反・公式的見解

夢の形は千差万別、儚くも燃ゆる我が命、私の軌跡は明日への奇跡

僕の背中には羽がある

2005年06月05日 | Weblog

 あ~邪魔だ。なんでこんなものが生えたんだ。よりによって俺の背中に。常に愛息には口では語らず背中で語り、ハイビジョンシアターも真っ青の「黙した背中語り」の術を誇ってきたのに、今のこの状況はどうだ、背中は静かに生き様を語るどころかパタパタパタパタと羽音を四六時中発しているではないか。これでは間違いなく亡命の際税関で引っかかるし、説明のしようがない。「僕の一部です」なんてとても言えない。切実なのは車だ。今後間違いなくオープンカーしか乗れない。屋根があっては羽が圧迫されて苦しい。いつまでも「翼の折れたエンジェル」で生き続ける訳にもいかない。
 
 そりゃ何度も思った、何度も思ったさ、翼があればいいな~なんて。行きたい所には軽く飛んでいけるし、腐臭溢れる人間界を冷めたニヒル目線で眺めることも出来る、そんな鳥類ライフinJAPANを夢見てたさ、確かに。でもまさかこんな突然生えなくても。もう少し徐々に生えてきて、周囲の人間も「ああ、あの人、進化系だ。羽バージョンの人だ。あの生え始めの羽が大きくなる頃にはあの大空に翼広げ飛んで行きたいところに行けるんだな~、いいな~。」という意識を植えつつ羽を育てることが出来たのに。次に人と会うのを恐れることもなかっただろう。いきなりこんな立派な翼を引っさげて、どの面下げて人に会えばいいんだ。「僕は全然以前と変わってませんよ」なんて振り、出来る訳がない。「変わってないというよりむしろ前から生えてましたよ」なんて振りも無理だ。

 本当に困っているのはそんなことじゃない。俺に羽が生えたことなんて多少最初のうちマスコミに取り上げられるくらいで、人の噂も75日、周囲も慣れれば今までと同じように接してくれるだろう。しかし、今まで何度も欲しいと願っていた翼が、あの星空に描いていた翼が、冒頭にも述べたが、こんなに邪魔なものだとは思いもよらなかった。

 とにかく寝にくい。この寝にくさといったら半端じゃない。まず上を向いて寝られない。羽が圧迫されて痛い。さらに寝返りがうてない。そんなことをしようとするものなら、骨格的なものがギシギシと鈍い音を立て、言葉少なに未来を夢見ることすら出来ない。自分がこうなって初めて、鳥がなぜ下向きに丸まって寝るのかが分かった。彼らは身分相応の寝方を考案していたのだ。なんて俺は愚かだったんだ・・・。

 さらに寝たあと布団が羽毛だらけになる。誰でも寝ているときに体がビクッとなるが、そのたびに羽毛がバサバサと落ちる。朝起きれば常に周りはフカフカだ。羽毛布団いかに儚きものなのか。

 とにもかくいにも、俺はこれからこの翼とともに生きてゆかねばならない。収納式ではない為、いつでもどこでもしっかり羽がついている。でもお願いだ、冷たくしないで欲しい。間違いなく人間の発展系であるのだから、むしろ羨望の眼差しで慈悲と尊敬の念を込めて接してもらいたい。さもなくば、僕はこの翼をフル活用して、天高く上る太陽めがけてただただ昇り続けることになるだろう。