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ひょっこり猫が我が道を行く!

カオスなオリジナル小説が増殖中。
雪ウサギが活躍しつつある、ファンタジー色は濃い目。亀スピードで更新中です。

006 体の触れ合い、心の触れ合い

2012年07月22日 15時01分30秒 | 小説作業編集用カテゴリ
 
 私達女のメンバー四人は、レオニードさんの居城にてお風呂場を借りている。
 モノは試しだ。思い切って相談して良かった。猫用のトイレも借りれたし、紳士な吸血鬼さんには言う事なしだ。

「ってかスクエ○めっ! 風呂場があるなら描写くらい入れろや」

 猫用のトイレは百歩譲って諦める。でも風呂場はねぇ・・・あるのと無いのとじゃやっぱり全然違う。無かったら如何しようかと思ったんだ。

 ゲームしてる当時は、このあっさりした物語の進み具合に喜んでたんだけどなあ。
 SFCのカセットの容量ではアレが精一杯だったのかも・・・まぁ、それを補う位のやり込み要素があったから、今でも語られる位の大作と言えるんだけどさ。

 一匹で悶々と某ゲーム会社の文句をつらつら連ねる。
 それでも美しい風呂場がその罵倒を打ち消す位に忘れさせてくれ、新たな感動が心に芽生えた。

「ホヘェェェ〜〜いっい湯だっな〜♪ アハハン」

 レオニード城にこんなんあったっけ?と思う位、広々とした大浴場だ。白いタイルにジャグジーまで付いて、何でここだけ豪華やねんって、突っ込みたい。お化け屋敷さながらの外観のくせに、月術で灯されたクリーム色の照明が温かく空間を照らし出している。

 ライオンヘッドさながら、壁から突き出るキマイラを模った像の口からは、新たなお湯が浴槽に止め処なく流れる。玄武術で水が出る仕組みのシャワーが五つ位あるし、シャンプー、リンスと、体を洗うボディーソープも用意されてて、濃厚な薔薇の香りに思わずうっとり。

 私が浴槽に入っている場所も、真紅の薔薇がいっぱいお湯に浮かんでいるんだ。しかも一個じゃないよ! 青い薔薇、紫の薔薇、白い薔薇と四種類もそれぞれ入れられる様に浴槽が作られてて、どうやら匂いも効能もそれぞれ違うらしい。一生分の贅沢を詰め込んだかの様な待遇に、初めて猫になって良かったと思える様になった。
 一匹で優雅にスイスイ猫掻きして泳いでいると、スモークがかかったガラスの扉が横に開く。

「リオちゃん、もう行くの早いんだから! 私と一緒に入って欲しかったのにぃ」 
「私も。後でリオちゃんの体を洗いたいです。」
「リオは私達と違って服を着てないからね。私達より先に入れるのは当たり前だよねぇ?」
「うっ、うん! そうなんだよっ」

 両手でタオルを押えて体を隠しながら、美人シスターとお姫様モニカちゃんが入って来たっ!! 皆はここで頭も洗うつもりなんだろうか。エレン姉さまと妹のサラちゃんも、長い髪の毛を下ろしている。 

「・・・わっ、ここの景色って、外からじゃ絶対見れない位置にあるからガラス張りなんだぁ。この景色は絶景だよね、お姉ちゃん」

 石の桶でお湯を体にかけて洗い流し、お湯の中に半ば浸かりながらガラスの窓に手を付け眺めるサラちゃん。隣に居るエレン姉さまに問い掛ける。どうやら姉妹は仲直りしたみたいだ。・・・本当に良かった。

「丘の上にある位だから、こっち側は断崖絶壁なんだろうね。でも雪がヒラヒラ降って、これはこれで風情があるよねぇ・・・たまにこの城の周りにだけ、雷が鳴ってるのがちょっと気になるけど」
 
 四角形の窓から見える縦長の雷が、時折部屋を照らし出す。エレン姉様は雷は平気で、逆にサラちゃんは雷が怖いみたいだ。

「ここまで来るのは至難の技でしたしね」  
「ホギャッ!」

 クスリと笑い、私を胸に抱き寄せてくれたモニカちゃん。
 ちょっ、生胸が背中に当たってるよっ! 私も乙女のはしくれなのに、照れてキタッ!

「ミカエルお兄様が伯爵様を頼る気持ちが分かりました。彼は吸血鬼で有名ですけど、とても真摯な態度で私達を受け入れてくれたんですもの。疑っていた私が浅はかだったんだわ」
「モニカちゃん・・・」

“タダより怖いモノは無い”って言う、格言が元居た世界にあったと言う事はこの際伏せておこう。今の所、レオニードさんの信条とやらは明らかにならないのだから。  
 
「フフッ、リオちゃん。くすぐったいです」 
「・・・」

 モニカちゃんに向き直り、顔をペロリと一舐めする。
 白く透き通るような瑞々しい肌と柔らかな胸に、元居た世界の心友、橋ノ蔵奈美ちゃんの姿が重なった。胸関係だけに、彼女のお姉さんを思わせる優しい気持ちと、昔過ごした記憶が蘇る。

(元気にしてるかなぁ、みんな・・・)

