変にしてはおかしな英語と日本語の解体珍書

変にしてはおかしな英語と日本語、訳語、訳文を解剖・解体、ついでに英語の語法・文法なども解説しちゃう蕪呂倶

がん vs 癌 vs ガン

2006年10月05日 | Weblog
「がん」と「癌」の使い分けについて次のような説があります:
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「がん」とひらがなで書いた場合は、「細胞が勝手気ままに増殖を続けたあげく」それが原因で、宿主である人が死んでしまう、すべての病変をさします。
胃癌、乳癌、肺癌といったよく耳にするものの他、筋肉のがんである筋肉腫や、骨のがんである骨肉腫、液性がんとも呼ばれる、白血病などもすべてが含まれます。
「ガン」も「がん」とほぼ同意で使われていると思います。
「癌」と漢字で書いた場合は、発生学的に上皮性のものをさします。
http://www2.plala.or.jp/oniwa-kokko/saibousin/gangan.html

●漢字の「癌」と仮名で書く「がん」あるいは「ガン」は同じものと思われているかも知れませんが、正確には違っています。「癌」は上皮細胞、たとえば胃の粘膜上皮細胞や肺の気管支上皮細胞の悪性腫瘍であり、「がん」はこれらも含めたもっと広い意味での悪性腫瘍を言います。英語では前者はcarcinoma、後者はcancerと使い分けています。ですから、胃癌や肺癌と書き、愛知県がんセンターと書くわけです。
http://www.naoru.com/gann.htm

医学用語では「がん」と「癌」は使い分けられています。
上皮が悪性化(がん化)したものを「癌」と言って漢字で書きます(胃癌、大腸癌、食道癌、皮膚癌、膀胱癌、子宮癌など)。
筋肉、骨、血液細胞、リンパ球などです。筋肉や骨が悪性化(がん化)したものは「癌」と漢字では書かないで、肉腫(平滑筋肉腫、横紋筋肉 腫、骨肉腫など)と言います。
また、血液細胞やリンパ球が悪性化したものは、白血病、リンパ腫というように表現します。
「癌」、「肉腫」「白血病」「リンパ腫」など全ての悪性腫瘍を表現するときはがん」または「ガン」とひらがなやカタカナで表 現します。
「白血病は血液の癌」と書かないで「白血病は血液のがん」と書きます。「国立癌センター」ではなくて「国立がんセンター」なのは、この決まりご とのためです。
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しかし実際には次の説が正しいようです:
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「がん」を癌以外の肉腫などを含めた総称として用いるのは通例であり、医学用語として厳密に定義されているわけではありません。
http://oshiete1.goo.ne.jp/kotaeru.php3?q=589067
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さて、なぜ二番目の説の方が正しいか?

「愛知県がんセンター」のように名称の一部に「がん」を使用している団体はいくつかありますが、一方で下記のように「癌」を使用しているものの、その対象は上皮細胞癌に限定されるものではなく、白血病、筋肉腫、骨肉腫なども含まれています:

  高松宮妃癌研究基金
  佐藤記念癌研究助成基金
  財団法人癌研究会
  大阪癌研究会
  日本癌学会
  日本癌治療学会

次に、愛知県がんセンターのウエブサイトをのぞいて見ますと、下記のように上皮細胞癌も「がん」と表記していますので、この団体では「癌」という難しくて恐ろし気な漢字を避けて平仮名の「がん」に統一しているだけであることがわかります:

食道がん  胃がん  大腸がん  肝がん  胆道がん  膵がん  乳がん  子宮頚がん  子宮体がん  卵巣がん  肺がん  皮膚がん  前立腺がん  膀胱がん  腎細胞がん  甲状腺がん

さらに「国立がんセンター」のサイトをのぞいてみますと下記のようになっておりまして、これらは「癌」と「がん」は別物であるとする説では説明が付きませんので、やはり「癌」という漢字を避けて平仮名に統一しているだけであることがわかります:
 胃がん
 大腸がん
 肺がん
 肝細胞がん
 膵がん
 血液・リンパのがん
 食道がん
 前立腺がん
 乳がん
 子宮頸部がん
 子宮体部がん(子宮内膜がん)

また、日本癌学会のウエブサイトでは「癌」の他に「がん」も使用しており、表記の統一ができていないようです。

蛇足ながら、「癌」と「がん」の区別を付けなければならないとしたら「抗癌剤」と「抗がん剤」も区別する必要が生じますが、実際にはそのような区別はなされていないようです。また、医学用語辞典などでは「がん」という表記はまず見当たらず、『ドーランド図説医学大辞典』に"cancer"に対する訳語として「がん[遺]」という記述があるのみで、遺伝子工学とか遺伝学分野で「がん」という表記が使われているらしいことがうかがわれる程度となっています。

「癌」と「がん」を無理に使い分けようとしても、スピーチでは区別できませんのでナンセンスでしょうね。

なお、片仮名で「ガン」と書くこともありますが、外来語ではありませんので片仮名で書くのは一般的ではないようです。