Flour of Life

煩悩のおもむくままな日々を、だらだらと綴っております。

高峰秀子「わたしの渡世日記」

2011-03-18 19:36:48 | 読書感想文(その他)



400ページ前後の文庫が上下2冊。梅原龍三郎画伯の迫力ある肖像画に飾られた稀代の女優のエッセイは、
その装丁に負けない力強い作品でした。

複雑な生い立ち、子役スターとして一家を養わなくてはならないという過酷な幼少期、そして
物心ついたころからずっと続いていた養母との確執…そこには「事実は小説より奇なり」とは
まさにこのことと唸らされる、波乱万丈の女優の半生がありました。

映画好きの私としては、高峰さんの語る戦前・戦後の日本映画華やかなりし時代の逸話も興味深くて
面白かったですが、やはり一番印象深いのは、養母との壮絶なやりとりでした。
赤の他人ならばただ憎みあいののしり合って別れれば終わりだけれど、なさぬ仲とはいえ親子である2人には
それができなかった。2人の間にあるのは、憎しみだけではなかったから。
現代なら、周囲の助けでなんらかの解決ができたでしょうが当時は…でも、その養母の存在がなければ
「女優・高峰秀子」は存在しなかったし、あの「二十四の瞳」も映画化されなかったかもしれません。
まばゆいばかりと思っていた銀幕の世界で、血を流しながら生きていた2人の姿には、逃れようにも
逃れられない「宿命」あるいは「業」を感じました。

子役としてそのキャリアをスタートされた高峰さんですが、子役という仕事自体には否定的。
自分自身が子供の頃から大人ばかりの世界にいて、学校にもあまりいけなかったためか、
子供には子供としての生活をさせてあげたい、という思いがつよかったようです。
そんな彼女だから、映画「二十四の瞳」で教育熱心な大石先生を演じられたのかもしれません。

しかし残念ながら「二十四の瞳」についてはこのエッセイであまり詳しく語られていません。
どちらかといえば、高峰さんにとっては同じ木下恵介の作品でも「二十四の瞳」より「笛吹川」の
ほうが印象が強いそうです。私は「笛吹川」は見たことがないのですが、高峰さんいわくこの作品は
木下監督の「一等の作品」だそうなので、今度探して見てみようと思います。DVDレンタルあるかな~。

高峰さん自身が大女優なので、小津安二郎、黒澤明、市川崑など日本映画界を代表する監督や
田中絹代や笠智衆などの名優の名前が次から次へと出てくるのは当然と言えば当然なのですが、
驚いたのは映画界に限らない、その人脈の広さ。文豪の志賀直哉に谷崎潤一郎、言語学者の新村出、
画家の梅原龍三郎に筝曲家の宮城道雄と、その幅広さに圧倒されます。フォレスト・ガンプも
真っ青です。ただ、それだけ多くの才能あふれる人々と日常的に接していても、高峰さん自身は
学校にまともに行けず、普通の家庭で普通に暮らすことがかなわなかったことに悩まされ続けていた
というのが皮肉な話です。「完全なる幸福」というのは存在しない、ということでしょうか。


さて、下世話な話ですが、このエッセイを読んだらあることが頭に浮かびました。それは
高峰さんの人生をドラマor映画化すること
です。いや、別に私がスポンサーになるから作れ、ってわけじゃないけど…
高峰さんを演じる主演女優は誰がいいかな、とか、淡い(?)恋愛関係にあったという黒澤明は
誰がとか、旦那さんの松山善三さんは誰かとか、想像すると楽しくなります。
ま、実現したらこの人はイメージじゃないとか散々文句言うと思うんですけどね。



コメントを投稿