無限遠点のサブふぉるだぁ

実験的文芸サークル無限遠点の作業スペースです。

【小説】 ピタジマ・作 『半年も経てば涙も枯れるし、むしろ煩わしい。』 【三題噺(ばなし)・第48回】

2012-12-20 20:23:46 | 三題噺
お題:【宇宙人】【墨汁】【願い事】


ピタジマ・作



今年の七夕のときはまるで、
墨汁を天の川に流し込んだような曇天で、

クリスマスはクリスマスで、
都心とは思えない
目を覆わんばかりの猛吹雪である。

「これでは通信ができません」

今年の春前から、
うちの物置で匿っている
宇宙人がボヤく。

なんでも、
故郷の星に帰るために
連絡が取れる日は
年二回しかないというのに、
その二回の機会が共に、
悪天候によって
妨げられてしまったらしい……。

同情はするが、
オマエが雨男なんじゃないの?
とか、

だったら一年中晴れのイメージのある
カリフォルニアとかに行けば?
と思ってしまう。

家計をあずかる身として、
あるいは二児の母として、
むしろ幼稚園で、
七夕の短冊だの、
サンタクロースだのへの
願い事をしたためて帰ってきた
我が子の方が不憫でならない。


【了】


ちなみに、
同じお題(【宇宙人】【墨汁】【願い事】)で書かれた、
平井十一・作『七夕の星に願いを』コチラ

【小説】 ピタジマ・作 『山歩き』 【三題噺(ばなし)・第47回】

2012-12-18 20:03:32 | 三題噺
お題:【重傷】【課長】【ビオラ】


ピタジマ・作



毎日そこにあったものが
無くなってしまうと、
いかにそれが不快なものであっても、
何となく寂しいと思う人もいるのだろう。

時々思い出したように、
主不在のその席を見ては、
誰もが少なからず
喪失感を抱いているように見える。

今日でその席が空席となって、
ちょうど一週間。

その席の主である
課長は現在も、
意識不明のまま入院中である。

趣味の山歩きの途中で、
崖下に落ち、
頭を強く打つ
重傷を負ってしまったのだ。

あれは事故ではなく
自殺だと噂する、
口さがない社員もいるけれど、
断じてそんなことはない。

私は知っている。

課長は自慢のカメラで、
落下地点のちょうど真上に
咲いていたビオラの花を撮ろうと、
不注意にも崖に
身を乗り出しただけなのだ。

見てもらえばわかる。

証拠はバッチリと
カメラの中に残されているはずだ。

逆に言えば、
そのカメラが
落下地点の傍に落ちていなかったから――、
未だ見つかっていないから――、
こんな憶測を呼んでいるのだとも言える。

恐らく課長が落下する際に、
遠くに飛ばされてしまったか、
更に下まで落ちてしまったのだろう……。

そんなことをぼーっと考えていたら、
誰かが、
今日も課長のお見舞いに行くと
言い出した。

課員の何人かが同調して
皆で行くという流れに、
なりはじめている。

私も課長の状態を、
他の誰よりも気にかけている
自信はある。

でも、
今日も断る。

私には、
課長の奥様に、
面と向かってあえる
自信がないから。

そしてそれ以上に、
気が気でないから。

最近すっかり
仕事終わりの日課となってしまった
山歩きに一刻も早く向かいたいから。

これではまるで、
課長の趣味を私が引き継いだというか、
むしろ課長の生霊にでも、
取り憑かれてしまったかのようだ。

……いや、
ある意味そうなのだろう。

仕事にも
支障をきたし始めている……。

課長との関係が改善されれば、
仕事ははかどるものと
思っていたのに……。

……。

……。

……っと。

ダメだ。

また、
ぼーっとなっていた。

とりあえず今日は、
昨日よりももう少し南の方に
行ってみよう。


【了】



ちなみに、
同じお題(お題:【重傷】【課長】【ビオラ】)の、
ピタジマ作の別作品『赤ペン課長の憂鬱』(三題噺(ばなし)・第16回)は
コチラ

【詩?】 ピタジマ・作 『センチメートルジャーニー』 【三題噺(ばなし)・第46回】

2012-12-13 03:40:10 | 三題噺
お題:【ゴール】【日没】【センチメートル】


ピタジマ・作



◎教室。
◯隣の席に座る彼。
▲手を伸ばせば届く距離。
△「おはよう」と挨拶しても不自然じゃない距離。
△でも、無理。
△ずっと無理。
△物理的な距離なんて関係ない。
△私にとっては、このわずかな距離が。
△果てなき旅路。
△どんなに近くても。
△センチメートルジャーニー。

