goo blog サービス終了のお知らせ 

詩の本+

日本近代象徴詩、モダニズム関連の書籍を紹介

山内義雄訳詩集  白水社

2015年01月18日 20時41分35秒 | 訳詩集




【書誌】
本体 縦206×横160ミリ(菊版) 白色
函  縦209×横165ミリ
本文 342頁 一段組
本体表紙から裏表紙にかけて、毛筆による池、柳、月の絵が配され、裏表紙右隅に渓仙の署名と落款がある。装幀は富田渓仙。函の表の上部には赤字で「山内義雄詩集」題字が右横書きで配され、下に大きく、ポール・クロデール自筆の文が印刷されている。函の裏側には左上にポール・クロデール自筆の文が配され、右下に活字で白水社刊行と印刷されている。見返しには和紙を用いている。本文は詩の題名のみ、朱色で印刷されている。本書末尾の記載によると、千部発行されNo.1~80までが「越前産赤口弐号神本」、81~1000までが「別漉きフールス上質紙本」、他に「訳者家蔵本若干部」がある。京都ノートルダム女子大学所蔵本は、「No.616」。
【奥付】
印 刷 昭和八年一二月 五日
発 行 昭和八年一二月一〇日
定 価 二円五〇銭
訳 者 山内義雄
発行者 福岡 清
    東京市牛込区矢来町三番地
発行所 白水社
    東京市神田区小川町三ノ八
    振替口座 東京一一九二二番
    電話 神田(二五)三五九八番
印刷者 白井赫太郎
製本者 中野和一
【目次】
アロイジユス ベルトラン
 レエドの学生 夕の祈祷 僧坊 十月 水のゆふべ
ステファス マラルメ
 秋の嘆き
ジュウル ラフォルグ
 懐疑的なる降誕祭 或る夏の日曜日の夕暮れ 嘆きふし風につくれる墓碑銘 なげきぶし
ジャン モレアス
 冬 北風はなげいて わたしは啜泣きと わたしの胸は
アンリ ド レニエ
 羅馬より 濡れた庭 夜 日のをはり
ポオル フォオル
 舟 輪舞 サンリイの朝 麗日 黎明のうた 平野暮色 ボヘミヤ人
アンドレ シュアレス
 なごやか
レオン ポオル ファルグ
 日曜日 かはたれ 夜の匂ひ
ギイ シャルル クロス
 詩
フランシス カルロ
 ああ、わたしはお前が好きだ
マクス ジャコブ
 空の不思議
ジュウル ロマン
 歌 歌
ポオル クロオデエル
 日曜日朝の祈祷 シャルル・ルイ・フィリップ 寺塔 夜の町 庭 七月精霊祭 海のおもひ 大地の門 心の廟 十月 十一月 絵画 十二月 雨 鐘 黄ろい時 杖 短唱
シャルル ヴァン レルベルグ
 雨はわたしの妹
エミル ヴェルアラン
 出立
【所蔵】
国立国会図書館         ○
日本近代文学館         〇
京都ノートルダム女子大学図書館 ○

大学図書館所蔵〔昭和女子大学〕

【解題】
 山内義雄(やまのうちよしお)は、本書のフランス詩訳の他、アンドレ・ジッド『狭き門』(新潮社、大正一二年)や『チボー家の人々』(白水社、昭和二四年)で知られる、フランス文学研究者、翻訳者である。
 本書は、『現代仏蘭西詩集』(新潮社、大正一〇年)、『仏蘭西詩選』(新潮社、大正一二年)に続く、フランス訳詩集である。それぞれ収録されている詩は重なる部分もあるが同じものではない。本文も改訂されている。『現代仏蘭西詩集』は、「レニエ詩集」「ポール・フォール詩集」「サマン詩集」三章からなる。レニエの詩は三一篇が掲載され、そのうち「羅馬より」のみ本書に収録されている。ただし、題名も本文も共に改訂されている。ポール・フォールの詩は三五篇掲載され、そのうち「舟」「輪舞」「サンリイの朝」「黎明のうた」「平野暮色」「ボヘミヤ人」が本書に収録、題名本文共に改訂されている。
 『仏蘭西詩選』は、ベルトランの「レエドの学生」「夕の祈祷」「僧坊」「十月」「水のゆふべ」が共通し、本書には「恋慕流し」が収録されていない。題名本文共に改訂されている。ジャン・モレアスは三作とも共通し、本文はルビなどを修正にとどまる。ポール・フォールは、『仏蘭西詩選』に「舟」「輪舞」のみ収録され、本書収録時にルビのみ修正。ラフォルグは『仏蘭西詩選』には「なげきぶし」のみ収録されている。本文はルビなどを修正。アンドレ・シュアレス「なごやか」、レオン・ポール・フォルグの三作は共通し、一部表記のみ修正されている。ポール・クロデールの詩は、「庭」「十二月」「鐘」「杖」「短唱」が本書のみの収録で、ルビなどを修正している。『仏蘭西詩選』にある「山へ」は収録されていない。また、『仏蘭西詩選』に収録された、アンリ・バタイユ「初霜月」、アルセル・シュオプ「小児十字軍」、ジュール・ロマン「誰かゞ梯子段を下りてゆく」、ジョルジュ・デュアメル「帰来」、アンドレ・スピイル「碩儒」、シャルル・ヴィルドラック「春」、ジャン・リシャール・ブロック「巴里」は、本書に選ばれていない。
  山内義雄は、大正一〇年、フランス大使として来日した、ポール・クロデールと親交があった。装幀の富田渓仙は、京都で活動した日本画家で、山内義雄やポール・クロデールと親交があり、ポール・クローデルとの共作による詩画集「四風帖」「雉橋集」を制作している。また『仏蘭西詩選』に挿画二葉を寄せている。
 以下にポール・フォールの「輪舞」を示す(ルビ省略)。

