そのよん。
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あけましておめでとうございます!!
テレビもラジオもつけていないのに聞こえてきそうな、そんな時間を私は迎える。
俗に言う元日・・・・新しい一年の始まり。だけれど、私にとってはまるで意味の無い時間の経過。
うー・・・・やっぱ寒い・・・・
外に出かけるときに羽織るコートやら何やらを着込んで、それでもなお寒い自室で凍える。
暖房器具がろくに無い私の部屋と同じくらい、心の中も・・ついでに財布の中も同じくらい寒い。
働きに出て一度目の正月は、なぜか学生の頃より色々なくしているようで、自分から数える気にもならない。
はぁ・・・絶対今年も厄年だ・・・・
もう本当に首だけだして眠りたいくらいの部屋の中で、ふと彼のことを思い出した。
結果だけ見てしまえば思いっきりふられたわけなんだけれど、お互いギクシャクしたり引きずることは無かった。
ただお互いに時間にずれがあっただけ。それだけで、心もずれてしまった。
それでも思い返せば去年はあったかかったんだなぁと、柄にも無く暗い気持ちになっていく。
・・・・やっぱ引きずってんじゃん、私。
収まる物のなくなった私の心にも、冬の風が吹きすさんでいる。
職場でも別にいざこざがあるわけでもないし、昔の友達とも連絡を取ったり会ったりしている。
他にも素敵な人はいるはずなのだけれど、この数ヶ月、めぐり合う人がいなかったのもこのせいか。
・・・・寝よう・・・
意味の無いことばかり考えても仕方ない。
どうせ会社も早くから始まるのだから、今のうちから気持ちを切り替えてしまおう。
ちゃっちゃらっちゃっちゃー♪
意識が落ちかけた時に、その音が鳴り響く。
もちろん、それは私のケータイから鳴り出したコール音なのだけれど・・・
はっとして体を起こす。懐かしい音。今さっきまで考えていた、あの時の・・・彼の。
ケータイを変えなかった偶然が、こんなことを引き起こすなんて・・・・
・・・・・・
戸惑う。まだコール音は鳴り響いている。確かなんちゃらスイッチとか言うアーティストが歌っていたと聞いた。
・・・・・
一度は終わったのに。二度と来ることもないと思っていたのに。
・・・・
最後の会話が思い出される。あの日の・・・夜の・・・
・・・
でも
・・
私は・・・
ピッ
ボタンを、押す。
・・・・もしもし
・・・・悪い、寝てたか?
懐かしい声が蘇る。
なんで・・・・・
・・・・・・
向こうの声がこもっている。そして・・・
・・・・日の出、見に行けないかな?
・・・・・・なんで、今更・・・
・・・俺さ、お前と別れて、色々考えて・・色々やろうと思ったんだ。けど、なにもできなかった。
なんか、でっかい穴、開いたみたいでさ。どうしていいかわかんなくて・・・
お前の声でも聞けたら、昔みたいに戻れるかなって、お前に会えれば、昔みたいに色々できるかなって。
・・・言葉に、ならない。
やり直そうなんて、でかい声でいえないけどさ、一度でいいから、少しでいいから。会えないかなって。
ケータイ、つながるかどうかわかんなかったけど・・・・
・・・・・いいよ。
え?
いいって言ってるの。その代わり、ちゃんと迎えにきてよ、昔みたいに。
これで精一杯だった。
・・・・分かった。十分で行くよ、昔と違って、車だけど。
待ってる。
ああ、まかせとけって。
電話が切れる。その前に。
・・・いろいろゴメンな、ありがとう。
切れた。
・・・・でも、何かがつながった気がした。
出かける準備をする。いつも羽織っているコートをほっぽりだして、昔もらったコートとマフラーを引っ張り出してくる。
ちょっと薄手だから寒いと、彼に文句を言ったこともある、そんなコート。
けど、今はとても暖かい。いつしか、寒さなんて気にしなくなっていた。
出かけに天気が気になって、テレビをつけた。
あけましておめでとうございます!!
