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【ヴァギナ・デンタータ】

瞼を閉じれば見えてくるものこそ本当の世界――と、信じたい私は四六時中夢の中へ。

曇りビ

2005年07月04日 17時30分11秒 | テクスト

--------------------------------------------------------------------------------Text written by maro-mami*[kumori-bi]

 埃にまみれた姉の部屋を掃除する気になったのは、死後一年経てばいいかげんに気持ちの整理もついただろう、と思ったからだ。
 思えば、まるきり似ていない姉妹だった。才色兼備と姉ばかりが褒めそやされ、いつでも引き立て役に甘んじなければならなかった私が姉を妬まなかったと言えば嘘になる。それでも姉は最期まで私に変わらぬ愛を注いでくれたから、私も結局、優しい姉を憎みきることが出来なかったのだろう。死にゆく姉の青白い顔を見下ろしながら、憎悪と悲哀を同時に抱いた。
 曇った鏡に姉の姿を認めたとき、だから私は、姉が私に逢いたさに戻ってきたのかそれとも復讐しようとやってきたのか、すぐにはそれと判断することが出来なかった。結局は何のことはない、それは死んだ姉などではなく私の姿の映りこんだだけの虚像でしかなかったが。
 曇りぼやけた顔ならば、私も姉と同等の美しさを持つことが出来るとは何と皮肉な発見だろう。
 ふと熱く塩鹹いものが胸を満たし、私はとっさに目の前の鏡の曇りを拭った。拭ってしまえば姉の虚像の失せることを判ってか、あるいはもっと間近に姉と向き合いたかったとでもいうのだろうか。無意識の行動の答えを探すには頭が痺れすぎていた。
 いずれにせよ私は、指先の感覚が失われてもなお、延々鏡を拭き続けた。

[fukujyou-ni-shisu]*(2005. 04. ××)------------------------------------------------------------------------------------