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7月19日に京都府労働委員会から救済命令が出ました

2016年07月19日 16時00分10秒 | 労働争議

京都府労働委員会から救済命令が出ました!

京都地連プリントパック分会の不当労働行為救済申立てにおいて、7月19日に京都府労働委員から、組合側の主張が全面的に認めらた救済命令が出されました。

以下に命令全文を掲載します

 

 

命令書

 


申立人

京都市中京区壬生仙念町30番地の2
全国印刷出版産業労働組合総連合会
・京都地方連合会個人加盟支部
支部執行委員長 井上 俊幸

 

申立人 中山 悠平

申立人 大橋 貴之

向日市森本町野田3番地1
被申立人 株式会社 プリントパック
代表取締役 木村 進治


 上記当事者間の京労委平成27年(不)第1号プリントパック不当労働行為救済申立事件について、当委員会は、平成28年7月8日第2291回公益委員会議において、公益委員笠井正俊、同松枝尚哉、同佐々木利廣、同青木苗子、同士田道夫合議の上、次のとおり命令する。

主 文

 被申立人株式会社プリントパックは、申立人中山悠平及び申立人大橋貴之に対し、平成26年7月支給分以降の賃金並びに同年の夏季及び年末賞与並びに平成27年の4月決算賞与について、次により得られる額と実際に支払った額との差額を、支払わなければならない。
1 平成26年7月の賃金改定における昇給額について、査定表の社是・経営理念に係る評価を他の従業員の平均値を用いて再査定することにより、算定し直して得られる賃金の額
2 上記各賞与について、査定表の社是・経営理念に係る評価を他の従業員の平均値を用いて再査定することにより、算定し直して得られる賞与の額

理 由


第1 事案の概要及び請求する救済内容の要旨
1 事案の概要
 本件は、被申立人の従業員であり、申立人全国印刷出版産業労働組合総連合会・京都地方連合会個人加盟支部(以下「組合」という。)の組合員である同中山悠平及び同大橋貴之(以下それぞれ「中山」、「大橋」と、両者を併せて「中山ら」という。)に対する被申立人の次の行為(以下「本件不支給等」という。)が、労働組合法(昭和24年法律第174号。以下「法」という。)第7条第1号の不利益取扱い及び同条第3号の支配介入に該当すると、申立人らが主張して、当委員会に救済申立てを行った事案である。
(1) 平成26年7月の賃金改定(以下「本件改定」という。)において、中山は昇給させず、大橋は500円のみの昇給としたこと(以下「本件不昇給等」という。)。
(2) 平成26年の夏季賞与 (以下「本件夏季賞与」という。)を中山には支給せず、大橋には3万円のみ支給したこと(以下「夏季賞与不支給等」という。)。
(3) 平成26年の年末賞与(以下「本件年末賞与」という。)を中山らに支給しなかったこと(以下「年末賞与不支給」という。)。
(4) 平成27年の4月決算賞与(以下「本件決算賞与」といい、本件夏季賞与及び本件年末賞与と併せて「本件各賞与」という。)を中山らに支給しなかったこと(以下「決算賞与不支給」という。)。

2 請求する救済内容の要旨
(1) 被申立人は、本件改定以降の賃金及び本件各賞与に関する中山らの人事考課を非組合員の人事考課の平均値に基づき再査定し、再査定に基づく賃金又は賞与の額と実際の支給額との差額を中山らに支払うこと。
(2) 被申立人は、本件不支給等を陳謝し、繰り返さない旨の文書を掲示すること。

第2 認定した事実及び判断

1 前提となる事実

(1)当事者等
ア 申立人ら
 組合は、印刷出版産業に従事する労働者等で組織される全国印刷出版産業労働組合総連合会の京都地方連合会(以下「地連」という。)の個人加盟の支部であり、被申立人に分会長を中山、書記長を大橋とするプリントパック京都分会(以下「分会」という。)がある(甲第27号証、第1回審問井上証言)。
イ 被申立人
 被申立人は、ウェブサイトを使って印刷物を受注するインタネット通販事業を主たる業務としており、平成15年に同事業を本格的に開始して以来事業規模を急速に拡大している(乙第10号証、第1回審問井上証言)。