◎ゴールって何処?
◯とりあえず、付き合えれば良いの?
▲「カレシ」だと紹介できれば良いの?
△わからない。
△ただ、この想いに従うだけで良いの?
△それとも、二人の行き着く果てに。
△何か目標が無くちゃいけないの?
△わからない。
△私たちの関係って難しい。
△小学生の恋って難しい。

◎日没。
◯今日も何も言えなかったけど。
▲これってチャンスじゃない?
△今日って日がリセットされるだけじゃない?
△さよなら三角、またきて四角。
■明日は、明日の風が吹く。
□今日が無理でも、明日頑張れば良くね?


【了】



ちなみに、
同じお題(【シロシビン】【エビ】【アスファルト】)で書かれた、
平井十一・作『日没センチメンタル』コチラ




【小説】 ピタジマ・作 『夢』 【三題噺(ばなし)・第45回】

2012-12-11 05:57:17 | 三題噺
お題:【眼鏡】【シベリア】【絵本】


ピタジマ・作



「眼鏡をやめてコンタクトにする」

「シベリア鉄道に乗って大陸を横断したい」

「絵本作家になる」

この三つが、
高校の卒業式の日に、
友人たちに語った彼女の夢だった。

それから10年。

目に異物を入れる勇気が出ず、
旅行のための貯金もせず、
コンクールへの応募も、
出版社への持ち込みもしなかったが、
実家近くのコンビニで働き、
夢だけは毎日あきらめずに、
バイト仲間に語り続けていた彼女に
チャンスが訪れた。

バイトの帰り道の道端で、
魔法のランプを拾ったのだった。

ランプの精は、
彼女のどんな願いでも
三つ叶えてくれるという。

だが彼女は、
夢とはまったく異なる
三つの願いを申し出た。

それから更に10年。

今や彼女は、
自由になるお金も時間も、
余りあるほど持っていた。

だが、
未だ三つの夢はどれも実現していなかった。

しかし、
今でも人に会うたびに彼女は、
この三つが自分の夢なのだと語り続けている。


【了】



ちなみに、
同じお題(お題:【眼鏡】【シベリア】【絵本】)の、
ピタジマ作の別作品『彼女が僕と話すとき』コチラ

【小説】 ピタジマ・作 『かんちがい』 【三題噺(ばなし)・第44回】

2012-12-09 11:38:29 | 三題噺
お題:【シロシビン】【エビ】【アスファルト】


ピタジマ・作



後部座席に深くもたれながら、
私は今日の収録のことを振り返る。

思い出すだけで、
恥ずかしくなる。

窓の外の景色のように、
今日の言葉たちが流れていく。

「アスファルト」

「トマト」

「トカゲ」

「外科医」

「家」

「エビ」

「ビー玉」

「マンヒヒ」

「東」

そして「シロシビン」……。

まさか、
こんなわけのわからない言葉で、
インテリチームの逆転のかかる
最終ゲームのしりとりを、
終わらせてしまうなんて……。

あのとき、
共演者やスタッフたちは、
明らかにそう思っていることを
隠そうともせず、
白けた顔でコチラを見つめていた。

誰もが知っている言葉ならまだしも……。

あるいは思い浮かばずに、
苦し紛れに漏れた
実在しない言葉ならまだしも……。

バラエティ的にどうなのよ?

口々にそう言いたげな表情だった。

誰も知らない言葉だし、
しかも実際に
広辞苑に載ってる言葉だわでは、
スタジオがあのような空気に
包まれるのも致し方がない……。

自分は再び、
あの番組にゲストで呼ばれることが、
あるのだろうか……?