   輪舞

世界のむすめが手に手をとれば、
海のまはりに輪舞が出来よ。
世界の子どもが水夫になれば
海越えて、その船橋が綺麗に出来よ。

そこで世界の人達が、みんな手に手をとつたなら、
世界のぐるりを一周り、輪舞をどりが出来ませう。

ヹルレーヌ詩集  川路柳虹訳  新潮社

2015年01月18日 08時57分37秒 | 訳詩集




【書誌】
本体 縦131×横95ミリ(袖珍本) 白色
本文 342頁 一段組
本体表紙および表紙裏は、緑色の植物のを印刷する。背は緑の布地に濃緑で同じ植物の意匠が印刷され、上部に「ヹルレーヌ詩集」の文字が赤地に金箔押し。ハトロン紙のカバーが掛けられ、上部に「泰西名詩選集第4篇 ヹルレーヌ詩集 川路柳虹訳」、下部に「1923 新潮社版」と濃緑で印刷されている。見返しの次の頁裏側に、ヴェルレーヌ肖像(ユウヂエーヌカリエール筆と目次に記される)の石版画が配されている。
【奥付】
印 刷 大正八年九月一五日
発 行 大正八年九月二〇日
定 価 一円
翻訳者 川路柳虹
発行者 佐藤義亮
    東京史牛込区矢来町三番地
発行所 新潮社
    東京市牛込区矢来町三番地
    電話 牛込八〇六番 八〇七番 八〇八番 八〇九番
印刷者 佐々木俊一
印刷所 富士印刷株式会社
    東京市小石川区西江戸川町二一番地
【目次】
“PAUVRE LELIAN”
はしがき
原序
野の調
 憂鬱症
  返らぬむかし 三年の後 祈願 倦怠 よくみる夢 ある女に
 悲しき風景
  落日 不思議なる黄昏の薄明り 悲しき逍遙 秋の歌 牧人の時 夜の鶯
 うつり気
  女と猫 ダリア IL BACIO
 夜曲
  夜曲
華やかなる饗宴
  月光 身振狂言 草の上 小逕 散歩にて あやつり 牧神 マンドリーヌ クリメエヌに なまけもの コロンビーヌ 地上の恋 寂定 悲しい媾曳
幸ある歌
  Ⅰ暁のひらけしゆゑに Ⅱあさの光りは Ⅲ白い月 Ⅳ馬車の窓から Ⅴ暖爐のわき、燈火の狭い灯かげ Ⅵわれら二人の喜びを Ⅶこれ夏の日の誇りなり
無言の歌
 忘れたる小唄
  Ⅰそはもの倦げの夢心地 Ⅱ吾は知る、その囁きのうち Ⅲ巷に雨のふるごとく Ⅳ君よ吾らは Ⅴ繊弱き手もて Ⅵつらやかなしやわが心 Ⅶかぎりなき倦怠の Ⅷ霧立ちこむる
 水彩画
  みどり 恋わづらひ 巷の唄(Ⅰジツグをひとつ踊りましよ Ⅱ街のなかなる小川こそ) わはれなる若き牧人の歌へる ひかり
智慧
 Ⅰの巻
  Ⅰ女の美しさ繊弱さ Ⅱ日もすがら照り輝きし Ⅲルイ・ラシーヌの如き Ⅳ否とよ、そは Ⅴきけよ、かの優しき歌を Ⅵかつては吾のものなりし Ⅶ吾は夢みぬ Ⅷ聲 Ⅸ古き代の人の精神は
 Ⅱの巻
  Ⅰあゝ神よ Ⅱわが聖母マリヤのほかに Ⅲその一 神吾に宜へり その二 吾は答へまつりぬ その三(その一、神吾に宜へり その二、吾は答へまつりぬ その三、吾を愛せよ) Ⅳ主よ、御言葉ぞ吾には過ぐ Ⅴ汝吾を愛せよ Ⅵ主よ吾は戦けり Ⅶ(わが児よ、汝等寔に努め覚むるとき 「おなじく」かくてまた 「おなじく」えも云へぬ) Ⅷあゝ主よ、吾何とせし Ⅸあはれなる霊
 Ⅲの巻
  Ⅰ希望は厩の中なる藁の芽のごとく Ⅱ吾はきたりぬ Ⅲ暗く果しなき睡は Ⅳ空は屋根の上にありて Ⅴそも何ゆゑぞ Ⅵ悩ましき角の音林にひゞく Ⅶあはれ汝幸薄き良きおもひよ Ⅷはてしなき子羊の列 Ⅸ海は美し Ⅹ麦の祭よ
昔と今
  序曲(昔) 詩論 衰頽 序曲(今)

