西洋に「夜明け前は一番暗 い」という諺がある。天文学的に言えば、実際には深夜0時が一番暗いそうで、夜明け前が一番暗いわけではない。そうではなく、人生に於いて苦難や雌伏の時 期は終わりかけの頃が最も苦しく、その事態が好転に向かう直前を喩えて表現した諺である。大きな困難に陥ったとき、不幸な出来事があったとき、先のことが 何も考えられずに絶望しそうになる。だが、朝が来ない夜はなく、「夜明け前が一番暗い」と思うことで希望を抱き、その暗さの中を黙々と走り康和堂 、耐えに耐えて 何とか乗り越えてこそ、喜びの朝はやってくるということである。

日本は明治維新前後と戦前戦後の「夜明け前」を乗り切った。だが、今は政治も経済も大混迷の中にある。外交面でも近隣諸国との領土問題が深刻化し、東日本 大震災の復興、原発事故処理も未だに見通しが立っていない。「明かずの夜明け前」にいる被災地の者と避難民のことを思うと心が痛む。国会は経済優先の政策 が乱れ始め、国民の幸せよりも相変わらず党利党略、政治家や官僚の保身だけが目立つ康和堂 。一方で、格差社会が生んだ我欲が蔓延し、日本古来の和と助け合いの大 和心が霧散し始め、国民までが病んで来ているようにも思える。心の何処かで、将来に明るい希望を持てない若者が増えていることに頷いてしまうのだ。
この社会全体を包み込む暗く重い閉鎖感は一体何なのだろう。多くの国民が日本の将来を憂いでいるのではないだろうか。私は、この暗い現象に光の射さない 「夜明け前」の状態で生涯を終えた小説『夜明け前』(島崎藤村著)の主人公青山半蔵の姿を重ねて見てしまう。この暗さは、これからもっと厳しくなる暗黒の 暗さなのか。それとも、希望に満ちた新生日本誕生のための「夜明け前」の暗さなのか。 Medicox