 家族の皆
 ファインシャートの皆
 魔族の皆
 それから・・・守護獣ガウラ。

 出会った人皆とは言わなくても、良い人間や仲間には恵まれてる方だと思うよ。この大好きなロマサガ3の世界を、出来ればガウラと一緒に冒険したかった・・・

「・・・? きゃ、きゃあっ、リオちゃんがグッタリしてる!」
「ええっ! リオちゃーーん、大丈夫? 早くお湯から上がらせないとっ!」
「何だって!! タッ、タオルにくるんで外で冷やせばなんとか・・・」

 サラちゃん、エレン姉さま、モニカちゃん、ユリアン、トーマス、今は此処に居ないハリードも皆私に優しい・・・特に何かをしなければならないと言う事は聞いていないけど、この世界でも何かを得る事が出来ると思うんだ。それを見つけるまで、私はきっと帰れない。

005 レオニード城

2012年07月22日 14時57分44秒 | 小説作業編集用カテゴリ

 戦闘に長けたハリードがパーティメンバーから外れ、私を入れた六人はポドールイのレオニードさんを訪れる為に、途中で魔物と遭遇しながら丘の上の居城を目指す。
 ロマサガの戦闘では五人が主流となり、もう一人のメンバーは補助で、非戦闘員となる。比較的体力の高いユリアンとエレン姉さまが前に出て、真ん中がトーマスで前衛が三人、サラちゃんと猫の私が後衛。お姫様のモニカちゃんには補助メンバーになって貰った。

「脳天割り、行っきますっ!」

 パコォォォン!

 ゴブリン愛用の棍棒で、閃いた技を駆使しまくる。
 昆虫やゴブリンを一発で仕留める事が出来なくても、この技を喰らった者は眠りに落ちる。その隙に皆でタコ殴りして貰うナイスな戦術、名付けて“ナイトメア殺法”は、比較的強い敵にも効果があるから、多分中盤までなら使えるだろう。

「やった♪ これで私も、もう立派なロマサガメンバーの仲間入りだっ!!」

 少しばかり嬉しくなり、調子に乗って棍棒を手に持ちグルグル振り回す。
 自らの白い頭の毛を少し逆立て、気分はFFの某チョコボ頭、ク○ウド・ス○ライ○!! 
 肉球から棍棒を取り落とすヘマもしなくなったし、ロマサガ3を冒険する為に、今の内から鍛えて準備は万端、勿論素振りも欠かさない。目指せ、千本ノック! フンフンフンッ!

「? リオ、何言ってんだ。ろまさがメンバーって何だよ?」
「なっ、何でもない・・・あっ、ユリアン後ろ!!」
「えっ?」

 問い掛けるユリアンの背後から、不意打ちに地狼が襲い掛かる。剥き出しの鋭い牙がユリアンの左腕に噛み付く寸前、凄まじい蹴りが地狼の横腹に炸裂した。喰らった衝撃に耐えきれず、雪原に転がりのた打ち回って、最後には息絶える。

「油断大敵だよっ。この辺に居る魔物をまだ全部仕留めてないんだから、気を抜かない!」

 助けてくれたのは、回し蹴りしたエレン姉さまだった。彼女は斧を使った攻撃も得意だが、体術も出来る。素早さを生かした接近戦を得意とする、憧れのお姉さまだ。

「ああ、悪かった。助かったよ、エレン・・・」
「さすがエレン姉さま、素敵ぃ!!」

 憧れの人にダッシュで抱き付こうとした時、皆の荒い息遣いが聴こえて来た。休憩無しで戦ってたから、体力の無いサラちゃんが地面に倒れそうだ。慌てて彼女の足を猫の体でしがみ付き、力を込めて踏ん張りながら尋ねてみる。

「サラちゃん、大丈夫? 体が辛いなら町へ戻ろう?」
「ありがとうリオちゃん、私は大丈夫だよ。もう少しでお城に着くし、このまま行こう」
 
 強がりで大丈夫だと告げるサラちゃん。
 その反応を見て、不服ととったエレン姉さまが突っ掛かり、両肩を掴んで強い口調で促した。

「サラッ、あんたは無理しちゃ駄目っていつも言ってるじゃないっ! あんただけでも町へ「イヤだ!!」・・・!」 
「ふげっ」
「リオちゃん!」

 エレン姉さまの両腕を振り払うように強く弾く。
 その反動で私の体は降り積もった雪の中へと引っくり返り、頭から突っ込んだ体をモニカちゃんに助け出して貰った。暫しの沈黙が続き、サラちゃんの瞳が揺らぐ。

「・・・私だって、もう子供じゃない」

 エレン姉さまに言い放つサラちゃんに、皆が驚いた。荒い息遣いでも、見上げて睨み付けるその視線の先は丘の上の居城にある。
 茶色と緑が混ざった様な瞳に力が籠もるその力強さは、この地で生きてる実感をしっかりと私に感じさせてくれた。エレン姉さまの言葉を遮り、真っ向から挑む少女は前へ進もうとしている。


(トクッ)
 ――それは、自らの宿命に抗うという覚悟から来るもの?
(トクン・・・)
 私はこの世界を、ゲームの世界の出来事だと認識してるのに?

