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ボーカリスト

2017年04月25日 11時50分22秒 | jazz
実は、僕はボーカリストになりたかった…というのは、ちょこちょここのブログに書いてます。しかし、あまりの才能の無さ(声質を始め)に諦めたわけでして…。

ボーカル、いや声帯ってのはコントロールが難しくて、我々器楽奏者が普段やってる「楽器を選ぶ」という様な事も出来ないし、最も演奏が難しい楽器だと思うんです。だからリスペクトしてます。ボビー・マクファーリンや、ベルギーのデビット・リンクスなんて、スキャットが楽器並みだし、本当に凄いと思います。尚且つ歌詞を乗っけられるんだから、もう無敵です。

僕は、NY時代、エブリン・ブレイキー(アート・ブレイキーの実娘)というボーカリストに拾われて、それ以来、色んなボーカリストからお仕事を頂きました。東京に出てからも、何故か色んなボーカリストにお仕事を戴き、色々勉強させて頂きました。オブリガードって今でも難しい!って思います。(笑) 通常のサックス奏者よりこういう仕事に恵まれてると思いますし、有り難い事だと思います。本当はサックスなんて無くても成立するわけですから、呼ばれた以上は、そのステージを更に華やかに盛り上げたり、「あぁ、ジャズって良いなぁ。」とお客様に思って戴ける事が僕の使命です。

時折、ネットでジャズ・ボーカリスト、特に女性ボーカリストに対する超辛口コメントや、蔑視発言とも取れる様な意見を読む事が有ります。最近は、読んでて不愉快になるだけだし、うんざりしてあまり読まないようにしていますが。それに対して、僕は否定も肯定もしません。「そうだよね。そういう事有るよね。」と思う事も仕事上、確かに多々有ります。でも、十把一絡げに「女性ボーカルってやつは…」とも思わないので、同意もし兼ねます。確かに、ろくにジャズも知らなさそうなキャバクラのネェチャンみたいな人のバックを務めた時は、勘弁してくれ~!って思いましたが(笑)、なんか、僕はジャズ・ボーカリストを一人のミュージシャンとして見る習性が有るので、トータルでシビアに見つめてるって感じですね。だから、良いミュージシャンも居ればダメなミュージシャンも居るなって感じで、ボーカリストを見てます。

ボーカリストの持って来た譜面の事でボロカスに言ってるミュージシャンが結構多いのですが、エブリンのバンドで演ってた時に譜面など貰った事は有りません。曲のタイトルを言われて、すぐカウント・オフが始まります。「そんな曲知らない。」と言ったら、「Where have you been !?(お前、今まで何やってたんだ!)」とメンバーから怒鳴られ、悔しくてレパートリーを増やすの繰り返し。なので、日本では、リード・シートを配られるだけでも「有り難や~!」「助かったぁ!」と思います。まぁ、自分は最近そのシステムに甘え過ぎてるな…と猛省しておりますが。(今ではほんと、曲忘れまくってるなぁ…と恐怖さえ感じております。反省&苦笑)

ただ、レパートリーが必ずしも他人同士でかぶってるとは限らないので、譜面に頼る事は有るかと思います。それはインストでも同じです。また、リハーサルもろくに出来ないシチュエーションも多々有るかと思います。器楽奏者同士なら、そういうシチュエーションをどう乗り越えるかを分かり合えるのに、なぜボーカリストとは分かり合えないのか?という疑問を感じる事は多いです。僕は単純に、ボーカリストもミュージシャンの一員であって欲しいのです。

先日の仕事で、ビッグバンドのパート譜を持って来て「これでお願いします。」というボーカリストさんがいました。そこには殆どがランダムに書かれた長休符と、急に細かい半拍3連が嵐の様に書かれたメロディーが有りました。コードも一部を除いて何も書いてません。リズムは12/8拍子で書いてあったと記憶してますが、ドラムもベースも居ないシチュエーションだったので何とも言い難いのですが、3/4で書くべきだと思いました。書かれてるメロディーを読もうと努力はしましたが、グルーヴが違うので完全に読む事は出来ませんでした。まぁ、ミスったのは僕の読譜力のせいでもあるのですが。

こういう譜面のトラブルは、この仕事(ボーカルのバック)を20年やって来て日常茶飯事なので、何か物申す事は避けてましたし、特に「言っても仕方ない…」と思う人には何も言って来ませんでした。しかし、その日はそれまでステージを重ねて何も問題が無かったのに、こんな譜面一つのせいで台無しになってしまったのは勿体ないと思い、僭越ながら注意させて貰いました。

「こういう情報量があまりにも少ない譜面だと、演奏するのが困難だし、結局、その場で耳使って適当に吹くしかなくなります。他のサックスの人だと怒る人も居ると思いますよ。リズムもこの編成なら3拍子の方が乗りやすいと思います。」

