寓話「父の日と乳の日」

昔々、ある村に若くて美しい女性が住んでいました。

彼女の名前は美咲といい、明るい性格と親切な心で村人たちから愛されていました。

美咲は毎日のように山へ水を汲みに行き、村の子供たちに昔の話を聞かせては笑顔で教えていました。

美咲には父親がおり、彼は村でも有名な猟師でした。

美咲がまだ幼い頃、父親は森での狩猟中に事故に遭い、片足を失ってしまいました。しかし、父親はその後も決して落ち込むことなく、娘に狩猟の技術や生きるための知恵を教え続けました。

ある日、美咲が13歳の誕生日を迎えた時、父親は静かに彼女に言いました。

「美咲よ、将来お前の世話になることはないだろう。きっと強い女性になるだろう。だから自分を信じ、努力を惜しまないでほしい。」

美咲は父の言葉を深く心に刻みました。

彼女は村一番の美女として成長し、多くの若者たちからプロポーズされることもありましたが、美咲は自分の道を進むことを決意しました。

やがて美咲は30歳を迎え、村の人々からは「美しいだけでなく、優しく強い女性」として尊敬される存在となっていました。

しかし、美咲にはある悩みがありました。それは、父親との確執です。

美咲は父親に対して感謝と尊敬の気持ちを抱いていましたが、一度も父の日に何かを渡すことはありませんでした。

子供時代は貧乏で、幼い頃から猟師として生きなければ人生。

裕福な家に生まれていれば、もっと違った人生が広がっていたかもしれません。

そんな人生の選択肢を与えてくれなかった父親を、心の底で恨んでいたのです。

ある日、美咲は村の外れに住む老人から「乳の日」という不思議な行事について聞かされました。

老人は語りました。「乳の日は、昔から続く風習で、父親に感謝の気持ちを込めて、乳製品を贈る日です。」

美咲はその言葉を受け、自分の父にも乳製品を贈ろうと決心しました。

父親も老いました。

あと何度、乳の日を迎えられるかわかりません。

そうして、父親の元を訪れ、感謝の意を込めてチーズを差し出しました。

父親は驚きの表情を浮かべ、喜んでチーズを受け取りました。

「美咲よ、なぜ急にチーズを？」父親は尋ねました。

美咲は笑顔で答えました。

「父の日に何かを渡すことがなかったことを後悔しています。でも、このチーズは私の感謝の気持ちが詰まっています。」

父親は黙って頷き、チーズを受け取った手で美咲の頬を撫でました。

その時、美咲は父親の目に涙が宿るのを見ました。

彼女は初めて、父親の強がりの裏に隠された深い愛情に気づいたのです。