「サラッ・・・!」
「まぁまぁ、エレン。そう目くじら立てるなよ。此処まで来て帰れなんて、サラが可哀想だろ」
「俺達もサラを見くびってたな。上から押さえるのは良くないし、このまま先へ進もう」
 
 食ってかかるエレン姉さまを宥め、ユリアンとトーマスが押さえつける。次第に落ち着いて来たのか、動きが緩慢になる。

「次は私がサラさんの代わりに戦います。だから、このまま一緒に行きましょう?」
 
 モニカちゃんもサラちゃんの歯向かう様を見て、自分が戦闘すると庇いだした。
 
「勝手にしなさい! もう知らないからっ・・・!」
 
 激昂してサラちゃんに背を向けるエレン姉さまは、その後誰とも口をきかなかった。険悪な雰囲気のまま、私達六人は丘の上にある居城にやっと辿り着く。

(楽しんで、それで終わりと思ってた。でも、どうしてこんなに痛いほど伝わるんだろう?)

 彼らの生に対する足掻きや執着が、愛おしいと思うのか――今の私ではまだ答えが出せなかった。

***

「やっと着いた・・・」

 私達六人は雪の降り積もるレオニード城に、息もたえたえで着いた。
 茶色い石造りのお城の背景に暗雲が流れ、遠くから蝙蝠の鳴く声と何かがせせら笑う不気味な声のオンパレード付き。ホーンテッドマンション=お化け屋敷を彷彿とさせるおどろおどろしさが、私達の背筋を寒くした。

「さすが吸血鬼の城だよな。雰囲気出てるよ」
「ああ、ここなら何でも出そうだ」

 幼馴染同士のユリアンとトーマスが城を見上げ、顔を蒼くして感想を告げる。
 私はこの中をゲームで網羅してるので、レオニード城に何が出るのか知っている。腐乱死体や骸骨、ゼラチナマスターや骸骨達の頂点に立つヤマさんまで、幅広い魔物がお待ちかねしてるとは、今の時点では語るまい。

「だ、大丈夫だよ! こんなの何とも無い・・・」
「あっ、エレン姉さま、待って!」
 
 立ち竦む仲間達の後ろから、エレン姉さまがいの一番で重厚な扉の前に進み出る。彼女を追おうと、モニカちゃんの腕から跳び下りたが――

 ギギギギ・・・

 エレン姉様が扉に触れようとした瞬間、勝手に両扉が開く。驚愕した彼女が取った行動とは、一番近くに居た私の白い体を抱き上げ、力強く抱き締め震え上がる事だった。

「ニャ、ニャオオォォ・・・い、痛いでゴザイマスル。エレン姉さまぁ・・・」
「!! はっ、ご、ごめんねリオっ。つ、ついビックリしちゃって・・・」
 
 ポキポキと体中の骨がきしむ音がして、カクカクと口から魂が飛び出そうになる。痛みに耐えかねて、私が咄嗟に出した悲鳴は猫の鳴き声だった。

 恐る恐る城の中に入ると後ろから轟く音が響き、自動的に鉄製の両開きの扉が閉じられた。凝った作りに感心していると、エレン姉さまがまた強く抱きしめて来た。嬉しいけど、コレはっ!!

「ニャオオォォ・・・」
「エレンさんっ!」
「お姉ちゃんっ!!」
「・・・はっ! リオ、ゴメンッ!!!」

 気を失いそうになる所を、モニカちゃんとサラちゃんに助け出される。普通に抱き締めてくれる分には嬉しいけど、彼女の強い腕力でハグされると複雑骨折になりかねない。生命の危機を感じ、自分で歩き出す事にした。

 壁に幾つもの蝋燭が灯され、赤い絨毯が敷かれている通路を私達は固まって歩き出す。
 内装は言うほど汚れてもいないし、明るく照らされ蜘蛛の巣も見当たらない。やっぱり人が一番目にする場所だけに、小奇麗にしていると見た。 

 奥へ進むと大きな窓があり、そこから景色が見える。
 暗雲からは雷鳴が鳴り響き、稲光が部屋の中を更に明るく照らし出す。
 部屋の中に置かれている蜀台には沢山の蝋燭が固定され、中央に置かれた椅子には肘を付き、ゆったりと座る一人の男性が居た。

「よく来たね。私がこの城の主、レオニードだ。モニカ姫の事はロアーヌ侯から伺っているよ」
 
 艶の良い背中まである黒髪が特徴の、背の高い男の人だ。
 肌触りの良さそうな、これまた黒くて品の良いローブを身に纏っている。この人が着てるのが本物の“今宵のローブ”!! ねだったら貰えるだろうか。

「初めてお目に掛かります、レオニード伯爵様。
 ロアーヌ侯ミカエルが妹、モニカと申します。この度は不躾な訪問にも拘わらず寛容な御挨拶、真に恐れ入ります」 

 六人が並んで立っている所、モニカちゃんが前に出た。進んで挨拶をして、自らのローブを左右掴みお辞儀をする所は、彼女の育ちの良さが窺える。立ち上がったレオニードさんがモニカちゃんの挨拶を受取り、手の甲に唇を寄せて紳士らしく振る舞う。

