岩崎彌太郎氏の母は我が児が天下の大富豪となってからも常に藁草履をつくって履いていられた。そして、彌太郎氏に向って『お前もこれを履きなさい』と富んでも昔の貧しさを忘れるなと教訓身に沁みて『はい』といって藁草履をつっかけたまゝ大臣の官邸などに出かけられた由、なんと奥床しい心だろう、この孝心あればこそ天下の富豪とも成り得られたのである。これに付けても自分の心の浅間しさを反省せずにはいられない、常に反逆の心を抱いていないだろうか、親の仰せに背いてはいないだろうか。
(「教訓」p8)
(「教訓」p8)