少し前から話題になっているようですが、北朝鮮の提出した遺骨鑑定に関して、帝京大学の吉井講師が「自分は偽物と断定していない」と"Nature"のインタビューに答えたそうです。この"Nature"の記事に対して、細田官房長官が「この記事はウソだ」と言い、今度は逆に、この記事を書いたDavid Cyranoski記者が「捏造なんてするわけがない。私は科学的なことに興味があるだけだ」と答えています。保守派・革新派の方々も、それぞれのブログで意見を公表されています。
DNA is burning issue as Japan and Korea clash over kidnaps(Natureの原文記事)
北朝鮮遺骨問題第2ラウンド(とりあえず)
遺骨問題・・・おそれていた事態(インターネット民主主義実験室)
【オペレーション】「北朝鮮の提出した遺骨は捏造」という鑑定結果は捏造(mumurブログ)
以前も書きましたが、僕はあまり時事問題に口出しする気はないし、職業も伏せておきたかったのですが、この"Nature"の記事が日本北朝鮮ともに政治利用されそうなので、あえて僕の意見を書きます。
まず僕の専門職上、帝京大学がどのような方法論をとったか、完璧に理解できますし、僕自身同様のことを行うことができます。上のNature記事を読んだところ、非常に真っ当な記事との印象です。この記者さんも反論しているように、この記事からはなんの政治的匂いもしてきません。サイエンスに携わったことのある人なら分かると思いますが、この"Nature"という雑誌は、それこそそこらへんの雑誌とは全く格が違うし、政治的なものからは完全に独立しています。サイエンスの分野では、もっとも信頼性の高い雑誌の一つです。
まず帝京大学の方法論ですが、非常に感度が高いかわりに、他人の汗や指脂由来のDNAなどにも反応してしまう欠点があります。すなわち、日本側に渡される前に北朝鮮の人などがこの遺骨に触れていれば、当然その人のDNAにも反応してしまうわけです。しかもこの可能性は非常に高いと思われます。すなわち、高温にさらされた後、破壊に耐えた遺骨のDNAと、これら外来由来の何の処理もされていないDNAの量比によって、この実験の成功の可否が決まるわけです。
このような実験の性質上、「横田めぐみさんのDNAが検出された」場合には、「この遺骨の中に横田めぐみさんのものが含まれる」と断定できるわけですが、今回のように「横田めぐみさんのDNAが検出されない」場合には、「この遺骨の中に横田めぐみさんのものが含まれない」とは断定できないわけです。また他の人のDNAが検出されたのは、上で述べたように、他人の汗や指脂由来のDNAが検出されたと考えるのが一般的ではないかと考えられます。このようなことが記事の中でも、簡単に説明されています。
また、もうひとつの問題点として、追試がうまくいっていないことが挙げられます。サイエンスの分野では、追試可能であることが絶対条件なのですが、残念ながら帝京大学自身、またその他の大学グループもうまく行っていないようです。こういったことから、学問的にはまだまだ信用性がうすいと言われても、至極真っ当な意見だと思います。このようなことから、日本政府もまだ経済制裁に踏み切らないのかな、と勘ぐったりしていますが。
ちなみに、僕の北朝鮮に対する姿勢は、「コリア系日本人からの視点」に書いています。今回は例外的に、微妙な時事問題に、政治的な視点からではなく、専門家の一人として口出しさせてもらいました。
DNA is burning issue as Japan and Korea clash over kidnaps(Natureの原文記事)
北朝鮮遺骨問題第2ラウンド(とりあえず)
