バレエ&音楽日記

舞台は一期一会。素敵な舞台にまた出会えますように…。

ABT: Don Quixote, July 30, 2011 追記あり

2011-08-04 02:45:56 | 海外バレエ
三名のお友達と一緒に、ホセに花束とカードを贈りました。開演前に
係の方にお預けしたのですが、なんと、カーテンコールの時に
ステージで、ホセに手渡されました。カーテンコールの時にずっと、
その花束を抱えてくれていたホセの姿に、涙が止まりませんでした。

前週に、コヴァルスキーありがとうって看板が終演後に降りてきたので
期待してしまいましたが、特に演出はなく。
共演のパロマ・ヘレーラからレイが贈られたくらいかしら。
偉大なプリンシパルの、ABTダンサーとして最後の舞台なのに、少し不満が
残りました。
ただ、自分が贈った花束をずっと持っていてくれて、帰りのバスにも
持ち込んでくれていたのを見て、舞台を降りても素敵な方だと思ったのでした。

舞台の感想は、また後で。

・・・・・・

日本、しかも東京ではなく西宮をABTダンサーとしてのラスト・パフォーマンスの
場所として選択したホセ。
当日、メンバー表を確認するまで・・・そして、舞台上に現れるまで
実はドキドキ。
なぜか?前回のABT来日公演の時、大阪での「海賊」公演。
当初、アリ役にはアンヘルが発表されました。ご存じの通り、アンヘルは
怪我で降板。その代役としてホセの名前がコールされていました。でも・・・
当日、フタを開けてみたら舞台上にはエルマン(コルネホ)がいた、と。
なので、ホセが舞台に登場した瞬間、既に胸が熱くなった。
本当に来てくれた!と。

カンパニーとしても、偉大なプリンシパル・ダンサーの花道とすべく
ベストなメンバーを揃えて来たし、何より気合いの入り方が
違ったように思った。

流れの中でスムーズにサポートをこなし、リフトも万全。
いわゆる片手リフトで少し歩いてしまったのはご愛敬?
この人に任せておけば間違いはない、パロマも満面の笑顔で
リフトされていたように見えた。

ワイルドで、大人の男性としてのセクシーさがあって、かつ下品にならない
ノーブルさを持ち合わせている希有な存在。
ドン・キのバジルは彼の持ち味を存分に発揮できる役だと思うし、
この役でフェアウェルを、となったのも納得。
一幕、挨拶代わりの高速ピルエットは、八回転くらい余裕で回っていた。
二幕、ジプシーたちと踊る場面。周囲にいる他の誰よりも回転は
シャープだし、ジャンプした時の足のライン、つま先は美しかった。
酒場の場面、狂言自殺の場面では考え抜かれた仕草できっちりと
笑いを取っていたし、その演技も取ってつけたようなのではなく、
あくまで自然。
三幕、アダージョの時点ですでにホセの瞳には光るものが見えた。
プティパ振付のヴァリエーション。高速ピルエットから減速して
音楽にきっちり合わせてポーズ。

なんと、花売り娘のヴァリエーション・・・どちらだったか?
床の汗に滑って豪快に尻もちをつくというアクシデント。一瞬
ヒヤッとしたものの、すぐさま立ちあがって一安心。
パロマはかっこよくグラン・フェッテを決めてくれた。
そしてコーダ。もう、ここまで来たらホセも涙、観ているこちらも
涙、涙、涙・・・。
最後まで、かっこいいホセ。ありがとう。

エスパーダはコリー君。もう少し垢ぬけたら、と思わなくはないけど、
上背はあるしテクニックも確実。
この舞台の上で、目に見えないバトンが受け渡されたように思えた。
次にABTが来日する時には、彼が主役を踊るのを観られるといいな。


原振付 マリウス・プティパ、アレクサンドル・ゴールスキー
振付改訂 ケヴィン・マッケンジー、スーザン・ジョーンズ
音楽 ルートヴィヒ・ミンクス
編曲 ジャック・エヴァリー
原作 ミゲル・デ・セルバンデス
セット・衣装 サント・ロクァスト
照明 ナターシャ・カッツ

ドン・キホーテ ヴィクター・バービー
サンチョ・パンサ フリオ・ブラガド=ヤング
キトリ パロマ・ヘレーラ Paloma Herrera
バジル ホセ・マニュエル・カレーニョ Jose Manuel Carreno
ガマーシュ クレイグ・サルステイン
ロレンツォ アイザック・スタッパス
メルセデス ヴェロニカ・パールト Veronika Part
エスパーダ コリー・スターンズ Cory Stearns
花売り娘 メラニー・ハムリック、ヒー・セオ
ジプシーのカップル ミスティ・コープランド、アロン・スコット
森の精の女王 ヴェロニカ・パールト
キューピッド サラ・レイン


2011年7月30日(土)17:30開演
アメリカン・バレエ・シアター日本公演
ドン・キホーテ Don Quixote
デイヴィッド・ラマーシュ指揮
ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団

以下、ダメだし。興味ない方はここでストップしてくださいね。























































あー。えーと。
舞台の上で起こる出来事には感動の涙を流したのですが、
オケピットはかなり悲惨。
特に金管!!!
今、ちょうど夏の吹奏楽コンクールの真っ最中ですが、ホルンや
トランペットは全国で金賞を取るレベルの高校生の方が上手いのでは。
猛省&猛練習されたい。

BRB: ダフニスとクロエ & 真夏の夜の夢, May 29, 2011

2011-06-03 23:14:31 | 海外バレエ
三月の大震災、そして原発事故を受けて、たくさんの演奏家やダンサーが
来日中止、公演をキャンセルしています。
バレエだけ見ても、東京バレエ団に客演するはずだった
フリーデマン・フォーゲルやロベルト・ボッレがキャンセル、そして
「ニコラ・ル・リッシュと仲間たち」公演が延期と発表されました。

相次ぐキャスト変更に私たちの心は意気消沈してしまいがちですが、
このような状況の中、カンパニーそろって来日してくれた
バーミンガム・ロイヤル・バレエの皆様の温かい友情には
本当に感謝の気持ちでいっぱいです。日本のバレエ・ファンは
彼らのことを一生、忘れないでしょう。

終演後、ロビーに出たところでバロン総裁に遭遇!
前回、びわ湖ホールでも言葉を交わしたから二度目。
日本公演を全て終えて、満足げに微笑んでおられました。
「私たちはここ(「here」東京?日本?)のファンが大好きなんです。
私たちの舞台を愛して、心から楽しんでくださるから。
またおそらく三年後に戻ってきますよ!」

さて、そんなバーミンガム(以下BRB)の日本公演、私はなかなか
スケジュールが合わず、最終日になんとか駆けつけることが
できました。
(チケットを取ってくださったnaomiさん、感謝です!)

