楯師が「婆さんたちはひょっともはっともない、地獄一定じゃぞ。譬えていえば、町内一の金満家の一人息子が大学を卒業して帰って、嫁を探している。十八から二十二までの娘を望んでいるので、親族からも写真を持って見せに来る。用事もないのに、近所の娘は満艦飾しては家の前を通ってみる。その話を聞いた同じ町内の七十になる小ぎれいな婆さんが『あそこの息子さんは嫁を探しているということだが、わしは髪を染めたらきれいだし、腰も屈ってはいないから、まんざら捨てたものではない、ひょっと貰いに来やせんだろうか』自惚れるなよ、私は素直に聞いている、願力の不思議に目はつけているが「ひょっと」堕ちはすまいか。とぼけるな、お前が墜ちんで誰が墜ちるのだ、ひょっとは彌勒菩薩しかつけられない言葉だぞ」
(「教訓」p188)
(「教訓」p188)