遺骨問題・・・おそれていた事態(インターネット民主主義実験室)
【オペレーション】「北朝鮮の提出した遺骨は捏造」という鑑定結果は捏造(mumurブログ)
以前も書きましたが、僕はあまり時事問題に口出しする気はないし、職業も伏せておきたかったのですが、この"Nature"の記事が日本北朝鮮ともに政治利用されそうなので、あえて僕の意見を書きます。
まず僕の専門職上、帝京大学がどのような方法論をとったか、完璧に理解できますし、僕自身同様のことを行うことができます。上のNature記事を読んだところ、非常に真っ当な記事との印象です。この記者さんも反論しているように、この記事からはなんの政治的匂いもしてきません。サイエンスに携わったことのある人なら分かると思いますが、この"Nature"という雑誌は、それこそそこらへんの雑誌とは全く格が違うし、政治的なものからは完全に独立しています。サイエンスの分野では、もっとも信頼性の高い雑誌の一つです。
まず帝京大学の方法論ですが、非常に感度が高いかわりに、他人の汗や指脂由来のDNAなどにも反応してしまう欠点があります。すなわち、日本側に渡される前に北朝鮮の人などがこの遺骨に触れていれば、当然その人のDNAにも反応してしまうわけです。しかもこの可能性は非常に高いと思われます。すなわち、高温にさらされた後、破壊に耐えた遺骨のDNAと、これら外来由来の何の処理もされていないDNAの量比によって、この実験の成功の可否が決まるわけです。
このような実験の性質上、「横田めぐみさんのDNAが検出された」場合には、「この遺骨の中に横田めぐみさんのものが含まれる」と断定できるわけですが、今回のように「横田めぐみさんのDNAが検出されない」場合には、「この遺骨の中に横田めぐみさんのものが含まれない」とは断定できないわけです。また他の人のDNAが検出されたのは、上で述べたように、他人の汗や指脂由来のDNAが検出されたと考えるのが一般的ではないかと考えられます。このようなことが記事の中でも、簡単に説明されています。
また、もうひとつの問題点として、追試がうまくいっていないことが挙げられます。サイエンスの分野では、追試可能であることが絶対条件なのですが、残念ながら帝京大学自身、またその他の大学グループもうまく行っていないようです。こういったことから、学問的にはまだまだ信用性がうすいと言われても、至極真っ当な意見だと思います。このようなことから、日本政府もまだ経済制裁に踏み切らないのかな、と勘ぐったりしていますが。
ちなみに、僕の北朝鮮に対する姿勢は、「コリア系日本人からの視点」に書いています。今回は例外的に、微妙な時事問題に、政治的な視点からではなく、専門家の一人として口出しさせてもらいました。
多分始めましてです。
>「横田めぐみさんのDNAが検出されない」場合には、「この遺骨の中に横田めぐみさんのものが含まれない」とは断定できないわけです。
・遺骨の中から横田さんのDNAは検出されなかった
・遺骨の中から他人のDNAは検出された
・他人の遺骨或いはDNAが混在してる可能性はあれど、横田さんの遺骨が含まれなかったとは言い切れない
こんな理解であってますかね?
一部についてはクロと判明したが、残りの部分はあくまでグレーなので全部がクロとは限らない、と。
ロジックとしては納得できます。
仮に他人のDNAが付着していたとすると、どういったプロセスで付着したのか問題になりますね。
朝鮮半島では火葬は一般的ではないですが、拉致被害者などについて死体処理をどうしていたのか、が気になるところ。
横田さんの夫とされる人は、一度横田さんの骨を掘り出して火葬したそうですが、最初は火葬したんだっけかな?