  朝の祈祷 わがたづねしは ヴヰクトル・ユーゴーにおくる 風景 あゝわたしはよくも悩んだ おゝ、つゝましく悧巧な愛人 わたしは愛に熱狂しあtのだ 森の精は眠つてゐた 薄暮のおもひ ひとりものゝ言葉 むかし語り プウルヌムウト 霊の空虚のなかにある 夜はまるで天鵞絨のやうだ かしこ X夫人におくる
白耳義風物詩
  ワルクール シャルルロク ブルユツセル マリーヌ
並行
  ふざけものゝピエロ
詩劇 お互ひ同士
  第一場 第二場 第三場 第四場 第五場 第六場 第七場 第八場 第九場 第十場

【所蔵】
国立国会図書館         ○
日本近代文学館         〇
京都ノートルダム女子大学図書館 ○

大学図書館所蔵〔昭和女子大学、明治大学、一橋大学、文教大学、明星大学、京都女子大学、奈良女子大学、岡山大学〕

【解題】
 本書は、川路柳虹訳『ヴェルレーヌ詩抄』(白日社、大正四)を改訳、補訂したものである。「はしがき」で、「この原本は彼の詩の選集たるCHOIX DE POESIESである。しかもその全部ではない。自分の訳して効果あると思ふもの、ぜひ訳しておきたいと思つたものゝみを集めた。」とする。また、「私は嘗て「ヹルレーヌ詩抄」と題して既にこの書の大半は数年前出版した。しかしその中にあとから読み返すと可成り不満の箇所が多いまゝその三分の一ばかしは今度訳し直した。そして更に新しき詩及詩劇の如きを加へこの一冊をなした。」という。
 新たに収録したのは、「愛」の章「ヴヰクトル・ユーゴーにおくる」以後の一四篇、「白耳義風物詩」の四篇、「並行」の一篇、「詩劇 お互ひ同士」である。『ヴェルレーヌ詩抄』と比較すると、英文の題名を日本語に、文語の題名を口語にあらため、本文も口語表現に変えられたものがあるが、題名および本文のすべてが口語表現にあらためられたわけではない。「はしがき」に「訳し方も色々になつてゐるがなるたけその詩の趣が出るやうにと工夫しただけだ。言葉や形式の整然としてゐるものは今迄の文語体をとるのが至当に思はれるのでさうした。口語体もその方が趣がよく出ると思ふものをさうした。中には非常に散文的なのもあるがこれも原詩の形式に拘泥せず、その味ひをはつきり出すやうにしたのである。」とする。
 以下に一例として、「幸ある歌」より「Ⅲ白い月」本文を示す(ルビ省略)。

