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【ヴァギナ・デンタータ】

瞼を閉じれば見えてくるものこそ本当の世界――と、信じたい私は四六時中夢の中へ。

十字路

2005年08月31日 00時14分40秒 | テクスト

--------------------------------------------------------------------------------------Text written by man-ju*[juuji-ro]

 十字路に惑わされた。どの径を行ってもまた十字路、仕舞いには西も東も帰り径さえ判らなくなってしまう。君の手を引きながら僕はおしっこを我慢している。繋いだ手のひらには汗。僕はおしっこを我慢する、けれども結局ぶるっと身震いがきて洩らしてしまう。
 おしっこは蛇みたいに細い筋になって十字路を曲がってゆく。君は息を呑み、はにかみ、あのおしっこをたどれば十字路を脱けだせるのではないかと言う。それからスカートをまくり音を立てておしっこをする。
 流れるおしっこを追って僕らは走りだす。大丈夫、濡れた服は十字路を出るまでには乾く。すべからくおしっこは洩らすべし。僕の声に君の声が合わさって、何だかとても面白かった。

[fukujyou-ni-shisu]*(2005. 08 ××)------------------------------------------------------------------------------------

風がなくとも揺れる花

2005年08月15日 15時20分54秒 | テクスト

--------------------------------------------------------Text written by maro-mami*[kaze-ga-nakutomo-yureruhana]

 黒い花から柱頭の赤く色附いた珍妙な雌しべが二本蠢いているなと思ったら、それは雌しべでなく赤いヒィルを履いた小さな女の脚だった。花と思ったのは捲れて拡がったスカァトだった。
 イツからそうしていたのだか、私が発見した時には体力の消耗が劇しく意識も混濁し始めており、どんな訳でこんな処に逆さまに嵌まり込む羽目に陥ったのだか一向判然としない。
 只、私が通り掛かったのを僥倖と、あらん限りの力で脚をバタバタやりながら「お救け下さいお救け下さい」と悲痛な聲で訴える。スカァトの花は棚引き、柱頭のヒィルは今にも脱げ落ちそうに爪先らへんでブラついた。
 勿論私は女を救けてやるのは吝かではないのだが、勢いよくバタバタやる雌しべのような両脚の間から覘く、雄しべ群のようなレモンエローのパンティが気になって、ついつい手が宙ぶらりんの儘、止まって了う。

[fukujyou-ni-shisu]*(2005. 08. ××)------------------------------------------------------------------------------------

ちりはらら

2005年08月10日 01時55分10秒 | テクスト

---------------------------------------------------------------------------Text written by maro-mami*[chiri-ha-ra-ra]

 桜の花びらは、宙を舞い、私の上に降り注いだ。
 おでこに、頬っぺたに、唇に、桜の色が吸いついた。
 吸いついた先からみるみる私の肌は桜の色に染まっていった。花びらが地面に落ちる。ふうわり、ふうわりと揺れながら。
 落ちた花びらはすでに桜色ではなく、私の色に染まっていた。私は、初めて、自分の色を知った。

[fukujyou-ni-shisu]*(2005. 08. ××)------------------------------------------------------------------------------------

遠い遠い風景の向こう

2005年07月26日 00時59分36秒 | テクスト

------------------------------------------------------------------Text written by man-ju*[tooi-tooi-fuukeinomukou]

 丘を走り続ける少女のほつれたワンピースの先を僕は握っている。菩提樹に燦々と太陽が照る。僕らと菩提樹との距離はまだ遠いのに、菩提樹は今にも僕らを咥えこみそうなほど膨らんで大きい。僕は少女のワンピースから伸びた糸を握ったまま、見失わない程度の速度で少女を追う。
 少しずつ少女のワンピースがほどけてゆく。少女は下に何も着けていないので、すでに腰までほどけたワンピースからは生白い尻が丸見えだ。少女が脚を前後させるたびに揺れ、目を侵す。誰に手繰られているわけでもないのに気づくと僕の服もほつれ始めている。半ズボンから垂れた糸が膝小僧の裏を打つ。
 ふいに横を影が過ぎた。ここいらでよく見る痩せっぽちの犬だ。浮いた肋骨の間に食べ物を詰めこまれているが口が届かないので食べられず、だからいつでも飢えている。犬が、肉づきのよい少女の尻にかぶりつこうと跳び上がるのを僕は見た。
 少女はすぐさま身を翻し、ほつれた糸で犬の頸を締め上げた。肉を絶たれ犬は絶命する。少女は僕を振り返ったが、遠く表情は読めなかった。手を揺らして糸の先をしっかり握っていることを伝えると、少女は再び走りだす。僕も、また。
 膨らんだ菩提樹が裸の僕らのたどり着くのを待っている。

