「サラちゃん、ユリアン・・・」

 テーブルにユリアンとトーマス、エレン姉さまとサラちゃん、そしてサラちゃんの膝の上に座った私と、カウンターに座っているハリード。
 モニカちゃんと別れた六人はロアーヌにある港町、ミュルスで船の出港を待つ為に少し時間が余ったので、パブでこれからの話をしていた。

「俺さ、ロアーヌの騎士になってモニカ様を守るんだ! 皆元気で暮らせよっ、じゃあな!」
「!」
「ユッ、ユリアンッ!」

 ユリアンのお馬鹿めっ!
 エレン姉さまが好きだった筈なのに、モニカちゃんを追いかけやがった!! 案の定、斜め向かいに座ってる姉さまは額に青筋付けてるっ!

「エレン姉さま・・・」
「お前達はこれからどうするんだ?」 

 後ろから声を掛けて来たハリード。
 空気読もうよ。今エレン姉さまに近づくとやばいって事に。

「リオ、お前はどうするんだ?」
「へっ、私・・・?」

 おおっ、皆の話が先に進むのを待ってたんだけど、コッチに飛んできたか。
 昨日の夜からずっと考えてたんだ。ロアーヌを奪還する事に成功した後は、きっと皆バラバラになるって。一匹で旅するなんて無謀な事は出来ないし、大好きなエレン姉さまについて行こうと考えてた。

「お前さえ良かったら、一緒に俺と旅をしてみないか」
「私、エレン姉さまについてこうと思っ「リオちゃん!!」・・・げふっ」

 私の言葉を遮って、サラちゃんが力強く抱きしめて来た。頬にすり寄せてくる行為は、この世界には居ない守護獣ガウラを思い出す。 

「リオちゃんも、私とトーマスと一緒にピドナへ行こうよぉ」
「サラ、リオの意見を聞かないと駄目だろう? リオ、君はどうしたいんだ。勿論俺もサラと同意見で、一緒に来てもらえると日々が楽しくなりそうだ」 
「・・・リオ、私も大歓迎だよ。あんたとの旅、面白そうだもんね」
「み、みんなぁ」

 おおお、四人に誘われとる・・・!
 金の瞳からじわりと涙が出そうになり、もじもじして、サラちゃんを見上げる。すると彼女は笑ってくれた。

「猫だけど、改めて宜しくお願いします!」
「宜しくね、リオちゃん。一緒に楽しもうね♪」
「うーん、リオが行くなら私もピドナへ行こうかな」
「俺はパスな。お前達と別れるのは名残惜しいが、しょうがないか」
「ハリードは来ないのか?」
「俺はランスにでも行くよ。聖王廟にでも寄ってるから、近くまで来たら声でも掛けろよ。じゃあな」

 サラちゃんの歓迎に、エレン姉さまも共に来る事になった。
 トーマスの問いに、ハリードは別行動をすると皆に告げる。膝の上に抱き込まれてる私の頭を撫でて、彼はパブから出て行った。

 さよならなんか言わない。
 だって、また会えるもん。
 私がこの世界に居る限り――

 イレギュラーな存在の私がここに居るだけで、既に物語は変わっているのだ。別行動をするエレン姉さまだって、本当はハリードと一緒に聖王の子孫が居るランスへ行く筈だったんだ。でも彼女は私達と一緒に行動してくれるみたいだし。

「マスカレイド・・・聖王遺物」
「リオ、マスカレイドってカタリナさんが言ってた物か?」
「うん。確か小剣で“ウェイクアップ”って言う技を出したら大剣になる、世界に二つと無い優れ物だったと思うよ」

 博識のトーマスが、私の呟きにいち早く反応した。
 聖王遺物を得る為に、何者かに強引に奪われたり罠を仕掛けられたに決まってる。カタリナさんも、それに引っ掛かってしまっただけなんだ。