「教授、つきましたよ」

思考を中断するように、
私のマネージメントをしてくれている男が、
助手席から振り返って、
私に大学への到着を知らせる。

「まあ、今日のことで、
気を落とさないでくださいよ。
教授の博識がアダになっただけなんすから」

「大丈夫。
気にしていないよ」
と応じる私。

本心だった。

私はそんなことは気にしない。

私が考えていたのは、
あのとき自分が言いたかった言葉が、
「ハクビシン」だったことを、
周囲に悟られすに済んで
良かったということである。

そして、
今まで自分が、
この動物のことを「シロビシン」だと
間違って憶えていたことが、
バレずに済んで良かった
ということである。

長きにわたって、
そんな勘違いをしていたとは
恥ずかしい。

結果、
「シロビシン」を噛んで
「シロシビン」になったことで、
取り繕うことができた奇跡を
思い出していたのである。

私は、
馬鹿だと思われるくらいならば、
空気が読めない奴でいた方がいい。

世間でまかり通っている私のイメージを、
守り続けたい。

お馬鹿文化人扱いなんて御免だ。

その為ならば、
番組の一つや二つ
盛り上がらなくても良いじゃないか。

そんなことを考えていたのだ。

あらためて、
助手席に座る男を見つめる。

この男も、
そして今日の番組を観る視聴者も、
私の授業を受ける学生たちも、
私が「ハクビシン」を
「シロビシン」だと思っていたなどと、
一生知ることがないのだ。

実に素晴らしいことだ。

私は颯爽と車から降ると、
研究室へと向かった。

足取り軽く。


【了】



ちなみに、
同じお題(【シロシビン】【エビ】【アスファルト】)で書かれた、
平井十一・作『三択』コチラ



【小説】 ピタジマ・作 『芥川龍之介』 【三題噺(ばなし)・第43回】

2012-12-07 22:49:39 | 三題噺
お題:【センチメンタル】【民俗学】【羅生門】


ピタジマ・作



秋から冬の変わり目の今の季節になると、
俺みたいなヤクザものでも、
自分のこれまでの人生というものを
ふと振り返りたくなるような、
センチメンタルな気分になる。

そんな時だった。

「何が不死身じゃあ、おんどりゃー!」

という声と共に、
夜道を歩く俺の腹に、
深々とドスが突き立てられたのは――。

俺を刺したのはチンピラ風の若い男で、
ゆとり世代と揶揄されるような
最近の若者たちとは、
一線を画する雰囲気を醸し出していた。

念には念を入れる為だろうが、
ぐりぐりぐりぐりと、
ドスを何度もねじり込んでくる。

だが、
それが良くなかった。

その時間が、
この若者の命取りになった。

俺は渾身の力を持って、
若者の頬を殴りつけた。

ぐぇ、
という短い喘ぎ声をあげ、
カエルのように無様な姿で
若者は道に倒れると、
そのまま起き上がることはなかった。

腹から、
ドスを引き抜く。

続いて、
折口信夫全集を2冊取り出す。

穴は一冊目を貫通し、
二冊目半ばにまで到達していた。

図書館の本ではあるが、
極力手には荷物を持ちたくない俺は、
腹に本を入れておいたおかげで、
どうやら命拾いしたようだ。

図書館で一瞬迷ったのだが、
太宰治が影響を受けたという理由で、
芥川龍之介の例えば、
新潮文庫の『羅生門・鼻』を
代わりに借りていたならば、
今頃この世にはいなかっただろう。

気分に誘われて、
大学時代のことを思い出し、
昔勉強していた民俗学に
再び触れてみようと、
懐かしんだのが良かった。

時にはセンチメンタルな気分にも、
なってみるものだ。


【了】


ちなみに、
同じお題(お題:お題:【聖書】【機関銃】【太宰治】)の、
ピタジマ作の別作品『remix『羅生門』』はコチラ

そして、
今回の「文学ヤクザ」シリーズの
前編にあたるピタジマ・作『太宰治』コチラ



【小説】 ピタジマ・作 『吾輩は猫である ~ニャンピース編~』 【三行噺(ばなし)】

2012-12-06 05:13:25 | 三行噺
吾輩は富、名声、力、この世のすべてを手に入れた猫である。

「吾輩の名前か? つけたけりゃつけさせてやる。探せ! この世のすべてを込めた名前を!!」

男たちはゴッドファーザーを目指し、夢を追い続ける――世はまさに、大飼い主時代!!