すると、申し訳なさそうに、自分のお師匠から戴いた譜面だという事を明かしてくれました。確かにお師匠から戴いた譜面なら全面的に信用してしまう気持ちは分かります。でも、やはり自分で確認して、この譜面が初見でも理解可能なものかは検証するべきだと思います。同じミュージシャンであるなら。

そういう「ミュージシャン・シップ」をご存じないボーカリストが多いのだと思います。その垣根を破るには、器楽奏者も歩み寄って教えてあげるべきだと思うし、ボーカリストの方も「取り敢えず、その場で歌いたい曲を楽しく歌えれば…」と思わずに学び取るべきだと思います。そして、常日頃から理論やミュージック・ノーテーション(譜面の書き方)を勉強するべきだと思います。時間に追われ、譜面のチェックまで気が回らない…という可能性も僕にはイメージできますが、その曲を愛して、メンバーにちゃんと演奏させよう(この場合、ボーカリストが「親方」なわけですから、それくらいのイニシアチブを持ってて良いと思います。)と思うなら、それをすべきかと。あるいは、思い切って「あ~ら、あなた、こんな有名な曲も知らないの?」…なんて言うのも逆に有りかも。そう言われると、こちらは「すいません!!」としか言い様がないので。ただ、相当な実力者限定だと思われますが。(笑)

譜面もコードしか書いてないものを渡される事が多いのですが、オブリって難しいんですよ~。ボーカルの邪魔にならない様に、隙間を埋めたり、ハモったり、あるいはカウンターポイント(対位法)をその場で成立させたり…。息継ぎをボーカルとは逆、つまりよく知っているスタンダードでさえ通常と呼吸のタイミングを変えてアプローチしなきゃいけない。それでもって、ボーカルと同音になるのを避けたり、通常通りRoot音も避けたりも考えなきゃならない。知らない曲なんかでメロディーが書いてなかったら、もう全て「勘」に頼るしかない。その結果、ボーカルの邪魔ばかりするケースも有る。なので、知ってる曲でも僕は最初のAメロにオブリを入れる事は殆ど有りません。その人の歌い方を見てからソロリとA'あたりから入るのを常としています。「バランスを考えて」…ってのも有るけど。やはり後テーマが最大のピーク・ポイントにしたいので、そこで盛り上げ役としての最大の見せ場も作りたいですしね。これだけ考えてやっても、「あ~!失敗したぁ!」って反省する事多いんですから。

逆に、少し前に、普通のジャムセッションで、バッチリ音符が書かれた3~4ページの勧進帳の様な譜面持って来て「じゃ、これ、譜面通りで宜しく。」といきなりカウントし始めた人が居て、逆にムカついて初見で譜面キッチリ読んでやった!って事も有りました。(そういうシチュエーションでないと譜面読むモードが作動しない俺もどうかと思うけど。) 僕より遥かに譜読みが大変なリズムセクションは当然、崩壊してましたけどね。

結局、そういうマナーも含め、ミュージシャン・シップが欠落してる人がボーカリスト(特に女性)に多いのではないかと思うのです。ミュージシャン・シップってのは普通に音楽家同士で一緒に音楽聞いて、あぁだこうだ言い合う事でも生まれるものだと思います。そういうミュージシャン同士で頻繁にハングアウトしてる人が良いミュージシャンになれると思うし、そういう方々と今後も沢山演奏できればと思います。まぁ、最近の若手にはそういう人が多いとは思うけど。

アイドルが歳食って、急にジャズ歌いだすってのには違和感を覚えるし、キャバレーのホステスみたいな感覚の女性ボーカルに遭遇した事も多々有ります。そういうのを除いて、同じステージに上がった以上、我々は同じジャズを愛するバンド・メイトであり、良い音楽をその場で作らなければなりません。僕は若い頃から女性ボーカルの方々から教えて貰った事も多々有るので、決して蔑視はしないし、リスペクトさえ覚えます。女性としての魅力を使って集客してくれたお蔭も有るでしょうけど、僕が普段やってるライブより遥かに多い観客の前で演奏して、僕の演奏に対して沢山の拍手を得られたら、やはりそれはとても嬉しい事だし、その状況を作ってくれた事に感謝しています。このご時世、女性ボーカルと言えども集客が本当に大変なのはよく分かっていますから。

だから、譜面もそうだけど、それ以上にミュージシャン・シップが大切なんだと思います。エブリンは、すげぇ~適当なとこばっかだったけど、ミュージシャン・シップに関しては、父親譲りで超一流だったなぁ…って記憶が有ります。ストリートで演奏してたら、フィリップ・ハーパー(tp)やジョー・ヘンダーソン(ts)が挨拶に来たり。僕はその度ブッタマゲてましたけど。(笑) あと、実現はしなかったけど、アビー・リンカーンに紹介してあげる…なんて話もしてもらったり。勿論、そのコネってのは父親に起因してる所も有るとは思いますが、その多くは彼女のミュージシャン・シップから来ていると思っています。色んな偉大なアーティストが彼女を懐かしむようにハグしてくる様子を見ているとね。

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