 ゲーム画面では絶対に会う事は無い、カタリナさんとだって運が良ければまた逢える。私の行動次第では、普通は仲間になれない人がメンバーに加わってくれるかもしれない。それを考えただけで、胸がわくわくと躍りそうだ。つまり、もう私の冒険は始まったも同然。

「さっ、もう時間だよね。港に行ってみようか」
「うんっ!」
「リオ、あんたは船酔いするからねぇ・・・船酔いの薬も買わなきゃね」
「道具屋に寄って、それからピドナへ行くか」

 ガウラの世界にはまだ帰れそうもないみたいだ。これが夢落ちじゃなきゃ、ガウラにお土産持ってくのになあ・・・私、猫の姿でロマサガ3を充分堪能するからねっ! ちょっと寄り道するから女神(エリーちゃん)、フォロー頼むよ!



009 ロアーヌへの帰途

2012年07月22日 15時09分42秒 | 小説作業編集用カテゴリ

 ポドールイの洞窟を攻略した後、一同はまっすぐポドールイの町に戻る事になった。
 魔物との戦闘で傷ついた体を宿屋で回復させて、雪の降り積もる居城に難なく行ける様になった私達は、早速城内の通路を皆で通る。突きあたりの大きな窓がある場所まで来ると、レオニードさんが椅子に座って待っていた。

「朗報があるよ。ミカエル侯は無事に反乱を鎮圧する事に成功したみたいだ。早速ロアーヌに戻ると良い」
「お兄様が・・・そうですか。レオニード様、ありがとうございました。これからロアーヌへ向かいます」
 
 モニカちゃんが貴族らしくお辞儀して、私達を促す。
 皆が先に出口を繋ぐ扉へ歩き出している時、私は振り返って彼に近づき、この城にまた来て良いかと窺ってみた。

「レオニードさん、またこの城に遊びに来ても良いですか?」

 嫌と言われてもまた来るけどねと、心の中でほくそ笑む。許可云々より、要は声をかけとけば怒られないだろうと企んだ。この城の地下の攻略もいつかしたいし、仲良くなればベッドやトイレ、お風呂も借りれる。したたかに生き抜く為だ。お釈迦様も許してくれる・・・あっ、この世界の亡霊で確か仏像もどきの魔物もいたっけな・・・。祈ってもムダだった!

「ニャオォォ・・・神も仏もない、罰当たりな世界だったのか」
「フフ・・・面白い事を言う。いいよ、またと言わずにいつでも来ると良い。君なら大歓迎だ」
 
 立ち上がり、頭を抱えて悩んでいる私の傍まで来ると優しく抱き上げられる。吸血鬼特有の美貌を持つ、美しい顔の位置まで高く上げられると、こう告げられた。

「神聖な色を纏う純白の猫リオ、君が放つ微々たる闇に何処まで気付いているのか・・・」
「えっ・・・?」
「またおいで」

 薔薇のほのかな香りが、私の鼻に微かに広がる。
 額に口付けされて、いつの間にか雪が降り続くお城の外に居た。鼻先に当たる冷たい雪が、惚けた意識を現実に引き戻させた。

「さっ、さぶいっ、ブファックシュ!!」

 その後ユリアン達が来て、一同は興奮と驚きに包まれる。

「外に出たらリオちゃんが居ないから、中へ一旦戻ったんだよ! レオニードさんに聞いたらもう外に居るって言うし・・・驚いちゃった」
「私も驚きました。外と中を繋ぐ通路は一本しか無いのに、私達に姿を見せる事無く外へ出たんですもの。不思議です」
「リオはホントに凄い猫だな。喋れるし、戦えるし、二足歩行できるし!! 大したもんだよ」
「城の扉が勝手に開く所から、考えるのを止めたんだ。今更どうにも言わないけどな・・・」
「リオッ、あんたはいつも急に居なくなるから、心配ばっかりさせて! でも見つかって良かったよ・・・」

