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【小説】 ピタジマ・作 『かんちがい』 【三題噺(ばなし)・第44回】

2012-12-09 11:38:29 | 三題噺
お題:【シロシビン】【エビ】【アスファルト】


ピタジマ・作



後部座席に深くもたれながら、
私は今日の収録のことを振り返る。

思い出すだけで、
恥ずかしくなる。

窓の外の景色のように、
今日の言葉たちが流れていく。

「アスファルト」

「トマト」

「トカゲ」

「外科医」

「家」

「エビ」

「ビー玉」

「マンヒヒ」

「東」

そして「シロシビン」……。

まさか、
こんなわけのわからない言葉で、
インテリチームの逆転のかかる
最終ゲームのしりとりを、
終わらせてしまうなんて……。

あのとき、
共演者やスタッフたちは、
明らかにそう思っていることを
隠そうともせず、
白けた顔でコチラを見つめていた。

誰もが知っている言葉ならまだしも……。

あるいは思い浮かばずに、
苦し紛れに漏れた
実在しない言葉ならまだしも……。

バラエティ的にどうなのよ?

口々にそう言いたげな表情だった。

誰も知らない言葉だし、
しかも実際に
広辞苑に載ってる言葉だわでは、
スタジオがあのような空気に
包まれるのも致し方がない……。

自分は再び、
あの番組にゲストで呼ばれることが、
あるのだろうか……?

「教授、つきましたよ」

思考を中断するように、
私のマネージメントをしてくれている男が、
助手席から振り返って、
私に大学への到着を知らせる。

「まあ、今日のことで、
気を落とさないでくださいよ。
教授の博識がアダになっただけなんすから」

「大丈夫。
気にしていないよ」
と応じる私。

本心だった。

私はそんなことは気にしない。

私が考えていたのは、
あのとき自分が言いたかった言葉が、
「ハクビシン」だったことを、
周囲に悟られすに済んで
良かったということである。

そして、
今まで自分が、
この動物のことを「シロビシン」だと
間違って憶えていたことが、
バレずに済んで良かった
ということである。

長きにわたって、
そんな勘違いをしていたとは
恥ずかしい。

結果、
「シロビシン」を噛んで
「シロシビン」になったことで、
取り繕うことができた奇跡を
思い出していたのである。

私は、
馬鹿だと思われるくらいならば、
空気が読めない奴でいた方がいい。

世間でまかり通っている私のイメージを、
守り続けたい。

お馬鹿文化人扱いなんて御免だ。

その為ならば、
番組の一つや二つ
盛り上がらなくても良いじゃないか。

そんなことを考えていたのだ。

あらためて、
助手席に座る男を見つめる。

この男も、
そして今日の番組を観る視聴者も、
私の授業を受ける学生たちも、
私が「ハクビシン」を
「シロビシン」だと思っていたなどと、
一生知ることがないのだ。

実に素晴らしいことだ。

私は颯爽と車から降ると、
研究室へと向かった。

足取り軽く。


【了】



ちなみに、
同じお題(【シロシビン】【エビ】【アスファルト】)で書かれた、
平井十一・作『三択』コチラ




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