「今日は疲れたろう? 部屋を用意しているのでそちらで休むと良い。軽食だが何か摘まめる物を用意しよう。さぁ、この子に着いて行くと良い」

 言うと横に控えていた精霊が動き出す。
 この世界の精霊は、“アビス”の影響を受けて凶暴と化したのだが、レオニードさんの使役する精霊は、彼の支配下にあるんだろう。本当は人間と共存できる種族なのに、それが少し寂しくもある。

「あ、あのっ、レオニードさんっ!」 
「ん? 猫が喋っている・・・君の名は?」 

 目を見開き絶句して、言葉に詰まるレオニードさん。
 私を見て驚いてるけど、吸血鬼である貴方も驚きに値しますが? 彼への文句を抑え、少し頼みたい事が出来たのでとりあえず聞いてみる事にした。ゲーム画面上では知る事が出来なかったけど、聞いてみる価値大アリだ。

「名前はリオって言います!あの、それでモノは相談なんですが・・・」
「言ってごらん」
 
 ゴニョゴニョと言い淀む。断られるのか、否か。彼は紳士らしく、頷いて私の言葉を待っている。

「お風呂貸して下さい。それとトイレも・・・」
 
 三大欲求には敵わないが、乙女として其処は譲れない。泥が付き、雪に埋もれ、垢にまみれたこの体を一回は洗いたかった。


004 北方の町・ポドールイ

2012年07月22日 14時53分50秒 | 小説作業編集用カテゴリ
 複数の兵士の居る天幕の中で、ハリードの抱き枕にされてから一夜が明ける。
 
 地平線から朝日が昇り、霧が立ち込め、清々しい朝の空気がロアーヌ平原に広がる。
 
 マイナスイオンが五臓六腑にしみわたり、彼ら八人の今日も素敵な一日が始まった。
 
 ギュムゥッ! 

「痛ぇぇっ!!」 
「おはようっ、ハリードのおっさん! いつまで寝てんの。早く起きて起きてっ」
 腕っ節の強いエレン姉さまに遠慮無く頬を抓られ、跳び起きたハリード。その顔はまだ眠気まなこだ。

「お、おう、・・・ッチッ! 酒を飲み過ぎたか。・・・ん、何だこの白くて丸いの?」 

 私の顔を見てもまだ白い大福に見えるらしい。寝惚けながら、両手で体中をモギュモギュされる。
 乙女を抱き枕にし、噛み跡まで付けて、挙句の果てに体を餅の様に伸ばして引っ張るとはっ!! 昨日の事も覚えていないらしく、腹が立って必殺猫パンチをお見舞いしてやった。
 


「・・・」
「では、モニカをよろしく頼む」
「お任せ下さい、絶対モニカ様を危険な目には合わせません!」
「ミカエル様もご健勝であられますように」

 モニカ姫改め、モニカ様と敬称を変える事にしたユリアンとトーマス。
 やはり旅をするのに“姫”では、危険が付き纏うらしい。
 簡素な革の鎧、長剣、少量の傷薬を提供して貰い、私達ハリードを除いた六人は北方に位置するレオニードさんの居る場所まで行く事になった。

「俺が居なくてもやれるさ。皆、頑張って来い」

 顔に斜めの引っ掻き傷を付けたハリードが、皆を励まして送り出す。
 ミカエルさんはその顔を見て眉間に皺を寄せていたが、深く追求する事を止めたらしい。既に他の兵士に軍議について命令していた。

 この後、この平原でゴブリンの軍団を迎え撃つ。
“トルネード”の異名を持つハリードが居れば、この戦いに終止符が打てる。長期戦に持ち込むつもりは無いらしく、ゴブリン達を叩きのめした後ハリードを連れてロアーヌの宮殿に戻り、ゴドウィン男爵を討つと意気込んでいた。


 ****

 ミカエルさんが治めるロアーヌへと馬で戻り、港町ミュルスへと一同赴く。そこから各都市を結ぶ事でも有名な、世界最大の都市である“ピドナ”に向かう。そこから更に船に乗って色んな町を経由しつつ、やっとの事でレオニードさんの居るポドールイに辿り着いた。

「うぷッ、長い船旅だったね・・・」
 
 海自体は嫌いじゃ無い。
 人間だった頃は船酔いもしなかった。けど猫の状態だと三半規管が狂うのか、平衡感覚が鈍るのか。今度、女神(エリーちゃん)に逢ったら治してもらわないと!