   Ⅲ

白い月は
森にかゞやく、
枝々のあひだから
緑の葉蔭に
さゝやく聲がする……

おゝ恋びとよ、と。

かゞやく池水は
底深い鏡のやう、
まつ黒な
柳の影を
風はしのび泣く。

二人夢みるはこのとき、

ひろく優しい
しづけさは
虹のやうに乱れる
星の空から
おりてくる。

なんといふこの夜の美しさ。

 『ヴェルレーヌ詩抄』収録「Ⅲ白き月」は以下のとおり。

   Ⅲ
白き月
森にかゞやき、
枝ごとに
洩るゝ囁き
緑なる葉蔭に…

おゝ愛しのひとよ、と。

底深き鏡と
池は光を乱し、
黒き
柳の影
風は嘆く。

夢みんいざや、

ひろく優しき
やはらぎの
虹と乱るゝ
星の空より
くだりくる。

またとなき夜の美しさ。

 「はしがき」で、「詩の味ひは「意味」になく「言葉」にあるのだから詩の翻訳はすべてその効果を必然に失ふべきものであらう。こと言葉それ自身を音楽のごとく匂ひごとくに取り扱つたヹルレーヌの詩に至つてはその感が益々ふかい。その点でこの訳はヹルレーヌの臨模にさへ達してゐないことを自信する。」とする。
 また一方で、「けれどもヹルレーヌの詩はどこ迄もヒユーメンだ。人間的な味ひが沁み渡つてゐる。抒情詩としてこの位信実な詩は古今尠い。この訳詩集はその人間的な味ひを中心にして訳出した。」としている。
 本書と同じ装幀で新潮社より「泰西名詩選集」が発行されている。第一集生田春月訳『ハイネ詩集』(大正八)、第二集白鳥省吾訳『ホイットマン詩集』(大正八)、第三集生田春月訳『ゲエテ詩集』(大正八)、第五集福田正夫『トラウベル詩集』(大正九)、第六集富田砕花訳『カアペンタア詩集』(大正九)、第七集柳澤健訳『現代仏蘭西詩集』(大正一〇年)、第八集日夏耿之助訳『ワイルド詩集』(大正一二)のシリーズとして広告されている。後に、第九集幡谷正雄訳『バイロン詩集』(大正一三)、第十集金子光晴訳『ヹルハーレン詩集』(大正一四)、第十一集大藤治郎『現代英国詩集』(大正一五)が加えられた。
 同叢書は、「小型最上製◇一冊一円◇送料六銭」と広告されている。同じく新潮社が刊行し、川路柳虹『預言』(大正一一)が含まれる、「現代詩人叢書」は「菊半裁紙製 一冊六拾銭 郵送料六銭」と広告されている。「泰西名詩選集」は、一回り大きい「現代詩人叢書」よりも値段が高く装幀が上製で、愛蔵版と位置づけられている。

ヴェルレーヌ詩抄  川路柳虹訳  白日社

2015年01月17日 07時13分38秒 | 訳詩集


【書誌】
本体 縦174×横105ミリ マーブル紙。
函  縦178×横111ミリ
本文 47頁 一段組。
本体表紙および表紙裏は、赤のマーブル紙を使用。背には「ヴェルレーヌ詩抄 川路柳虹訳」の文字が金箔押し。函の表には「ヴェルレーヌ詩抄 川路柳虹訳」の文字と囲みなどの意匠が配された水色の題簽が貼付されている。背には「ヴェルレーヌ詩抄」の白色の題簽。見返しの次の頁裏側に、ヴェルレーヌ肖像(ユウヂエーヌカリエール筆と目次に記される)の石版画が配されている。装幀は訳者。
【奥付】
印 刷 大正四年九月一〇日
発 行 大正四年九月一五日
定 価 一円
著 者 川路柳虹
発行者 前田洋三
    東京府豊多摩郡大久保町西大久保二〇一番地
発行所 白日社
    東京府豊多摩郡大久保町西大久保二〇一番地
印刷者 岡 千代彦
    東京市芝区新桜田町一九番地
発売所 東京堂
    東京市神田区神保町三番地
【目次】
序(フランソア・コツペ)
訳者より
野調
 憂鬱症
  NEVERMORE 三年の後 祈願 倦怠 よく見る夢 ある女に
 悲しき風景
  落日 不思議なる黄昏の薄明 悲しき逍遙 秋の歌 牧人の時 夜の鶯
 うつり気
  女と猫 ダリア IL BACIO
 夜曲
  夜曲
華やかなる饗宴
  月光 壬生狂言 草の上 小逕 散歩にて あやつり 牧神 マンドリーヌ クリメエヌに なまけもの コロンビーヌ 地上の恋 寂定 悲しき媾曳
幸ある歌
  Ⅰ暁のひらけしゆゑに Ⅱあさの光りは Ⅲ白き月 Ⅳ馬車の窓より Ⅴ暖爐と燈火の狭き灯かげ Ⅵわれら二人の喜びを Ⅶこれ夏の日の誇りなり
無言の歌
 忘れたる小唄
  Ⅰそはもの倦げの夢心地 Ⅱ吾は知るその囁きのうち Ⅲ巷に雨のふるごとく Ⅳ君よ吾らは Ⅴ繊弱き手もて Ⅵ女ゆゑ Ⅶ野はかぎりなき Ⅷ霧立ちこむる
 水彩画
  GREEN SPLEEN STREETS(Ⅰジツグをひとつ踊りましよ Ⅱ街のなかなる小川こそ) A POOR YOUNG SHERHWRD BEAMS
智慧
 Ⅰの巻
  Ⅰ女の美しさかよわさ Ⅱ日もすがら照り輝きし Ⅲルイ、ラシーヌの如き Ⅳ否とよそは Ⅴきけよかの優しき歌を Ⅵかつては吾のものなりし Ⅶ吾は夢見ぬ Ⅷ聲 Ⅸ古き代の人の心は
 Ⅱの巻
  Ⅰあゝ神よ Ⅱわが聖母マリアのほかに Ⅲその一 神吾に宜へり その二 吾は答へまつりぬ その三 吾を愛せよ Ⅳ主よ御言葉ぞ吾には過ぐ Ⅴ汝吾を愛せよ Ⅵ主よ吾は慄れり Ⅶ(わが見よ汝寔に努め覚むる時 「おなじく」かくてまた 「おなじく」えもいえぬ) Ⅷあゝ主よ吾何とせし Ⅸあはれなる霊ぞかくの如し
 Ⅲの巻
  Ⅰ希望は厩の中なる藁の芽のごとく Ⅱ吾はきたりぬ Ⅲ暗き大なる眠は Ⅳ空は屋根の上にあり Ⅴそも何ゆゑぞ Ⅵ悩ましき角の音林に響く Ⅶあはれ汝幸薄き良きおもひよ Ⅷはてしなき子羊の列 Ⅸ海は美し Ⅹ麦の燔祭麺麭の燔祭
昔と今
  序曲(昔) 詩論 衰頽 序曲(今)