前回の来日公演では、「コッペリア」「美女と野獣」
という
二演目を観ました。佐久間さんとツァオ・チーさんとの完璧な
パートナーシップや、ビントリーの描くおとぎ話の世界はとても
楽しかった。

今回観たのはいずれもサー・フレデリック・アシュトンの振付による
「ダフニスとクロエ」「真夏の夜の夢」の二作品。

「ダフニスとクロエ」の音楽はモーリス・ラヴェルによるもので、
演奏会でも取り上げられる名曲。特に管楽器に聴かせどころの多い
美しい曲です。
作品として観た感じでは、なんとなく音楽に負けていたという気が
しなくもなく。派手な舞台装置があるわけでなく、第一場、第三場は
両サイドに海辺を表すらしい背景画。第二場は海賊の洞窟という設定で、
岩の中のイメージ。
海の精とかパンの神とか、神話との結び付きが強いはずなのに、
ダンサーの衣装は現代風。男性は白い襟つきのシャツにズボン、
女性は色違いのワンピース。
唐突にニンフが出てきて戸惑ったし、半神半獣のパンの神がいきなり
出て来るのも・・・?
振付としては、怒涛のアシュトン作品だなー、と。音を細かく捉えて
ステップを振付けていて、凄いと思わされる。

第一場では、人々がパンの神に祈りを捧げているところ。
色とりどりの女性ダンサーのワンピース、意外と喧嘩はしていないけど
なんとなく違和感。細かいステップを踏んでいくテクニックは流石だけれど、
田舎の羊飼いとしては垢ぬけすぎているのでは。
クロエ役オートレッドは可愛らしい人で、音の取り方も心地いい。
ダフニス役ボンドは少しキレが足りなかった?時折、回転軸が
ぶれるのが残念。
目を惹いたのがリュカイオンとドルコン。ドルコン役ローレンスは
この後、デミトリアスも踊っていたけれど雰囲気のある上手い
ダンサーだと感じた。リュカイオン役はヴァッロ。腕の使い方や
脚のラインが女性的で綺麗。「美女と野獣」でベル(主役)を踊っていた
ダンサーであることを思い出し、あの時はコケティッシュな魅力を
感じたけど今回は妖艶な女性イメージ。いいダンサーだと思う。

神話ですけど何か、な感じで唐突に出て来る三人のニンフたち。
衣装も神秘的で振付もエキゾチックなんだけど、残念ながらイマイチ
そろっていなかった。

海賊の首領、ブリュアクシスを踊っていたのはキャンベル。
この後、パックも踊っていたダンサー。ジャンプのキレがあり、
身体の使い方が上手い。なるほど、パックに向いている。

作品全体を通じて、ソリストはそこそこの実力があるけれどアンサンブルが
少し残念かな、と思った。それからやはり、音楽に負けている。
アシュトンなら、音楽を活かしきったもっといい作品を作れたはずなのに、と
ふと思った。

あと、オケは最悪。
ホルンは高音鳴らせてないし、ピッチも取れてない。
フルートやオーボエ、ブツ切れで色気もあったものじゃない。
プロとして、どうかと思わざるをえない。

「ダフニスとクロエ」
音楽 モーリス・ラヴェル
振付 フレデリック・アシュトン
衣装・装置 ジョン・クラクストン
照明 ピーター・テイゲン

クロエ ナターシャ・オートレッド
ダフニス ジェイミー・ボンド
リュカイオン アンブラ・ヴァッロ
ドルコン マシュー・ローレンス
ブリュアクシス アレクサンダー・キャンベル
パンの神 トム・ロジャース
ニンフたち ヴィクトリア・マール、ジェンナ・ロバーツ、
      アンドレア・トレディニック
羊飼いたち、海賊たち バーミンガム・ロイヤル・バレエ団


「真夏」はメンデルスゾーンの名曲。ただ、バレエでは曲順が
入れ替えられている。Kバレエが上演したのを三月に観て以来

ロイヤル・バレエを引退したプリンシパルで、ロイヤル入団以前は
BRBの前身であるサドラーズ・ウェルズに在籍していた吉田都さんが
ゲスト出演。
都さんはアシュトン作品を得意とする人で、今回も可憐な妖精の女王として
舞台にたたずんでいた。
役を完全に手中の物にしていて、細かいステップや位置取り、他の
ダンサーとの絡みなど全てにゆとりがあって優雅。
何より、本当の妖精のようにどこまでも軽い足捌きには称賛あるのみ!

カンパニー全体の印象としては、「ダフニス」と同様。ソリストには
力があるけれど、アンサンブルとしてどうか。
コール・ドやユニゾンで動く場面など、思わず苦笑してしまうくらいに
揃っていない。Kで観た時の方がよほど揃っていた。
けれど、ソリストクラスの実力は圧倒的。
特に、オベロン役のモラレスは王としての威厳、気品も備え、
技術的にも確か。サポートも万全だったと思う。何より、終盤の
長いPDDを流れるようにこなしていた。彼は六月末に新国でロミオを
踊る。マクミランをどのように造形するのか?楽しみに待ちたい。

続いて、ボトム役のパーカー。前回来日時はサバティカルでBRBを
離れていたため、今回がはじめまして。
とても芸達者な印象。もちろんプリンシパルだし、王子役も
数多くこなしているダンサーだとは思うのだけれど、ガサツな
村人になりきっていてユーモラス。ロバの頭を被っているのに、
表情が見えて来るかのようだからあっぱれ。

四人の妖精たちの、ちょっとした表情や顔の動かし方は踊りなれているから
こその間の取り方なんだろうか。
Kのほうが動きは揃っていたんだけど、このあたりはさすがだと
思わされた。
主役を食わんばかりに縦横無尽に飛びまわるのがパック。
キャンベルは、「ダフニス」の印象と同様に身体の使い方が上手い。
身体能力の高さも目を瞠るものがあった。ただ、この役に関しては
哲也の役作りが一枚上か?

「真夏の夜の夢」
音楽 フェリックス・メンデルスゾーン
振付 フレデリック・アシュトン
衣装・装置 ピーター・ファーマー
照明 ジョン・B・リード

オベロン セザール・モラレス
タイターニア 吉田都
インドからさらってきた男の子 小林巧
パック アレクサンダー・キャンベル
ボトム ロバート・パーカー
村人 ロバート・グラヴノー、キット・ホールダー、ロリー・マッケイ、
   ヴァレンティン・オロヴィヤンニコフ、ルイス・ターナー
ハーミア アンドレア・トレディニック
ライサンダー トム・ロジャース
ヘレナ キャロル・アン・ミラー
デミトリアス マシュー・ローレンス
蜘蛛の精 アランチャ・バゼルガ
エンドウの花の精 レティシア・ロサルド
蛾の精 ローラ・パーキス
カラシナの精 ジャオ・レイ
妖精たち バーミンガム・ロイヤル・バレエ団

「ダフニス」では少し消化不良気味だったけれど、「真夏」は
文句なしに素晴らしいアシュトン作品。ソリストに備わった気品の
ようなものは、貴族社会が残るイギリスならではなのか?
アンサンブルが気になりながらも、日本人が死に物狂いにならなければ
ならない優雅さや気品が既に備わっていることを実感した一日だった。
また、そんな中で圧倒的なオーラを放っていたのが都さんであることに、
日本人として誇らしくもなった。
次回の来日時には、今のBRBの看板である佐久間さんとツァオ・チーの
ペアをまた観たいと切望する次第。


指揮 フィリップ・エリス(「ダフニスとクロエ」)
   ポール・マーフィ(「真夏の夜の夢」)
演奏 東京シティ・フィルハーモニー管弦楽団
合唱 江東少年少女合唱団(「真夏の夜の夢」)

2011年5月29日(日)15:00開演
バーミンガム・ロイヤル・バレエ団来日公演
「ダフニスとクロエ」「真夏の夜の夢」
東京文化会館

Staatsballet Berlin, Boris Eifman: Tshaikovsky, Jan.29 2011

2011-02-05 21:34:37 | 海外バレエ
その名も「チャイコフスキー」
音楽史においても最も偉大な作曲家の一人に数えることに
もはや異論はないでしょう。
美しい交響曲やヴァイオリン協奏曲、弦楽のための数々の曲。
そして、バレエの中でも代名詞的存在である「白鳥の湖」や
「くるみ割り人形」、「眠れる森の美女」。
あるいはオペラ「エフゲニー・オネーギン」や「スペードの女王」。
これらはバレエやオペラとしても、そして音楽だけを
取り出して演奏しても素晴らしいもの。
これらの音楽を世に送り出した作曲家の生涯は、実は多難な
ものであった・・・。
そのチャイコフスキー、この世を去る最後の数時間を
えぐり出した作品ともいえよう。

