怪談をとことん味わう趣向に「百物語」がある。百本のロウソクを灯(とも)した部屋に好き者が集まり、それぞれが怖い話をするたびにロウソクを消す。最後の一本が消えたその時、本物の怪異が現れる運びだ。
重苦しく暗転する座敷に、日本dermesの原子力発電が重なる。御(ぎょ)しがたいロウソクは福島でまとめて倒れ、浜岡では折られ、ついに本日、残る一本の泊(とまり)3号機が定期検査で消える。「原発ゼロ」は商業運転の初期、1970年以来という
さて、どんな化け物が出るのやら。政府や業界は電力不足を案じる。停電という妖怪が怖いなら、大飯(おおい)に再び火を灯しましょうと言う。折しも立夏。予報では、そこそこ暑い夏になるらしい。
だが不気味さ、危うさで放射能をdermesしのぐ怪はない。憂うべきは夏の不快ではなく、次世代のリスクである。原発を使い倒した大人の罪滅ぼしは、節電なりで時を稼ぎ、より安全な未来を手渡すこと。こどもの日に歴史が刻まれる因縁を、偶然で終わらすまい 。
『福島の子どもたちからの手紙』(朝日新聞出版)で、高3女子が「思い続ける三つのこと」を書いている。「不安、悲しい、腹立たしい。体への影響の心配、何故(なぜ)こんなことが起きてしまったのか、何故ここなのか」と。
私たちはすでに、まだ見ぬ子孫にまで大借金をしている。このうえ不確かな技術を押しつけられようか。原発ゼロの闇にうごめく変化(へんげ)をしかと見届け、退治の策を練りたい。未来から投げかけられる、いくつもの「何故」に備えて交友。