(2)主な事実経過
ア 平成25年11月1日、組合は、被申立人に対し、中山らの加入通知(以下「本件通知」という。)を行った(甲第6号証)。
イ 平成26年7月28日、被申立人は、本件不昇給等を行った(甲第3号証の1
及び2、甲第4号証の1及び2)。
ウ 8月29日、被申立人は、夏季賞与不支給等を行った(甲第5号証、甲第28号証)。
工 12月20日頃、被申立人は、年末賞与不支給を行った(甲第28号証、乙第9
号証の7及び8)。
オ 平成27年2月10日、申立人らは、前記イからエまでに係る本件申立てを行った(当委員会に顕著な事実)。
力 5月15日、被申立人は、決算賞与不支給を行った(甲第15号証の1の1及び2、甲第15号証の2、乙第6号証)。
キ 7月24日、申立人らは、前記力に係る救済内容拡張の申立てを行った(当委員会に顕著な事実)。

2 本件の争点
(1)本件不支給等は、法第7条第1号の不利益取扱いに当たるか。本件不支給等は、中山らが組合に加入したことの故をもってなされたということができるか。

 本件不支給等は、各査定期間における中山らの総労働時間が他の従業員に比べて少ないことを重要な考慮要素としてなされたということができるとした場合においても、不利益取扱いに該当するということができるか。

(2)本件不支給等は、法第7条第3号の支配介入に該当するか。

 前記(1)において、本件不支給等が不利益取扱いに該当するということができるとした場合に、本件不支給等は、組合の弱体化をも図ろうとしてなされた支配介入にも該当するということができるか。

3 争点に対する当事者の主張の要旨

(1)争点(1)について
ア 申立人ら
 本件不支給等は、明らかに他の従業員に比べて不利益な取扱いであり、中山らが組合に加入したことの故をもって行われたことは明白である。
 被申立人は、中山らの総労働時間が他の従業員に比べて少ないことを重要な考慮要素として本件不支給等を行った旨主張するが、被申立人は、本件通知直後に中山らを印刷オペレーターから本社第一工場の発送担当又は本社オンデマンドのポスター印刷担当とする配置転換(以下「本件配転」という。)を行い、本件配転後の勤務先で中山らに法定労働時間の勤務シフトを示すとともに法定の終業時刻になると帰宅を指示し、その後も団体交渉でのやり取りから明らかなように、中山らが法定労働時間を超える労働(以下「時間外労働」という。)を拒否していないにもかかわらずこれを指示せず、時間外労働をさせないようにしているから、本件不支給等には合理性がなく、法第7条第1号の不利益取扱いに該当する。
イ 被申立人
 本件不支給等は、各査定期間において、中山らの総労働時間が他の従業員に比べて明らかに少ないことを理由になされたもので、それのみをもってしても合理性があり、不当労働行為には該当しない。
 被申立人においては、二交代制の勤務シフトによりほぼ24時間の生産体制を確保しており、個別の指示はなくとも、時間外労働が通常の労働となっており、このことは中山らも自覚し、本件通知前はそのような通常の労働に従事していた。ところが、本件通知後は、団体交渉のやり取りからも明らかなように組合の方針に従って法定の終業時刻になると退社し、通常の労働に従事しなくなった。このような勤務に対しては、本来であれば、賃金を減額すべきところ、被申立人においては、固定残業手当を支給し、制度上減額ができないため、他の従業員との公平の見地から本件不支給等を行っている。したがって、本件不支給等には合理性があり、法第7条第1号の不利益取扱いには該当しない。

(2)争点(2)について
ア 申立人ら
本件不支給等は、他の従業員に対する見せしめとすることにより、新たな加入者が生じることを阻止し組合の弱体化を図ろうとする行為でもあるから法第7条第3号の支配介入にも該当する。
イ 被申立人
 本争点は、本件不支給等が不利益取扱いに該当することを前提とするものであるところ、前記(1)イのとおり本件不支給等が不利益取扱いに該当する余地はないから、法第7条第3号の支配介入にも該当する余地はない。


4 認定した事実

(1)被申立人の勤務体制等
 被申立人においては、各従業員は明示の指示なく時間外労働に従事することが常態化しており、特に、印刷機がほぼ24時間稼働されているため、印刷機を操作する印刷オペレーターは昼夜二交代制の勤務シフトによる長時間労働に従事している。一方で、時間外労働に対する割増賃金として、基本給、地域手当、役職手当及び調整手当の65パーセントにあたる金額(単純計算で約90時間の時間外労働に対する割増賃金に相当する。)が固定残業手当として充当されている(乙第4号証、第1回審問中山証言、第1回審問大橋証言、第1回審問西原証言)。