二幕から成るこのバレエ作品に使われているのは、
いずれも自身の傑作と数えられる数々。
第一幕では交響曲五番が、第二幕では弦楽セレナードと
イタリア奇想曲、そして第六番「悲愴」フィナーレ。

ベートーヴェンの交響曲第五番「運命」に準えて、
チャイコフスキーの「運命」とも称されることのある五番。
第一楽章は、不吉な将来を現すかのようなクラリネットの
モチーフから始まる。
間もなく幕が上がり、暗闇の中に白いベッドが浮かび上がる。
白いガウンをはおり、病に苦しむ一人の人物・・・
チャイコフスキー。
徐々に舞台が明るくなってくるにつれて、忍び寄るのは
死の影か?「眠れる森の美女」のカラボスと思しき
死神が作曲家を苦しめる。さらに追い打ちをかけるのは
妻であるミリュコワ。同性愛者であったといわれる
作曲家の結婚生活は不幸なものであった。閉ざされた
チャイコフスキーの心の扉をこじ開けようとする妻・・・。
お互いにとって、心休まる時はなかったのではないか?

やがて、弦が繰り返しのモチーフを奏で始めると、傘を手にした
男女の踊り。チャイコフスキーは、一人で雨に打たれていた。
そこに現れたのがフォン・メック夫人。財政支援を受け、
立ち直ろうとするチャイコフスキー。その時に出会ったのが
妻となるミリュコワ。しかし、甘い時間は続かなかった。

第二楽章、ホルンが長く、美しいソロを聴かせる。ピットの中なので
誰が演奏していたのかはわからなかったけど、美しい音色で
吹き切った。Bravo!そして、ノイローゼになった作曲家の
脳裏には「白鳥の湖」の白鳥たち。禍々しく、そして美しい
白鳥たち。束の間の安らぎ・・・。この白鳥たちの
腕の使い方、フォーメーションが音楽と合っていて
思わず目がうるんだ。
この安らぎはほんの束の間。美しい世界に妻が入り込もうとし、
さらに恐ろしい「分身」あるいは「影」が見え隠れする。
チャイコフスキーを演じたマラーホフがどちらかというと
華奢で中性的な雰囲気なのに対して、影はたくましく男性的。
作曲家と影は、まるで「人間あやとり」かのように
複雑に絡み合う。執拗につきまとう影。
ロットバルトであり、ドロッセルマイヤーでもある分身は、
作曲家の精神を蝕んでいってしまう。

第三楽章、ワルツ。
作曲家は、最も大切な創造物・・・王子を作り出す。
手に入れたくて、すり抜けていってしまう存在。
まるで、自身の心の叫びを目の当たりにしているかのよう。
王子の目には少女しか映らない。
崩壊寸前のチャイコフスキーの心を救ったのは、
フォン・メック夫人からの手紙。彼は再びタクトを取り、
彼の音楽は称賛を得る。しかし・・・
作曲家の心を引き裂く妻。
そして、第五番フィナーレ。
本来ならば運命からの解放をテーマとするはずの
旋律は、偽りと苦しみの結婚式となっていた。

第二幕。弦楽セレナードの軽やかなワルツに乗せて、
着飾った男女が楽しそうに踊っている光景から始まる。
ここでも、チャイコフスキー自身は孤独感に苛まれているかの
ように思われた。同時に、フォン・メック夫人の姿も。
史実では、チャイコフスキーとフォン・メック夫人は
手紙のやり取りだけで会うことはなかったのだけれど。
この二人の関係を象徴するかのように、ワルツを踊る男女が
去った舞台では作曲家が沢山の手紙を手にたたずんでいて、
やがて、その手紙の束をフォン・メック夫人の目の前に
パラパラと落として去っていく・・・というシーン。
そして、フォン・メック夫人は一通の手紙を手に
激情をさらけ出す・・・ことを意図しているのか?イマイチ、
ピンとこなかった。

やがて、舞台上に現れるのは円形のテーブル。
一瞬、ベジャールの「ボレロ」を連想した。
オペラ「スペードの女王」、同時に、ヴェルディの傑作
「ラ・トラヴィアータ(椿姫)」のカードゲームのシーンをも
思い起こさせる。
ここでも、作曲家の脳裏で極端にデフォルメされた妻の姿が。
精神を病んで、身体を拘束された怪物のような姿・・・。
このようにしか見えていなかったのか。
拘束していた布で首を絞める姿は痛ましかった。

想いを紛らわせるには、賭けしかないのか?
テーブルは、時に斜めに持ち上げられたり、
時にその上でダンサーが踊ったり。時に、ゲームの
テーブルとなったり。チャイコフスキー自身の心中を
表しているかのよう。
やがて、人生の賭けに敗れた作曲家は悲愴のメロディとともに
この世から去っていったのだろうか。

・・・・・・

大がかりな装置などはなく、第一幕の幕開けで作曲家が
横たわっていたベッド、第二幕の幕切れで使われた
円形のテーブル。その他はソファや傘など、小道具が
用いられる他はダンサー個人の演技だけを頼りに
物語が進行していく。
マラーホフといえば王子様、といったイメージがあった。
だけれど、この作品で、舞台にいたのはチャイコフスキーその人。
「マラーホフ」ではなくて、「チャイコフスキー」として
舞台に存在していた。彼自身の持つたたずまいの上品さ、
踊りのテクニック、そういったものを超越して・・・
舞台人としての演技力がモノを言っていた。
そして、報われない愛に自らを壊してしまった妻。
ただ愛されたかっただけなのに。
本来ならば、一番愛してくれるはずの人が、怪物のようにしか
自らを見ていないとしたら・・・妻の心中に想いを
馳せた作品だった。
そして、そんな風にしか妻を見ることができなかったチャイコフスキーの
人としての悲しさも感じさせられた。
チャイコフスキーの「影」もまた、雄弁に語っていた。
ただ、フォン・メック夫人だけが少し弱いかなぁ、と。
それだけが残念だった。

バレエのテクニックを使いながら、言葉のない演劇作品を
作り上げたエイフマンの才能には目を瞠るばかり。
他の振付作品もぜひ見てみたいと思わされた。



Boris Eifman(Choreography)
Vello Pamn(Conducter)
Vladimir Malakhov(チャイコフスキー)
Ibrahim Onal(分身/ドロッセルマイヤー)
Elisa Carrillo Cabrera(フォン・メック夫人)
Nadja Saidakova(チャイコフスキーの妻)
Dinu Tamazlacaru(王子・若者/ジョーカー)
Sebnem Gulseker(少女)

Osaka Century Orchestra 大阪センチュリー交響楽団

Tchaikovsky, the Mystery of Life and Death
Staatsballet Berlin, Japan Tour
Hyogo PAC, Jan.29 2011

チャイコフスキー 生と死のミステリー
1993年初演(サンクトペテルブルグ)、2006年ベルリン初演
ベルリン国立バレエ団日本公演
2011年1月29日
兵庫県立芸術文化センター