「ホントお兄様ったら、遠く離れた北方の地方に私を預けるだなんて、離れ過ぎた所に決めなくても良かったのに・・・」
「しょうがないよ、モニカちゃん。レオニードさんなら、何か遭った時でも対処できるとミカエルさんも言ってたし・・・うぷっ」

 モニカちゃんと呼んだら喜んで抱き上げてくれた。
 エレン姉さまの妹サラも、呼んで欲しそうにしていたのでちゃん付けしたら狂喜乱舞していた。彼女達はこんな性格の子だったかな?
 吐き気を抑える私は、モニカちゃんの膝の上で丸くなって眠りに入る。

 *****

 レオニード伯爵が居る北方の町、ポドールイに着くと其処は一面の銀世界。
 シンシンと降る雪は、建物や木に止め処なく降り積もる。
 建物の窓から覗く温かい光は、人の所在を明らかにし、家族の元へと帰りたい気分を彷彿とさせる。

 あまり広くない町の中を、六人で歩き続けると一つの酒場(パブ)を見つけた。
 酒場(パブ)はお酒も飲めるし、マスターが作る簡単な料理も出してくれる。
 その地方特有の情報を提供して、仲間との別れを斡旋してくれたりもする。ロマサガ3は仲間に出来るキャラが二十人以上はいるから、メンバーを決める上でとても欠かせないお得な場所だ。

「ちょっと中に入って、レオニードさんについて聞いてみようよっ」
「んん・・・そうだな、体を温めるのも良いし、情報がてら聞き込みでもするか」

 何故か六人のリーダーになったユリアンに、私は勧めてみた。
 温かい部屋で丸くなりたいし、窓から見える雪を堪能してみたいのもある。皆の意見を聴き了承を得た所で、サラちゃんに抱っこされつつ一同は酒場(パブ)に入った。

「いらっしゃい」
 エプロンを着けた中年のおじさんが、カウンターの前に立って席を促す。

「こんにちは、マスター。何かレオニード伯爵の情報は無い?」

 さほど広くも無い空間を見渡して、カウンターや空いてるテーブルの席に着く私達。
 ユリアンとトーマスがカウンターで、四人掛けのテーブルにエレン姉さま、サラちゃん、モニカちゃん、そして猫の私が座る。

「町の若くて美しい娘が、レオニード様の城にそろそろ呼ばれるらしいよ」
「? 呼ばれてどうするんだい」
 エレン姉様が温かいジンジャーエールを人数分頼む。しょうがのエキスで風味を付けたアルコール無しの飲料水で、皆の体を芯から温め体を解していた。

「吸血鬼でもあるレオニード様に呼ばれた者は、自らの血を飲んでもらい、永遠の美を約束されると言われてるよ。だから町の娘達は、こぞって美を追求したがるんだ」
「・・・吸われる本人も吸血鬼になるかもしれないんだろう? この町の娘達は凄いな」
 美を追求する町の娘達とレオニード伯爵の関わりを聞いて、トーマスはメガネを押し上げて感心していた。

「永遠の美なんて、どんな価値があるのかな・・・」
「サラちゃん・・・?」

 座っていた椅子から抱き上げられ、彼女の膝の上で丸くなる。
 窓から振りしきる雪を見つめ、ポツリと呟くサラちゃんの言葉は猫の私にしか聴き取れる事が出来なかった。

 ****

 酒場(パブ)でレオニードさんの情報をそこそこ聞いて、六人は居城へと向かう。
 体も温まった事だし、坂を登って町の北方面への出入り口に差し掛かる。そこから見える風景に、一同絶句した。

「「「「「「・・・」」」」」」
 
 雪の道の勾配が複数ある地形、つまり細く狭い坂と道が居城へと導くように作られてあった。一つや二つじゃ無い上に、命綱も無く、しかも魔物も彷徨っている。
 地を這う犬狼や爬虫類を上手く撒いても、空を飛ぶ妖精(ピクシー)や飛竜(ワイバーン)が寒空を旋回している。

 雪の積もった狭い坂で襲撃されたら、ひとたまりもないだろう。通常の人間ではおいそれと居城には近付けない設計に、自分達の意識が遠のいた。

「・・・お兄様の考えた事が少しわかりましたわ」 
「良かったですね、モニカ様」
「大丈夫ですよ! 坂の近くに居る魔物から倒していきましょう」
「これは前途多難だねぇ・・・」
「全くだ。皆、死ぬ気で此処を越えなきゃな」
「この坂道を登り切る頃にはみんな強くなってるよ。頑張ろうねっ!」

 サラちゃんとユリアン、そして私も最後に励ます。エレン姉さまは口を引き攣らせて、トーマスはメガネを白く曇らせた。 
 私が元居た現実世界でゲームしてた時は、よくポドールイで仲間を鍛えていたんだ。体力を回復させやすい宿屋が近いから、ここなら安心して皆と一緒に戦える。
 目指すはレオニードさんの居城。
 それぞれ武器を手に持ち、雪を踏みしめ歩みだした。

  

003 ミカエル陣営

2012年07月22日 14時51分03秒 | 小説作業編集用カテゴリ

 怪鳥(ガルウイング)を撃退した後、気絶して回復したエレン姉さまと私達七人は、鬱蒼と茂るシノンの森をやっとの事で抜ける事が出来た。歩き続けると川に出くわし、皆で軽く手に付いた泥を落としていたら、夕刻が迫って来たようだ。

 広大な平原を歩く地平線に、オレンジ色の夕陽が沈み込む――― 
 
 山や緑の草原を、温かい色合いに染め上げる夕焼けが恋しくて、目いっぱい瞳に写そうとして身動きする事を止めた。当たり前の自然の摂理に今更ながら感動したのは、元居た世界と、ガウラの居るファインシャートの世界を思い出したからだろうか?