 サラちゃん、モニカちゃん、ユリアン、トーマスの順で心配された。
 エレン姉さまにも強く抱き込まれ、しばし反省。移動した本人が一番よく分かってないんだから、皆に分かるわけない。彼らの優しさに触れて、皆でロアーヌへ戻る事になった。

―― ロアーヌ ――

 ロアーヌ地方にある港町ミュルスから、ミカエルさんが治める城下町にやって来た。
 町はミカエルさんの武勇伝で賑わっていたから、外で喋っていたおばさん達に事の成り行きを聞いてみた。ロアーヌ侯家の血縁でもあるゴドウィン男爵が、ミカエルさんのお父さん、フランツさんを暗殺した時から遡るらしい。

 自分が玉座を持つ地位を狙いたいが為に、今回はモンスターとも協力してロアーヌを占拠した。それも、当主のミカエルさんが魔物の討伐で遠征して居ない時を狙ってだ。このタイミングの良さに、頭が切れるミカエルさんは疑問を持ち、ゴドウィン男爵が実行に移すまで動向を泳がしていたみたいだ。
 予想が的面とはいえ、内部にいる部下からの裏切りに苦い思いを与えられたらしいが、最終的に反旗を翻してゴブリン軍団を奇襲したため、ロアーヌ軍にも戻れたと言うドラマをおばさんは片っぱしから喋る。熱が冷めるまで、暫くこの話題がロアーヌで持ちきりになるだろう。
 
 モニカちゃん決死の逃亡が、功を成したのもある。
 反乱の旨を聞いたミカエルさんが迅速に対応し、町に居る魔物も倒したんだ。見事にゴブリン軍団と、ゴドウィン率いる兵士達を退けた後、ミカエルさんとハリードは首謀者のゴドウィン男爵を退ける事に成功した。

「モニカ姫がご無事で良かった。あたしゃ、それが心配でねぇ」
「わしもじゃ。もうあの美人兄妹が見れなくなると思うと、心残りで死んでも死にきれんわい!」
「おばさん、おじいさん。心配してくれてどうもありがとう・・・」
「モニカ様・・・」

 おばさんとおじいさんと別れ、ユリアンがモニカちゃんの背中を押して宮殿へと一同歩く。城下町よりも高い位置に建てられているから、見張り台から町やミュルスを一望できる造りとなっている。石造りの宮殿の中に入らせて貰い、少し進むと見知った顔を見つけた。

「ハリード!」
「よう」

 玉座へと続く扉の近く、腕を組んで壁に寄り掛かっていた。アジアン風味の服を着て、曲刀を腰に引っさげるその姿は以前見た時と変わらない。思わず駆け寄って背中に跳び乗った。

「どうしたんだい、こんな所で?」
「おっさんの事だから、きっとミカエル様にがめつく交渉してると思ったよ」 

 紳士トーマスと、エレン姉さまが笑いながら喋りかける。皆の顔も晴々してるし、この一件がちゃんと落着したという事が伝わって来た。

「皆を待ってたのさ。さあ、中に入るぞ」
 しがみ付いた私を背に乗せたまま、ミカエルさんが待つ玉座へと歩いた。

 ***

「この難局を乗り切る事が出来たのも多くの者達のおかげである。特にハリード、トーマス、ユリアン、エレン、サラ、リオ。お前達は私の家臣でもないのに良く働いてくれた。ロアーヌを代表して礼を言う」

 玉座の前に佇んでいたミカエルさんが、私達に感謝の意を込めて答えてくれた。
 猫である私はハリードにおぶさり、他の皆は横に並んで連ねられる言葉を聞いて行く。
 上の人を敬う様な立ち振る舞いは皆も分からないので、本当に並んで立っているだけだ。モニカちゃんは、いつもの旅装束姿ではなく正装した姿で、もう一人手前で佇む髪の長い女の人と一緒に、ミカエルさんの一挙一動を見ていた。 