[fukujyou-ni-shisu]*(2005. 07. ××)------------------------------------------------------------------------------------

星の夜の、雪解けの朝の

2005年07月21日 02時59分08秒 | テクスト

------------------------------------------------------Text written by man-ju*[hoshi-no-yono,yukidoke-no-asano]

 星の奇麗な夜でした。
 小さな雪だるまは窓辺に立ち、心地よさそうに睡るまりちゃんの姿をいとおしそうに見守っていました。
 小さな雪だるまは、今朝まりちゃんにつくってもらったばかりでした。かわいらしい巻き毛を揺らしながら真っ白い雪を掬って自分をつくってくれるまりちゃんの姿を見ているうちに、小さな雪だるまはいつの間にかいっぺんにまりちゃんのことが大好きになってしまったのです。柔らかいまりちゃんの手が自分の頬っぺたやおでこを撫でてくれるのがくすぐったくて仕合わせで、小さな雪だるまは、まりちゃんには聴こえない声で思わずくすくす笑ってしまいました。
 まりちゃんは、ぼくのことをどう思っているのかなあ。
 小さな雪だるまはまりちゃんに撫でてもらったおでこをぴったり窓にくっつけて、かわいらしいまりちゃんの寝顔をじっと見つめました。クリスマスの夜をパパとママとおおはしゃぎで過ごしたまりちゃんは、疲れてしまったのでしょう、小さな雪だるまを窓辺に置くとすぐにすやすやと睡りについてしまったのでした。きっと愉しい夢を見ているのに違いありません。時折、嬉しそうに口許をほころばせています。
 どうにかしてまりちゃんにぼくの気持ちを伝えることが出来ないかなあ。
 小さな雪だるまは、仕上げにまりちゃんが被せてくれた赤い毛糸帽を大切そうに揺らしながら、まりちゃんの寝顔を見つめ続けました。
 空ではきらきら、星がまたたいています。

 翌日は晴天でした。
 眠い目をこすってベッドから起きだしたまりちゃんは、ふと、昨日の雪だるまはどうしたろう、と気にかかりました。こんなによい天気では、小さな雪だるまのことですから、溶けてどうにかなってしまっているかもしれません。
 まりちゃんは窓辺に駆け寄りました。
「まあ、不思議」
 それからこんな声を上げました。
 小さな雪だるまは、可哀相に、思ったとおり溶けて元の形をなくしていました。まりちゃんの赤い毛糸帽が窓辺に投げだされています。けれどもどうしたことでしょう、溶け残った雪はそれは見事なハートの形をしていたのです。まりちゃんが窓を開けて覗きこむと、お日様の光を浴びた雪はいっそうぴかぴかと輝きだします。
「本当に不思議なこともあるものだわ」
 まりちゃんはもう一度独り言して、落ちていた赤い毛糸帽をハート型の雪にきちんと被せ直しました。それからちょっぴり、微笑みました。

 昨晩は、本当に星の奇麗な夜でした。

[fukujyou-ni-shisu]*(2004. 0×. ××)------------------------------------------------------------------------------------



だめな人

2005年07月21日 02時37分52秒 | テクスト

--------------------------------------------------------------------------------Text written by man-ju*[dame-na-hito]

