私達女のメンバー四人は、レオニードさんの居城にてお風呂場を借りている。
モノは試しだ。思い切って相談して良かった。猫用のトイレも借りれたし、紳士な吸血鬼さんには言う事なしだ。
「ってかスクエ○めっ! 風呂場があるなら描写くらい入れろや」
猫用のトイレは百歩譲って諦める。でも風呂場はねぇ・・・あるのと無いのとじゃやっぱり全然違う。無かったら如何しようかと思ったんだ。
ゲームしてる当時は、このあっさりした物語の進み具合に喜んでたんだけどなあ。
SFCのカセットの容量ではアレが精一杯だったのかも・・・まぁ、それを補う位のやり込み要素があったから、今でも語られる位の大作と言えるんだけどさ。
一匹で悶々と某ゲーム会社の文句をつらつら連ねる。
それでも美しい風呂場がその罵倒を打ち消す位に忘れさせてくれ、新たな感動が心に芽生えた。
「ホヘェェェ〜〜いっい湯だっな〜♪ アハハン」
レオニード城にこんなんあったっけ?と思う位、広々とした大浴場だ。白いタイルにジャグジーまで付いて、何でここだけ豪華やねんって、突っ込みたい。お化け屋敷さながらの外観のくせに、月術で灯されたクリーム色の照明が温かく空間を照らし出している。
ライオンヘッドさながら、壁から突き出るキマイラを模った像の口からは、新たなお湯が浴槽に止め処なく流れる。玄武術で水が出る仕組みのシャワーが五つ位あるし、シャンプー、リンスと、体を洗うボディーソープも用意されてて、濃厚な薔薇の香りに思わずうっとり。
私が浴槽に入っている場所も、真紅の薔薇がいっぱいお湯に浮かんでいるんだ。しかも一個じゃないよ! 青い薔薇、紫の薔薇、白い薔薇と四種類もそれぞれ入れられる様に浴槽が作られてて、どうやら匂いも効能もそれぞれ違うらしい。一生分の贅沢を詰め込んだかの様な待遇に、初めて猫になって良かったと思える様になった。
一匹で優雅にスイスイ猫掻きして泳いでいると、スモークがかかったガラスの扉が横に開く。
「リオちゃん、もう行くの早いんだから! 私と一緒に入って欲しかったのにぃ」
「私も。後でリオちゃんの体を洗いたいです。」
「リオは私達と違って服を着てないからね。私達より先に入れるのは当たり前だよねぇ?」
「うっ、うん! そうなんだよっ」
両手でタオルを押えて体を隠しながら、美人シスターとお姫様モニカちゃんが入って来たっ!! 皆はここで頭も洗うつもりなんだろうか。エレン姉さまと妹のサラちゃんも、長い髪の毛を下ろしている。
「・・・わっ、ここの景色って、外からじゃ絶対見れない位置にあるからガラス張りなんだぁ。この景色は絶景だよね、お姉ちゃん」
石の桶でお湯を体にかけて洗い流し、お湯の中に半ば浸かりながらガラスの窓に手を付け眺めるサラちゃん。隣に居るエレン姉さまに問い掛ける。どうやら姉妹は仲直りしたみたいだ。・・・本当に良かった。
「丘の上にある位だから、こっち側は断崖絶壁なんだろうね。でも雪がヒラヒラ降って、これはこれで風情があるよねぇ・・・たまにこの城の周りにだけ、雷が鳴ってるのがちょっと気になるけど」
四角形の窓から見える縦長の雷が、時折部屋を照らし出す。エレン姉様は雷は平気で、逆にサラちゃんは雷が怖いみたいだ。
「ここまで来るのは至難の技でしたしね」
「ホギャッ!」
クスリと笑い、私を胸に抱き寄せてくれたモニカちゃん。
ちょっ、生胸が背中に当たってるよっ! 私も乙女のはしくれなのに、照れてキタッ!
「ミカエルお兄様が伯爵様を頼る気持ちが分かりました。彼は吸血鬼で有名ですけど、とても真摯な態度で私達を受け入れてくれたんですもの。疑っていた私が浅はかだったんだわ」
「モニカちゃん・・・」
“タダより怖いモノは無い”って言う、格言が元居た世界にあったと言う事はこの際伏せておこう。今の所、レオニードさんの信条とやらは明らかにならないのだから。
「フフッ、リオちゃん。くすぐったいです」
「・・・」
モニカちゃんに向き直り、顔をペロリと一舐めする。
白く透き通るような瑞々しい肌と柔らかな胸に、元居た世界の心友、橋ノ蔵奈美ちゃんの姿が重なった。胸関係だけに、彼女のお姉さんを思わせる優しい気持ちと、昔過ごした記憶が蘇る。
(元気にしてるかなぁ、みんな・・・)
家族の皆
ファインシャートの皆
魔族の皆
それから・・・守護獣ガウラ。
出会った人皆とは言わなくても、良い人間や仲間には恵まれてる方だと思うよ。この大好きなロマサガ3の世界を、出来ればガウラと一緒に冒険したかった・・・
「・・・? きゃ、きゃあっ、リオちゃんがグッタリしてる!」
「ええっ! リオちゃーーん、大丈夫? 早くお湯から上がらせないとっ!」
「何だって!! タッ、タオルにくるんで外で冷やせばなんとか・・・」
サラちゃん、エレン姉さま、モニカちゃん、ユリアン、トーマス、今は此処に居ないハリードも皆私に優しい・・・特に何かをしなければならないと言う事は聞いていないけど、この世界でも何かを得る事が出来ると思うんだ。それを見つけるまで、私はきっと帰れない。