造田博の場合■自己に似て非なる他者へのアイデンティティ殺人事件■現代人に突如として襲い掛かる”ブランク”の恐怖
造田には、非英雄としてのオタクのイメージは、どこかしら大事な部品が欠けていて、うまく像を結び合わせることができません。
どちらかといいますと、現代版「火宅の人」で、高校中退後の6年間に転職「14回」というのは、仏心を宿らせているからできることで、求道家のイメージしか湧いてきません。
その一方で、同じように通り魔無差別殺傷事件を起こした(明らかに求道家ではない)加藤智大と、重なる一面があるというのは、どういうわけでしょうか。
ちなみに挙げてみますと、犯行を決意してから決行するまでの期間が短いこと。その間に、凶器を買い揃えていること。真っ昼間の凶行。事件を起こす前は、メールを第三者に大量に送りつけていること。職を転々としていたことなどです。
他に、車好きの点ですが、造田の中学時代にレーサーになるにはカートが必要と考え、「親にせがんで数10万円のカートを買ってもらってい」ます(『無限回廊』「池袋通り魔殺人事件」)。これに対し、加藤は、高校時代に、バイク部に入部した際、100万円は下らぬというバイクを買ってもらっています(『フライデー』)。
共通面に注目して、掘り下げれば、何かが見えてくるかもしれませんが、ここでは、「ブランク」にテーマを絞ります。
というのは、「ブランク」を掘り下げることによって、「現代」が見えてくるからです。
造田の場合、「ブランク」といっても異なります。職業の転々は、職種も転々なわけですから、たとえば、失職して求人募集している会社を就職情報誌でお気に入りを見つけ、面接を受けることにします。その際、履歴書を会社に提出するわけですが、そこに書き込まれた離職歴は、面接担当者の目から見ると、いくら社会人体験が豊富でも、「ブランク」を生きただけのゼロ人間と映るのではないでしょうか。
ですから、「なぜ、当社を?」という疑問に襲われてもおかしくはありません。
それでも「未経験者の入社、大歓迎」という看板を取り下げるわけにはゆきませんから、20台前半という若さを買って、採用に踏み切ります。
当然、即戦力は期待できませんから、身分は見習いで、最低の賃金でのスタートを余儀なくさせられます。
懸念材料は、すぐに辞められることですから、「おいしい会社」と思わせようと努めます。
中には、慣れた口調で、スーパートークを次から次に繰り出すお調子者もおります。
「昇進昇給は、君の努力次第だよ。三ヵ月後には、堂々と胸の晴れる正社員の仲間入り。もち、ベースアップ付き。努力が認められれば、主任のポストがすぐにでも転がってくる。その上に、実力が加われば、課長のポストがもぎ取れる。決して社長のポストも夢ではないのが、当社の誇る能力主義ゆえの最大のメリットがそこにある。さらにイ、その上を行く、当社の目玉は、なんといってもセレブ気分の味わえる海外への慰安旅行、オーストラリア豪華客船に乗って世界一周の船旅、一週間!!さらにさらに、ボーナスはトヨタ越えは当たり前、名古屋名物金の鯱越えの豪華特盛イ~、な、なんと二十ヶ月分・・・」っと。
そうやって夢のような言葉に躍らされた造田は、ホント、可哀そうです。
だって、全部が全部、裏があってですね、たとえば、「世界1周の船旅」なんて、1週間そこらでやれるわけはないですよ。韓国へ旅行したら、次は、中国へ、というように100年がかりの計画ですよ。無論、実費は、自分持ち。ボーナスだってね。からくりがあるとかいう以前の問題ですよ。信じる方が、バカ。職場は、サービス残業、パワフル、給料未払い、おかしな天引き(ただと思って、工事用ヘルメットを借りたら、一回に付き300円のリース料をとるような会社が、現実に存在するんですからね)等が日常化常態化していて、生き地獄ではないという方がおかしいと思います。
まあ、そんなこんなで、工場勤務は諦め、新聞配達員として着地先を特定してきます。
