Flour of Life

煩悩のおもむくままな日々を、だらだらと綴っております。

宮部みゆき「ソロモンの偽証」ざっくり感想

2014-06-15 21:03:12 | 読書感想文(国内ミステリー)



クリスマスの朝、城東第三中学校の2年生・柏木卓也は、校庭で遺体となって発見された。前夜に積もった雪に埋もれて、凍りついた瞳を開けたまま。
1か月ほど前から不登校で学校に来ていなかった彼の死は、校舎からの飛び降り自殺として処理された。しかしその後、彼の死は不良グループによる殺人だという密告があり、悪意ある人物からそれを聞き知ったマスコミ関係者が取材を始める。少年の死は大きな渦となり、巻き込まれた同級生たちは、裁判という形で真実を突き止めようと決意するが…。


※ここから先はネタバレしています。ご注意ください。






しかし、700ページが三冊もあるけど、感想はざっくり大きめでいかせてもらいます。風邪気味なのと図書館の返却期限が迫っているのとで、細かいところまで突き詰めて感想を書く気力と体力と時間がありません。どうもすみません。

というわけで、感想。この小説はある中学生の死と、そこから起きた複数の事件を、彼に関わっていた、あるいは生前の彼をまったく知らなかった人たちそれぞれの立場・視点から描いた話です。なので登場人物が多い多い。第1部でも充分すぎるくらいいたのに、第2部以降は更に増える。宮部作品だと「理由」も多かったですが、あれをはるかに超える人数です。映像化するとしたら、顔が売れてる俳優しか使えないから製作費がかさみそうですね。

ミステリーとして、ストーリーはたいへん面白かったです。続きが気になって、明日も仕事があるのにページをめくる手が止まらず、つい夜更かししてしまったことが何度もありました。しかし、その謎解きの舞台を裁判で、しかも中学生がやるというのは…いや、中学生が裁判でやるという手法はまだいいんです。まだ。でも、その裁判をする中学生たちが、公立中学校の三年生とは思えないほど大人びていて頭脳明晰(1人だけならまだしも、何人もいる)では、現実離れしすぎてます。もちろん、宮部さんとしても、現実の中学三年生が皆こうだと思っているわけではないんでしょうけど。

中でもずば抜けているのは、裁判で検事役をつとめた藤野涼子と、弁護人役の神原和彦。和彦は登場する中学生のうち唯一、有名私立中学に通っているので、頭脳明晰で弁が立ち、裁判をリードするのにはおおむね納得できます。ただ、彼は柏木卓也の同級生たちとくらべて異質すぎたので、第1部の終わりに登場してすぐに、彼が何者なのか、柏木卓也の死にどう関わっているのかがうっすらわかってしまいました。なので、第3部の公判で凉子が電器屋の店主の発言をきっかけに事件の真相にたどりつくまで、もどかしいったらありゃしませんでした。そこに至るまでの間、様々なエピソードが詰め込まれていて、けして冗長に感じてたわけではないのですが。

藤野涼子は、検事役であり小説の刑事役の1人でもあり、ほぼ主人公と言ってもいいキャラクターです。「模倣犯」における前畑滋子みたいな感じでしょうか。しかし、前畑滋子と違うのは凉子は成績優秀で容姿端麗、学校の先生にも一目置かれていて、クラスのリーダー的存在です。完璧主義過ぎるのが玉にきずのようですが、仕事で忙しい母親のかわりに家事を担い、幼い妹たちの面倒も見るという絵に描いたような完璧超人です。ラーメンでいえば全部のせです。滋子は作者の宮部さんの分身なんだなと素直に受け入れられましたが、宮部さん、今回は欲張り過ぎましたね。ここまで完璧にしなくても、小説は成り立ったと思うのに。

