映画なんて大嫌い!

 ~映画に憑依された狂人による、只々、空虚な拙文です…。 ストーリーなんて糞っ喰らえ!

気球クラブ、その後

2009年11月10日 | 邦画・鑑賞ノート
 普段、DVDで作品を鑑賞する場合、1度目は物語と登場人物を把握するように心掛け、2度目からはメモを取りながら見ます。1カットを1単位として考え、どういう映像と音声で成り立っているのかを備に記録していきます。とは言っても、ざっとですが…。1カットに込められた作り手の意図が概ね理解出来てくると、今度は映像演出(台詞・動き・キャメラ・編集・効果音、など)が齎す、その作品ならではのリズムとでも言いましょうか、映像言語による文体、構成への美学のようなものが朧に感じ取れるようになって来ます。こうなってくると俄然面白くなり、後は音楽を聴くのと同じです。何度でも飽きるまで《流れ》や《リズム》を楽しみます。今回、レンタルして来たこの『気球クラブ、その後』は、「さぁ、いよいよ楽しもうかなぁ…」というところで、返却日を迎えてしまいました。以下は、ざっと記したメモ書きです。
 この作品のキーポイントは、911同時多発テロの翌日という設定です。あの日、あなたはどこで何をしていましたか…?


     ■『気球クラブ、その後』 (2006年/PLUSMIC・CFP) 園子温 監督


・“秋の重力”“重力が重い”のスーパー。続いて衝突音。転がるヘルメットの映像。
 ※ここに、サイレンや女性の悲鳴を入れてしまうと、途端に下品な印象を齎してしまう。それに、秋らしくない…。
・レンジ台に置かれる鍋。まな板の野菜がフライパンへ放り込まれる。
 ※調理している人物は、この時点ではまだ不明。
・“2001年9月12日”
 ※911米国同時多発テロの翌日。あの日、あなたは何をしていたか…?
・“Happy ♥ Go Lucky”のロゴが入ったピンクの下着。
・“午前11時20分”
・まな板の牛肉が切られる。ズームin。
・ピンクの下着から女の上半身へパンup。
・携帯電話の画面に“みどり”の文字。着信音ピピピピピ…。
・フライパンで炒める男の声「はいはい…」。台所から居間の卓袱台(ちゃぶだい)に置かれた携帯電話へ。
 「はい、もしもし…」
・鏡の前の女が話し出す。←この女がみどりだと分かる。
 「西村?」
・台所で野菜を炒める男。←この男が西村だと分かる。
 ※今、カレーを作っている最中だと伝える。
・みどりの後方、トイレから男が出てくる。
 「誰…?」
 みどり:「ひろし…」 男:「あっ、西村!?」 ←3人が友人だと分かる。
・男の携帯電話が鳴り、別の友人との会話が始まる。
 「村上さんが、事故ったって! みどりの声が聞こえたけど、みどりの所にいるの?」 ←この四人目の男も共通の友人だと分かる。みどりの部屋という事も…。
 ※ここで、美津子(永作博美)の話題が出る。村上の恋人。美津子への連絡を頼まれる。
・みどりと携帯で話している西村へ、村上の死を伝え、通話を切る。
 ※この場面、西村と男が携帯電話で話している間、お互いの女がじゃれ付いてくる。その感じがとてもいい。特に西村の女のすねた感じ…。
・台所の西村が、穴の開いた木ベラを手に「よし…」
 ※カレー作りが一段落。
・西村の女が、窓辺へと歩き、足の指でデッキのラジオ(ニュース)を音楽へと切り替える。
 ※この怠惰な感じがいい。
 ※ラジオのニュースが911テロの内容であったかは確認出来なかった。
・女は窓を開け放つ。外からは子供の声。
 ※西村の子供を欲しがっている心情だろうか…。一概に結婚を望んでいるとは言えないだろう。
・居間から聞こえて来るイントロに耳を傾ける台所の西村。
・窓辺に腰掛ける女。
 ※やや逆光のシルエット。手摺に肘を掛け、足をぶらぶらさせる仕草が怠惰でいい。
・音楽に誘われるように居間へ来る西村。手には穴の開いた木ベラ。
 「懐かしいなぁ…」 口ずさむ…。 
・♪翳りゆく部屋
・壁を背に座り込む西村が、穴の開いた木ベラを目に当てる。
・西村を求める女。
・木ベラの穴の向こうの青空…。
 ※ここで西村に関しては一段落。
 ※これ以降も、村上の事故を伝える携帯電話の会話によって、人物と人物・空間と空間が繋がって行く。更に、その元恋人・美津子への連絡を巡る通話によっても、輪は広がって行く。

