

【書誌】
本体 縦三二〇×横二一五ミリ〔判型は本体と同じ〕 白
帙 縦三二〇×横二一五ミリ (収納時) 灰色
函 縦三三〇×横二二〇ミリ 灰色
本文 一四五頁 一段組
フランス装並製本、角背、和紙貼帙、差込式和紙貼函付。本体は紙表紙を折り込んだフランス装。見返し側に三方折込み。本体表紙から裏表紙にかけて、古代ローマのトガを纏った群像、帆船、洋館、馬、気球、地球の公転図などを組み合わせた図版が印刷され、表紙には「Poésies」の文字が配される。図版は、高畠達四郎による。セロファンの保護紙付。帙および函は、和紙貼装。帙に紐はなく、本体を挟み込む形。背には「ポエジイ 鈴木信太郎」の筆字が印刷されている。函の表側には、赤色の題簽が貼付されている。題簽は、赤地に白で「ポエジイ」「鈴木信太郎」の文字、頭に籠を載せたローマの女性の意匠が印刷されている。
本文は耳付きの和紙。天、地、小口側を広くとった版面。見返し裏頁右上に、チューリップの意匠を色刷りした蔵書票が貼付されている。上部に手書き「ex.LIbRIS」の文字、下部に手書き「S.INAGAKI」の署名。扉は、上部に筆書による「Poésies」の文字、その下左側に筆書「ポエジイ」、中央に裸婦の絵、右下に活字で「鈴木信太郎譯」「白水社刊行」が二行にわたり印刷されている。各章扉は、作者名が、上部左寄りにフランス語アルファベット表記が朱色横書、その下に日本語表記黒色縦書で印刷されている。それぞれの詩の題名は朱色。奥付の次々頁に貼付された標題紙に次のように記載される。「本書は限定印行発行部數五百。/その三十五部は、越前國今立郡岡本村杉原半四郎 別漉鳥子程村紙刷、漢字番號壹より參拾五に至る。内、壹より拾八までの十八部、非賣。/その二十五部は、信濃國戸隠山中柵 佐藤善一朗 特漉月明紙刷、羅馬數字番號ⅠよりXXVに至る。内、ⅠよりVIIIまでの八部、非賣。/その四百四十部は、信濃國麻績矢倉 平田吉雄 特漉山鹿紙刷、亞刺比亞數字番號1より440に至る。内、1より17までの十七部、非賣。而して本冊はその」京都ノートルダム所蔵本は「第58」。
【奥付】
印 刷 昭和九年十一月 十日
発 行 昭和九年十一月二十日
定 価 五圓
訳 者 鈴木信太郎
発行者 岡
発行所 白水社
東京市神田區小川町三丁目八番地
印刷者 白井赫太郎
印刷所 興社印刷所
東京市神田區錦町三丁目十七番地
印刷担当者 横井作次郎
製本者 中野和一
製本所 中野製本所
東京市京橋區越前堀三丁目二番地
製本担当者 麻生勇助
【目次】
シャルル ボオドレエル
交感 猫 旅のいざなひ
ボオル ヴェルレエヌ
都に雨の降るごとく しなやかなる手の接吻くるピアノ グリイン
ステファヌ マラルメ
海の微風 詩の賚 聖女 道化懲戒 禮 半獣神の午後 冬の戦慄 未来の現象
アルチュル ランボオ
小年時
ジャン モレアス
賦
エミル ヴェルハアレン
雨
アンリ ド レニエ
爐火
レミ ド グウルモン
ゆふぐれ
【所蔵】
国立国会図書館 ○
日本近代文学館 ×
北海道文学館高橋留治文庫 ×
京都ノートルダム女子大学図書館 ○
大学図書館所蔵〔明治大学、青山学院大学、明星大学、立正大学、静岡大学〕
【解題】
