「気づいたのね。ちよっと、先生呼ぶね!」と妻の喜代がそばにいた。一瞬なにが起こったのか整理できなかったが、どうも元の世界に返ってきたみたいだ。
「小椋さん、大丈夫ですか?」医者らしき人と看護師が問いかけた。
「体ですか?頭ですか?」と訳のわからない返答を返すと、
「両方ですかね。なにしろ二週間、意識がなかったんですから。外傷はさほどではなかったんですが、事故によるショックが原因だったのでしょう。とにかく、意識が戻られてよかった。」その言葉に健一は、(「えっ、二週間?俺は昭和16年から20年の四年間をタイムスリップして過ごしたはずだが?」)と思った。だが、考えてみれば戻ってきたときの時間がキッチリ四年経ったことにはならないのだ。時間の流れからすれば60年以上飛び越しているのだから多少誤差があっても仕方ないのかと健一は一人で納得していた。
「意識も戻りましたから検査をしてから異常なければ退院の日も決まると思います。もう今日は時間も遅いので、奥さんも家に戻られてから、また明日ということでよろしいでしょうか?」と医師は言って病室をあとにした。
「じゃ~、私は帰るね。また明日来るから。」
「あ~、ちょっと、この二週間ずっとそばにいてくれたのか?」と聞くと、
「そうですよ。」と喜代が答えた。
「ありがとう。大変だったね。」と健一がいうと喜代は首を小さく横に振った。
「じゃ~、お休み。」
「うん、お休み。」と言って喜代も病室を出て行った。
健一は一人になりこれまでのことを思い起こしていた。
「まあ~、お休みといわれても今まで寝ていて眠たいはずもないか。」などと独り言を言っていた。それでも、点滴のせいか次第に眠気が襲ってきた。
健一は次の日の朝6時に目が覚めた。まだ外の景色は真っ暗だった。だが空の一角が妙に明るいところがあった。
健一は何気なくその一角を眺めていた。
すると、そこから一筋の光が健一の病室の窓目掛けて飛び込んできた。まるで、その光は生きているかのように病室を飛び回り、健一と対面した壁でピタリと動きを止めしだいに人の形になってきた。どこか懐かしく、そして見憶えのある・・・
それは昨日まで昭和二十年、原爆投下時点での健一の姿であった。
「君は健一君だよね?」ベッド上の健一が尋ねると、
続く・・・・・
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