・みどり→(走る女)→たこ焼パーティの男「もしもし、知らないって…」+♪翳りゆく部屋→いしだ壱成の女→(走る女)→気球車
 ※みどりは美津子さんの連絡先を知らないと嘘を吐く。
 ※通話の間に挟まる走る女のインパクト。印象付けられる。
 ※この作品に於けるいしだ壱成の重石としての役割は大きい。俳優としての知名度や、男らしさとフェミニストな面を併せ持った役柄で、映画が引き締まっていた。同居する女も彼との抱き合わせによって印象付けられる。
・“気球車”を説明するスーパー。
 ※スーパーインポーズだけの画面は、時間(5年前と今)を行き来する間の処理として使われている。時空変化の混乱を解消する為には効果的だった。
・気球車(ハイエース)の中。最前列の真ん中に走る女。その横に、温度差を感じる女。
 ※走る女が再び印象付けられると同時に、5年前の映像との繋ぎ役として機能していた。また、美智子さんと思しき女が、ここで初めて画面に登場する。
・“午後12時30分”
・いしだ壱成と女の会話…村上のバイクに乗っていた人は今の恋人。
・病院の男「たった今、村上さんが死んだ…」→いしだ壱成の女「すぐに行くから…」
 ※病院男の画面に鳴り響く爆竹の破裂音!いしだ壱成のアイスキャンディーは画面を繋ぐ為の効果的な小道具。残暑、彼の雰囲気も出ていた。
・走る女。走る走る…。
・病院の男が院外で携帯電話に出る。相手は病院の中にいる男。「誰に連絡したの?」「中野あい子」 ←いしだ壱成の女の名が中野あい子と分かる。
・走る女が走りながら携帯電話に出る。…息遣い、靴音、蝉
・病院の中にいた男が玄関を出て来ながら通話する。…爆竹
・走る女は村上の死を知り、足を止める。…息遣い、蝉
 ※この後も走り出す女と病院のカットバックで、お祭の爆竹が鳴り響く。男の画面の爆竹が、女の画面にも…。何かが弾けたように…
 「あいつは凄い生きたって事を、俺たちが…」 言葉にならないもどかしさ。
 ※このシーンでこの男は印象付けられる。
・“5年前のあの日 渡良瀬川にて”
・地球クラブの活動風景がダイジェストで描かれる。
・美津子さんに近付き挨拶する男(みどりの部屋にいた男)。「北二郎です…」 ←ここで名前が分かる。
・気球クラブの活動は自然消滅して行った。その事を知らせるスーパーと二郎のナレーション。
 ※5年前の映像からスーパーの画面なので、続く映像は現在のものとなる。
・青い空と白い雲。家並(俯瞰)。青い空と白い雲を背景に張り巡らせられた電線、電柱、信号機は黄色から赤へ。
 ※このあたりの映像は、911同時多発テロの翌日という設定も絡む。
・歩きながら携帯で電話する二郎。相手はどうやら美津子さん。留守電…。
・道端に座り込む二郎。
・自転車に乗っているみどり。真上からの俯瞰撮影。
・“午後1時38分”
・アパートの前の電柱に自転車を停める。
 ※アパートの階段を上り、画面からはフレームout。ここで間を取る。
・西村の隣に座り、カレーを食べるみどり。「おいしい!」 「だろう?」
・二郎が自宅から電話を掛ける。美津子さんの留守電へメッセージ。2度。
 ※よそよそしい緊張感が何かを予感させる。
・5年前の初めての飲み会。
 村上:「夢を見ない奴は糞だ!その糞にぶら下っている奴はもっと糞だ!」
・メンバーの中の一人の女が立ち上がり、失恋の傷心を癒す絶唱。

♪翳りゆく部屋 (作詞・作曲:荒井由実)

   窓辺に置いた 椅子にもたれ
   あなたは 夕陽見てた
   投げやりな 別れの気配を
   横顔に ただよわせ

   二人の言葉は あてもなく
   過ぎた日々を さまよう
   振り向けば ドアの隙間から
   宵闇が しのび込む

   どんな運命が 愛を遠ざけたの
   輝きは もどらない
   わたしが 今 死んでも

・窓の外を眺める二郎…。
・5年前の飲み会の様子。美津子とのキッス。
 ※美津子のミステリアスな面が強調される。
・二郎の自慰行為。
 ※《死》と《性》の匂い…。
・みどりからの電話で美津子さんへも伝えた事を知る二郎。
・自転車に跨ったみどり→美津子(フルショット)→美津子(ミディアム)
 ※連絡が取れた事への衝撃。
・病院に向かう途中の中野あい子が、たこ焼パーティの男へ村上の死を知らせる。今夜、偲ぶ会を開き、気球クラブのメンバーが集まる事も…。反応が鈍い。
 あい子:「みんな薄情ね…」
 いしだ壱成:「5年ってそんなもんだよ…」
・携帯だけで繋がっているだけなのか…。
・キッスを求めるあい子。今夜、みんなの前からいなくなったら、私の携帯も捨てて!
・“午後3時43分”
・川の土手沿い。携帯電話での呼び掛け。ぼちぼちメンバーが集まり出す。
 ※登場人物の紹介はここまで。