「夕焼け・・・綺麗だね」

“ホームシック”という言葉を思い出して、一匹で勝手に自己完結させる。この言葉を使うには、まだ早すぎるから。 

「? ああ、綺麗だが・・・どうした、夕焼けは何処でもあるだろ?」
「うん・・・まあ、そうなんだけど」
 
 寂しさが心を占める反面、これって一種の役得じゃ無いだろうかとも思う。まさかロマサガ3で夕陽が拝めるとは思わなかった・・・ゲーム画面上では、特定のイベント以外は闇夜やオーロラは見れない、奇想天外なRPGだったからだ。

 先程の戦闘で、最初よりかは幾分話しやすくなったハリードが私の隣に立つ。二人の連携攻撃で、彼の頭を踏ん付けたから泥が付いたままだ。私の体も手足以外は泥だらけだし、まあ箔が付くと言う事で良しとする。

「トォッ!」
「こらっ、お前・・・! 肩と背中に爪が食い込んでるぞ。ユリアン、どうにかしろっ」
「良いんじゃないか? ブフッ・・・サマ・・・ブググッ・・・にはなってる、よ?」
「ハリード、あんた面白いよっ! 良いねぇ、保父さんみたい・・・アハハハッ!!」
「可愛いねぇ。お姉ちゃん、私もリオちゃん欲しいよぉ・・・」
「私も、欲しくなって来ました・・・リオちゃん、私の所にも来て欲しいです」
「サラ、モニカ姫。リオは物じゃ無いんだからよしなさい」
「・・・お前ら、俺はどうでも良いのか」

 手軽な風呂敷で私の背中に棍棒を固定して貰い、力無く抵抗を諦めたハリードの背中によじ登ると、「チャンッ」と一声出す。乳母車があれば、気分は子連れ狼の大五郎。発した言葉の意味を伝え、皆が大爆笑。腹を抱えて皆が笑い出した。

 素晴らしく勇ましい私の勇士を、彼ら六人の目に焼き付ける事にも成功し、寂しさを紛らわせた。

****

 完全に陽が沈む前に私を含めた七人は、やっとの事でミカエルさんの居る野営まで辿り着く。
 竹に似た素材の木を使った、即席の囲い壁で天幕の周りを守る様にと打ち据えられてる。
 暗くなる前に薪を火にくべて準備に急く者、飯盒(はんごう)で白飯を炊く者など、複数の天幕が張られた外側で兵士達が忙しそうに動き回っていた。

 入口の見張りをしている者がこちらに気づき、警戒心を強くさせる。目付きを鋭くさせた兵士が、腰に差した剣の柄を握り問い質して来た。

「何だ、お前達は。ここが何処だか分かっているのか!」 
「ええ、分かっています。魔物の討伐と称して、ミカエルお兄様が此処に居ると言う事も・・・」

 毅然とした態度で、頭に被せた部分のローブを捲るモニカ姫。
 見事なブロンドの髪を靡かせ、凛とした眼差しと、薔薇色の頬に桃色の唇は、一度見れば脳裏から薄れる事は無い程の美貌の持ち主へと変貌する。

「モニカ姫!」
「これはとんだ御無礼を、お許しください!!」

 その容姿に見覚えがある二人の兵士が、慌てふためき頭を低くして道を開ける。
 ミカエルさんの居場所を聞いて、私達は奥へと進みだす。
 複数似たような天幕を通り過ぎると、一際豪華な刺繍が施された紫色の天幕へと辿り着いた。

「お兄様!!」
「モニカ、お前が如何してここに?」
 
 ロアーヌ侯国を統治する若き侯爵、ミカエル。
 肩に掛かる長さの金髪を自然に下ろし、光沢の良い、それでいて頑強な鎧を纏う容姿からは力強さを感じる。
 洗練された立ち振る舞いは育ちの良さを思い起こさせ、
 滲み出る美しさは、決してモニカ姫に引けを取らない。
 意志の強そうな眼差しは、多くの民衆を統治するに相応しい王者そのものだ。 

 自らの兄の姿を確認したモニカ姫は、走り寄り言い出す。

「お兄様、ゴドウィン男爵が反乱を企てた様です。――お兄様の遠征時を狙い、宮殿内に攻め入って来ました!」
「何だと? そうか、お前はそれを知らせに来てくれたのだな・・・ところで後ろの者達は?」

 後ろに佇む七人の姿を留めると、今まで護衛をして此処まで連れて来てくれた事を告げるモニカ姫。するとミカエルさんは暫く考えた後、私達に提案してきた。

「お前達には悪いが、もう一仕事して貰おう。北方に位置する、レオニード伯爵の居城までモニカを護衛して貰いたい」
「レオニード・・・! あの吸血鬼の住む城にですか!?」 
ユリアンがいち早く反応する。
「下手な人間よりは信頼できる。しかし、吸血鬼にされるのも困るのでな。どうだ、やってくれるか?」
「報酬が貰えれば、俺は良いぜ」