  朝の祈祷 わがたづねしは
付録 ポオル・ヴェルレーヌ
訳者より


【所蔵】
国立国会図書館         ○
日本近代文学館         ×
京都ノートルダム女子大学図書館 ○

大学図書館所蔵〔昭和女子大学、成蹊大学〕


【解題】
 訳者は「訳者より」で「ポオル、ヴェルレーヌの詩は既に一個の古典として仏文学のうちに最重要な一を占めるものである」とし、それゆえに自分の訳が「この絶代の詩聖を辱めはしないかと心窃かに恐れてゐる」とする。収録した詩は、「巴里ピブロテエク、シヤルパンチエ書店から出版された彼の選集CHOIX DE POESIESから更に抜粋して訳した」ため、「書名も原書の通り「ヴェルレーヌ詩抄」とした」という。原書をすべて訳す予定であったが、「邦語に移して全く其の情味を失ふものやまた特殊の感興から読まるべきものなど可成りに多分を占めるのを慮り、自分の伝へうると信ずるものにどゞめた」とする。またよりヴェルレーヌを知るために、参考書となる洋書を紹介している。
 「忘れたる小唄」Ⅲを以下に示す(ルビ省略)。

   Ⅲ
       雨はしづかに巷にそゞぐ
             (アルチユウル、ランボオ)
巷に雨のふるごとく
涙ながるゝわがこゝろ、
胸のさなかに沁み入りし
この衰へよ、いかなれば。

あゝ土に、屋根のうへに
いとも優しき雨のひゞきよ、
疲れあぐみし心ゆゑに
ふりもそそぐか雨の歌。

えたえぬほどの厭はしき
胸の故なく涙する、
叛く心もつゆなきに
この悲しみは何故ぞ、

何故とこそわかちえぬ
辛き傷みとあきらむむ、
愛も憎みもなきものを
なぜか心は悲める。

 川路柳虹は『ヴェルレーヌ詩抄』のような翻訳の他、「ダヽ主義とは何か 上、中、下」(『読売新聞』大正一〇年八月一七~二〇日)、「空飛なる詩について ―未来派・立体派・ダダ派・写象派の詩」(『早稲田文学』大正一一年七月)で早くに新興芸術を紹介し、『アルス美術叢書二三 コロー』(アルス、昭和二年)を出版するなど美術評論の分野においても活躍をしている。

