「プロになりたいのですが、どうしたらなれますか?」
こういう御相談を受ける事が稀に有る。一応、体験レッスン等で実力を見せて頂き、判断するのだが、結局は「他の道を考えた方が良いと思います。」というアドバイスになる。僕にとってそれが最大級の善意だ。
日々、ハタチそこそこの激ウマの若手がデビューしている昨今、まずは音楽だけで彼等より魅力的でないと食っては行けないという現実が有る。それには数々の経験が必要だし、音楽のみならずビジネス的なリサーチも不可欠だ。それをやったとしても実力が有るのに淘汰されて消えて行く人もいるし、自分だっていつ消えるか分からない…という恐怖と常に戦わねばならない。
確実に分かっている事は、リスナーはいつも活きの良い若手や愛らしい女性プレイヤーを第一に応援したがるし、彼等にとって安心して聴けるのは名の通った超有名人なのである。加齢等でそこから漏れてしまった場合、どういうビジネス展開をするか具体的に提案し実行する…の繰り返しが、我々フリーランス・ミュージシャンの仕事である。決して「情熱」や音楽的実力だけで何とかなる分野ではない。
数年前、体験レッスンを受けた30代半ばのプロ志望の青年に、「ご両親は何と仰ってるの?」と尋ねた事が有る。「両親は好きな事をやれと言ってくれてます。」という答えが返って来てとても驚いた。色んな家庭が有るから何とも難しいが、少なくとも僕は猛反対する親を説得する所から始まった。確かに今は一つの会社に永久就職する時代ではないし会社が必ずしも安寧の地というわけではない。しかし、プロ・ミュージシャンという職業は会社に就職する以上に様々な才覚を求められる。社会に出て仕事を取る為に海千山千の大人達を相手に交渉や説得に臨むのがこの仕事であり、親を説得出来ない者にこれが出来る筈がない。最初の壁となるべきは親だと思うのだが、昨今そうではないみたいだ。
そういえば、僕の大嫌いな某ジャズ漫画には、物分かりの良い大人達しか出て来ない。無償で何でも与え、主人公は情熱だけで何でも乗り越える。挫折らしい挫折も、僕がこれまで経験して来た地を這う様な人生と比べると無いに等しい。これを読むと、凄く気持ちが悪くなるのだが、これがもしかしたら今という時代を象徴してるのかも知れない。だから、プロになる事をイージーに考える人や、簡単に許してしまう親がいるのかも。
僕はこれでも恵まれた方だと思う。僕以上にもっともっと苦労した人も居るし、逆に苦労すれば何でも報われるという訳ではない。ジャズ・ミュージシャンには意外と経済的に恵まれた家庭で育った人も多い。子供の頃からしっかりと音楽教育を受けて来て、コネクションも有って集客に苦労しない人だって中には居る。こういった、社会では当たり前の理不尽に耐え、常に新しいアイディアを捻り出し、それを世の中でプレゼンし続ける泥臭い仕事をするのが我々ミュージシャンだ。
そんな事の繰り返しで演奏する事が嫌になった時期も有ったし、サラリーマンとして安定した財力も有る中で人生に余裕も生まれ、趣味として楽しそうに演奏している同世代の人達を見て羨ましいと思う事も有った。
でも、50を過ぎ、この業界でのコンペティションに何とか生き残り、末席を汚させて頂きながらも音楽で生活させて頂いてる事に幸せを感じて、これからの余生は心底音楽を楽しもうと思っている。生活の心配や、いつホームレスになるかも知れないという恐怖は常に付き纏うけど。だって、一時収入が激減してバイト情報読んでみたら、自分に出来そうなバイトがほんと見つかんなかったんだもの。(笑)
若い頃の様に「オレ、凄いだろ⁈」みたいな自己顕示欲はどんどん薄れ、音楽を聴いたり演奏する事を純粋に楽しめる様になり、無心に必死で演奏してると、前に座ってるお客さんが「イェーイ!」って喜んでる…つくづく不思議で変な職業だなと思う。
ある種のコンペティションから解放された余裕も有ってか、かつてトンガってぶつかり合ってた仲間達とも、わだかまりなく仲良く出来る。
でも、これらの事を感じられる様になったのは「漸く」…なのだ。それまでの挫折や葛藤はここでは語り尽くせないし、生き残って来た仲間達もそれは同じだろう。