ここで、なぜ造田は建設作業員ではなく、新聞配達員の方を選んだのか、と疑問に思いました。
新聞配達員の特徴は、学生アルバイトで占められていることですよね。
主婦の方もおりますが、高校生や大学生に混じって浪人もおりますから、造田は自分に似た境遇を持つ彼らに対して、他では得られなかった仲間意識を持ったのではないでしょうか。
彼らの実際はどうかまでは知りませんが、社会通念上は、働きながら学びの道を選んだ苦学生の集まりです。
学生としてモラトリアムの期間を生きていながら、働くことで社会へ恩返しをしているわけですが、履歴書の中の「ブランク」を生きていることには変わりありません。
というのは、新聞配達員をやったからといって、即戦力を期待する会社なんて、新聞販売店ぐらいのものでしょう。
いや、そのことが問題なのではなく、モラトリアム期間を生きたモラトリアム人間とごっちゃにされてしまうことが問題なのに、一方的に、「ブランク」と処理されてしまうことです。
つまり、モラトリアム人間は、、モラトリアム期間を脱する際、学歴に裏付けられた結果が伴っていないと、ブランクを生きたブランク(ゼロ)人間として処理されてしまうっていうわけです。
一方の建設作業員の多くは、履歴書の中に目に見えるような「ブランク」の期間は見当たりません。
在学中は、ブランクと不良デビューが重なるなど、問題行動の多い生徒であったとしても、卒業後は、ブランクを感じさせない働きで頑張っています。
としても、彼らの経歴に大学生時代をすごしたモラトリアム期間のないことが、最大の理由として挙げられると思います。
少年院入所経験者は、書くまでもなく、履歴書の中の「ブランク」は残ります。
確実にいえることは、造田は建設作業員に対して仲間意識をもてなかったことです。
私はその理由として、新聞配達員は、モラトリアム人間のように職業意識はゼロではないのに、ゼロ人間として生きらざるをえない彼らの存在(つまり、造田のいう「努力する人」)に対して、共感を覚えたからではないかと考えました。
造田には、非英雄としてのオタクのイメージは、どこかしら大事な部品が欠けていて、うまく像を結び合わせることができません。
どちらかといいますと、現代版「火宅の人」で、高校中退後の6年間に転職「14回」というのは、仏心を宿らせているからできることで、求道家のイメージしか湧いてきません。
その一方で、同じように通り魔無差別殺傷事件を起こした(明らかに求道家ではない)加藤智大と、重なる一面があるというのは、どういうわけでしょうか。
ちなみに挙げてみますと、犯行を決意してから決行するまでの期間が短いこと。その間に、凶器を買い揃えていること。真っ昼間の凶行。事件を起こす前は、メールを第三者に大量に送りつけていること。職を転々としていたことなどです。
他に、車好きの点ですが、造田の中学時代にレーサーになるにはカートが必要と考え、「親にせがんで数10万円のカートを買ってもらってい」ます(『無限回廊』「池袋通り魔殺人事件」)。これに対し、加藤は、高校時代に、バイク部に入部した際、100万円は下らぬというバイクを買ってもらっています(『フライデー』)。
共通面に注目して、掘り下げれば、何かが見えてくるかもしれませんが、ここでは、「ブランク」にテーマを絞ります。
というのは、「ブランク」を掘り下げることによって、「現代」が見えてくるからです。
造田の場合、「ブランク」といっても異なります。職業の転々は、職種も転々なわけですから、たとえば、失職して求人募集している会社を就職情報誌でお気に入りを見つけ、面接を受けることにします。その際、履歴書を会社に提出するわけですが、そこに書き込まれた離職歴は、面接担当者の目から見ると、いくら社会人体験が豊富でも、「ブランク」を生きただけのゼロ人間と映るのではないでしょうか。
ですから、「なぜ、当社を?」という疑問に襲われてもおかしくはありません。