(2)中山の入社から分会結成までの経過
ア 平成21年10月、中山が被申立人に入社した。中山は、以後、印刷オペレーターとして勤務し、当初は昼勤であったが、その後夜勤へ変更された(甲第27号証、第1回審問中山証言)。
イ 平成22年3月、被申立人において印刷オペレーターの死亡事故が発生した。当時、被申立人には組合員は存在しなかったが、地連は被申立人を訪問し、職場改善を要請する等した(甲第10号証、第1回審問井上証言)。
ウ 平成23年4月、大橋が被申立人に入社した。大橋は、以後、生産管理課、本社オンデマンドの封筒印刷担当を経て、平成24年7月には印刷オペレーターとなり、平成25年1月に昼勤から夜勤へと変更となったが、体調を崩し、同年3月末から5月初めまで休職した(甲第28号証、第1回審問大橋証言)。
工 平成25年4月頃、中山は、組合に加入し、当時同一職場の大橋と、同年10月、分会を結成した(甲第28号証、第1回審問井上証言、第1回審問中山証言)。

(3)本件通知以後の交渉経過等
ア 平成25年11月1日、組合は、被申立人に対し、本件通知と併せ、基本給の引上げ及び勤務シフトの改善等について団体交渉を申し入れた(甲第6号証)。
イ 11月8日頃、被申立人は、既に中山らを含む印刷オペレーターの同月の勤務シフトが定められていたにもかかわらず、それを変更して本件配転を行い、中山らの出勤時刻を通常の午前8時30分ではない午前9時30分とした。その後は、上司が、大橋に対し、法定の終業時刻である午後6時30分を過ぎると帰宅を促すようになり、また、上司等が度々、昼食時に中山らと同席したりするようになった。
 本件配転に対し、組合は本件通知への報復として抗巖したが、被申立人は通常の人事異動の範囲内との説明しか行わなかった。
(甲第1号証、甲第2号証、甲第9号証、甲第29号証、乙第8号証、第1回審問井上証言、第1回審問中山証言、第1回審問大橋証言、第1回審