本書は、鈴木信太郎によるフランス訳詩集である。鈴木信太郎(すずきしんたろう)〔明治二八~昭和四五〕は、フランス文学者、翻訳者。大正一〇年より東京帝国大学仏文科に教員となり、同僚の辰野隆(たつのたかし)〔明治二一~昭和三九〕と共に、日本におけるフランス文学研究の推進に貢献した。二人が在職中に、渡辺一夫、小林秀雄、中嶋健蔵、今日出海ら、新進のフランス文学者を輩出し、帝大仏文科は文学者の拠点ともいうべき趣があった。翻訳に、マラルメ『半獣神の午後』(江川書房、昭和八)、『ヴィヨン詩鈔』(全国書房、昭和二三)等、研究書に、『ヴィヨン雑考』(創元社、昭和一六)、『フランス象徴詩派覚書』(青磁社、昭和二四)等、また、『フランス詩法』上、下(白水社、昭和二五、二九)により芸術院賞を受賞。
鈴木信太郎はすでにフランス詞華集として、『近代佛蘭西象徴詩抄』(春陽堂、大正一三年)を刊行しており、収録作品が重なるものもあるが、構成は異なっている。『近代佛蘭西象徴詩抄』は、詩の他に、詩人に対する回想や批評など同時代の文章の翻訳を載せ、象徴詩を紹介する啓蒙的な意図がある。本体は、一九三×一三〇ミリ、判型一八七×一二五ミリ、四六判、紙装上製本、丸背、差込式貼函付。これに対し本書は、大版の書籍で、序や解説はなく、装幀や詩を直截に味わう作りとなっている。本書に収録された詩のうち、ボードレール「交感」「猫」、ヴェルレーヌ「都に雨の降るごとく」「しなやかなる手の接吻くるピアノ」、ランボオ「少年時」、ヴェルハーレン「雨」、レニエ「爐火」は、『近代佛蘭西象徴詩抄』にも収録されている。ただし、本文は改訂されている。
表紙画を担当した、高畠達四郎(たかばたけたつしろう)〔明治二八~昭和五一〕は、洋画家。大正一〇年より渡仏し、現地で創作活動を行い、昭和三年に帰国した。この間、大正一四年、友人の鈴木信太郎をパリに迎えている。帰国後は、フランスの風景を題材とした作品を発表する。自然観照に基づくプリミティヴィスムが、その作風とされる。昭和二七年「暮色」で第三回毎日美術賞を受賞した。(『日本美術年鑑昭和五二年版』東京国立文化財研究所)
本書には、先に紹介した標題紙に表記されていた五百部の他に、部数外の冊子が存在する。五百部のうちアラビア数字版は、限定本の内容を示す標題紙が貼付されていたが、部数外の冊子は、奥付の次々頁に、同内容が直接用紙に印刷されている。その左下に名刺ほどの大きさの紙が貼付され、「限定印形部數五百の他、特漉山家紙刷、三十部、番號AよりZ、及び、aよりdに至る、その」と記されている。京都ノートルダム女子大学所蔵本は、「第H」。
次に「交感」本文を示す。
交感 ボードレール
自然(ヽヽ)は(かみ)の宮(みや)にして、生(せい)ある柱(はしら)
時(とき)をりに 捉(とら)へがたなき言葉(ことば)を洩(も)らす。
人(ひと)、象徴(しやうちよう)の森(もり)を經(へ)て 此處(ここ)を過(す)ぎ行(ゆ)き、
森(もり)、なつかしき眼相(まなざし)に 人(ひと)を眺(なが)む。
長(なが)き反響(こだま)の 遠方(をちかた)に混(まじ)らふに似(に)て、
奥深(おくふか)き 暗(くら)き ひとつの統一(とういつ)の
夜(よる)のごと光明(くわうみやう)のごと 廣大無邊(くわうだいむへん)の中(なか)に、
馨(かをり)と 色(いろ)と 物(もの)の音と かたみに答(こた)ふ。
幼童(をさなご)の肉(にく)のごと鮮(あざ)やかに、木笛(オオボア)のごと
なごやかに、草原(くさはら)のごと(みどり)なる、薫(かをり)あり。
――あるは、腐(くさ)れし、豊(ゆたか)なる また ほこりかの、
無限(はてなし)のものの姿(すがた)にひろがりて、
龍涎(りゆうぜん)、麝香(じやかう)、安息香(あんそくかう)、燒香(せうかう)のごと、
精神(こころ)と官覺(にく)の法悦(ほふえつ)を歌(うた)へる、薫(かをり)。