「まぁ、当然だ「イイってことよ!」・・・ふぐっ」
「リオちゃん・・・」 

 ハリードの肩から顔を覗き出して、猫の手で口を塞ぐ。いつものがめつい発言を遮ってやった。
 懐が広いミカエルさんは、それでも恩賞を取らせてくれるみたいだ。正装したドレス姿のモニカちゃんが皆にお礼を伝え、最後は談笑に浸る。

 *****

 ゴドウィン男爵から無事にロアーヌを取り戻したお礼も兼ねて、ミカエルさんが私達をロアーヌの宮殿で泊まらせてくれる事になった。勿論夕ご飯もご馳走になって、祝杯を挙げる兵士の人達と笑い合う。

「イッキ、イッキ!!」
「プハァァ〜〜! 」 
「いよっ、猫のお嬢ちゃん、威勢がイイネッ」
「猫舐めんなよ! 何でも飲めるよっ」

 毛むくじゃらの左手を腰に当て、ジョッキの手で持つ部分に右手を突っ込んでオレンジジュースを一気飲み。ポッコリと出た白いお腹を撫でて、座っていた椅子から降りて床にごろ寝する。
 
 食堂の一室を借りての祝杯は、宴たけなわだ。料理人さんが忙しそうに食べ物を作り、侍女さんも兵士の人達にお酒を注いでいる。無礼講のお祭り騒ぎに、ハリードやミカエルさんも楽しくお酒を飲んで、ユリアンとトーマスはお肉料理にかぶり付き、モニカちゃん、エレン姉さま、サラちゃんがデザートを食していた。

 お腹を上にしてそのまま寝そうになった時、近くに誰かが寄って来た。

「白い猫? 私はカタリナと申します。この度はモニカ様の助力に貢献してくれた事、真にありがとうございます」
「えっ、あっ! 私はリオって言います。私の方こそモニカちゃんに助けて貰う事もあったし、そんなに大した事はしてないんですが・・・」

 しゃがみ込み、視線を合わせて感謝の言葉を告げられる。
 紫色の長い髪を纏め上げ、しっとりしたビロード調のドレスが彼女の美しさを引き立たせる。彼女に近付いてみたくて、白い手を伸ばしたら横から抱き上げられた。

「リオちゃん、彼女は私の侍女のカタリナで、剣の腕前も一流なの」
「よろしく、リオ様」
「猫ですが、よろしくお願いしまっす!」

 モニカちゃんに抱き上げられた私は、大人しく彼女たちの話を聞く。カタリナさんは、モニカちゃんが居なくなった後に裏切った大臣さんに牢屋へ閉じ込められていた。けれど、隠し持ってた牢屋の鍵で外へ出たらしい。
 ゴブリン軍団を退けたハリードとミカエルさんの二人と合流して、玉座に居るモンスターを引き連れた親玉を無事に退治したと教えてくれた。その代わり、取り逃がしたゴドウィン男爵の行方が知れないとも言っていた。

「ゴドウィン男爵は捕まらなかったんだね」
「そうです。奴をこの王宮から遠ざける事に成功はしたのですが」

 私の言葉に、モニカちゃんとカタリナさんは浮かない顔だ。
 そりゃそうだ。悪の根源を正すか絶たないと、いずれまた何処かでチャンスを伺ってるかもしれない。私はこの後何が起こるか分かってるから、ここで彼女に忠告した方が良いのか迷ってる。

「ニャオォォ・・・」
「リオ様、今日はごゆるりとお休みください。では、これにて失礼します」
「カタリナも、ゆっくり休んでちょうだい」
「ありがとうございます、モニカ様も疲れた体を癒して下さい」

 迷ってる間に、カタリナさんが食堂を後にした。
 モニカちゃんに連れられて、エレン姉さまとサラちゃんの場所へ戻る。そろそろ寝る頃だと言うと、女の子四人、同じ部屋で寝ようかと言う話になった。

