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チャーリーブラウンによろしく

2年ほど放置していたブログですが、ヤプログから引っ越してきました。
更に数年を経て、ようやく再開しました。

叫風一過 4

2015年11月01日 | 小説
したり顔で語尾を伸ばすレポーターに向かって、毒づく。窓枠を揺らしながら、風がまた歌った。それは、ヌンクの「叫び」を、明幸に思い出させた。今にも、自分があの絵と同じように何かを恐れ、怯えて叫び声を上げそうだと、彼は感じた。恐れ、怯えているのは、事故の悲惨とその責めを負うことだった。そしてもう一つ。逃げ出してしまった自分。
 力を込めて窓を閉めた。悲鳴は断たれた。テレビを消した。
(前回ここ迄)
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 スマート・フォンが震えながら着信のメロディを奏でた。液晶に、「15:27 佳乃」と浮かび上がる。そう言えば、今夜、佳乃と会う約束だった。待ち合わせをどうするかの電話だろう。明幸はためらう。普段通りに話せる自信が無い。小さな画面を見つめたまま、大変なことをしてしまったと、彼は今更ながら考え始める。出たものかどうか迷っている内に、鳴動は止まった。
 しばらくして、スマート・フォンが、今度は手紙を受け取ったと知らせた。画面を指先でこすり、それを読んだ。
「マスターほめてたよ。よかったな。今日、そっち行くね。ダイエタリーにモツ鍋しようぜ。暑いけど」
 佳乃の絵飾りをふんだんに使ったメッセージだった。
 一時間ほど経っただろうか。鍵が明るく鳴る音がして、ドアノブが回り、扉が開いた。佳乃だった。はじける笑顔がのぞき、照れくさいのか男っぽく「よぉ」と言うと、ずかずかと部屋に入り、恋する女だけがまとう自信を、ミニリュックと一緒に脱いだ。
「なんや。もうちょっと歓迎してよ。飲み過ぎて二日酔いか知らんけど、佳乃さんが気を利かせて、掃除とかしに来たんやで」
 佳乃は、「おう」という元気の無い反応しかできなかった明幸に不平を言うと、散らかった衣類をかき集め、洗濯機へと直行した。
「夜、降水確率百パーやから、後でコインランドリーで乾かそな」
佳乃は快活に動き回った。しばらくして掃除を終えるや、明幸の背を押すようにして夕食の買い物に引っ張り出し、途中、コインランドリーに立ち寄った。バッグの洗濯物を乾燥機にぐいぐいと入れながら、佳乃は、かねてからの疑問を、さりげなく口にした。
「今日、迷惑やった?」
「え、なんで」
「暗いもん。…いいや。『そんなことない』ことないねんて。暗いし元気ないもん。なぁ、なんでやの。なんかあったん?」
 明幸の反論を鼻先で遮り、佳乃は陽気に疑問の真ん中を割った。
 顔を見なければ、話せるかもしれない。乾燥機の前、佳乃が横に並んで座ったのを機に、明幸は話を切り出した。
「昨日の他のメンバー、偶然、まっちゃんとコウスケで、久しぶりに三人が揃うたねん」
 各々のスケジュールのやりくりで、当初予定していたメンバーが変わることはジャズのライヴではよくある。
「うん…。で?」
 佳乃は、珍しくもないだろうという顔で頷き、先を促した。
 請われるままに、彼は、演奏が上手くできたことから順を追って、突風が帽子を飛ばしたところまでを一気に話した。
 それが、どうしてこれほど気分をふさぐことになるのだと問いたげに、佳乃は再び相づちを打ち、「で?」と顔を覗き込んだ。









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