かなたの空  川路柳虹著  東雲堂書店

2015年01月16日 16時38分59秒 | 詩集


【書誌】
本体 縦181×横130ミリ(四六判) 黒色。
本文 196頁 一段組。
本体表紙には、角笛の意匠が配されている。背表紙には、「かなたの空」の題名のみ。茶色の紙カバーが掛けられ、表紙側には「詩集 かなたの空 川路柳虹著」と記された題簽が右肩に、左下には「東京 東雲堂発兌」と印刷されている。背表紙側には「詩集 かなたの空 川路柳虹」と印刷。裏表紙には中央に、五羽の鳥と左肩に「T YOKIO」と文字が記された意匠が印刷されている。装幀は著者。本文上部には、広川松五郎による、虫と植物の意匠が配されている。中扉には、題字「かなたの空」とともに、「EXLIBRIS」(蔵書票)と記された、ローマ剣闘士の図版が配されている。
【奥付】
印 刷 大正三年四月二五日
発 行 大正三年五月 一日
定 価 八〇銭
著 者 川路誠
発行者 西村寅次郎
    東京市日本橋区檜物町九番地
発行所 東雲堂書店
    東京市日本橋区檜物町九番地
    電話 本局一八七一番
    振替 東京五六一四番
【目次】
蘆の笛
 秋 十月の雨 たそがれ 期待 暮春の幻想曲 蟾蜍 夜楽 夏 二つの恋
低唱(小曲二十二章)
 海の子笛六章(磯にいづれば 月の渚を ちらゝほらゝと 風がひそり 磯の岩つこに ふるさとの) 異国 梟 秋の雨 都の秋(1都の秋 2かげの心) 影 木犀 白粉草 ぽぷら まどりがる五曲(足もとの ちゆりつぷの わたしの好きな おもひでは すぎたその日を われのおもひは) 林檎 宴
伸びゆく芽
 芽 素画 風景 静物 ぷれりうど 焔 影のMODELE 李の花のちる頃 心 海景 夜曲 海辺消息 鏡 あけがたの雨 パステル にほひ
内心
 秋のおもひ 雪はふりつむ 記憶 田舎 歩める人 あけぼの 長寿花 月と風との対話 山上の星 光りの歌 闇 めふゐすとおの歌 花束 古い物語 贐 凝視 哀訴
かなたの空
 暁をみるために 幸福 手を伸ばせ まどはし 現実 正しきエピキユリアン みな人は愛するものを見失ふ 鴉 相 箴言 言葉 飛躍

【所蔵】
国立国会図書館         ○
本近代文学館         〇
京都ノートルダム女子大学図書館 ○

大学図書館所蔵〔昭和女子大学、駒澤大学、東京大学総合図書館〕

【解題】
 川路柳虹の第二詩集、「未来叢書第一篇」である。遊び紙の次に「わが『未来』の共におくる」と献辞が付されている。雑誌『未来』は、本書と同じ東雲堂より発行された、詩雑誌である。三木露風、川路柳虹、柳澤健、山宮允、新城和一、西条八十、服部嘉香、灰野庄平、増野山良、山田耕筰らが同人となり、詩、評論、楽曲が掲載された。本書では川路柳虹の詩「海の小唄」に曲をつけた楽譜が折り込みに印刷されている。『未来』創刊号「巻頭言」で「在来の自然主義が我等を却て或狭き限定内に置き、我等の精神が自由且自然に向はんとする方向を遮りたるに反し、此桎梏中より吾人の精神を取返し吾人の生活をして更に増大せしめんとする」と述べている。
 本書「詩集のはじめに」で、この詩集に収められた作品は「さまざまな色合がある」とする。「自分は定つてくれては困ると思ふ故にこの不統一は却つて当然のことゝ許してゐる。」「あらゆる不統一も最後に至らば『自ら』と云ふ点に大きい統一は見出し得べきものとおもふ。」と述べる。一方で著者は、後の『川路柳虹詩集』(新潮社、大正一〇年五月)序で、「「かなたの空」時代の象徴主義」と総括している。本書に収められた詩「海景」には「北原白秋に」の献辞、夜曲には「三木露風氏に」の献辞が付され、自然と内面の交感を詠った象徴詩風の内容となっている。ただし、「海の小唄六章」の小唄形式、「月と風の対話」の対話形式や、「生命」を讃美した「生物」「焔」「あけぼの」、「未知」と「未来」への飛躍を詠う「飛躍」は、形式面で多用であり、モチーフもデカダンスに収まらない多様性を示している。次に「海景」(ルビ省略)をあげる。

