髪は乱れ、白目は青いほどに真っ白。
その異様に光る目を取り囲む眼窩は黒くくぼんで
顔との境目が曖昧になるほど首が腫れ
まさにゾンビのような生き物が鏡の中でこちらを見ていました。
それは間違いなくこの私でした。
まるで玉手箱を開けた浦島太郎のように、一夜にして何十歳も年を取ったようでした。
こりゃあひどいわ。
この顔見たら一億年の恋も冷める。
マンモスかっ。
ゾンビは鏡にくるりと背を向けて、とぼとぼとベッドに這い上がりました。
白目が白いのは貧血のせいだっだのでしょうか。
血管が一筋も浮かんでいない赤ちゃんの白目のようでした。
一回止まってまた動き始めた心臓だけは赤ちゃんのようなものですけれど。
ところで、私の受けた手術は、僧帽弁形成術と言って
人工の弁や他の動物の弁と取り換えないで(僧帽弁置換術という)
自分の弁を切ったり縫ったりして再形成するものです。
いずれの手術にも長所短所がありますが、自分の弁を再形成する手術の場合
薬を飲み続ける必要がありません。
切開が小さくて済むダヴィンチ手術のお蔭で、傷の痛みは軽いものでした。
看護師さんに聞かれて、10のうちで2か3位の痛みと表現しました。
自分で言うのもあれですが、私は我慢強い方ですから
感じ方は人によって違うかも知れませんが
他の方法で手術された方は、傷が痛くて目が覚めるとおっしゃるらしいです。
私は痛み止めは一回くらいしか飲みませんでした。
痛みに悩まされることはなかったのですが
術後しばらくはほとんど眠れない夜が続きました。
睡眠薬や睡眠導入剤などは一切飲んだことのない私でしたから
無理しないで飲んだ方がいいと勧められても、なんとなく怖くて飲めませんでした。
もともと薬というもの自体ほとんど飲むことはありませんでした。
しかし何日も昼寝すらもできなかった私は、ある夜ついに導入剤を飲むことにしました。
ところが飲んで3~40分後に、なんだか足をバタバタして暴れたくなるような衝動に駆られてしまい
逆に全く眠ることが出来ませんでした。
たまたまかと思い翌日も飲んだのですが、同じような症状になりました。
看護師さんに訴えると、薬が強すぎるのかも知れないとの事で
弱めの薬に代えてもらいました。
前のように暴れたくなる衝動に駆られることはありませんでしたが、やはり眠れませんでした。
こういう薬は合わないのだろう、そのうち眠れるようになるだろうと気持ちを変えて
飲むことをやめました。
さて、眠れない夜は続いていましたが
術後の回復はとても順調で、術後2日目から病棟を歩きはじめ
食事もほとんど完食でした。
術後一晩で2キロ増えていた体重も(水分です)すぐに元に戻り
逆に入院した時よりも減って行きました。
便秘になりがちと聞きましたがお通じも快調で、
術後3日目位には身体に入っていた管の類はすべて抜けて
看護師さんがシャンプーしてくださって髪の毛もサラサラ。
鏡に映るおぞましいゾンビはいなくなりました。
月曜の手術後、その週末にはシャワーもできて
もういつ退院しても大丈夫と言われました。
つづく
ご訪問ありがとうございます。
感謝をこめて
つる姫