Kiev Ballet<Ballet Masterpieces> Japan Tour, July 12 2010, Osaka

2010-07-12 21:19:30 | 海外バレエ
ウクライナ国立バレエ、通称キエフ・バレエのメンバーに加えて
ゲストを迎え、「バレエの神髄」と称して開催されたガラ公演を、
大阪にて鑑賞。
ゲストは以下の三名。当初は吉田都さんのパートナーとして
ロバート・テューズリーが出演予定だったものの、直前の怪我により
降板した。従って、ゲスト・ダンサーは以下の三名。
ファルーフ・ルジマートフ
岩田守弘
吉田都
上演順に一言ずつ感想を・・・

『眠りの森の美女』よりローズ・アダージョ
チャイコフスキー/プティパ
オーロラ:ナタリヤ・ドムラチョワ(カテリーナ・ハニュコワから変更)
四人の王子:セルギイ・シドルスキー、イーゴリ・ブリチョフ、
オレクシイ・コワレンコ、チムール・アスケーロフ
四人の王子はどのダンサーも長身でエレガント。どの王子も忠実な
ナイトのようです。そんな王子たちを従えて華やかに咲き誇るべきオーロラ。
当初はカテリーナ・ハニュコワの予定でしたが、キャスト変更により
ドムラチョワがオーロラを踊りました。
ドムラチョワのオーロラは可愛らしくて、いかにも大事に育てられた
お姫様。ちょっとハツラツ系なのですが、見た目はOK。
ですが、肝心の踊りが・・・。サポートつきのピルエットでは
回転軸がぶれてしまうし、王子たちが必死になって回している
感じ。ガラでこれをやる意味というのは、やはり鉄壁のバランスを
披露するところにあるはず。なのに、ポワントでバランスを
保ったまま次々に王子の手を取る一番の見せ場が見せ場になってなかった。
次の王子の手を待つまでの間に手をアン・オーにするくらいの
余裕がほしいもの。ちょっと残念だった。

『侍』鼓童/M.ラブロフスキー
岩田守弘
岩田さんは確か、前回のボリショイ来日公演で『白鳥の湖』の道化を
見たことがあったかと思います。・・・と思って当時の感想を探って
見ましたところ、ありました。
ボリショイ・バレエ『白鳥の湖』(12/13大阪)
2008年ですので、もう1年半前になるのですね。
そんな岩田さん、今回もやはり
動きはしなやかで素晴らしくラインが綺麗です。扇子を刀に見立てて、
殺陣のような動きが入ったりします。たまに、こんな作品が入るのもいいかな。

『海賊』よりパ・ド・トロワ
R.ドリゴ/プティパ&チャブキアーニ
メドーラ:エレーナ・フィリピエワ
コンラッド:セルギイ・シドルスキー
アリ:ヴィクトル・イシュク
冒頭の『眠り』で少しがっかりしてしまったので、キエフ・バレエの
意地を見せてくれフィリピエワ!と見守った『海賊』。
コンラッドもアリも美形で、海賊の親分と子分には見えない~。
そんな中、やはりシドルスキーは足がとても綺麗。基本はノーブルな
ダンサーだと思います。ジャンを期待!
イシュクはキュートすぎます。ですがさりげなくやっていることは
凄くて、例えばピルエットではプリエの体勢まで重心を下げていって
また元に戻すといったこともやっておりました。
哲也もやってまして、あそこまでキレはなかったですけど、まぁ、
比較してどうこう言うものでもないでしょう。惜しむらくは
少し小柄なこと。もう少し背が高ければ文句なしの王子様なのでしょうが。
フィリピエワは美しかったです。フェッテではシングルで確実に
決めてくれました。しばらく聞かなかった、手拍子が起きてしまって
残念でした。

『阿修羅』藤舎名生/岩田守弘
ファルフ・ルジマトフ
実は私、この人を初めて見ました。
和太鼓?能?のような音に合わせて、戦いの神・阿修羅に扮する
ルジマトフ。序盤の静かな動きの中にもオーラが感じられ、
一つ一つの動きに無駄がない。メリハリがあって強い意思を
感じた。自分に厳しい人なのだろうな・・・。

『エスメラルダ』より「ディアナとアクティオン」
プーニ/ワガノワ
ナタリヤ・ドムラチョワ、岩田守弘
さて、冒頭『眠り』の女性、名誉挽回なるか?
元気でハツラツとした人なので、こちらの演目のほうがいいでしょうね。
衣装も、クラシック・チュチュよりも似合っていました。
踊りは・・・微妙に音を外していたり、気になるところがなくもなかった
けど、よく踊っていたのでは。
岩田さんはジャンプも回転もキレがあって、踊りの技術は他を
圧倒する何かがある。でも、この演目では少し力が入りすぎていたか?
ジャンプして着地の靴音がしないのは本当に凄いんだけど、
二人で踊る際にはサポート力も気になってしまう。
普段から一緒に踊っていないというのもあるでしょうけれど、
少しお互いにぎこちなかったのでは。

『ライモンダ』よりグラン・パ・ド・ドゥ
グラズノフ/プティパ
吉田都、セルギイ・シドルスキー(ロバート・テューズリーから変更)
キエフ・バレエ
都さんを見たくてチケットをとったこの公演。直前にパートナーの
テューズリーが怪我でどうなることかと思ったのですが、無事に
踊ってくださいました。
余計なものがそぎ落とされ、古典の主役を踊るにふさわしいオーラ。
凛とした美しいライモンダでした。時おり魅せるコケティッシュな
表情に、あぁ、この人はロイヤルで活躍してきた人なんだと
思い出しました。
シドルスキーはノーブルなダンサーだと思うので、コンラッドよりは
このジャンのほうが適役のはず。やはりその通りで、ラインの美しい
足先やエレガントな立ち居振る舞いは忠実なナイトでした。
ですが、そこまでで止まってしまっていて・・・。
都さんとの空気が同じではないというか。一部の抜粋ではあっても、
ケミストリーが生じて素晴らしいものになることを期待していたのですが
急ごしらえのペアでは難しかったのかもしれません。
テューズリーか、あるいはせめて、ロイヤル系統のダンサーとの
ペアで見たかったと思ってしまいました。


『シェヘラザード』
リムスキー-コルサコフ/フォーキン
ゾベイダ:エレーナ・フィリピエワ
金の奴隷:ファルフ・ルジマトフ
オレグ・トカリ、ルスラン・ベンツィアノフ、ヴォロディミール・チュプリン
キエフ・バレエ
第一部から気になっていたのですが、とにかく音がひどい!
『シェヘラザード』は大好きな曲なので、音質の悪い音源には
がっかりしました。オケを連れてくるのは難しいにしても、
せめてマシなものを使ってほしいです。
NHKの施設なので、スピーカーが悪いってことはないはずですし・・・。

以下、パフォーマンスについての覚書。
第一部では、これぞという貫禄の演技を見せてくれた
フィリピエワ。彼女に釘づけでした!
幕が上がった直後の従順で麗しいお妃さま。その彼女の、
王が狩りに行くと去った後の豹変ぶりといったら!
この世は我が天下とばかりに宦官をそそのかして奴隷の
牢の鍵を奪い取る妖艶な表情はまさにハーレムの女王。
こんな男どもで私は満足できないわ、と別の牢に入れられている
金の奴隷を解き放つときの満足げな様子が、背中からも伝わって
きました。
この役を当たり役とするルジマートフなので、さぞや・・・
と思ったのですが、ちょっと肩すかし?
濃ゆーい、濃密な演技を想像していたのですが、ルジさん
ストイック。踊りの技術としては、ジャンプは全盛期と比べると
劣っているでしょうけれど、回転のキレなどはさすが、と
感じさせてくれます。ですが、技術を見せてナンボの演目では
ないのですから、演技力で見せてくれなきゃ話になりません。
と書くと、ファンの方から石が飛んでくるかもしれませんが。
濃密さという点では、シェヘラザードと金の奴隷が踊っている時に
両サイドで抱き合っている男女カップルたちに軍配をあげちゃいます。
妖艶な女王様にストイックな奴隷、不思議ですが、そんな感じに
映ってしまいました。


