ふわふわな記憶

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逆風も振り返れば追い風になる!!――『咲-Saki-』における『咲-Saki-阿知賀編』の位置付け。

2016-03-07 00:15:00 | 咲-Saki-
軌跡


早いもので、『咲-Saki-阿知賀編』が完結した2013年3月12日からもうじき3年。一時はバラバラの道を歩むことになった少女たちが再び集まり、本編とは逆のブロックで全国の頂点を目指す少女たちを描いた『咲-Saki-』のスピンオフ作品『咲-Saki-阿知賀編』が最終話を迎えてから既に3年近い月日が流れました。

そして偶然か否か、そんな時期に『咲-Saki-』本編もついに準決勝を終え、最新話では阿知賀編との合流を迎えようとしています。




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さて先日、第155局の感想を書いた際に、

阿知賀が一気に優勝候補筆頭みたいになってるのに若干の違和感を覚えるのは阿知賀編を知っているからなんだろうね


というコメントを頂きました。そして、これに似た感想を抱いた人がわりと周りにもいて、読んで感じたこと――つまり感想に正しいも間違いもないので、読者が多くいればもちろん違和感を覚える人がいても自然なことなのですが、僕個人に違和感はまるでなく、「阿知賀女子が清澄高校にとって最大のライバル校のように描写される」ことに対して違和感がないのはむしろ阿知賀編を知っているからこそじゃないかなぁ...と感じたのがこの記事を書いた発端です。




『咲-Saki-』本編と『咲-Saki-阿知賀編』の共通点と相違点



運命が回りだす
 

第155局の感想でも触れましたが、『咲-Saki-』本編は主人公の咲さんが疎遠になってしまった姉の照ともう一度会って話をするために全国を目指す物語であり、『咲-Saki-阿知賀編』もまた、旧友である和の活躍をテレビで目撃した主人公の穏乃が和と同じ舞台で遊びたいと奮起するところから物語が動き出します。

過去の「別れ」を起点として「再会」を一つの到達点とする点は本編も阿知賀編も共通しているところですよね。


本編と阿知賀編のストーリーを繋ぐ役割を担っている和もまた奈良から長野へと引っ越し、そして再び父から東京の進学校へ転校するように言われる。

麻雀なんてほぼ運で決まる不毛なゲームであると。遊びはほどほどにしておきなさいと。母親の仕事の都合で転校――「別れ」を繰り返してきた和がそれでも「ここに残りたい」と、おそらく初めて「別れ」を突っぱねます。



一度きりの・・・


だからこそ、普段は理詰めの和が部長に「たった一回の人生も論理と計算ずくで生きていくの?」と言われ、刺さるものを感じていた。

デジタルの化身である和が、咲さんや清澄の仲間たちとの「今」を守るために環境の良い進学校へと転校することを拒む。もう「別れ」は嫌なんだと。

『咲-Saki-』本編の主人公である咲さんや『咲-Saki-阿知賀編』の主人公である穏乃だけでなく、2つの物語を繋ぐ和が全国の頂点を目指す理由もまた「別れ」を起点としているのが非常に面白いなと思います。



『咲-Saki-阿知賀編』の「軌跡」に見る『咲-Saki-』本編の到達点



阿知賀編が終了したとはいえ、無論阿知賀女子の闘いがここで終わったわけではなく、彼女たちの物語がひとまず決勝戦まで続くことは言うまでもありません。ですが、『咲-Saki-阿知賀編』という物語において準決勝第1試合はひとつの到達点であったことに相違はないと思います。


そして、「別れ」というワードで連想するのはもちろん松実玄さんでしょう。


別れることはよくあることで 私は慣れてるはずだったんだ

今まで自分から別れを決めたことはなかったけど 前に向かうために 一旦お別れ

帰ってこなくても 私は待ってる


絶対王者である宮永照に突き刺さった予想を超える一撃。王者の連荘という未来を改変するために限界を超える園城寺怜さんと一番へこんでいるにもかかわらず誰よりも明るく振る舞う花田煌さんのアシストを受けて、思い出を大切にする玄さんが選択するのは「前に向かうための別れ」でした。