   海景

燕は低く、燃える渚にゆきかへり、
波はおなじ歌の節奏を繰りかへす、
一きわ海に出た茶褐色の岩礁に、
蛇のやうに下つた松の針の葉の閃き。

海は遠くねぶたげにめぐつてゐる。
もの倦い心の遣り場に、手を挙げてのび欠伸
 する懶惰者のごとく、
やがて瞼に銀の光のほと走り、
つよい白帆が過ぎてゆく。

そして、いつかも同じ節奏の波が岸に、
青い天鵞絨の空をめがけて陽炎と燃える、
心のうちに織り出される「思想」のやうに、
はてもない倦怠の中を往きつかへりつ………

路傍の花  川路柳虹著  東雲堂書店

2015年01月12日 23時19分03秒 | 詩集





【書誌】
本体 縦一八一×横一一一ミリ〔判型は本体と同じ 四六判〕 白色。
本文 二三八頁 一段組。
並製本。表紙上部に題字「詩集 路傍の花」、著者名「川路柳虹著」、下部に発行所名「東京 東雲堂発兌」が横書黒インク。右下に、著者自身による芥子の花の意匠が黒インクで印刷。裏表紙中央に、上下逆の小さな「★」印。背表紙上部には、「詩集」が横書、その下に「路傍の花」が縦書、その下に「柳虹著」が横書、下部に「東京 東雲堂 発兌」が横書黒インクで印刷される。目次に「装幀 著者」と記される。巻末広告では、「四六判仏蘭西式仮装綴」とされる。フランス装は、本体より大きい紙の天地左右を折り込んだ表紙で、化粧断ちした糸綴じの本体をくるむ様式。本体をくるんだのちに表紙裏側の折り返しに見返しを挿入するものを本装、見返しを挿入せずに折り返しに糊付けしたもの仮装と区別する場合もある。本来は仮綴じで、購入者が改めて装幀することを前提とするため糊付けしない。『路傍の花』本体は、表紙の折り返しはなく、やや厚めの紙を表紙としたペーパーバック様式である。なお本書には、正誤表が付されている。

【奥付】
印 刷 明治四十三年九月十五日
発 行 明治四十三年九月二十日
定 価 五十銭
著 者 川路誠
発行者 西村寅次郎
    東京市京橋區南傅馬町三丁目十番地
発行所 東雲堂書店
    東京市京橋區南傅馬町三丁目
    電話 本局一六三九番
    振替 東京五六一四番
【目次】
路傍の花
月光と薔薇
 吐息 彷徨 月光と薔薇 心の花園 顫音 ODELETTE 涙LIED 九月
心の薄暮
 私はその聲をきいてゐる 空は吾らの上に晴れてゐる 賞讃 街の雨 薄暮の瞳 屋根の上に 秋 夕 醉人の夜の歌 病兒の夢 夕顔によせて 小徑 赤い月 暮春の光 月しろ あらしの夜 心のはて 丘の上の花 礒の砂松の上 愛 薄暮 鼠 印象 わかれのとき 青い花の瞳 凋落
暴風のあとの海岸 其の他
 暴風のあとの海岸 月夜 音 寂定 壁のうちに 小景 室内はもう薄闇い 感覺の瞬時 蒼蠅の歌 人はたゞ歩いてゆく 落葉星の光り 曇天
曇日 其の他
 曇日 塵塚 バタの鑵 雨 救 港
白日の悲み
 空の果てには吾もみる 畏怖 白日の悲み 壁の土 女の胸 船室
愛と夢と
 愛の夢 愛の少女 橘の花のかげ ちひさやかなる胸のうち 愛の砦
南國
 さすらひ おもかげの花 梟に あかんさす(ヽヽヽヽヽ) 禮參の歌 死を好む人魚のうたへる歌 燕