問西原証言)
ウ 11月27日、本社第一工場の元工場長が中山に対し、「わざと残業をなくされてるんだぞ。組合にあんまり若い連中を巻き込まない方がいい。ずっと梱包、発送かもしれないぞ。」と発言した(甲第9号証、乙第8号証)。
工 11月及び12月、組合と被申立人は団体交渉を行い、平成26年1月に、被申立人が安全衛生委員会の読事録を掲示する旨の労働協約を締結したが、被申立人は翌年まで掲示を行わなかった(第1回審問井上証言)。
オ 平成26年2月27日、組合は、基本給の引上げ及び勤務シフトの改善等を求めるいわゆる春闘要求を提出し、その後被申立人と団体交渉を行った。
 同年6月26日の団体交渉で、被申立人が、本件不昇給等について、平均的な従業員が月間40時間超の時間外労働をしている中で、平成25年12月から平成26年5月の平均で、中山は2時間、大橋は17時間にとどまることを考慮した結果である旨説明したのに対し、組合は、本件配転は中山らの希望によるものではなく、不当な人事考課であると反論し、交渉はまとまらなかったが、組合は、交渉経過を整理した交渉終結確認書を締結することにより、いったん交渉を終了することを提案した。
(甲第7号証、甲第9号証、乙第8号証、乙第9号証の4)
力 7月11日、組合は、前記オの交渉終結確認書の文案を被申立人に送付したが、同月17日、被申立人は交渉内容について文書を作ることは了解できない旨回答した(甲第9号証、乙第8号証)。
キ 7月18日、組合は、前記力の被申立人の回答に対し、団体交渉での確認事項に反するとして抗議するとともに、本件夏季賞与につき基本給月額の2箇月分を翌8月8日までに支給するよう求めた(甲第9号証、乙第8号証)。
ク 7月25日、被申立人は、本件夏季賞与につき、例年どおり翌8月末の支給を予定しており、金額については未だ回答できる段階にはない旨回答した(甲第9号証、乙第8号証)。
ケ 8月25日、夏季賞与不支給等を内容とする本件夏季賞与に係る被申立人の回答書が組合に郵送されてきた。支給日は同月29日とされており、組合は、翌26日、早急に団体交渉を開催するよう要求したが、被申立人は本件夏季賞与支給後の同月30日、翌9月11日に団体交渉を開催する旨回答した(甲第9号証、乙第8号証)。
コ 9月11日、被申立人は、組合との団体交渉において、夏季賞与不支給等について、中山に対する不支給は、本人の希望により勤務時間を大きく緩和しており、他の従業員との間で公平を保つためにはやむを得ないと判断したためである旨説明した(乙第9号証の5)。
サ 10月3日、夏季賞与不支給等について、団体交渉が行われ、組合が、被申立人は前回の団体交渉で、中山の「自分の時間を持ちたい」との文書を見て中山は時間外労働をしたくないものと判断し時間外労働を軽減した旨説明したが、中山らは時間外労働を拒否しているわけではなく、繁忙時にも時間外労働を命じないのは意図的なものではないかとの旨の質問をしたところ、被申立人は、直接中山らに時間外労働に対する意向を尋ねた。
 これに対し、中山が業務上必要な時間外労働はルールの範囲内で行うが事情があってできないこともあり、強要はされたくない旨回答したところ、被申立人は、こういう場で質問されたら「やりますよ」と答えるのが普通である旨発言したり、中山のスタンスは権利を盾にして残業しないというものであり、被申立人の社是に反しているから残業させるに値しない旨発言して、そのような姿勢であれば、時間外労働は指示しない旨表明し、さらに「それが会社の一員としての協力する顔か」「態度がいかんちゅうのや」と中山を非難したりした。(甲第11号証の1の1及び2、甲第11号証の2)
シ 11月18日、年末賞与等について団体交渉が行われ、被申立人は、年末賞与不支給について、被申立人では時間外労働を行うことが原則となっているのが実情であるのに対し、中山らはほとんど時間外労働を行っていないため、中山らにも固定残業手当を支払っていることも併せ考えると、賞与を支給することは他の従業員との間で均衡を欠くと判断したからである·旨説明した。
 中山らの時間外労働について、組合は再度、中山らの時間外労働が少ない理由を質問したが、被申立人は、そのことについては前回の団体交渉の繰り返しであり、本人の姿勢次第である旨回答した。(甲第12号証の1の1及び2、甲第12号証の2l
ス12月15日、年末賞与等について団体交渉が行われ、被申立人は、年末賞与不支給について、再検討したが結果は同様である旨回答した。その後、被申立人は、中山は、納期遅れが生じ、他の部署の従業員の応援を受けているときにも帰宅している旨や本件不支給等の理由は時間外労働である旨を何度も指摘しているのに勤務態度を変えようとせず、工場長に相談もしていない旨発言した(甲第13号証の1の1及び2、甲第13号証の2)。
セ 平成27年2月5日、中山が繁忙時に自ら時間外労働を行ったところ、工場長が、「勝手に残業しているが、別にしてほしくない」と発言した(甲第9号証、第1回審問中山証言)。
ソ 2月26日、組合は、基本給の引上げ及び勤務シフトの改善等を求めるいわゆる春闘要求を提出した(甲第9号証、乙第8号証)。
タ 4月9日、前記ソの要求等について団体交渉が行われ、その中で、被申立人は、中山が分会名でフェイスブックに「久々に残業やってみた、ああ、しんどかった。」等と投稿したこと等について、懲戒処分も考えたいくらい怒りを感じている旨や時間外労働をしたくなければしてもらわなくてもよい旨を述べた。これに対し、組合は、被申立人に時間外労働を命じる意向がないことを確認した上で、そうであれば、中山らは時間外労働を一切行わない旨通告した(甲第14号証の1の1及び2、甲第14号証の2)。

(4) 中山らの総労働時間等の状況
 本件各賞与の支給対象期間における中山らと同じ職場である本社第一工場及び本社オンデマンドの代表的な従業員の1月当たりの平均総労働時間は、最少が208時間30分、最大が255時間42分であるのに対し、中山らは、最少が165時間15分、最大が185時間13分となっている。
 また、中山らは本件配転後も固定残業手当を支給されているが、被申立人が作成した平成27年7月の本社第一工場の発送担当のシフト表では、午前9時から午後8時までの勤務を指定されている者がいる一方、中山は午前9時30分から午後6時30分までの勤務を指定されている。
(甲第16号証、甲第19号証の9及び10、乙第7号証、審問の全趣旨)

(5) 中山らの本件通知前の昇給及び賞与の状況
 中山は、平成21年の入社以来、本件通知前は、毎年6,000円から8,500円昇給し、決算賞与は8万4,000円から10万円、夏季賞与はおおむね20万円(平成24年の夏季賞与は3万5,466円であるが、同年6月支給分の賃金でバリュ手当として約23万円の支給を受けている。)、年末賞与は10万円から28万円の支給を受けていた。
 大橋は、平成23年の入社後、平成24年及び25年においては、それぞれ1万1,500円又は6,000円昇給し、平成24年の夏季及び年末賞与として、それぞれ18万2,244円及び25万円の支給を受けていた(平成24年は全社として4月決算賞与は支給されず、平成25年の4月決算及び夏季賞与の支給はそれぞれ5万円及び3万円
にとどまるが、前記(2)ウのとおり、大橋は同年3月末から5月初めまで休職していた。)。
(甲第19号証の1~8、甲第20号証の1~10、甲第21号証の1~4、甲第22号証の14、審問の全趣旨)