【了】

【小説】 ピタジマ・作 『その日』 【三題噺(ばなし)・第42回】

2012-12-05 21:17:16 | 三題噺
お題:【命綱】【誕生日】【諦め】


ピタジマ・作



今日は、
私が作品を出展したコンクールから、
入選ならば連絡があるはずの日。

ラストチャンスの日。

ちょうど明日が、
約束の日だから。

25歳になるまでに結果が出なかったなら、
絵の道はきっぱり諦めると、
親と取り決めた日。

明日は私の25回目の誕生日。

そして、
もしかしたら命日。

私の人生最期の日。

絵は、
私にとって人生そのものだから。

それを奪われるくらいなら、
死んだ方が良いから。

今日の結果だけが、
私とこの世とを繋いでくれている唯一の命綱。

その命綱が切れたなら、
潔く死ぬべきだって思うから……。

……。

……。

……でも。

でも明後日は、
私が自分の思いの丈を伝えたミヤザワ君から、
その返事をもらえる日……。

なのに、
私がこの世にもういなかったなら、
ミヤザワ君は悲しむだろう……。

私が死んだのは、
自分のせいだって、
勘違いしちゃうかもしれない……。

……。

……。

……それに。

明々後日は、
幼馴染で私の一番の親友、
トモミの結婚式の日……。

友人代表として、
スピーチも頼まれてる……。

そんな晴れの日に、
私が死んだなんて聞かされたら、
私がその立場だったなら、
どんなに気分が悪いだろう……。

……。

……それは、
新婚旅行に行っている間だって、
同じだろう……。

帰ってきてすぐに、
そんな報せを受けたなら、
幸せだった気分が
一気に台無しだろう……。

……。

……あっ、そういえば――。


【了】


ちなみに、
同じお題(【命綱】【誕生日】【諦め】)で書かれた、
平井十一・作『誕生日に雪山で』コチラ









【小説】 ピタジマ・作 『太宰治』 【三題噺(ばなし)・第41回】

2012-12-05 02:30:30 | 三題噺
お題:【聖書】【機関銃】【太宰治】


ピタジマ・作



機関銃の一斉掃射が、
俺を襲う。

恐らく、
敵対組織の連中だと思うが、
奴ら一般人を巻き込むことにも
躊躇しないとは――。

いよいよなりふり構って
いられなくなったらしい。

道を歩く俺を、
すれ違いざまに、
車中から狙い、
そのまま走り去っていくのが見えた。

銃弾を体中に受け、
倒れながらも、
そのわずかな時間の間に、
これまでの様々な事柄が
頭の中を通り過ぎていく。

今でこそこんなヤクザものになっちまったが、
子供の頃は田舎では神童と持て囃され、
中高生の時分は地域一番の学校に通い、
大学時代はちょっとした文学青年だった。

中でも俺の人生に大きな影響を与えたのが、
太宰治だ。

彼の作品は俺にとっての、
聖書だと言い切っても良い。

何度、
魂を救われたことか……。

そして、
今も――。

地面に倒れると共に、
俺はムクリと立ちあがった。

いつでも読めるようにと、
常に携帯していた太宰治の『グッド・バイ 』を、
胸ポケットから取り出してみる。

本のど真ん中に、
銃弾がめり込んでいた。

さらに、
左右のズボンのポケットから、
『お伽草紙』と『ろまん燈籠』。

左右のアームカバーから、
『津軽』と『パンドラの匣』、
左右の肩パットから、
『きりぎりす』と『晩年』。

そして帽子の中に入れておいた
『人間失格』を取り出す。

同じように、
すべての本に綺麗に、
弾が撃ちこまれていた――。

どうやら今日は魂ばかりか命まで、
太宰治に救われてしまったようだ。


【了】


ちなみに、
同じお題(お題:お題:【聖書】【機関銃】【太宰治】)の、
ピタジマ作の別作品『修道服と機関銃』コチラ