『バレエの神髄』2010年7月12日 NHK大阪ホール

以下、同じ公演を東京でご覧になられた方の感想です。
「バレエの雑記帳」様
「la dolce vita」様

RB in Japan, MacMillan: Romeo and Juliet, July 3 2010

2010-07-03 23:03:23 | 海外バレエ
兵庫県立芸術文化センターにて、日本ツアーの最終公演。
まずは、本日の主役ペアの写真からどうぞ。
ロベルタ・マルケスとスティーブン・マックレー。


実はロベルタのジュリエットは二度目。昨年、Kバレエで熊川哲也氏のロミオと
共演
したのを見ています。
その当時は、まさかロイヤルの公演でもロベルタのジュリエットが
見られるとは思ってなかったので驚きでした!

ストーリーはとても有名ですので、割愛。

ロベルタのジュリエットですが、初めのうちは少しコトコト・・・と
靴音が気になったのですが、舞踏会~バルコニーのシーンあたりから
絶好調!靴音も気にならなくなり、ふわっ、ふわっ、と重力を感じさせない
可愛らしいお嬢さんでした。
乳母をからかってみたり、人形を可愛がってみたり、最初のうちは本当に
まだまだ幼い少女。そのお嬢さんがパリスを紹介された時、
何よりも「戸惑い」でした。この私が結婚?何言ってるの!とでも
聞えてきそうな無邪気な表情。
そして、運命の舞踏会。
ロザラインを追いかけて三人組が忍び込むわけですが、無邪気な少女に
ロミオの目は釘付け。そしてジュリエットもまた、突然目の前に現れた
男性が気になって仕方がない・・・。
周囲にはたくさん人がいるのに、お互いしか見えていないかのよう。
この版でのパリスは、ジュリエットに恋をしているんですね。
しかもかなり真剣に。ロミオが表れて、ジュリエットの意識がそちらに
引きつけられているのに気づいて猛然と不快感をあらわにしていました。

バルコニーのシーン。マントをひるがえして颯爽とロミオ登場。
ロミオとジュリエットが幸せいっぱいに踊るシーンはここだけ。
まだまだ若い、というより幼い青年と少女が恋をして、盲目に
先を突っ走っていく様が振付に現れている。
マクミラン独自の複雑なステップやリフトなど、鮮やかにこなしていく
二人のプリンシパル。Bravi!

一方のロミオに扮するスティーブン・マックレー。彼はどちらかというと
小柄で、身のこなしも軽やか。ルルヴェで立っただけでも品があって、
たたずまいが本当に美しい!アラベスクの姿勢にもっていく、その
脚の上げ方も綺麗。
ピルエットなどは隣でベンヴォーリオを踊っていたポルーニンの方が
キレがあったかもしれないけど、そんなことどうでもいい、そう思えるほど
全身を使ってロミオを表現していました。

マキューシオとベンヴォーリオ。それにティボルト。
それぞれに芸達者で魅力的。
ちょっとけんかっ早いお調子者?のマキューシオ、ティボルトに
刺されて死んでしまうわけですが、その時にロミオに向かって
敵を討ってくれ、のような仕草をした場面は上手かった。

マキューシオ役、ブライアン・マロニーです。
ベンヴォーリオはいい奴なんです、基本的に。
そしてティボルト、マキューシオに絡んでいったのが
悲劇の発端となったわけですが、お酒飲んでたんですね。
で、マキューシオに打ち負かされてカッとなって後ろから
刺してしまった。そしたら相手が死んでしまって・・・
それでも罪悪感は感じていなさそうだったような気がする。

マキューシオが殺されて、何が起こったのかを次第に
頭の中で理解して・・・それまではなるだけ剣を握らなかったロミオが
文字通り我を忘れてティボルトに剣を向けてしまって・・・
ついにティボルトを殺してしまう。
ティボルトが死んで、ロミオは自分の手をじっと見つめてました。
この手で人を殺してしまった!
キャピュレット夫人がなりふり構わず甥っ子の遺骸にすがり、
剣を振りまわし・・・そんな夫人にロミオは必死の思いで
謝っていましたっけ。

さて、主役の二人に話を戻しましょう。
マキューシオが殺され、ティボルトも死んで、その夜。
ジュリエットとロミオが生きて一緒にいられる最後の時。
これが最後だと見ている側はわかっているからこそ、すごく胸を打たれる
シーンです。お互いを思う気持ち、離れがたい気持ち、その心の動きが
複雑な振付で表現されていました。
バルコニーのシーンも好きですが、このシーンも美しくて好きです。

ロミオが去ってしまった後、両親がパリスを連れてきて・・・
この時のジュリエットは明らかにパリスを嫌悪しています。
大好きな人がいるのに、他の男の人になんて触られるのも嫌。
ふてくされて頭からベッドに潜りこんでしまいます。
しかもこのパリス、けっこう積極的だし。
温厚そうに見えていたパリスですが、ジュリエットが思い通りに
ならないと見るや、力づくで自分を受け入れさせようとする姿は
残酷でした。
どうしても娘をパリスと結婚させたい父親は強権発動?
思いつめたジュリエットはしばらくベッドに腰かけて何かを考えた挙句、
ロレンスのいる教会へ・・・。仮死状態になる睡眠薬を与えられます。

パリスとの結婚を承諾して再び一人になった時、先ほどの薬を飲みほして
ベッドに倒れこむ・・・死んでしまったものとみなされ、墓地に埋葬。
乳母と両親が立ち去った後、パリスが一人残って死を悼んでいる。
そこにロミオ。
動かなくなってしまったジュリエットの身体を必死でリフトしたり、
かなり大変。でも、美しいシーンです。幕切れ近く、ロミオが死んでしまったことを
悟ったジュリエットがナイフで自分の胸を刺して、ロミオの手を
握って死んでいく姿は神々しいばかりでした。

ジュリエット:ロベルタ・マルケス
ロミオ:スティーブン・マックレー
マキューシオ:ブライアン・マロニー
ティボルト:トーマス・ホワイトヘッド
ベンヴォーリオ:セルゲイ・ポルーニン
パリス:ヨハネス・ステパネク

キャピュレット公:クリストファー・サウンダース
キャピュレット夫人:ジェネシア・ロサート
エスカラス(ヴェローナ大公):ベネット・ガートサイド
ロザライン:タラ=ブリギット・バフナニ
乳母:クリステン・マクナリー
僧ロレンス:アラステア・マリオット
モンタギュー公:アラステア・マリオット
モンタギュー夫人:サイアン・マーフィー

ジュリエットの友人:
リャーン・コープ、ベサニー・キーティング、イオーナ・ルーツ、
エマ=ジェーン・マグワイア、ロマニー・パジャク、サビーナ・ウエストコム
三人の娼婦:
ラウラ・モレーラ、ヘレン・クロウフォード、フランチェスカ・フィルピ
マンドリン・ダンス:
ミハイル・ストイコ
ポール・ケイ、蔵健太、ルドヴィック・オンディヴィエラ、
アンドレイ・ウスペンスキー、ジェームズ・ウィルキー