(6) 本件改定及び本件各賞与における他の従業員の状況
 本件改定における昇給額について、中山らが職場の同僚5名に尋ねたところ、1名が1万5,000円で他はいずれも5,000円であった。本件夏季賞与は支給対象者が252名、平均支給額が約20万円で、不支給の者は中山を含め10名程度いた。本件年末賞与の平均支給額は約20万円であった。
 本件決算賞与は支給対象者が191名で平均支給額は約15万円であり、不支給の者は中山ら以外には3名しかいなかった。(甲第9号証、甲第28号証、乙第6号証、乙第8号証)

(7) 被申立人における昇給及び賞与の決定方法被申立人の賃金規程には次の定めがある。
 「第8条(基本給)基本給は、社是・経営理念の理解・納得•実行度合を評価し、あわせて各従業員の能力、経験、職務内容および勤務成績を総合的に勘案し個別に決定する。
第26条(賞与)賞与は社是・経営理念の理解・納得・実行度合いを評価し、会社の業績、各人の勤務成績、会社への貢献度などを考慮して支給する。ただし、会社の業績状況などにより支給しないことがある。」
 より具体的には、各従業員の昇給の額及び賞与の支給額は、査定表により、社是・経営理念、勤務姿勢、休務日数及び貢献度等の項目について、まず本人が5段階評価により自己評価を行い、これを各部門長がチェックして修正を加えたものに基づいて、個別に決定されており、総労働時間は社是・経営理念の重要な考慮要素とされている。(甲第31号証の1及び2、乙第4号証、乙第10号証、第1回審問西原証言)


5 判断

(1)本件不支給等は、法第7条第1号の不利益取扱いに当たるか。(争点(1))
ア 本件不支給等は、中山らが組合に加入したことの故をもってなされたということができるか。
 前記1(2)アのとおり、被申立人に対し加入通知があった組合員は中山ら2名のみであるが、2名ともに対して本件不支給等が行われていること、本件不支給等により中山らはほとんど昇給も賞与支給も受けていないが、前記4(6)のとおり、他の従業員は明らかになっている限りでは本件改定において5,000円以上の昇給を受け、本件各賞与についても平均支給額は約15万円以上であること、本件夏季賞与及び本件決算賞与については中山ら以外に不支給の者もいるが、3名ないし10名程度と約200名の支給対象者のうちごくわずかに過ぎないこと、さらに、前記4(5)のとおり、中山らは本件通知前は毎年6,000円以上の昇給を受け、賞与についても、特殊要素を除いておおむね10万円から20万円程度の支給を受けてきたことが認められる。
 これに加えて、前記4(2)イ及び(3)イからケまでのとおり、既に中山らの加入前から地連が従業員の死亡事故について被申立人に対する要請を行っていたこと、本件通知直後に、既に決定済みの勤務シフトを変更してまで、中山らを被申立人の基幹部門である印刷オペレーターから排除する本件配転が行われ、その理由についても通常の人事異動の範囲内との説明しかなされていないこと、本件配転後は上司が中山らと昼食時に同席するようになるなど、その行動を監視するかのような行動もみられること、元工場長から中山に対し「わざと残業をなくされてるんだぞ。組合にあんまり若い連中を巻き込まない方がいい。ずっと梱包、発送かもしれないぞ。」との発言がなされていること、被申立人は組合と安全衛生委員会の議事録掲示に関する労働協約を締結したものの、なかなかその条項を履行しようとしなかったこと、その後の団体交渉においても、被申立人は組合の交渉終結確認書締結の提案を拒否し、本件夏季賞与についても支給日間近にしか回答せず、支給後にしか団体交渉に応じなかったこと等の経過が認められる。
 上記のとおり、組合に加入したことを被申立人に通知した後の中山らの昇給及び賞与の取扱いと他の従業員及びそれまでの中山らの昇給及び賞与の取扱いには明らかな差異が認められ、これに加えて、分会結成直後から被申立人には組合を嫌悪し、又は軽視する態度が認められることから、本件不支給等は中山らが組合に加入した故をもってなされたものと、一応、推認することができる。
イ 本件不支給等は、各査定期間における中山らの総労働時間が他の従業員に比べて少ないことを重要な考慮要素としてなされたという