夢を持つ事は素晴らしい事だし、夢は大きくないとつまらない。僕はその夢を一つ一つ実現させて行ったけど、その際、常に良く考え戦略を練ってから行動に移した。僕以上に大成してる人達はもっと緻密な戦略を練っただろうし、それにも増して行動的だったと思う。「プロになる」という夢を否定はしないが、戦略的に考えても10代からプランニングして、20代で実践に移さなければ困難だし、30歳辺りで業界に名前を定着させなければ、各方面での顧客や雇用主を囲い込む事も難しい。そういう相手から少しずつ仕事を戴くのがフリーランスの仕事だ。先日会ったアラフォーのプロ志望という青年にはそういったアイディアが一切感じられなかった。
僕の生徒からも数人プロは輩出したけど、そういう現実は教えて来たつもりだし、ウチを卒業したら即ライバルになるのだから潰しに掛かる…との脅しも入れた。半分冗談で半分本気だ。
プロで食って行く…ってのは、単純に「厳しい」というのではなく、ビジネスプランを自ら考え出すクリエイティビティと老獪なクレバーさも必要なのだ。ミュージシャンは「個人事業主」だという事を決して忘れないで欲しい。
情熱を熱く語るだけのマンガは嫌いだし、「貴方の情熱をサポート」的な上っ面だけの学校の謳い文句も嫌いだ。現実はもっと理不尽で残酷なのだ。それに耐えて、初めて真の悦びが得られるのだ。そして、将来的な不安が消え去る事なんて一切無い。一瞬の悦びの為に多くを犠牲にし、一瞬の悦びの為だけに生きるのがプロ・ミュージシャンって職業なのだ。
こういう御相談を受ける事が稀に有る。一応、体験レッスン等で実力を見せて頂き、判断するのだが、結局は「他の道を考えた方が良いと思います。」というアドバイスになる。僕にとってそれが最大級の善意だ。
日々、ハタチそこそこの激ウマの若手がデビューしている昨今、まずは音楽だけで彼等より魅力的でないと食っては行けないという現実が有る。それには数々の経験が必要だし、音楽のみならずビジネス的なリサーチも不可欠だ。それをやったとしても実力が有るのに淘汰されて消えて行く人もいるし、自分だっていつ消えるか分からない…という恐怖と常に戦わねばならない。
確実に分かっている事は、リスナーはいつも活きの良い若手や愛らしい女性プレイヤーを第一に応援したがるし、彼等にとって安心して聴けるのは名の通った超有名人なのである。加齢等でそこから漏れてしまった場合、どういうビジネス展開をするか具体的に提案し実行する…の繰り返しが、我々フリーランス・ミュージシャンの仕事である。決して「情熱」や音楽的実力だけで何とかなる分野ではない。
数年前、体験レッスンを受けた30代半ばのプロ志望の青年に、「ご両親は何と仰ってるの?」と尋ねた事が有る。「両親は好きな事をやれと言ってくれてます。」という答えが返って来てとても驚いた。色んな家庭が有るから何とも難しいが、少なくとも僕は猛反対する親を説得する所から始まった。確かに今は一つの会社に永久就職する時代ではないし会社が必ずしも安寧の地というわけではない。しかし、プロ・ミュージシャンという職業は会社に就職する以上に様々な才覚を求められる。社会に出て仕事を取る為に海千山千の大人達を相手に交渉や説得に臨むのがこの仕事であり、親を説得出来ない者にこれが出来る筈がない。最初の壁となるべきは親だと思うのだが、昨今そうではないみたいだ。
そういえば、僕の大嫌いな某ジャズ漫画には、物分かりの良い大人達しか出て来ない。無償で何でも与え、主人公は情熱だけで何でも乗り越える。挫折らしい挫折も、僕がこれまで経験して来た地を這う様な人生と比べると無いに等しい。これを読むと、凄く気持ちが悪くなるのだが、これがもしかしたら今という時代を象徴してるのかも知れない。だから、プロになる事をイージーに考える人や、簡単に許してしまう親がいるのかも。