ボリス・グルージン指揮 関西フィルハーモニー管弦楽団

オケは健闘していたとは思うのですが、所々で自信なさげなのが
見え隠れしてしまっていました。ホルンは高音で外しているし!
ピットに入る機会がさほどないので仕方ないことかもしれませんが、
ピットでの演奏で劇場全体を鳴らし切れてなかった気がします。
その点、常に新国のピットを担当している東フィルや東京交響楽団
の方との違いが出ていたのではないでしょうか。
第三幕になって、やっと音が飛んでくるようになりました。
新国に行くようになるまでは気にしていなかったことでは
あるのですが・・・。
あと一公演、東フィルにお願いしたかったな、なんて。

最後の写真はギャリー・エイヴィス!
最後までお読みいただき、ありがとうございました。


ケネス・マクミラン振付『ロミオとジュリエット』
ロイヤル・バレエ日本公演

マリインスキー・バレエ『白鳥の湖』09/12/6(西宮)

2009-12-07 23:55:43 | 海外バレエ
もう一日が過ぎてしまったのですね…。
まだまだ忙しくてなかなかまとめきれないのですが、これだけはどうしても
皆さんと共有しておきたいのです。
ロパートキナのオデットは本物だということを。そして、コルスンツェフの愛が
あってこその感動なのだということを!

ロパートキナ、コルスンツェフのペアでの『白鳥の湖』はDVDにもなってますし、
NHKの地上波でも放映されたのでこれまでにも見る機会はありました。それで、
「見た気」になっていました。ですが、実際に舞台で見るものとは別物なんだと
いう現実をつきつけられました。舞台は一期一会。わかっていたはずなのに、
改めてガーンと衝撃を受けた気分です。
カメラには収まっていない周囲のダンサーの表情、照明、すべてがかみ合ってこそ
舞台芸術なんだなぁ、と。当たり前のことなんですけどね。

ロパートキナは登場の瞬間から息を呑みましたし、コルスンツェフは踊っていない
時でも仕草や表情で思いが伝わってきます。まさに、ジークフリートとして舞台に
存在しているんです。あぁ、うまく言葉にならないもどかしさ!

これより追記
指揮者が入場し、拍手。当初はアグレスト氏と発表されていましたが、
パーヴェル・ブベリニコフ氏に変更されていました。ピットに入るのは、
大阪音楽大学に所属?ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団です。
コンスタンチン・セルゲーエフによる改訂版ですが、通常に見られるような
序幕はなく前奏の間は音楽だけ。いつもは舞台上で何かやっているのでさほど
気にならないのですが、音楽だけだと会場の音響がどうも気になってしまい
ました。なーんとなく、ですが、ピットの中で音がこもっているような、そんな
感じ。ですが、いったん幕が上がるとさほど気にならなくなりました。
オケですが、オデットが踊っているシーンはゆっくり目?それ以外も、若干ですが
ゆっくり目で、よほど軸がしっかりしていないと踊りきれないだろうなぁって
思いました。それ以外は可もなく不可もなく。ナポリでしたっけ、トランペットの
ソロで一度音を外したの以外は悪くなかったように思います。

第一幕第一場
幕が上がると、お庭でのパーティ。きれいな衣装に身を包んだ麗しい男女が
和やかに踊っています。そこにダニーラ王子登場!特に目立つでもなく、自然に
舞台に存在しています。存在感がないというのではないのですが、皆が楽しんで
くれていれば自分も楽しい、というような、大らかな王子様。そこに集うみんなも
王子様を心から慕っているような雰囲気。ただ、勉強にうるさい家庭教師からは
逃げたい様子…。母上が登場して、プレゼントの石弓を贈ります。
「王子の友人たち」による、パ・ド・トロワ。女性の第一ヴァリエーションの
セーリナは靴音もなく優雅。男性のジュージンは、マリインスキーの男性らしく
お手本のような美しさ。あぁ、彼は次の来日では王子となっているでしょうね!
第二場
とうとう、ロパートキナ登場!音楽がこれでもかとロシアの至宝を盛り上げます。
DVDの映像ではもっと、孤高の存在なのかと思っていたのですが、ダニーラの
優しい愛に包まれて温かさをも感じました。ダニーラという人は素晴らしいわ。
ほんと。特に男前というわけでもないのに(失礼)、この人でなくちゃと思わせる。
当たり前のようにサポートをして、それが自然に流れていく。次第に二人の絆が
深まっていく、その流れもとても自然。やはりこのペアならではのケミストリー
なのでしょうね。
そんな中、ロットバルト。あんた邪魔。ジャンプも鋭いし回転にもキレがあるし、
テクニックはしっかりしていると思うのですが存在感がいま一つ。
いや、オデット登場の前の一人で踊る時はよかったんですけどね。あんなドギツい
メイクまでしてるんだから、もっとしっかり存在してくれ。

第二幕
花嫁候補と一通り踊るも、王子の心はここにあらず。そこに登場するのは
オディールを連れたロットバルト。いやー、オディール登場するのって、
このタイミングでしたっけね?なんだか唐突感がありました。
スペインってここに入ってたっけ?
オディールと踊る王子ですが、なんか操られている雰囲気。これがあのオデット?
まさか。そんなわけない。違うだろう。そう思いながらもオディールに強引に
引き寄せられるというか。「騙されている」感が全くなく、それを証拠に、
愛する人に結婚を誓うという笑顔がないんですもの。
窓の向こうにオデットが悲しむ所が映し出された時、ロットバルトとオディールは
勝ち誇ったようにその方向を見てから退場。王子は、「僕は今何をやったんだ?」
という感じに誓いのポーズを繰り返し、「あぁ、なんてこと!」と、駈け出して
いきました。
追記、ここまで。

第三幕
白鳥たちの中に悲しみのオデットが戻ってきた時の
切なさと、それでも姫(王女?)としての気品を保っている気高さ。
そこに駆けつけるジークフリート。必死に許しを乞う彼に、悪魔のせいと
知りつつも自らが救われる可能性が絶たれてしまったという絶望が故か、
拒むオデット。
内心ではもしかしたら許していたかもしれないけど、だめ。やっぱり受け止め
られないと…。だけど、勝ち誇るように飛び回るロットバルトから自分を守ろう、
ロットバルトを倒そうと向かっていくジークフリートの姿を見ながら、でも
体力は奪われていって。ロットバルトが羽をもがれて倒れているのを見て、やっと
自分の身におきたことを理解してジークフリートを受け入れられたんだ、そんな
気がしました。
ダニーラのジークフリート、彼は騙されたというより操られたんだよきっと。
そんな王子でした。

あと、背景に山の上に立つお城の絵が描かれていたのが素敵でした。
衣装は、それぞれ凝ったデザインで色合いも淡いブルーやピンク。舞台には色が
あふれているのに、それでもうるさくなくて調和している。インペリアル・バレエ
の気品を感じました。

主要キャスト
オデット/オディール:ウリヤーナ・ロパートキナ
ジークフリート王子:ダニーラ・コルスンツェフ
王妃:エレーナ・バジェーノワ
家庭教師:ソスラン・クラーエフ
道化:アレクセイ・ネドヴィガ
悪魔ロットバルト:コンスタンチン・ズヴェレフ
王子の友人たち:ヤナ・セーリナ、ヴァレーリヤ・マルトゥイニュク、
        マクシム・ジュージン
小さな白鳥:エリザヴェータ・チェプラソワ、ヤナ・セーリナ、
      ヴァレーリヤ・マルトゥイニュク、エレーナ・ユシコーフスカヤ
大きな白鳥:ダリア・ヴァスネツォーワ、エカテリーナ・コンダウーロワ、
      アナスタシア・ペトゥシコーワ、リリヤ・シシューク
二羽の白鳥:ダリア・ヴァスネツォーワ、オクサーナ・スコーリク