「リオちゃんはこっちです!」
「こっちで寝るの!! モニカ様はドでかいベッドで寝るんだから良いでしょ?」
「だったらサラさんが私のベッドで寝れば良いんです! さあ、どうぞ」
「モニカちゃんはお姫さまなのに、床で寝かせるわけには行かないよ・・・」
 
 モニカちゃんの部屋で寝るには良いが、肝心のベッドが無い。
 ベッドが無いから絨毯の上で毛布を敷いて、そこで私達三人は固まって寝ようかと話し合っていたんだ。
 彼女達の睨みあいの最中、エレン姉さまはもう毛布の上で寝かけている。静かに動いて、彼女の傍で丸くなって眠る事にした。そこで見た夢は、私が元気にロマサガ3を冒険している姿だった。


008 ポドールイの洞窟

2012年07月22日 15時06分33秒 | 小説作業編集用カテゴリ

 レオニードさんにポドールイ近辺が載ってる地図を貰い、皆で洞窟に向かう事になった。
 冒険とは名ばかりの、早く言えば時間潰しの為に勧めたんだろう。

「・・・あれ?」
「どうしたんだ、リオ」  
 ユリアンの手に持つ地図を、下から手を伸ばして引ったくり、上から下まで眺める。レオニード城とポドールイの町、それから洞窟の場所がある所しか印を付けられていない。

 やっぱり地図には他の町の名前が載ってなかった。
 船で訪れたり、情報を聞いて、イベントで通過しないと町やダンジョンには行けない仕組みになってる? 無駄な所まで忠実にしなくても良いのに・・・これは、本格的に冒険をしろと言うエリーちゃんの思し召しか。 

「マッチョじゃないけど、色々と鍛えて棍棒の達人になってやる!!」 
「マッチョ? リオちゃんのマッチョ、あんまり好きじゃないかも」
サラちゃんに抱き上げられて、皆で城を後にする。

 鷹(ヘルダイバー)や翼手竜を何とか撃退して、狭くて滑りやすい坂から広い面積に落ち着く事が出来た。シノンの森でハリードに頼り、弱い面を見せていた皆は目覚ましい成長ぶりで、遂に町の外にある洞窟へと辿り着く。


――――ポドールイの洞窟――――

 山の麓にある洞窟の中は暗かったが、所々に何故かランプが灯されて進みやすい。ただ、やっぱり狭くて湿り気のある空間には魔物が多かった。

「げっ、カエル! ユリアン、トーマス、後は任せたよ!」 

 元居た世界のアマガエルよりかは、勿論デカイ。肥えた体は虫以外の、それこそ人間まで食べてここまで育ったに違いない。
 バーナード犬並みの大きさなんだ。生理的に受け付けないのは、何も彼女だけじゃない。サラちゃんやモニカちゃんも、カエルから距離を遠く取っている。女の子なら、躊躇する気持ちはよく分かる。

「ちょっ、エレン、お前ならキックでも斧でも一撃でいけるじゃないか!」
「いーやーだ!! 植物や昆虫は攻撃出来ても、カエルだけは素手でも武器でも触りたくないね!」

 上から落ちてくるバラ系植物の魔物に斧で真っ二つ、兵士系の骸骨には跳び蹴りをかましたエレン姉さま。水気を含んだ壁や天井から、物影に隠れて飛び出す魔物など、初心者を楽しませようと多様に富んだ攻撃を仕掛けて来る魔物達。最強の彼女でも、カエルには弱いみたいだ。

 アマガエルに似た特大の魔物をサラちゃんの弓で仕留め、次々と宝箱を開けて行く。
 地面に置かれた宝箱、洞窟で朽ち果てた冒険者の亡骸からと様々な所に置かれてあった。生命の大もと、小盾、小手、精霊石や、ロマサガ3でのお金、三千オーラム以上見つける事も出来た。