弁護人役の神原和彦と、その助手役の野田健一は、線の細いおとなしそうな、内面に闇を抱えた、宮部さんの大好物もとい好きな要素を詰め込んだキャラクターでした。さらりと書いているけど、野田健一の生い立ちは読んでいてとても胸に迫りました。逆に、亡くなった柏木卓也は、そのキャラクターが重要視されるはずなのに、意外と雑。彼が真実何を考えていたのかは、残された人たちが想像するしかありません。不良グループのリーダー、大出俊次は、第1部を読んだときは「クロスファイア」に出てくるようなどうしようもない外道なのかと思ってましたが、第2部、第3部と読み進めるうちに彼の抱えている問題が明らかになり、次第に憐れみを感じるようになりました。もちろん、彼がほかの生徒たちにやった乱暴狼藉は許されないもので、その点で彼をきっちり断罪したのは、さすが宮部みゆきです。「彼もかわいそうな子なのよ~よよよ」じゃあ、すっきりしませんもんね。

同様に、学校や凉子宛てに密告状を送った三宅樹理も、彼女の心が醜く捻じ曲がった悲しい理由と、それでも許されない彼女の所業の両方を描くことで、彼女を「模倣犯」のめぐみのようなモンスターにしませんでした。「模倣犯」を読んだとき、私はピースよりもめぐみのほうが恐かったので、樹理が救われる終わり方でよかったです。

700ページ×3冊という長編なのに、結末は超あっさりでやや肩すかしでした。裁判の後、横暴だった楠山先生が校長にまで出世していたのにもひっかかったし。まあ、それが世の中っていうものなのかもしれませんがね。スーパー中学生が活躍するファンタジーかと思いきや、現実的なところは現実的。面白かったけど、文庫が出たら買うかと聞かれたらちょっと…です。

余談ですが、第1部の冒頭で「ん?」と引っかかったのが、クリスマス・イブに藤野涼子が、「直径30センチのクリスマスケーキ」を作ろうとする場面。直径30センチって、業務用オーブンでもないと作れないサイズなんですけど。プロの職人でも、結婚式とか芸能人の誕生日とか、特別なオーダーがない限り作らないサイズだと思うんですけど。「宮部さん、お菓子作ったことないんだな~」と、本筋には関係ないことですが、妙に気になってしまいました。


2 コメント

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ネタバレ感想 (SFurrow)
2014-08-16 21:46:35
私も図書館で借りたので、予約待ちの結果、第一部を4月、第二部を6月、そして第三部を先日読み終わりました。登場人物と話の展開を2カ月記憶しておくのが大変だった~~(まじ認知症テスト状態)
もちきちさんの感想、いちいち納得です。大人になった姿が出てくるのが野田クンだけなのがちょっと物足りなかったけど(ドラマ化なら、これは吉岡秀隆クンに決まりで、ここから回想シーンとして始まる~~だな)
藤野涼子父娘の完璧ぶりも作者の確信犯なんでしょうけど(ラーメン全部乗せ、には爆笑)まぁ父親役は柴田恭兵か堤真一だったら許すけど、涼子役は誰にせよ反発を感じるのは間違いないと思う。あと彼女の陰に隠れているけど、廷吏ヤマシンの完璧ぶりも半端なかったですね。こういうスーパー中学生たちに比べて、大人は、担任の先生にしろ、その隣の主婦にしろ、マスコミ記者にしろ、残念過ぎる人々で(このあたりも、作者の確信犯なんでしょうが)

朝日新聞に連載されていた奥田英朗の『沈黙の町で』も毎朝新聞が来るのを待ちかねて読んでいたのですが、リアルさという点では、奥田さんのほうがずっとリアルですけど、それぞれの持ち味で甲乙つけ難いかな~(奥田作品について、もちきちさんの感想もぜひ伺いたく思っています)
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映画化するそうですね (もちきち)
2014-08-17 00:11:47
>SFurrowさん
こんばんは。長編小説を間隔を置いて読むのは大変そうですね。
私はミレニアムシリーズを読んでるとき、登場人物の名前と人間関係を把握するのが大変でした。
中学生たちのキャラが立ち過ぎてるのには、やり過ぎなんじゃないのと思いましたが、宮部さんの小説に出てくる中高生は出来が良すぎるこがよく出てくるので、こんなものかもしれませんね。「模倣犯」の真一少年とか。

「ソロモンの偽証」は映画化されるそうで、涼子の父親役は佐々木蔵之介さんだとか。
ちょっと線が細い気もしますが、主役は子供たちだからそんなに出番はないのかもしれませんね。むしろ出ずっぱりだったら嫌かも。

奥田英朗の「沈黙の町で」、こちらも気になりますね。図書館で探してみます。
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