・・・テレビから発せられた予想通りの言葉に、思わず笑みがこぼれた。
そのさん。
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ギィィィン!
深夜の草原、村からは少しはなれたところで弾ける音がする。
ヒュカン!カンキン!コッ!
一人は、腰の辺りまである長髪、腰には2つの鞘。一つには中身が無く、彼女の手にしっかりと握られている。
ヒュン!
もう一人は男。右の手はガントレット、左に苔むしたような緑色のショットガンのような銃を持っている。
ギャリッ・・・
男の銃口が彼女の顔面に鉛球を吐く。女の方はそれをかわし連撃を浴びせる。
何故もっと早く気がつかなかったのだろうか。何故ここまで来てしまったのだろうか。
それは二人のはっきりした疑問だった。
お前の彼女のあれ・・・なんつったっけ?
あ?
いやあいつだよ、お前の相棒の・・・・
ケルネラか?
そうそう。そのケルネラさぁ、俺が調べてる事でちょっと引っかかってさ。
あいつって、アザドリアにいたとか聞いたこと無い?
・・・・ないよ。大体なんで彼女が俺の敵がいる組織にいるなんて出てくるんだよ。
やっぱそうか。でもおかしいんだよな。そいつがアザドリアにいたって確かな情報が引っかかってきたんだから。
なんだから、あいつに直接聞いといてくれねぇかな。やだっつうんなら直接聞くけど。
・・・・・・いいよ。とりあえず聞いとくことは聞いといてやる。だからもうこれ以上彼女に詮索するなよ。
わーってるって。お前も怒らすと怖いしよ。
聞かなければ良かったと思った。ここに来なければ良かったと思った。
ありえないと思って生きてきたから。彼女もそんなことは一度も言わなかったから。
そのまま何も無ければ、ずっと平和に生きていけたかもしれないのに。
なぜ、こうなってしまったのだろうか。
最後に言うことは、ある?
私は彼女の首筋に剣を沿わせて問う。
・・・・・
恐怖でか、かくかくと歯を鳴らすような震え方をして彼女は黙り込んでいる。
ただ単に私に。アザドリア自体に刃向かった事に今更後悔するのだろうか。
遅すぎる。遅すぎて哀れになってしまう。彼女とともにいた4,5人のメンバーは
殆どを始末した。2人逃げられるという誤算はあったけれど、リーダー格の彼女がいなくては
何もできまい。何よりその前に根源を絶つほうが先だ。
何も無い?一言くらいはしゃべってもらわないと。あなたみたいな人間にてこずらされたなんて不快だけど、
私の癖だしね。どう?
・・・・・・・い。
ん?何?
・・・ゆる・・し・・・て・・・・く・・・ださい。
ザッ・・・・
絶え間ない血しぶきと鮮血の血だまりができる。
有無も言わさず頚動脈を切った。
手を離すと、命の消えた体がびしゃりと落ちる。
・・・逃げ切れるとでも本気で思っていたのかと。そう確信するしかなかった。
・・・甘すぎる。
こんな人間に、私の居場所は奪われたのか。
たまらない気持ちになった。
それでも、今は分かる。大切な人とか、大切なこととか。潔いいより、卑屈でも、生き抜いたほうが笑顔になれることも
あるのだと。
なぜ、失わせてしまったのだろう。それさえなければ。永遠にこんな日がくることは無かったはずなのに。
なぜ、こうなってしまったのだろう。なぜ、この日が来てしまったのだろう。
ギイン!
まだ、響き続ける。
ギン!キキン!カン!
ただずれただけ。
カキン!カン!
ただ、彼の愛する彼女は、彼の昔大切だった人を殺した人。
ただ、彼女が愛した彼は、彼女を憎み、彼女に復讐を誓った人。
ただ、愛さなければ。他人でいれば、簡単に終わらせることができたこと。
ただ、それができなかったから来てしまった一日。
ただ、それだけなのに。
誰にも、理解できない。
壮絶な一日は、続く。