・“午後7時31分”
 ※911同時多発テロの衝撃が、彼らに及ぼした影響…。♪「翳りゆく部屋」に蘇る青春。この曲に吸い寄せられるように、気球クラブのメンバーたちが嘗ての建物に集結する。ここまでの求心力と遠心力は素晴らしい。よく綾が織り込まれている。交互に話す携帯電話の特徴と、携帯電話だけで繋がっているだけなのかも知れない友情が、ブツブツと細かく切れるカットバックによって上手く表現されていた。5年前も、5年ぶりのどんちゃん騒ぎも、皆の声が楽しく活き活きと交わる。しかし、そこに美津子の姿はない。
・小さな風船が一つだけ天井に浮いている。
・気球BARを葬り去りに行く決意。気球クラブを解散させる為に…。
 ※生前、村上が語っていた巨人型気球の眼になる筈だったバルーン。ちょくちょく気球クラブの飲み会の舞台となっていた。
 ※村上さんとの別れ。青春との決別。

・“午前6時15分”
・気球車(ハイエース)の車中。どんちゃん騒ぎ。
・バルーン(気球BAR)を膨らますメンバーたち。
・その場から中野あい子が立ち去る。

・“午後4時40分”
・村上が気球の上で美津子さんにプロポーズしたエピソード。
・気球クラブの解散。お互いの携帯番号、メールアドレスを消去し合う。永遠に連絡は取れない。
 ※ぐるっと車座を一周するカメラ。
・野晒しの夢は野晒しのまま…。気球BARもそのままにして…。
・フェードout、カットin。
・外はだいぶ暗く
・二郎と西村の二人だけが残る。
 二郎:「俺たち、もう手遅れかなぁ…」
・気球BARの天辺。
・カットout、カットin。
・バルーンの外に美津子の姿が…。中で二人は寝ている。美津子が火の点いたタバコでバルーンに穴を開け、吸い口を内側にしてタバコを引っ掛ける。
・バルーンにもたれ掛かる美津子。
 ※まるで村上にもたれ掛かっているようだ。そういえば、村上はタバコを吸っていたか…?
・美津子も去り、バルーンから二人が咳き込んで出て来る。
・走り去る西村。
・呼び止める二郎。急いで携帯で連絡を取ろうとするが…。
 ※ここまでが気球クラブのお話。

・皆から聞いた話を纏めると、気球クラブは、だいたいこんな感じで始まった…。
 ※ここからは、いよいよ美津子さんと村上の物語、♪「翳りゆく部屋」が描かれて行く。
 ※これ以降は、二郎の脳裏に展開される想像の映像でもある。後に分かる事だが、この想像・回想は気球クラブの解散から、更に時が流れている。
・たった1コだけ最後まで落ちて来なかった風船のエピソード。
・美津子さんへの思いを記した村上からのラブレター。それがぶら下っている風船。
 ※村上の思い。村上の夢。
・村上のアイディアがぶら下った夢の風船が天井いっぱいに埋まり、美津子さんの風船がその中に埋もれて行く。
 ※このメタファーは見事。
・気球クラブの解散を経た、二郎の社会人としての生活。
・青空に気球が…。
 例によって屋上でたこ焼パーティーをしながらぼんやり空を眺めていると…お腹を膨らませたみどりが洗濯物を干しながら…電車の中からあい子が…タバコを吸いながら二郎が…
・美津子さんの風船は、今は二郎の部屋の天井で浮いていた。
・美津子さんがみどりに託した風船の約束。涙。
 ※その約束が叶わぬまま、別れの時を経て、村上は逝ってしまった…。
・エンドロール。
・♪翳りゆく部屋 (歌:畠山美由紀)。
・公園のベンチで、人々が集う様子をぼんやりと眺めている二郎。
・風船を手に取り、ぶら下った手紙を開けて見る。
・立ち上がると、手に持った風船をゆっくりと放す。
・大空に舞い上がる風船。どこままでもどこまでも、高く高く…。
・手紙の内容は明かされぬまま、小さくなった風船がフレームoutして、映画は終わる…。


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