 海辺沿いをあなたと歩く。海が見たいとわたしが言うと、あなたは渋ることなく車を走らせてくれた。あなたはいつだって、優しい人。カーラジオの隣でしゅわしゅわと弾けていたサイダーは、車を降りる頃には造作のない甘ったるいだけの液体に変わっていた。
 一歩前を歩いていたあなたが立ち止まってわたしを見るから、思わず唇をすぼめたら、ほどけてるよと笑ってわたしの靴を指差す。
 僕が結び直してあげるから動かないで。すかさずしゃがみこんだまではよかったけれど、靴紐はなかなか上手に結ばれない。普段自分でやるのと勝手が違うからだよなんて、潮風に湿った耳を真っ赤に言い訳をする。
 あんまりあなたが一生懸命だから、わたしは息を吐くことさえ躊躇われて、波がすぐそこまで迫ってきていることにも口を噤んだままにした。
 しゃがみこんだあなたのズボンのお尻と、やっぱり靴紐のほどけたままのわたしの靴を瞬く間に波が呑む。
 わっと驚いて尻もちさえつくあなたに、不謹慎にもわたしは声を立てて笑ってしまう。

[fukujyou-ni-shisu]*(2005. 05. ××)------------------------------------------------------------------------------------

罪の甘み

2005年07月10日 19時51分00秒 | テクスト

-------------------------------------------------------------------------Text written by man-ju*[tsumi-no-amami]

 あれほど優しい人と言われてきたお兄様が歯を剥いてわたくしを打ち据えるほど変わられても、わたくしは何を責めることも致しません。
 誰よりお慕いしていたお兄様が嫁をとりなさると聞いたわたくしの悲観はどんなでしたろう。それもわたくしの親友の敏子さんがお相手であるなぞ。
「僕が誰と添おうともお前だけは祝福してくれると信じていたのに」
 どうか考え直してくれろと膝にすがるわたくしを持て余しながら、お兄様はあくまで優しく声をかけてくださいました。ですから血の噴くほどわたくしを殴られたのは、ひとえに、それほどまでわたくしの我儘が過ぎたということでしょう。とめどなく流れる血にお兄様はひどく動揺なさりましたが、それでも謝ろうとはなさいませんでした。
 わたくしが泣くたび打ち据えるようになられたのはそれからでした。厭気の差した敏子さんに棄てられると暴力は日常的になりました。刃物さえ振るうようになりました。去る敏子さんが、お兄様を堕落せしめたわたくしよりお兄様自身により冷ややかな視線を向けたことが印象的です。
「お前の所為だお前のお前の」
 どれほど罵られようともわたくしはお兄様を独り占め出来たことが何より嬉しくてなりません。お兄様に嬲られた皮膚が破れ血を噴きます。わたくしは毎夜、お兄様の唇を夢想しながら破れた自分の皮膚を吸うのです。

[fukujyou-ni-shisu]*(2005. 06. ××)------------------------------------------------------------------------------------


爪先ほどの背徳

2005年07月06日 01時17分24秒 | テクスト
-----------------------------------------------------------------Text written by man-ju*[tsumasaki-hodono-haitoku]