僕はこれでも恵まれた方だと思う。僕以上にもっともっと苦労した人も居るし、逆に苦労すれば何でも報われるという訳ではない。ジャズ・ミュージシャンには意外と経済的に恵まれた家庭で育った人も多い。子供の頃からしっかりと音楽教育を受けて来て、コネクションも有って集客に苦労しない人だって中には居る。こういった、社会では当たり前の理不尽に耐え、常に新しいアイディアを捻り出し、それを世の中でプレゼンし続ける泥臭い仕事をするのが我々ミュージシャンだ。
そんな事の繰り返しで演奏する事が嫌になった時期も有ったし、サラリーマンとして安定した財力も有る中で人生に余裕も生まれ、趣味として楽しそうに演奏している同世代の人達を見て羨ましいと思う事も有った。
でも、50を過ぎ、この業界でのコンペティションに何とか生き残り、末席を汚させて頂きながらも音楽で生活させて頂いてる事に幸せを感じて、これからの余生は心底音楽を楽しもうと思っている。生活の心配や、いつホームレスになるかも知れないという恐怖は常に付き纏うけど。だって、一時収入が激減してバイト情報読んでみたら、自分に出来そうなバイトがほんと見つかんなかったんだもの。(笑)
若い頃の様に「オレ、凄いだろ⁈」みたいな自己顕示欲はどんどん薄れ、音楽を聴いたり演奏する事を純粋に楽しめる様になり、無心に必死で演奏してると、前に座ってるお客さんが「イェーイ!」って喜んでる…つくづく不思議で変な職業だなと思う。
ある種のコンペティションから解放された余裕も有ってか、かつてトンガってぶつかり合ってた仲間達とも、わだかまりなく仲良く出来る。
でも、これらの事を感じられる様になったのは「漸く」…なのだ。それまでの挫折や葛藤はここでは語り尽くせないし、生き残って来た仲間達もそれは同じだろう。
夢を持つ事は素晴らしい事だし、夢は大きくないとつまらない。僕はその夢を一つ一つ実現させて行ったけど、その際、常に良く考え戦略を練ってから行動に移した。僕以上に大成してる人達はもっと緻密な戦略を練っただろうし、それにも増して行動的だったと思う。「プロになる」という夢を否定はしないが、戦略的に考えても10代からプランニングして、20代で実践に移さなければ困難だし、30歳辺りで業界に名前を定着させなければ、各方面での顧客や雇用主を囲い込む事も難しい。そういう相手から少しずつ仕事を戴くのがフリーランスの仕事だ。先日会ったアラフォーのプロ志望という青年にはそういったアイディアが一切感じられなかった。
僕の生徒からも数人プロは輩出したけど、そういう現実は教えて来たつもりだし、ウチを卒業したら即ライバルになるのだから潰しに掛かる…との脅しも入れた。半分冗談で半分本気だ。
プロで食って行く…ってのは、単純に「厳しい」というのではなく、ビジネスプランを自ら考え出すクリエイティビティと老獪なクレバーさも必要なのだ。ミュージシャンは「個人事業主」だという事を決して忘れないで欲しい。
情熱を熱く語るだけのマンガは嫌いだし、「貴方の情熱をサポート」的な上っ面だけの学校の謳い文句も嫌いだ。現実はもっと理不尽で残酷なのだ。それに耐えて、初めて真の悦びが得られるのだ。そして、将来的な不安が消え去る事なんて一切無い。一瞬の悦びの為に多くを犠牲にし、一瞬の悦びの為だけに生きるのがプロ・ミュージシャンって職業なのだ。
沢山の方々にこの駄文をお褒め頂き、また、共感したプロ・ミュージシャンの方々にシェアして頂き、嬉しいやら恥ずかしいやら複雑な気持ちですが、感謝致します。
一点だけ、強調したいのは、決して自分の仕事に対する苦労話がしたかった訳ではなく、ここ最近、演奏能力が高いわけでもないのに、軽々しく「プロ」を口にするアラサー、アラフォー世代の青年が多い事に危うさを感じて、これを書いたという事です。映画や漫画の影響かな…と思ってるのですが。
プロになった人達の周りには、必ず若い頃に先輩ミュージシャンが居て、どうやって食ってるかを目の当たりにしています。根性や情熱だけで食えない事も重々理解した上でこの道に入っている事をお伝えしたかったのです。そういうチャンスが無く30を過ぎてしまった方々に「夢は願えば叶う」など恐ろしくて言えません。諦めて頂きたい…と正直思います。
僕は運命論者で、仕事に就くに当たり、そこまでの道筋は人それぞれ明確に有ると思います。それを捻じ曲げても決して上手く行かないと。