 生命の大もとは、熱帯地方にある“アケ”という村で“生命の素”に作り変えて貰える。
 効果は一人のWP(技ポイント)・JP(術ポイント)と、LP(ライフポイント)の完全回復だったはず。非売品だし、これも超貴重品だがこのままじゃ使えないし、後に取って置くから今は全然使えない。
 ライフポイントは、それぞれ各個人に設定されてあり、決まり事もあった。
 キャラが持つHPを上回る攻撃を受けた場合、気絶した状態になる。気絶状態を放ったままにして、敵から攻撃を受けるとライフポイントが一つずつ削られていき、全部の数値が無くなった場合、本当の“死亡”となる。少なくなったライフポイントを回復するには、宿屋で回復するか、専用のアイテムで回復するしかなくて、いつまで経っても数値は変わらない。

 シノンの森で気絶したエレン姉さまは、ライフポイントを一つ削られ、気絶した。あの状態のまま、もし後九回攻撃されたら、ロマサガ3の世界で存在を抹消されていただろう。

“末梢”の文字が頭にちらつき、私は激昂したんだ。
 FFで言えば、リミットブレイクしたという感じ。能力はあんまり上がってなかったと思うんだけど、それでも勇気だけはいつもの倍は湧いたと思う。 

「おかしいな・・・ドコにあるんだろ? ねっ、皆・・・ってアレ??」

 あの時のエレン姉さまの事を思い出しながら歩いていたら、どうやら一匹で奥まで来てしまったらしい。どうしようかと唸っていたら、前方に深い谷底があり、その先の向こう側に渡れる地面があった。
 私でも走ってジャンプすれば行ける場所だ。助走をつけて跳び上がるとナイスに着地して、人間の屍に近づき落ちていた物を拾い上げる。回復機能を持つ“生命の杖”をゲットした。

「やった〜〜! “生命の杖”見っけ! さって、皆の所へ合流しないと・・・?!」 
「ゲェェコ、ゲェェコ」 
「カタカタカタ!」 
「ゴブゴブッ」 

 喜びも束の間、後ろを振り向くと向こう側にある着地地点に、カエルと骸骨とゴブリンの魔物がわらわらと集まっていた。知能があるのか、谷底に落ちる事も無く、彼等は私がこちらに来るのを待っている。

「・・・どうしようっ、向こうに渡れない」
 杖を固く握りしめ、その場で身動き出来なかった私は仰天する。

 シュッ!

「はっ?! ちょっ、なんなの・・・! 猫は食べても美味しくないよっ」

 カエルの長い舌が私に伸びてきて、体に巻き付いた。カメレオンも真っ青の舌の長さぶりに驚きつつ、必死になって足掻いても無駄だった。

「ニャオオオォォ!!」
 悲鳴を上げて、必死に助けを呼んでも誰も助けに来てくれない。力を込めて踏ん張っても、凄い力で引っ張られる。

(もう駄目だ!!) 

 イタダキマスとカエルの大きい口に寄せられた時、今まで聴いた事のない、女の子二人のドスの効いた低い声が洞窟内に響いた。

「誰の許可を得てリオちゃんを食べるのですか? 冗談は顔だけになさい!! アクセルスナイパー!!」
「私のリオちゃんに何するのよ・・・混倒滅殺、イド・ブレイク!!」

 モニカちゃんが持つ小剣での先制攻撃、その後畳み掛ける様にサラちゃんがカエルの腹目掛けて弓を撃ち放つ。カエルの動きを一旦止めて、的を絞り、弓で腹を貫通したカエルは見事に崩れ落ちた。
 イド・ブレイクは混乱の効果もあるが、WP(技ポイント)も使うため普通の攻撃よりも強力だ。混乱に陥る暇も無く、天に召されたようだ。

「モニカちゃん、サラちゃん!!」
「リオちゃん、また一人で歩いて。心配したんですよ?」
「今助けるから、ちょっと待っててね!!」

 舌が巻き付いたままの私は、モノ言わぬカエルの体の上に倒れ込んだ。
 私の近くには複数の骸骨とゴブリンがいるから、倒せるまで近付いてもらえない。身動き出来ずに待っていると、彼女達の後ろから何かを引きづった音が聞こえて来た。
 