それでも「未経験者の入社、大歓迎」という看板を取り下げるわけにはゆきませんから、20台前半という若さを買って、採用に踏み切ります。
当然、即戦力は期待できませんから、身分は見習いで、最低の賃金でのスタートを余儀なくさせられます。
懸念材料は、すぐに辞められることですから、「おいしい会社」と思わせようと努めます。
中には、慣れた口調で、スーパートークを次から次に繰り出すお調子者もおります。
「昇進昇給は、君の努力次第だよ。三ヵ月後には、堂々と胸の晴れる正社員の仲間入り。もち、ベースアップ付き。努力が認められれば、主任のポストがすぐにでも転がってくる。その上に、実力が加われば、課長のポストがもぎ取れる。決して社長のポストも夢ではないのが、当社の誇る能力主義ゆえの最大のメリットがそこにある。さらにイ、その上を行く、当社の目玉は、なんといってもセレブ気分の味わえる海外への慰安旅行、オーストラリア豪華客船に乗って世界一周の船旅、一週間!!さらにさらに、ボーナスはトヨタ越えは当たり前、名古屋名物金の鯱越えの豪華特盛イ~、な、なんと二十ヶ月分・・・」っと。
そうやって夢のような言葉に躍らされた造田は、ホント、可哀そうです。
だって、全部が全部、裏があってですね、たとえば、「世界1周の船旅」なんて、1週間そこらでやれるわけはないですよ。韓国へ旅行したら、次は、中国へ、というように100年がかりの計画ですよ。無論、実費は、自分持ち。ボーナスだってね。からくりがあるとかいう以前の問題ですよ。信じる方が、バカ。職場は、サービス残業、パワフル、給料未払い、おかしな天引き(ただと思って、工事用ヘルメットを借りたら、一回に付き300円のリース料をとるような会社が、現実に存在するんですからね)等が日常化常態化していて、生き地獄ではないという方がおかしいと思います。
まあ、そんなこんなで、工場勤務は諦め、新聞配達員として着地先を特定してきます。
ここで、なぜ造田は建設作業員ではなく、新聞配達員の方を選んだのか、と疑問に思いました。
新聞配達員の特徴は、学生アルバイトで占められていることですよね。
主婦の方もおりますが、高校生や大学生に混じって浪人もおりますから、造田は自分に似た境遇を持つ彼らに対して、他では得られなかった仲間意識を持ったのではないでしょうか。
彼らの実際はどうかまでは知りませんが、社会通念上は、働きながら学びの道を選んだ苦学生の集まりです。
学生としてモラトリアムの期間を生きていながら、働くことで社会へ恩返しをしているわけですが、履歴書の中の「ブランク」を生きていることには変わりありません。
というのは、新聞配達員をやったからといって、即戦力を期待する会社なんて、新聞販売店ぐらいのものでしょう。
いや、そのことが問題なのではなく、モラトリアム期間を生きたモラトリアム人間とごっちゃにされてしまうことが問題なのに、一方的に、「ブランク」と処理されてしまうことです。
つまり、モラトリアム人間は、、モラトリアム期間を脱する際、学歴に裏付けられた結果が伴っていないと、ブランクを生きたブランク(ゼロ)人間として処理されてしまうっていうわけです。
一方の建設作業員の多くは、履歴書の中に目に見えるような「ブランク」の期間は見当たりません。
在学中は、ブランクと不良デビューが重なるなど、問題行動の多い生徒であったとしても、卒業後は、ブランクを感じさせない働きで頑張っています。
としても、彼らの経歴に大学生時代をすごしたモラトリアム期間のないことが、最大の理由として挙げられると思います。
少年院入所経験者は、書くまでもなく、履歴書の中の「ブランク」は残ります。
確実にいえることは、造田は建設作業員に対して仲間意識をもてなかったことです。
私はその理由として、新聞配達員は、モラトリアム人間のように職業意識はゼロではないのに、ゼロ人間として生きらざるをえない彼らの存在(つまり、造田のいう「努力する人」)に対して、共感を覚えたからではないかと考えました。