「エキドナや羅刹を見た後だから、もう驚かないとタカを括っていたんだが・・・駄目だな、ここでは常識もクソもないらしい」
羅刹を倒した後、一同は更に奥へと進む。すると広い広間に出た。
階段から見下ろすと、そこには魔物がうようよと蠢いていた。妖精や悪魔系の魔物がわんさかいる。
「ニャ、きっとここには陽の光が容易には届かないから、絶好の場所なのかもね。地下へ進むほど魔物が多いや」
「太陽が届かない割には、建物の中はよく見えるんだけど」
「何かの力でも働いてるのかもしれないな」
ごもっともなサラちゃんの意見に一同は不思議がるが、まずはミッチを救出しようと思考を張り巡らせた。魔物が蠢くこの広間で、どうやって魔物に捕まらずに移動したらいいのか考えないと、進む事が出来そうにない。
「わ、私が囮になるよ」
「リオ?」
「え、やだ、何でリオちゃんが囮り役になるの? ヤダよー」
「そうだよリオ。あんたはあたし達と一緒に行動しなきゃ」
駄々をこねるサラちゃんとエレン姉さまの手にペロリと一舐めして、シャールとトーマスに向き直る。
「私が一番素早いんだよね? それに私猫だから、魔物には興味が向けられないかもしれないじゃない」
「そうだが・・・」
「やってみる!」
棍棒を背中の風呂敷に縛り付け、たかたか二足歩行で走ると小柄な妖精に見つかってしまった。私の姿を視界に納めると、ニヤリと不気味に笑い、背中の羽をはばたかせながら襲いかかってきた。
「ね、猫でも駄目だった~~」
さらに急いで逃げ回る。ここの魔物は動きが鈍いので捕まる事は無かった。
この部屋の柱の陰に魔物が潜んでいる事は、ゲーム画面越しでプレイした者なら誰でも分かる。
予測して並居る魔物を寄せ付けず、さらに調子に乗って一匹で大広間の中央を駆け抜けてしまった。
***
「・・・一匹でここまで来ちゃったよ」
さらに奥の部屋にある広間に出た。
この部屋はさすがに一匹では無謀と思うのだが、どうしてもある行為を今、しておかねばならない。
アビスゲートはさらに地下深くにあるし、またこの行為をする為だけに戻るのは愚かしいと思ったので突っ走ってしまった。
「なんかないかな・・・」
ここは骸骨だらけのお部屋だったハズ。うんうん唸ってても始まらないので忍び足で行く事に。するとまた柱の陰に隠れていた骸骨がわんさか出て来た。
「ニャオッ、猫は、猫は食べても・・・美味しくなんかないんだから」
ゼェハァ言って逃げ回ってると、扉の前まで来れたようだ。
毛むくじゃらの手をそっと当てて押してみる。
『指輪を・・・』
「よっしゃ、声聴いたらもう終わりだもんね☆」
素早く後ろを向くと骸骨達が間近に迫ってきていた。
絶対絶命の言葉が脳裏に浮かび上がった瞬間、槍技の石突きが繰り出されていた。
「シャールさん??」
「すごいなリオは。君一人でここまで来れるなんて」
「ミッチ少年はどうしたの?」
「無事に見つかったよ。と・・・話は後だ、ここから脱出する!」
シャールさんの背中におぶせてもらって、この広間から脱出した。
朱鳥術、槍術に長けたシャールさんにかかれば、その辺の弱い魔物では太刀打ち出来ないらしい。
サラちゃん達と合流した私達は、来た道を戻って魔王殿の外にまで無事に出れた。
「ミッチが見つかったのは君たちのおかげだ。本当に感謝する」
「ニャ、良かったですね!」
「ホント、リオちゃんも帰って来た事だし、よかったよぉ~~」
「リオは毎回突っ走るんだから」
「ミッチ、もう魔王殿の中まで入るなよ」
「うえーーん、ゴメンナサーーイ!」
モヒカン頭のミッチを連れて、シャールさんは旧市街のミューズさんの居る家へと帰って行った。
サラちゃんに抱き寄せられながら頬ずりされ、私達もピドナの新市街にあるトーマスの家へと向かう。
***
「今日はゆっくり食べて寝てくれ。それから、寝る前に耳に入れておいて欲しいんだが」
「ニャ? どうしたのトーマス」
トーマスの家で御馳走を頂いた。
クリームスープとホクホクの白いパン、果肉とソースを組み合わせたステーキ肉。大豆と魚の盛り合わせなどの栄養満点な食べ物だった。
皆でペロリとお皿を空にして、お風呂にしっかりと浸からせてもらったのだ。
そして今、エレン姉さまとサラちゃん、猫の私とトーマスは客間に居る。
「また後日ミューズ様の家へ行く事になったんだが、エレンやサラ、リオはどうする?」
「ニャ、私も行きたい」
「リオちゃんが行くなら私も」
「・・・皆が行くなら私もだね。暇だしいいよ」
ミューズ様が喜ぶと言って、顔を綻ばせてトーマスは部屋を出て行った。
次にミューズさんの家に行く時は、きっちり準備しておかないと!