「エ、エレン姉さま! ・・・ユリアン、トーマス?」
「いやぁ、モニカ様とサラの走る速度に、早くて追いつけなかったんだよ。だから二人を引きづって来ちゃった」 
「・・・かっこ悪い所見せちゃったな」
「同じく・・・」

 エレン姉さまに襟首を掴まれ、引きずられて少し疲れ気味のユリアンとトーマス。バツの悪い顔で喋る二人に、モニカちゃんとサラちゃんの低い声が彼らに告げる。
 
「早くゴブリンと骸骨を倒してください・・・私達はリオちゃんを助け出しますから」
「お姉ちゃんも良いよね? カエルはもう居ないもんね・・・?」

 有無を言わさぬ様に言い放つ彼女達に勿論異論は無く、エレン姉さま率いるユリアンとトーマスに魔物達を退治して貰う。モニカちゃんの小剣で舌を切って貰い、長いカエルの舌を両手でサラちゃんがわし掴みして、私はやっとの事で助け出された。その後、皆からお説教されながらポドールイの洞窟を出る。


007 体の触れ合い、心の触れ合い(2)

2012年07月22日 15時03分53秒 | 小説作業編集用カテゴリ

「ニャオォォォ・・・やわらかいマシュマロが六つも押し迫って来るぅ・・・もう食べれませぇん。勘弁してぇぇ・・・」 
「リオちゃん、大丈夫?」

 お風呂でのぼせた私は、柔らかいタオルを下に敷いて熱を冷まして貰っていた。
 髪をタオルで纏め上げたサラちゃんが、タオルでパタパタと仰いでくれている。精霊さんに着ていた服を洗って貰って、もこもこした白いルームウェアを借りて着ていた。

「リオ、お水持って来たけど飲めるかい?」
「ブフォッ!」

 エレン姉さまは白いカッターシャツに、ズボンをはいていた。でもサイズが合わないのか、胸元のボタンは開けられ中から黒いブラが見える。ズボンのボタンもちゃんと留めていないから、おへそがチラ見えして・・・
 
「リオ?」
「・・・エレン姉さま、凄すぎますぅ」

 コップに注いだ水を屈み込んで持ってくれているので、胸の谷間がくっきり全開だ! 美人な上に強くてナイスバディ・・・神は三物を与え給うたのか。自分のペタンコな白い胸を睨み付けて、深く溜息を吐きたくなった。

「リオちゃん、気がつきましたか?」
「モニカちゃん、ゴメンネ。心配かけちゃった・・・」

 光沢のある、滑らかなピンク色のネグリジェを着たお姫様改め、モニカちゃん。半生乾きのブロンドの髪を下ろして、心配そうにタオルで私の体を拭いてくれている。決して風邪を引かせない様に、優しく水気を拭き取ってくれた。 

「あっ、そう言えばここは?」

 貰った水をゆっくり飲み、周りをキョロキョロと眺める。
 十畳はある部屋の床には赤い絨毯を敷き、洋服ダンスに複数のベッド、四人位座れる丸いテーブルセット、姿見の鏡などが置かれていた。

「私達は先に休める様に、部屋へと案内して貰ったんだよ。ユリアンとトーマスの二人が、入れ替わりにさっきの大浴場にでも行ってるってわけさ」
「ホォォ・・・」

 ロマサガ3で言えば、きっとお風呂イベントに違いない。
 もしかして神様が・・・いや、違った。エリーちゃんが用意してくれたサプライズかもしれん!! どっちにしろこんな貴重なイベントに、自分は気を失っていたなんてとんでもない馬鹿な猫だ。

「リオが目を覚ました事だし、先に夜食を頂いちゃおうか?」
「えっ、ユリアン達を待たなくて良いの?」
「実は、二部屋も用意して貰ってさぁ。向こうは向こうで食べようかって言ってたんだよ」