ことができるとした場合においても、不利益取扱いに該当するということができるか。
 前記アのとおり、本件通知前後の事実経過から被申立人の不当労働行為意思が推認されるとしても、本件のような昇給及び賞与に係る取扱いについては、それが、合理的な査定の結果であると認められれば、不当労働行為となることはないので、以下、検討する。
 被申立人は、本件不支給等は総労働時間を重要な考慮要素とした合理的な査定に基づくものと主張し、確かに、前記4(4)のとおり、中山らは本件不支給等の各査定期間において、総労働時間が他の従業員に比べて少ないことが認められる。
しかしながら、まず、被申立人の昇給及び賞与に係る査定は、前記4(7)のとおり、査定表による、社是・経営理念、勤務姿勢、休務日数及び貢献度等の項目の5段階評価により行われており、総労働時間は社是·経営理念の重要な考慮要素とされていると認められるが、その根拠となる個々の査定表等の資料は一切示されていない。
 その点は措くとしても、総労働時間という客観的な指標を用いた査定であっても、その運用において公正さを欠き、そのため、特定の者に不利益が生じるような場合は査定の合理性は否定されるものと考えるべきである。
 本件において、被申立人は、前記4(1)のとおり長時間労働が必然的な印刷オペレーターであった中山らを、前記4(3)イのとおり、本件配転により本件通知直後に他の部署に異動させていること、さらに、前記4(3)イ及びウ並びに(4)のとおり、その後も上司が大橋に帰宅を促していること、元工場長が「わざと残業なくされてるんだぞ」と発言していること、本件配転からかなりの時間経過後とはいえ、被申立人は、中山に対し、他の者に比べて短い勤務時間のシフト表を示していることに加え、前記4(3)コのとおり、被申立人は団体交渉で勤務時間を緩和している旨自認していることも併せ考えれば、そもそも被申立人は、本件通知後、中山らの時間外労働を減少させ、ひいては総労働時間が少なくなるような措置を講じていたものと認められる。
 そして、その後の団体交渉等の経過を見ても、前記4(3)サのとおり、被申立人は、当初は、中山の「自分の時間を持ちたい」との文書を見て中山は時間外労働をしたくないものと判断し時間外労働を軽減した旨説明していたが、組合から、中山らは時間外労働を拒否しているわけではなく、繁忙時にも時間外労働を命じないのは意図的なものではないかとの旨の質問をされると、直接中山らに時間外労働に対する意向を尋ね、これに対し、中山が業務上必要な時間外労働はルールの範囲内で行うが事情があってできないこともあり、強要はされたくない旨回答したところ、被申立人は、こういう場で質問されたら「やりますよ」と答えるのが普通である旨発言したり、中山のスタンスは権利を盾にして残業しないというものであり、被申立人の社是に反しているから残業させるに値しない旨発言して、時間外労働は指示しない旨表明したことが認められる。
 また、その後も、前記4(3)スのとおり、被申立人が、団体交渉において、中山は、納期遅れが生じても帰宅しており、本件不支給等の理由は時間外労働である旨を何度も指摘しているのに勤務態度を変えようとせず、工場長に相談もしていない旨発言したこと、その後、前記4(3)セのとおり、中山が繁忙時に自ら時間外労働を行ったところ、工場長が、「勝手に残業しているが、別にしてほしくない」と発言したこと、さらに、前記4(3)夕のとおり、被申立人が、団体交渉において、中山のフェイスブックヘの投稿を取り上げ、時間外労働をしたくなければしてもらわなくてもよい旨述べたことが認められる。
 上記のとおり、被申立人は、まず、中山らに対し、時間外労働が減少するような措置を講じ、その後も中山らの時間外労働について説明や対応を二転三転させながら、結局、時間外労働を行わせないようにし続けているものと認めざるを得ず、そうすると、そのような被申立人の対応の下で、総労働時間を重要な考慮要素として行われた査定は公正さを欠き、合理的なものとはいえない。