デンマーク・ロイヤルバレエ『ナポリ』(5/31兵庫)

2009-06-05 14:14:02 | 海外バレエ
なんていうか…踊りの洪水(笑)!
1幕でストーリーを紹介して、2幕はいかにも、3幕はみんなで踊りまくる!って感じ。
舞台セットは、ちょうど『ドン・キホーテ』とか『コッペリア』みたいな感じで上手と下手に家とかお店のセットがあって、その間にみんなが集まってる、のような。奥は海になっていて、海にはちゃんと舟が浮かんでいました。その舟は人が乗り込むとちゃんと動いていくように作られていました。

踊りとしては、豪快なマネージュがあるでなし連続フェッテがあるでなし、とにかく細かいステップとアントルシャなどジャンプの組み合わせでしたが、特に男性ダンサーのつま先の美しさが印象に残りました。

気になったダンサーとしては、やはり前日のR&Jでも注目したマティアキス。「ハンサムだが無一文」な漁師という設定ですが、テレシーナへの忠誠心はありそうに思えました(笑)。ちゃんと漁の仕事もしているし、特段にけなされるような男には見えなかったが…。
3幕はにぎやかに踊りまくるって感じで、主役でもない人のソロが同じような曲調で続くのはちょっと?『白鳥の湖』のようにキャラクテールにするとか、『コッペリア』最終幕のようにそれぞれにテーマを持たせるとかすればはっきりするのでしょうけれど…「まだ踊るの?!」って少し思っちゃいました。

R&Jでは…だったオケですが、この作品は頑張っていたと思います。

振付 オーギュスト・ブルノンヴィル

ジェンナロ ティム・マティアキス
ヴェロニカ イェッテ・ブックワルド
テレシーナ ディアナ・クニ
フラ・アンブロシオ エルリング・エリアソン
ジャコモ ポール=エリック・ヘセルキル
ペポ モーエンス・ボーセン
ジョヴァニーナ ルイーズ・ミヨール
大道芸人 フレミング・リベア
ドラマー ケン・ハーゲ
人形師 アレクサンダー・サックニック

海王ゴルフォ モーテン・エガト
コラーラ キジー・ハワード
アルゼンチーナ フェムケ・メルバッハ・スロット

パ・ド・シス スザンネ・グリンデル、セシリー・ラーセン、フェムケ・メルバッハ・スロット、エイミー・ワトソン、セバスティアン・クロボー、フェルナンド・モラ
ソロ クリストファー・リッケル、セシリー・ラーセン、ネーミア・キッシュ、ティム・マティアキス、ディアナ・クニ、ジェイミー・クランダール、フェムケ・メルバッハ・スロット

他 デンマーク・ロイヤルバレエ

ヘンリク・ヴァウン・クリステンセン指揮 関西フィルハーモニー管弦楽団

デンマーク・ロイヤル・バレエ『ロミオとジュリエット』(5/30兵庫)

2009-05-30 22:33:31 | 海外バレエ
ノイマイヤー振付のR&J、オケが、特に金管の高音部がところどころ破綻してしまっていて残念でした。パートごとに力量差があるので、不協和音が気持ち悪いのなんの…。もっと、バシッと決めてほしいところなのに。

明日は『ナポリ』、このカンパニーの魅力が出るのはむしろそっちだと思うので、ちょっと期待していようと思います。

とりあえずキャストをば…

キャピュレット夫人/ グルロン・ボイエセン
キャピュレット公/ フェルナンド・モラ
ジュリエット/ クリスティーナ・ミシャネック
ロザライン/ ヤオ・ウェイ
ヘレナ/ ルイーズ・エステルゴール
エミーリア/ ジェイミー・クランダール
ティボルト/ ジュリアン・リングダール
乳母/ メテ=イダ・キャク
ピーター/ イェンス・ヨアキム・パレセン

モンタギュー夫人/ マリア・ベルンホルト
モンタギュー公/ エルリング・エリアソン
ロミオ/ ウルリック・ビヤケァー
ベンヴォーリオ/ チャールズ・アナセン
バルタザール/ オリヴィエ・スタロポフ

ローレンス神父/ クリスティアン・ハメケン
マキューシオ/ ティム・マティアキス
パリス伯爵/ グレゴリー・ディーン

一幕では主演の二人が…どうも埋もれてしまっていて、キャラクターがたっていなかった。そんな中、流れるようなステップと優雅なアームスの使い方で気になったのはジュリエットの従姉妹の一人で、どことなく東洋系の顔立ちのダンサー。おそらくヤオ・ウェイだと思います。
あと、この公演で私が一番のBravoをあげたいと思ったのはマキューシオ!つま先がきれいに伸びていて、しかもステップやジャンプの靴音、足音がまったくしないんですもの!ロイヤルでも踊っていたことあるんですね。もしかしたらこのマティアキスが『ナポリ』で主役を踊るかもしれないので、もしそうなら楽しみです。

舞台セットの使い方がいつもながらうまいな、と。ノイマイヤーの初期の作品ですよね、これ。バルコニーが、キャピュレット邸の二階?部分になったり。
ロレンス神父が若々しくてびっくりしました。何かカゴを持っていたので何かと思えば、薬草の勉強をしている人なんですね。その中にジュリエットを眠らせる薬もあった、と。

ラスト、若い二人の悲劇をきっかけに両家が和解する、というエピソードは省かれてましたね。幕切れとしてはすっきりするのかなぁ。ジュリエットもロミオも、第二幕以降はそれらしくてよかった…かな。

ハンブルクのダンサーが踊ったらどんな感じなんだろう?とか。
マクミラン版のR&Jが見たいなー、とか。

今日はとりあえずここまで。明日もう少し書き加えるかもしれないし、このままかもしれません。


ハンブルク・バレエ『人魚姫』(2/28、西宮)

2009-03-02 23:59:03 | 海外バレエ
『椿姫』の感動と興奮も冷めやらぬ中、今度は『人魚姫』です。この日はブシェが主演ではないかとの説もあったのですが、会場に行ってキャスト表を確認したら「アッツォーニ」の名前がありました。

演出、振付、舞台装置、照明、衣裳
:ジョン・ノイマイヤー
音楽:レーラ・アウエルバッハ
ヴァイオリン・ソロ:アントン・バラコフスキー
テルミン:カロリーナ・エイク
サイモン・ヒューウェット指揮 ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団

主要キャスト
詩人:イヴァン・ウルバン
人魚姫/詩人の創造物:シルヴィア・アッツォーニ
エドヴァード/王子:カーステン・ユング
ヘンリエッテ/王女:エレーヌ・ブシェ
海の魔法使い:オットー・ブベニチェク
魔法の影:ピーター・ディングル、マティアス・イアコニアンニ、ステファノ・パルミジアーノ

もう、ただただ圧倒されました。作品の持つ力、そしてアッツォーニの強烈なパフォーマンス…。

幕の前に一つの大きな貝殻。この貝殻が作品を通して重要な役割を担っていました。幕が上がると無音のまま、船の甲板で詩人がたたずんでいる所から作品は始まります。何か書かれてあったのですが、ドイツ語らしく読めませんでした。
エドヴァードとヘンリエッテの結婚を祝う招待客が賑やかに談笑する中、エドヴァードは詩人に手を差し出します。「さぁ、握手だ。祝福してくれるよな?」とでもいいたげなエドヴァードの手を握り、その手を放したくない詩人。しかし、エドヴァードは愛するヘンリエッテの所に行ってしまいます。