一度火葬したのを、再び火葬したのか。
ちょっと調べて見ます。
それでよかったんですね。ホッとしました。
ご説明有難うございます。
嘘だ何だの問題以前に、『先生方にとっても謎の領域』というか『白黒がつけにくい領域』に入っている可能性があるかな、というのは感じたので。そうなると、細田官房長官のスタンスとNatureのスタンスというものは違うわけで、思うに細田さんがそういう分野の知識を踏まえてなかったのか多分に政治的な視点で脊髄反射したのか、そこが気になりますね。
昨日(12日)の木走さんのブログのコメント欄で、彼が次のようなコメントを書いてました。
>おっしゃるとおり、“guilty or not guilty”と、“guilty or innocent”の違いの理解していない論説が日本には多いですよね。
どこのだれとはいいませんが、“guilty or innocent”のような二項論者には、議論していても本当に苦労しますです
貴兄のこの件でおっしゃりたいことに通じているのかもと思いました。木走さんと貴兄は、考え方がとても近いのではないかと感じています。
これからもちょくちょく来させてもらいます。
このニュースが流れていて、自分も気になってました。
そのときはコメンテータの方が
「当事者同士で言い合ってても解決しないから
第3国に鑑定依頼すべきだった」という趣旨の発言を
されていました。
他の先進国の鑑定技術の水準は日本と比べると
どうなんでしょうか?とても気になります。
mumurさんのブログからお邪魔します。
政治家を始めとする背広組と科学者の立場の違い
というのはしばしば現れることだと思います。
そういう意味では吉井氏の言うことは科学者としては至極当然の事ですね。
個人的に和歌山のヒ素事件でヒ素の鑑定をした先生を存じ上げておりますが,
裁判に出廷した際のお聞きしたことがあります。
客観的事実を述べても弁護士という連中は…
と仰ってました(w
話はそれましたが,
やはり再現性がとれないことには
シロともクロとも言えないだろう,
というのには同意です。
#nested PCRってのは初めて聞きました。
#調べてみます。
ただ、そもそも土葬が風習の国なのに、遺骨を丁寧に火葬している(二度焼いているという説があります)。鑑定できないように細かく砕いている。夫と称する人間のDNA鑑定を拒否した。更に、米軍兵士の遺骨返還運動の時にも同じ事をしている。
状況証拠だけでもこれだけ揃っているという点は無視できないと思うのですが。
もちろん、追試をするべきでしょうし、鑑定に関わった方が中立な立場で釈明するべきでしょう。
だとすると、追試がそもそも可能なのかも疑問ですね。
初めまして。他人のDNAの付着は、あらゆるところで起き得ます。例えば、骨を素手で触るとか、骨の前で喋る(それにより唾液が入る)、などなどです。
>枇杷さん
今回は明らかにNatureのスタンスが正しいと思います。細田さんはちょっと慌てて踏み込みすぎたかな?
>kazukanaさん
“guilty or not guilty”と、“guilty or innocent”の違いの話は、とても的をついていますね。僕も木走さんの考え方には、大変共感を覚えます。今後もぜひおいでください。
>藤原さん
今回の技術そのものは、たいして難しいものではないです。この帝京大学グループがどれほど優れているかに関しては、ノーコメントとさせていただきますが、日本のトップラボのレベルは世界でもトップレベルです。ということで、外国に任せる意味はあまりないかと。ただやはり、他の大学での結果も必要でしょう。
>( ゜Д゜)さん
初めまして。確かに科学者が客観的に説明しても、弁護士・政治家などが主観を入れて恣意的な解釈をすることは、しょっちゅうありますね。ちなみにnested PCR法は、10年以上前から使われている方法で、警察で使わなかった方が不思議です。
>他人丼さん
確かに北朝鮮に関しては、状況証拠だけ見ても、限りなく黒に近い灰色ですね。だからこそ、このような科学的にあいまいな実験結果を、取り上げる必要性がなかったと考えています。「救う会」は写真鑑定の時もフライングをしているし、最近僕が見ていても脇が甘いという印象を非常に強くしています。しかも非常によくないことに、世間そのものが「救う会」批判を許さない風潮を作っているような気がします。拉致家族の方の気持ちは分かりますが、もう少し客観的で冷静に物事を判断できる方を、組織の中核に据えるべきではないでしょうか。
た。 ネイチャーの記事については、誤解を与えかねないのでコメントしない」(帝
京大広報) というコメント(ややこしい)が出ていて余計訳がわからなくなっています。誤解ってどんな誤解なんだろう。
Natureの記事がもし正しいとしたら(信頼性高い雑誌でも間違いはあるんで断定は出来ません)、これは横田さんの遺骨という事になるんでしょうか。そうなると日本の対北朝鮮感情は更に悪化するのではという気もしますがどうなんでしょうね。
細田さんが正しいのか帝京大が正しいのかNatureが正しいのか誰も正しくないのか…要するに今回の件では何も分からなかったということでよろしいのでしょうか?もー何が何だか。
横田さんの遺骨では無いことの証明は難しいのです。
他人のDNAがでてくればコンタミ(混ざった)を疑われるのは仕方がありません。だからといって
本物であるとはとうてい考えられないものだと思います。
ネイチャーが言いたいのは偽物と完璧に断定することは難しいと言うことだけだと思います。