ウ 被申立人の主張について
(ア) 前記イについて、被申立人は、前記3(1)イのとおり、被申立人においては、二交代制の勤務シフトにより、個別の指示はなくとも時間外労働が通常の労働となっており、これに反して、中山らが、本件通知後組合の方針の下に法定の終業時刻になると退社するようになったに過ぎない旨主張する。
 確かに、前記4(1)並びに(2)ア及びウのとおり、被申立人においては明示の指示なく時間外労働に従事することが常態化しており、中山らも本件配転前は印刷オペレーターとしてそのような勤務に従事してきたことが認められるところ、被申立人が本件配転に伴って、中山らに対し、時間外労働を行わないようにとの明示の指示を行ったことを示す明確な証拠はない。
 これに対し、組合は、前記4(3)アのとおり勤務シフトの改善を求めており、さらに前記4(3)サ及び夕のような団体交渉における発言から、明示の指示がない限り時間外労働は行うべきではないとの方針を有していたことが窺える。
 そうすると、被申立人において、実態として、ほとんどの従業員が明示の指示なく時間外労働を行っていることが上記のとおり認められるところ、仮に、被申立人がそのような勤務形態を求めることに一定の理由があり、かつ、それにもかかわらず、中山らが上記のような組合の方針に固執した結果、総労働時間が減少したと認められるのであれば、被申立人が本件不支給等を行ったことには、やむを得ない面がないとはいえない。
 しかしながら、前記イで判断したとおり、元工場長が中山に対して「わざと残業なくされてるんだぞ」と発言したり、中山が繁忙時に自ら時間外労働を行ったり、上司が大橋に帰宅を促したりしている事実が認められることからすれば、中山らが一方的に組合の方針に基づいて時間外労働を行わなくなったと認めることは困難である。
 さらに、中山らが、新たに組合に加入し、時間外労働に関する新たな主張を行ってきたとすれば、それが、被申立人としては受け入れがたいものであったとしても、被申立人は、自らの求める勤務形態及び時間外労働の必要性や重要性等について説明を行い、組合との合意を得るべく努めるべきものと解される。逆に、被申立人がそのような努力を行わないまま、単に組合の主張を拒否し、自らの主張に固執し続けたとすれば、それは、むしろ、そのような組合の方針に乗じて、ことさらに時間外労働をさせていないものと評価されてもやむを得ないというべきである。
 本件においては、前記4(3)サ及びシのとおり、その後の団体交渉において、組合が、中山らに時間外労働を指示するよう求める旨主張していたと認められるのに対し、被申立人は、中山らに直接時間外労働についての意思確認を行い、中山の態度を問題にしたり、中山のスタンスは権利を盾にして残業しないというもので、被申立人の社是に反しているから残業させるに値しないとの抽象的な言明を行ったりするにとどまり、それ以上に自らの求める勤務形態の必要性や重要性等の説明を行わないまま、中山らに時間外労働は指示しない旨回答していたことが認められ、さらに、前記4(3)セ及び夕のとおり、中山が自ら時間外労働を行ったのに対しても、同様に組合の理解を得るような説明を行うことなく否定的な発言のみを行っていたことが認められる。
 このような被申立人の態度は、自らの求める勤務形態の必要性や重要性等について十分な説明を行わないまま、単に組合の主張を拒否し、自らの主張に固執し続けたものであり、組合の方針に乗じて、ことさらに中山らを時間外労働に従事させないようにし続けていたものと認めるのが相当である。
(イ) 次に、被申立人は、前記3(1)イのとおり、本件不支給等は、中山らが時間外労働を行っていないにもかかわらず固定残業手当を減額できないため、時間外労働を行っている他の従業員との公平の見地から合理性を有する旨も主張するが、固定残業手当は、実績に応じて支給されるものではないこと、また、逆にその支給により時間外労働を義務付けるものではなく、特に前記4(1)のとおり、被申立人の固定残業手当は単純計算で1月約90時間の時間外労働に相当し、これは、「労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準」(平成10年労働省告示第154号)が定める1箇月についての延長の限度時間である45時間の2倍に相当するものであって、実際にこのような時間外労働を行うことを想定しているものとは解しがたいこと、固定残業手当の運用において不都合が生じているからといって、その是正を別個の制度である昇給や賞与に求めるのは相当とはいえないことからすれば、合理性があるとはいえない。

工 結論
 前記アからウまでで検討したところによれば、本件不支給等は中山らが組合に加入したことの故をもってなされた法第7条第1号の不利益取扱いに該当する。

(2)本件不支給等は、法第7条第3号の支配介入に当たるか。(争点(2)) 前記(1)で判断したとおり、本件不支給等は法第7条第1号の不利益取扱いに該当するところ、そこで説示した内容によれば、本件不支給等は、中山らの組合活動の制限及び組合の弱体化を意固して行われたものと認められ、したがって、同条第3号の支配介入にも該当するというべきである。