ここで初めて玄さんは過去を過去のものとして向き合い、「今」を闘う力に変えて見せます。準決勝を通して彼女の成長が最もよくわかるシーンなだけにとても印象的ですよね。

過去の思い出を胸に秘め前に向かうために「別れ」を選ぶ。「過去」を乗り越えて前へ前へと進んでいく。

玄さんや穏乃だけではない。穏乃や和との「別れ」を選択し、阿太峯中学に進んだ過去を持つ憧も。自分のヒーローであった赤土晴絵の想いを乗せ、準決勝という大きな壁を前に「10年越しのリベンジ」を果たした灼も。「今日はお姉ちゃんががんばる番!」と奮起し、ずっと守られる側だった宥姉が妹の失点を取り返したことも。

その全てが、昨日よりも今日、今日よりも明日の私たちが強い!を掲げる阿知賀女子らしさ。


阿知賀女子はみんなが「過去」に「別れ」を経験し、準決勝という舞台でそれを乗り越えることで「今」を闘うチームになった。


対して、始まりこそ似た清澄高校は準決勝終了時において部長の「過去」も未だ断片的にしか描かれず、和も負ければ「転校」という事実を部のみんなに打ち明けられずにいる。


また、Aブロックの準決勝が行われたあの日。「過去」に起こった出来事の整理を付けられないままでいる咲さんは照との「再会」を果たせなかったのに対し、準決勝を前にして穏乃は和との「再会」を果たすのも対照的。

これはもちろん、阿知賀編が準決勝を乗り越えるべき一つの到達点としていたのに対し、物語の構造上清澄が乗り越えるべき到達点が決勝戦だからではあるけれど、もしかしたら阿知賀女子が清澄の一歩先に踏み出していることの示唆でもあるのかもしれない。
 
 
阿知賀編は「過去」を見つめていた少女たちが準決勝において「過去」を乗り越え「今」を闘い、そして、「未来」へ向かって歩きだす物語だったのだから。


OPテーマの「TSU・BA・SA」にある「解き放つ思いと 追い風が重なる場所」という歌詞がまさにそう語っているように。

逆風も振り返れば追い風になる。阿知賀編に込められたテーマはやはりここにあるのだろうと思いますし、清澄高校にとっても受け継がれていくテーマになるのだろうなと。

だからこそ、清澄高校にとって決勝戦における最大のライバルはやっぱり阿知賀女子なのではないかなとそう思うのでした。


3 コメント

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Unknown (Unknown)
2016-03-07 17:13:06
たしかに物語構造に着目すると、阿知賀の躍進は不思議ではないんですよね。
レジェンドがプロ入りを断ったことを知ったこと、和と再会したこと、これらで
穏乃たちの意識が大きく変わっていたがゆえの準決勝での戦いぶりだと思います。
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Unknown (Unknown)
2016-03-08 07:44:49
単に白糸台(前年度優勝校)や臨海(準決勝であたるシード校)は強豪ゆえに研究してたけど、阿知賀はそもそも無名校だから決勝にくるか分からなかったので、今対策やっているところをシーンとして切り取ってるだけじゃないのかと思う。
あと、阿知賀のライバルは清澄だけど、清澄のライバルは阿知賀には違和感があります(和以外の繋がりがないので…)。
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Unknown (ふわふわ)
2016-03-09 08:18:40
>単に白糸台(前年度優勝校)や臨海(準決勝であたるシード校)は強豪ゆえに研究してたけど、阿知賀は.....

これはもちろんあると思います。ただ細かいことを言えば、実際に対戦した臨海女子には大差を付けられ負けましたし、白糸台に関しても準決勝第一試合の対局で改めて気付いた情報もあるでしょうから、その辺りの描写があまり清澄視点で描かれず阿知賀女子がフィーチャーされたために違和感を覚えた人もいたのではないかと。

>阿知賀のライバルは清澄だけど、清澄のライバルは阿知賀には違和感があります....

これに関しては記事でも書きましたが阿知賀編の一つの到達点は準決勝にあり、その準決勝の闘いにおいて「過去」を乗り越え、「王者」を打ち倒し、全国の高みへとたどり着きました。
それゆえに未だ「過去」にまつわるエピソードを残した清澄高校にとって、決勝戦で乗り越えるべき最も強大な敵として阿知賀女子が挙がるというのは物語の構造を考えるとおもしろいかなと。
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