 皆の色良い返事が聴こえる中、ハリードのがめつい声が響く。
 この件が終われば貰えるというミカエルさんからの確証を得て、ここで一夜を明かす事に。

 ****

「ウマ――ッ!」
「お前、猫なのに人間と同じ物食べて平気なのか?」
「私を舐めんなよっ! 猫だけど何でも食べれるよっ」

 星が綺麗な夜空の下、私達七人は兵士さん達が作った白飯を頂いた。おかずとして食肉用の肉や魚も出されたけど、苦労して倒した怪鳥(ガルウイング)の腿と背中部分をハリードが出して来たので皆で焼いて食べる事に。
 
 羽を毟り取り、焼きやすいように木で串刺しにして火で炙(あぶ)る。
 ホントは丸焼きも考えていたらしいが、巨大すぎて持ち運ぶのが無理らしいとのこと。さすが主銭奴(しゅせんど)!タダで使えるモノは何でも使うってか。

「私が食べてたご飯って刺身か、ミルクか汁物かけたネコまんまばっかりなんだよ! たまには違うのだって食べたい」 

 二足歩行が可能となったのだ。体力も増えていつもの倍は使ったんだろう。だったら食欲も半端無い。ミルクや魚だけじゃ物足りないのも頷ける。その変わり、体格が小さいので食べる量は皆よりも少ないけどね! 
 
「猫が喋るのも初めて見たが、私達と同じ物を違和感無く食べる猫を見たのも初めてだ」

 天幕の外でシートを敷いて食事をしていたら、モニカ姫のお兄さん、ミカエルさんがやって来た。私の横に腰を下ろして胡坐(あぐら)を掻いている。
 怪鳥(ガルウイング)の肉を手に持ち、美味しく食べてる私を見て頭を撫でてくれた。

「リオと言ったな。何処から来たのか聞いても良いか」
「それは、その・・・」

 ゴニョゴニョと言葉を濁す。多分言っても理解出来ないんじゃないかな・・・
 こことは違う世界から、女神(エリーちゃん)に強制的に連れて来られたなんて。しかもファインシャートやデルモントまではしごしてるし。

「リオはシノンの森よりも遠く離れた所から来たと言ってました。
 故郷から離れて寂しい気持ちもあると思うんです。ミカエル様、話せる時が来るまで許してやって貰えませんか」

 紳士トーマスがフォローしてくれる。もっと言ってやってちょうだいッ!

「そうです、お兄様。リオちゃんに疑惑の目を向けないで下さい。彼女に良い印象持ってもらって、王宮に連れて帰ろうと画策してますのに!」
「え、そうだったの、モニカ姫?」
「えええぇ!! リオちゃんは私が連れてくんだもん! モニカ姫、ずるいよっ」

 ・・・え、私の知らない所で何かを企んでる人達がいるよ。紳士トーマスと、お人よしユリアンが普通の発言で済んでるのに、モニカ姫とサラちゃんが睨み合い、プチバトルに突入しそうだ。

「そうだねぇ。リオが居れば毎日が楽しそうだし・・・」
「!!」 

 麗しのエレン姉さまの発言を聴き、彼女の元へと擦り寄ろうとした。
 エレン姉様の隣に居た妹サラが、両手を広げて待ってましたと言わんばかりに待機している。すると突然首根っこを掴まれて、誰かの腕の中へ落ち着いた。
 
「こいつは俺のパートナーだ。勝手に連れてくな」
「ハッ、ハリード!」 
 なぁ、リオー?と体中を撫でくり回される。その行動に皆が驚いていると、何故か酒臭い。
 酔っ払うほど酒飲んでる!!

「ハリード、お酒くさい・・・」
「白い大福・・・ムニャ、お宝お宝・・・」
 
 抱き込んだまま寝込みやがった!!
 残された皆は助けてくれそうも無い。頭やら耳やらに、たまに噛んで来て痛たたた・・・・っ!

 その夜、私はハリードに一晩中抱き枕として扱われたのだった。


002 リオの初陣

2012年07月22日 14時48分12秒 | 小説作業編集用カテゴリ

 シノンの森をもう少しで抜けそうな所で、巨大な鳥、ガルウイングが襲いかかって来た。紫色の毛羽による突風と、空中に浮かび移動する事により、中々攻撃を当てる事が出来ない。
 先頭に立つハリードのお陰で、嘴(くちばし)と引っ掻き爪による直接攻撃を防いで貰ってはいるが、中々反撃に転じる事が出来ないまま時間だけが過ぎる。

「・・・っサラ、お前の影ぬいで奴の動きを封じる事は出来ないのか?!」
 
 ハリードが攻撃を防ぎつつ、後方支援している仲間に問い掛ける。

「無理よ、もう力が残って無い・・・!」  
 
 長弓を持ち、牽制する為に打ち込む事しか出来ない彼女の息使いが荒い。
 確かロマサガはWP(技ポイント)、JP(術ポイント)というパラメータが存在していたはず。使えないと言う事はWPが尽きたと言う事だ。

「エレン、お前は斧でトマホークが出せるか?」
「やってみるよ!」 

 エレン姉さまの渾身の力を込めた手斧が、ガルウイング目掛けて投げつけられる。斧によるブーメラン効果で、自らの手に返って来て反応を待つ。羽根に当たったは良いが致命傷にはならず、逆に怒らせたようだ。

「ギャアギャアッ!」 
「ぐっ! エレン、避けろ!!」
「なっ・・・? きゃあっ!」
「エレン!」 
「お姉ちゃん!」

 ハリードの斬撃を強健な翼で受け流し、狙いをエレン姉さまに定めたガルウイングが攻撃して来た。空高く舞い上がった高度からの体当たりは、人間にはひとたまりも無い―――って!?