 悔しげに短い足で地団太を踏んでいると、エレン姉さまが私を抱き上げてくれた。丸いテーブルの上に近付き、椅子の上に下ろされる。傍にある呼び鈴を鳴らすと、ドアの外からノックの音が聴こえた。

「軽食ですがどうぞ」
 
 茶色の髪をした女の人がワゴンを押して、部屋に入って来た。見掛けは普通の人間にしか見えないけど、この人もレオニードさんが使役する精霊さんだ。
 アビスの影響を受けて、自らの魅力を武器にして戦いを挑んでくる妖精さんもいる。彼女らの正気を取り戻す為にも、早く“アビスゲート”を閉じなくちゃね。並大抵の鍛錬じゃ、まだまだ私には無理だけど。

「ニャ、美味しそう・・・イタダキマウス!!」
「リオちゃん可愛い! 私もイタダキマウス!」
「い、いただきマウス・・・は、初めて言いました」
「プッ、猫が“マウス”って・・・。リオ、よく噛んで食べなよ。口の周りにマヨネーズがいっぱい付いてるよ」

 大皿の上には美味しそうなサンドウィッチと、から揚げにフライドポテト。
 ジュースが入ったグラスもそれぞれ用意してくれてある。サラちゃんに食べ物をそれぞれ小皿に取り分けて貰い、皆で手を合わせて食べ切った。

 *****
 
 けたたましい嘲笑いが、レオニード城の怖さを引き立たせる。
 柳に似た大木は風に靡き、吹雪いた白い世界は人間を迷わせる。
 寒さに強い狼の遠吠えと、蝙蝠の鳴き声をBGMにして一夜が過ぎた。

「ニャオオ・・・今日はあんまん、明日は肉まん、あさってはピザまん・・・ノォォ」 

 肉まん達がせめぎ合って、押し寄せてくる夢を見た。
 息苦しくて目を開けると、モニカちゃんとサラちゃんの間に挟まれていた。彼女達が同じベッドで眠っているのを不思議に思い、起き上がると・・・

「ニャ?」
 
 目を凝らして見ると、同じベッドにエレン姉さまも座って熟睡していた。この部屋にはベッドが四つもあるから、皆はそれぞれの場所で眠っていた筈なのに。いつの間にか逆ハーレム状態になっていた。
 私が男なら、きっと鼻血を出して地に伏すに違いない。少しばかりニヤけていると、外を繋ぐドアの向こう側からノックの音が聞こえた。

「おーーい、もうそろそろ起きろよ。早く飯食べて、レオニード伯爵の所へ行かなきゃならないんだから!」
 ユリアンからの連絡を聞き、急いで皆を起こす事に。用意してくれた朝食を急いで食べて、皆でレオニードさんの所へ移動した。 

 窓から朝日が拝めるだろうと言う予想を、大いに覆してくれた摩訶不思議なこのお城。
 どうして入り口と反対の方向には、いつも稲光が出てるのか。
 晴天を覆い隠す様に、暗雲が流れているのか。レオニード城の七不思議に、リストアップする事を自分で決定した。

「おはよう、昨日はよく眠れたかな? 」
「おはようございます。レオニード様のご意向で、昨日はよく眠れました」
「そうか、それは良かった。実はミカエル侯からの伝書によると、まだ反乱を鎮圧していないみたいだ。
暇潰しとまでは言わないが、この近くにある洞窟に行ってみたらどうかな?」
「洞窟ですか?」

 ここから少し離れた場所にある洞窟は、初心者の冒険者にはうってつけらしい。序盤での武器・防具やらが手に入るみたいだからどうかと、勧めてくれた。
 通過儀礼みたいなもんだ。このイベントをクリアしないと、ミカエルさんが反乱を鎮圧する事件がいつまで経っても終わらない。ここで断る理由も無く、一同はポドールイにある洞窟を目指す事にした。