 あなたは、そんな処でいったい何をしているの。
 年月の染みた縁側に義姉が立つ。それにぎこちない笑みを返しつつも、意識はたゆまず冷えた爪先にだけあった。
 あたり一面は真綿の雪。私は靴下も靴も脱ぎ散らかしたまま、縁側を越えて庭へと出た。自分でも整理のついた行動ではなかった。ただ、痞えた胸が苦しかった。
 あなたは、自分でも何をしているのかきっと判っていないわね。
 羞恥は行動を看破されたことよりも義姉の脚に吸いつくナイロンのストッキングに覚えた。頬がかッと疼きだすのを抑制出来ずとも、せめても口角を引き締めることで意識を保つ。指先はすでに冷えている。
 無益ね、とても。
 嫂でありながら兄よりも私と居ることを好み、兄の前ですら平気で私にしな垂れかかる。病弱の兄を嫌い、肺に影が写っていたそうよと甘く私に耳打ちしたのは、もうひと月ほど前にはなろうか。
 ねえ、いいかげんにして中に這入ったらいいわ。あなたの兄さん、今、危篤だわ。見届けてあげるのが義理ってもんでしょう。そんな処で途方に暮れている場合じゃないわ。
 ストッキングを穿いた脚はやや内側に曲がっている。あなたの口から義理なんて言葉が聞けるとは夢にも思いませんでした、と、そう言い返せたならどんなにかよいだろう。
 ねえ。裸足で庭に出ては寒いのではないの。雪は明日の朝まで続くのだって、さっき予報でやっていたわ。
 けれども実際には、私は義姉と目を合わせることさえ出来ないのだ。縁側に染みた年月を無遠慮に踏み潰すストッキングの脚を、ただひたすらに眺めているしかない。冷えた指先は感覚を失い、正しく立っているのかさえも判らなくなる。どうすることも出来ない凍えは、本当に私の外側からくるものなのか、それとも内側からのものなのか。
 ご覧。
 何を思ったか、義姉は突然穿いていたストッキングを脱ぎ始めた。スカートがたくし上げられ、白い腿があらわになる。生身の肌と温もりの残るストッキングと、いったいどちらがより淫猥だろう。
 義姉は脱いだストッキングを右手に、ひょいと縁側を下りてきて庭に積もる雪に足を沈めた。わずかに雪が乱れ、義姉の指先がたちまち白く透き通る。
 裸足で庭に出ては寒いのではないですか。呟きはやはり私の口の中にとどまり、けっして義姉に聞こえることはない。膝をつき、冷えた私の足をとった。
 あなたがこれを穿くといいわ。
 唇から洩れた息が白く私の指に絡む。私は爪先に触れている義姉の手を振り払う。義姉は何度でも私の足を掴んでくる。姉の細い指が私の皮膚に喰いこんだが、痛みはなかった。
 ……お穿きなさい。さあ遠慮なく。
 それは静かな命令だった。私はもはや逆らうすべを持ち合わせない。義姉は微笑し、右手にしていたナイロンのストッキングを私の片方の爪先に引っ掛けた。痛みはない。
「ご覧」
 家の中で、痰の絡んだ兄の咳がひと際高く響いた気がした。

[fukujyou-ni-shisu]*(2005. 02. ××)------------------------------------------------------------------------------------


連鎖

2005年07月05日 01時30分20秒 | テクスト

----------------------------------------------------------------------------------------Text written by man-ju*[ren-sa]

 僕の手のひらからボロッとひとつ、蜜柑が落ちた。蜜柑は転がる。後ろを歩いていた婦人が僕につられて林檎を落とした。林檎も転がる。その後ろの紳士が、婦人につられて西瓜を落とした。西瓜はとても力強く転がる。受け止めようとかがみこんだその後ろの少女は、紳士につられてボロッとふたつ、手を落とした。
 僕らが立て続けに落とした蜜柑と林檎と西瓜は、少女を越え、物凄い速さで転がっていった。少女の手がそのあとを追う。

[fukujyou-ni-shisu]*(2004. ××. ××)------------------------------------------------------------------------------------

曇りビ

2005年07月04日 17時30分11秒 | テクスト

--------------------------------------------------------------------------------Text written by maro-mami*[kumori-bi]

 埃にまみれた姉の部屋を掃除する気になったのは、死後一年経てばいいかげんに気持ちの整理もついただろう、と思ったからだ。
 思えば、まるきり似ていない姉妹だった。才色兼備と姉ばかりが褒めそやされ、いつでも引き立て役に甘んじなければならなかった私が姉を妬まなかったと言えば嘘になる。それでも姉は最期まで私に変わらぬ愛を注いでくれたから、私も結局、優しい姉を憎みきることが出来なかったのだろう。死にゆく姉の青白い顔を見下ろしながら、憎悪と悲哀を同時に抱いた。
 曇った鏡に姉の姿を認めたとき、だから私は、姉が私に逢いたさに戻ってきたのかそれとも復讐しようとやってきたのか、すぐにはそれと判断することが出来なかった。結局は何のことはない、それは死んだ姉などではなく私の姿の映りこんだだけの虚像でしかなかったが。
 曇りぼやけた顔ならば、私も姉と同等の美しさを持つことが出来るとは何と皮肉な発見だろう。
 ふと熱く塩鹹いものが胸を満たし、私はとっさに目の前の鏡の曇りを拭った。拭ってしまえば姉の虚像の失せることを判ってか、あるいはもっと間近に姉と向き合いたかったとでもいうのだろうか。無意識の行動の答えを探すには頭が痺れすぎていた。
 いずれにせよ私は、指先の感覚が失われてもなお、延々鏡を拭き続けた。

[fukujyou-ni-shisu]*(2005. 04. ××)------------------------------------------------------------------------------------