「エレン姉さま!」

 本当の“死”では無いにしろ、気絶して倒れる姿を見て私の頭は沸騰する。

 美人な彼女を
 麗しい姉さまを
 一番好きなキャラをよくも!

「リオちゃん、駄目よ!」

 モニカ姫から離れ、彼らの持ち寄った道具袋の中を素早く漁る。途中ゴブリンから引ったくった棍棒をしっかりと持ち、私は二本足で地に奮い立つ。

 肉球が何だ。猫、舐めんじゃねーぞっ!

 決して速いとは言えない速度で、近付く私を目に留めた奴は自慢の翼で振り払う。
 豪速を纏った疾風と振り払いのせいで、体重の軽すぎる私は近くまで行けそうも無い。だったら――!!

「ハリード、私を背負って近くまで寄れる?」
 
 前衛で攻撃を防いでいた彼にお願いする。近くまで寄って、尚且つ無事に済めるのはこの中では彼しかいない!

「出来なくは無いが、お前がその棍棒で打ち込むのか?」
 
 うん!と返事する。女に、猫に二言は無いっ!
 ハリードの顔が一瞬呆気に取られて、暫く逡巡した後表情を引き締め直す。私の真剣な顔を見て、どうやら検討してくれると見た。

「何か策でもあるのか。・・・よし、分かった。サラとトーマスはエレンを守りつつ防御、これ以上攻撃を受けさせるな。ユリアンは一人で辛いかもしれんが奴の攻撃を俺達から逸らしてくれ」
「分かった!」
「俺も、出来るだけ援護するよ」
 
 ユリアンとトーマスの心強い返答を貰い、作戦は動く。
 
 ユリアンの巧みな陽動により、今度は奴の懐にまで近付くのが可能となった。今の私は、ハリードの広い背中におぶさっている。
 棍棒を手に持つ私は一見間抜けな光景とも取れるが、危険を冒してまで皆が協力してくれるんだ。失敗なんか出来ないし、したくも無い。

「行くぞ、リオ!」
「いつでもオッケ!!」 

 ハリードと猫による二人の連携攻撃を見よ!

 かぎ爪による攻撃をハリードの曲刀で弾き、怪鳥(ガルウイング)に少しづつ近付いて行く。ユリアンの誘導により、奴の意識が後衛の彼に半分は行っている。

 奴の攻撃範囲内に入った私達に気付いた怪鳥は、近付けさせない様にと私達に慌てて攻撃を開始した。奴の会心の一撃による嘴(くちばし)攻撃をハリードに防いで貰い、私はチャンスを伺う。

「・・・剣だけが取り柄だと思うな・・・よっ!!」

 曲刀で防ぎつつ睨みあいが続く中、彼が右足で怪鳥の腹を蹴り上げる。突然の痛みと驚きで、鳴き声を上げる怪鳥に隙が出来た。

「ギャアアアッ!!?」 
「今だ、行け! リオ―――!!!」

 敵は怪鳥、ガルウイング!

 両手から外れない様に、しっかりと両の手で握りしめた棍棒を奴の頭にお見舞いする為に。
 ハリードの頭に、泥が付いた毛むくじゃらの白い足で踏ん付けて、思い切り跳び上がった。
 喰らえ、リオ流 “脳天割り”!

 ポコォォォン!!

 小気味いい音が辺りに響き渡る。
 ・・・なんて間抜けな音なんだろう。猫の腕力ではこれが精一杯なのか。

「ギャ、ギャアアア???」

 振り下ろした“脳天割り”を喰らったガルウイングは、目を回して地に倒れ込む。
 確かこの殴打は、眠りを誘発したはず。案の定、一時的に奴は眠りについた。

「皆、今の内に宜しく!」
「良くやった、リオ!!」

 ハリードとユリアンによる連続攻撃を叩き込み、怪鳥は遂に地に伏せる。
 戦いにより騒がしかった深い木々に覆われた森は、いつもの静寂さが戻った様だ。 

「はぁ、助かったぁ。この森から出れないかと思ったよ」 
「やれやれだな。しかしシノンの森にあんな鳥は今まで見なかったんだが」

 博識のトーマスが頭を捻っている。
 眼鏡をクイッと押し上げて今までの記憶を掘り起こしているが、答えがどうしても出そうにないみたいだ。この時点で少しばかり知識を持っている人は、ここで答えを出すつもりは無いらしい。
 勿論私も答えを知っているが、ここで言って疑われても困る。
 エレン姉さまの回復をしてから私達七人は、ミカエルさんの居るロアーヌ平原へと歩き出した。


――――――――――

 リオの習得技 脳天割り 
 眠りの耐性の無い敵に当てると高確率で眠らせる事が出来る。力の強い敵、又はジェル系モンスターには棍棒による攻撃が効かない為、使い所を選ぶ。