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短編小説〜気づいてはいるのだけれど今更な〜②

2024-03-16 15:42:00 | 短編小説

 「確かに商業施設や駅などに設置されてる、倒れた人が出た時に、止まった心臓へ電気ショックを与えるAEDは使い捨てで、再使用ができないから買い替えらしいけど、モッタイナイはひどくないだろうか?」


 「ツバでもつけとけばいいでしょう?杉岡さんならそれで十分です」

 

 そう言って指をさして笑う田所さんは、五年前と何も変わらないのでした。


 一年前に勤めていた会社が倒産して無職になった僕は、二十年分の退職金が振り込まれたのを良いことに遊び歩いていました。どうせ無かったような、降って湧いた泡銭である三百万。再就職するのはそのお金が心許なくなってからでも良いだろうと思っていたのです。

 しかし、兎にも角にも四十七歳です。いかに心は十四歳であると自負している僕ですが、打ち寄せる歳には勝てるわけがありません。

 ハローワークで求人を検索した時には絶望感しかありませんでした。

 月100時間を超えた残業時間や、残業代に休日出勤代も出ない手取り二十二万の前職でしたが、四十七歳の何の資格も取り柄も無い高卒の僕が再就職をしようと思ったら、手取りの相場は十五万なのです。

 気がついてはいたのですが、あまりに人生の積みっぷりに、心病むのは理解できるかと思います。

 パチンコで一月に50万負けたりしたのも仕方ありません。

 気がつけば体重もパンパンに増えて、血圧も服薬しているのに鰻登りでした。

 かかりつけのお医者様に痩せるように言われた時には、血糖値も上昇していたのです。


 「ふくしのがっこうにかよっています」

 「向いてそうだとはおもいますけど、その言い方はなんですか?」

 「なぜか分からないけれど、みんなに向いているって言われるんだよね。僕の何がわかるのさ‼︎って言いたいところだけれど、年齢的な事や、未経験でも働けるって事で色々考えたら、介護の仕事を探すしかないかと思ったんだよ。それで職業訓練もあるっていうから申し込んだんだ。選考試験と面接があったんだけど、落ちたと思っていたら受かってね」

 「見る目ないですよね。学校も。杉岡さんが試験に受かるとか、問題は五十音の書き取りとかだったんですか?」

 「ひどいな‼︎ 問題は中学卒業程度の国語と数学だよ。分数の計算なんて覚えてないから、小学校六年間分の算数の参考書買って試験前に勉強したよ。国語は割と出来たと思うけど、数学は問題を見た瞬間に時間がかかると思ったから、国語の問題からやったよ。数学は捨てに行った」

 「わたしも分数の計算を今やれと言ったら自信ないですね。試験中にゲロを吐きそうです」



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