舞台は変わって海の底。光ファイバーかしら?金色に光る幾重もの線が水面を表わしていて、それが上下することによって舞台が船になったり海底になったり。なるほどー。海底のシーンでは、かわいい船の模型が上空を横切るのですが、その模型がけっこうよくできていて。
詩人が海底に現れ、心の中が人魚姫の姿で現れます。黒子、もとい「魔法の影」さんたちにリフトされ、広い舞台を縦横無尽に踊る(泳ぐ?)人魚姫。手の動きが本当に素晴らしくて、本当に海の中を泳いでいるかのようでした。ノイマイヤーは能や歌舞伎に関心を持っていることで有名ですが、海底の登場人物はみな特別なメイクをしていました。歌舞伎みたいなメイクっていうか、そこまでいかないんですが…。人魚のひれは長袴。これを影さんが広げたりしてひれらしい動きを出していました。ダンサーはみんな苦労しただろうなぁ…。日本人でもあの袴でなかなか歩けませんよね。

船上でなぜか王子がゴルフをしていたり、なんだか遊び心たっぷり。感じたことですが、船上のシーンは本当に大事なことに気付かない人間が無邪気に遊んでいるというようなイメージなのかな、と。詩人の熱い思いに気づかない、気づいてくれない苛立ち。嵐が起きて、王子が海の世界にやってきます。おぼれている王子を見て、なんて素敵なの…って思ったかは表情でしか読み取れませんが、無邪気な人魚姫とおぼれて苦しむ王子の白熱したPDD。やがて嵐は静まり、木と教会?のようなチープな模型。このチープさが何とも。浜の木の下に王子を横たえて様子を見守る人魚姫、その前で王女が王子の目を覚まし、それを見ている人魚姫は本当に痛々しかった。詩人によって王子を愛するように仕向けられた人魚姫、報われない愛だからこそ…。魔法使いの所に行って人間にしてもらうのですが、その魔法使いっていうのが乱暴にひれを剥ぎ取ってしまうんですねー。で、王子への愛が破れた人魚姫に、そのひれを持っていってナイフを渡す…。あいつを刺したらこれを返してやるよ~ってな感じで。
王子にとって、人魚姫は慈しむべき存在だったのでしょうね。倒れている人魚姫。足を見て幸せそうな表情を浮かべたのも束の間。いざ人間のように立ち上がろうとすると強烈に痛みを感じてしまう…。そんな人魚姫、王子に助けられたのですが、鼻の辺りをチョンと押して肩をポンポンって。小さなウサギや子犬に対するような感じ。
結婚式に凶暴化した海の仲間たちが現れて、そのメイクが能でいうところの「鬼」とか「山姥」って感じ。二面性を表す表現なのですが…。
人魚姫と王子の最後のPDDはもう泣きそうでした。どうにかナイフを王子に向けようとする人魚姫ですが、王子は「これは戦いに使うものだよー」なんてやって見せていました。しかも、胸に刺さって倒れたふりまで。ゴルフボールを投げたり、やっぱり子犬だと思っている?二人で踊るのですが、人魚姫はやがて泣き出してしまいました。この人にどうして伝わらないの…。そんな心は知らず、王子は「踊ろうよ!」と。それでも泣き続ける人魚姫に、また鼻をチョンって触って背を向けて行ってしまいました。

最後。完全に希望を失った人魚姫はシューズもドレスも脱ぎ捨てて苦しみ倒れます。そこに詩人が本を手に現れ、その本が手から離れて落ちてしまいました。やがて、ホリゾントに星がきらめき始め…詩人の心と一緒に、人魚姫は天国に昇ったのです。

アッツォーニの凄さ、すさまじさ。この人がいたからこそこの作品がこんなにも説得力を持ちえたのでしょう。一度見たくらいでは全てを理解するのは難しいです。いつの日か、ノイマイヤーの愛するハンブルクで、アンデルセンの故郷デンマークで、この作品をまた見たいと思います。


ハンブルク・バレエ『椿姫』(2/26、西宮)

2009-02-27 13:44:50 | 海外バレエ
今まで映像等は目にしていましたが、ノイマイヤー作品を全幕で、ライブで見るのは初めての機会でした。しかも、名作品と名高い『椿姫』!確か、パリで上演されているのもこの版ですよね?

さて、大好きな劇場の一つである兵庫県立芸術文化センター(長い名前だ…)の「KOBELCO」ホール。大阪のフェスティバルホールもなんだかんだ言って好きでしたが、「複合ビルの中」っていうのより、離れた所から見て「あれが劇場」ってわかる、一つの建物としてどっしり構えているのが好きです。構想が発表された時、嬉しかったもの。

そんな劇場で、『椿姫』を初めて見て参りました。

音楽:フレデリック・ショパン
振付・演出:ジョン・ノイマイヤー

主要キャスト
マルグリット:ジョエル・ブーローニュ
アルマン:アレクサンドル・リアブコ
アルマン父:カーステン・ユング
ナニーナ(侍女):ミヤナ・フラチャリッチ
公爵:ヨロスラフ・イヴァネンコ
プリュダンス:レスリー・ヘイルマン
N伯爵:ヨハン・ステグリ
マノン:エレーヌ・ブシェ
デ・グリュ:チャゴ・ボアディン
オリンピア:カロリーナ・アギュエロ
ガストン:アルセン・メグラビアン
他、ハンブルク・バレエ

まず、プロローグで既に胸が痛かったです。それぞれが故人への想いを抱き、言葉を交わすでもなく同じ時を過ごしている…。そこにアルマンが駆け込んで来るところから舞台は静から動へと動きました。原作を以前に読んだことがあるので、あれ、なんか違う…とか思いつつ、でも、ノイマイヤーの読み換えによってよりストーリーが雄弁になっていました。

あぁ、時間切れ…。言葉が上手く紡げません。後で、もう少しまとまったら追記します。

何より、リアブコのアルマンが素晴らしくて衝撃的でした。サポート技術も、役に必要な表現も、何もかも。そしてブーローニュの美しさといったら…。劇中劇の『マノン』に自分を重ね合わせる切なさ、せき込んで誰もが相手にしないのにアルマンだけがやさしく接してくれたり。マルグリットの足元に倒れこんで愛を乞うアルマンに、最初はお腹を抱えて笑っていたのですが…いつの間にかその情熱に心打たれていく様子も美しかった。
何より、ピクニックに行ってアルマン・パパに詰め寄られた時の毅然とした表情。「私は真剣に愛してお付き合いしているんです」
マルグリットの所にやってきて、最初は出されたお茶にすら手を出さなかったのに…。
「妹の縁談に差し障るから、息子と別れてくれ」
実際に会ってみて、ただの商売女じゃないって思ったんでしょうね。それが伝わってくるがゆえに、マルグリットの体調もこの時期からだんだん悪化していっていたのがわかるがゆえに、見ていて悲痛な思いでした。
何も知らずに愛する人を失ったアルマンもまた、悲しかった。札束をつきつけたり、心にもないのに身体が動いてしまう…。そんな最後だったがゆえに、死に目に会えなかったことが身を切られる以上につらかったのでしょう。そしてその姿を目にした父も。
ほんの少ししか踊らない役ですが、アルマン・パパはその存在そのものが雄弁でした。
他のダンサーとしては、プリュダンスのヘイルマンが柔らかな踊りで気になりました。