【所蔵】
国立国会図書館         ○
日本近代文学館         〇
北海道文学館 高橋留治文庫   ○
京都ノートルダム女子大学図書館 ○

大学図書館所蔵〔昭和女子大学近代文庫、早稲田大学〕
 *早稲田大学古典籍総合データベースで画像閲覧が可能

【解題】
 川路柳虹の第一詩集である。川路柳虹(かわじりゅうこう 本名誠)〔明治二一~昭和三四〕は、明治四〇年発表の「塵溜」により口語自由詩の先駆者として詩壇に登場したと、文学史上に位置づけられる。その試作は自然主義の影響下になされたものとされるが、詩作を始めたのは『文庫』(明治二八・八~明治四三・八)詩欄への投稿作からである。後には、自然主義の桎梏から解放されることを目指した三木露風主宰の雑誌『未来』(東雲堂書店発行、大正三・二~六)に参加し、象徴派風の詩を発表している。さらに大正末年には、一行一七音で構成する「新律格」を提唱して、無律の自由詩とは相容れない主張を展開した。また、本然主義を唱えて理想主義的な作品を発表するなど、作風は多彩である。
 『路傍の花』は著者自身の意匠を用いるが、川路柳虹は、京都の美術工芸学校を経て、東京美術学校を卒業した。後に『アルス美術叢書二三 コロー』(アルス、昭和二)を出版するなど美術評論の分野で活躍している。自身の詩集以外に、岡島敬治訳『レッシングの詩』(東京河野二郎、明治四三)、内海泡沫『淡影』(以文館、明治四三)などの装幀を手がけている。
 題名の「路傍の花」については序詩が、序の後、二つ目の中扉の裏に付されている。「傷みもなくて病んだ花よ、/夏の白昼の径に、/光を怖れ、昼を悶んでゐる。/傷みもなくて病んだ路の花よ。」また中扉には、「EXLIBRIS」と上半分に記された、裸体の女性が芥子畑で顔を両手で覆いうつむいている、著者制作の図版が配されている。「EXLIBRIS」は蔵書票の意味。表紙の芥子の花の意匠と合わせてみると、麻薬、退廃、デカダンスなど、病み悩むイメージを表現することがわかる。また、遊び紙の裏に「三木露風氏に贈る」の献辞がある。
 序では、近年の詩壇の動向として、口語詩、自由詩について触れ、自作がその試みであり、新しい詩歌の運動につながる詩作だと位置づける。フランスの「詩は自由である」(Vers libres)運動を紹介すると共に、リズム論を展開し、内部の心のリズムが詩に移されれば、見かけは散文であっても詩になるとする。さらに、服部嘉香の「印象律」概念を発展させ、内部に動く律動、「生命」を表現することを目指すべきだという。口語自由詩の先駆者とされる著者だが、この頃から、口語詩もまたリズムが必要であり、リズムは内面の直接的表現であると主張していることに注目したい。
 また著者は後の『川路柳虹詩集』(新潮社、大正一〇)序で、『路傍の花』を「印象主義、デカダン気分」と位置づけている。ここで言う「印象主義」は、桜井天檀「独逸の抒情詩に於ける印象的自然主義」(『早稲田文学』明治四一・六)で紹介された、ドイツ印象主義である。「印象的自然主義」と称するのは、印象主義が「情趣を再現するに、情趣を起さしめる当面の現実を露骨に描写する」特徴を取り上げ、対象をありのままに描写するところに、自然主義との共通点を見出そうとしたからだ。印象的自然主義詩人として紹介されるのは、アルノオ・ホルツ、ホフマンスタアル、リヒャルト・デエメルである。
 後に川路柳虹は「口語詩と現代詩―所謂口語詩運動と現代詩の関連」(『現代詩の史的展望』河出書房、昭和二九)で、桜井天檀「独逸の抒情詩に於ける印象的自然主義」中に、アルノオ・ホルツの詩作として紹介された、二、三語の短い言葉の組み合わせからなる行を羅列した詩体「電信体(抒情的電信)」に影響を受け、『路傍の花』に収められた「暴雨のあとの海岸」のような詩を作ったと回顧する。「詩の上では自然主義と印象主義とは兄弟関係をもつて進められた」というのが川路柳虹の認識で、「後に自由詩社が生れ、人見東明、加藤介春、三富朽葉らのパンフレットが「自然と印象」と題されたのも這般の消息を語るもの」だと位置づけている。人見東明と加藤介春は、相馬御風と共に明治四〇年三月に早稲田詩社を結成した詩人である。早稲田詩社における、自然主義と印象主義の接合が、その後に結成された自由詩社に受け継がれ、機関誌の名前にも反映したというのだ。「自然と印象」には、「電信体」に似た詩が掲載された。
  「暴雨のあとの海岸」を次に紹介する(ルビは括弧内に表記)。

   暴風のあとの海岸

白(しろ)――

明(あか)るい海(うみ)のにほひ、
濁(にご)つた雲(くも)の静(しづ)かさ、

白(しろ)―灰(はい)―重苦(おもくる)しい痙攣(けいれん)………
腹立(はらだ)たしいうやうな、
掻(か)き毮(むし)つたやうな空(そら)。

藻(も)――流木(りうぼく)――
磯草(いそくさ)のにほひ。

白(しろ)――
岸(きし)と波(なみ)とのしづかさ。

――忘却(ばうきやく)――夢(ゆめ)――
苦悶(くもん)の影(かげ)――
白(しろ)――

波(なみ)の遠(とほ)くに遠(とほ)くにひゞく
 夢(ゆめ)の如(や)うな音(おと)――狂(くる)ひ――嘆(なげ)き―

白(しろ)――
――濁(にご)り――風(かぜ)――

風(かぜ)――
しづかな音(おと)
風(かぜ)――
白(しろ)――