(3)救済方法について
 前記(1)で判断したとおり、本件不支給等は組合員であるが故の不利益取扱いであると認められるから、救済方法としては、正当な査定に基づく昇給による月額賃金及び賞与の額と実際の支給額との差額の支払を命じるべきである。
 前記4(7)のとおり、被申立人においては、社是・経営理念、勤務姿勢、休務日数及び貢献度等の項目について査定を行っていると認められるところ、前記(1)イで判断したとおり、本件においては、社是・経営理念に係る評価が合理性を欠く旨判断したところであるから、主文のとおり、当該項目について他の従業員の平均値を用いて再査定した上で、差額の支払を命じるのが適当と判断する。
 また、申立人らは、前記第1の2(2)のとおり、文書の掲示も求めているが、上記のとおり、差額の支払を命じることで所要の救済が図られると考えられる。

 

第3 法律上の根拠
 以上の認定した事実及び判断に基づき、当委員会は、法第27条の12及び労働委員会規則(昭和24年中央労働委員会規則第1号)第43条を適用して、主文のとおり命令する。


平成28年7月19日


京都府労働委員会
会 長 笠井 正俊 


プリントパック 本社支店・工場全国同時アクションは予定通り7月22日に決行

2016年07月12日 15時12分22秒 | 労働争議

  プリントパック不当労働行為救済申立に対する京都府労働委員会の命令書が19日16:00に交付されます。当日17:00~京都府庁記者クラブで記者会見を行います。記者クラブ幹事社に対する申入書は命令書交付直後のため若干文面を修正しました。確認下さい。記者クラブ幹事社には14日資料を添えて申入れを行います。本社支店・工場全国同時アクションは予定通り7月22日に決行します。中山分会長は東京神保町の支店前行動に参加、大橋分会書記長は本社申入れに入る予定です。全国の仲間の皆さん、暑い最中ですが宜しくご支援をお願い致します。

■□□ 記者会見のお知らせ □□■

 ●日時:2016年7月19日 17:00~

 ●場所:府政記者クラブ別室

 ●内容:京都府労働委員会が「印刷通販」プリントパックに対する不当労働行為救済の命令書を交付

●会見者:プリントパック京都分会/中山分会長・大橋貴之分会書記長・全印総連個人加盟支部/井上支部長・地連執行委員/大橋誠・市民共同法律事務所/中村和雄弁護士・塩見卓也弁護士・諸冨健弁護士

 

7月19日京都府向日市に本社・工場を置くプリントパック(株)に対して京都府労働委員会は当労働組合申し立ての不当労働行為救済に対する命令書を交付します。

プリントパック社では2010年3月旧本社工場(現五条工場)で死亡労災事故を起し、当時の工場長が安全教育義務違反で書類送検されました。その後安全な職場作りを目指して2013年10月当労働組合の分会が結成されましたが、会社は当初から労働組合を嫌悪し組合員差別・団交確認事項不履行の不当労働行為を繰り返しています。この状況下、2015年2月~3月には労災事故が頻発し、一方で労働委員会の審問において会社は『会社のシフトは各従業員一日の拘束時間として12時間を予定していて、必然的に法定労働時間を超える労働を含むものである。つまり、「法定外時間外労働ではあるが被申立人会社では通常の労働であるというカテゴリーの労働」が被申立人会社には存在するのである。』と主張して、月80時間を超える超過勤務を常態化させ、職場の安全はますます危険な状態にあります。また2016年1月19日開催の証人尋問では、会社側証人西原取締役が会社側弁護士の質問に対して、これまでの団体交渉では一貫して「通常の業務上の異動」と説明していた組合結成通告直後の組合員異動について前言を翻して「労働組合のストライキを危惧した措置」とあからさまな不当労働行為証言を行いました。労働委員会での審問の最中にも36協定労働者代表選挙に経営が不当に介入して選挙結果の捏造をするなど企業としての法令遵守の改善はまったく見られていません。

プリントパック社は2015年度期末で年間売上げ250億円、雇用従業員800名となり、工場は群馬県高崎、東京新木場、京都本社、京都市五条(右京区西京極)、京都市伏見区、福岡県北九州で操業させ大手企業の規模となっています。地域の雇用や経済に対する責任も大きく、企業としてのコンプライアンス=法令遵守は何よりも重視尊重されるべき課題です。

今般、京都府労働委員会の命令書交付に当たり、未だに職場労働者の命と安全を無視し法令無視・違反行為を繰り返すプリントパック社の実態をお知らせするものです。

■7月22日にはプリントパック社に対して労働委員会命令の完全実施を求める「プリントパック本社支店・工場全国アクション」を札幌・東京・名古屋・京都・大阪・福岡で展開します。