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移ろいゆく日々

移ろいゆく日々
気にとめたことを忘れぬうちに

十字架のカルテ 知念実希人

2023-09-15 17:23:39 | Weblog
小学館から2020年、文春文庫から2022年の刊行。現役の医師にして多彩な医療ミステリをものにしている知念実希人先生の著書のなかでも傑作だと思う。精神科の範疇の病が疑われる触法事案の当事者が、被疑者として司法の場に送られるのか、病人として治療の対象者となるのかを見極める鑑定医を題材にした物語だ。もちろんフィクションではあるのだろうけれど、精神医療を踏まえた語りには、実に引き込まれる。鑑定医が社会のためにあるという一文は重みがあって、現代社会にある人の心の闇を描いている。ここに書かれているように精神疾患が遺伝的要素ではなくストレスから誰もがかかりうる病であることに思いをいたすと、この本はミステリよりはもっと深い感銘を受けるものである。

マルタの鷹 ダシール・ハメット

2023-07-29 06:56:30 | Weblog
ほとんどテレビを見なくなってしまったのだが、それは面白くないし、疲れるからだ。それでもBSでやっている海外ミステリードラマは見るものがある。ポアロやホームズはその例だ。某公共放送はやたらとチャンネルを増やして良質な番組を創るという存在意義を放棄して、よその国の番組を買ってきて垂れ流しているなら、視聴料を半分にしろと言いたいが、たまに良い番組があるのは事実である。閑話休題、20世紀初頭からミステリがつくられるようになるのだが、ハードボイルドの嚆矢はダシール・ハメットだ。それを小鷹信光の訳で楽しめるのが表題の作である。原著は1930年の上梓、同訳は1988年のものだ。時代はフィッツジェラルドくらいだろうけど、スピード感は現代に全く通用する、まさに古典だ。映画化もされているようなので、見てみたいものだ。

短信 テレビの劣化

2023-06-28 20:14:53 | Weblog
テレビ番組の劣化が語られて久しい。報道番組がそのさいたるものかもしれない。今日は大谷翔平選手が、先発で7勝目、打っては2HRでホームラン王を独走中が話題。BSフジのニュースではトップの扱いだが映像はなく、フリップのみで3分ほどを延々と。二人のアナウンサーは「凄いですね!」と盛り上がっていたが、恥ずかしくないのだろうか。紙芝居を見ているのではない。

JR東日本のとある駅にて

2023-06-16 17:52:45 | Weblog
短信です。環境問題もあるので、省エネは大事なはず。今どきは最も日の長い季節なので、JR東日本の駅も昼間と同じか、かえって傾いた日が良く射して明るい。でも時間だからなのか、早々に明かりがついている。全くの無駄、コストもかかるだろうに。JR東日本はぜひ本気を見せて欲しい。

大義がない そして勝てない

2023-06-15 16:37:06 | Weblog
短信です。今国会で内閣不信任案を提出されて、衆議院解散、総選挙が噂されています。不信任案には大義がない。そして何より野党は勝てない。岸田内閣は確かに失点も多いが、野党の弱さはもっと印象的だ。議論を喚起する争点がないし、国費の無駄遣いだし、政策の遅れが国益を損ねます。野党は墓穴を掘ることにならないか。共産党は確実に沈むだろうし、与党が勝てば今の政策を信任したことになる。不都合が多い。

大竹しのぶ

2023-05-01 09:11:12 | Weblog
あまり記事の更新が出来ていないので、小ネタです。昨日だったか、N○K(最近ほとほとうんざりしている放送局なので、その意思表明のための伏せ字)でふとチャネルを止めると、犬神家の一族のリメイク。原作も市川崑の映画も名作だよな、そのリメイクか、と思ってみると、三種の家宝の顛末を語る下りだった。沢山の俳優陣が集ってドラマしている中に、劣化した大竹しのぶをおばあちゃん化したような人物が写ってる。三度見しても判然としなかったので、番組内容ボタンで出演者をみると、大竹しのぶの名前。俳優の贅沢な使い方もさることながら、大勢の俳優陣の中でオーラを消す大竹しのぶの演技力に全くの感動。それを確かめたら満足して、チャンネルを変えました。ただそれだけの話です。

出版業界の不況

2023-01-09 16:57:55 | Weblog
ネットワーク社会の今、印刷物を中心とした出版業界は斜陽産業、巣ごもり需要が伸長した時期ですら構造的不況は食い止められなかったようだ。書籍と出版は文明社会の基盤であって、学術思想の公知を支える重要な機能である。ところが、出版物の売上高は30年ほどにわたって減少している。その原因は一つは雑誌の衰退、もうひとつは新刊書の売れ行き減少である。雑誌数は激減している。一方でこの30年来、新刊書は毎年700冊ほど出るらしい。1冊あたりの初版印刷数が減っており、しかも話題性のあるベストセラーはもちろん、社会的影響を与えるミリオンセラーとなると、さらに減るらしい。市場が減少したのであれば、新刊数が減りそうなものだが、維持されている所以は、新刊書の再販制度も大きい。新刊書を出せば一定の期間、書店に置かれて販売される可能性を得る。そして返本となって初めて在庫となるようだ。新刊書を出せば、一種の自転車操業のような状態を維持できるらしい。ところが今、書店自体の数が激減しており、売る機会の逸失につながっているとともに、ネット販売は自社で在庫のコントロールをすることになるようだ。刊行書籍は、様々な人の手と目に曝されて、思想価値を得るもので、自由勝手に意見を表明できるネット上とは一線を画する。書籍数の減少は、思想の陳腐化を招きかねないばかりか、資金力のある団体、例えば似非宗教団体などが、影響を持ちかねない。最近は一部の古書店で新刊書崩れの本も見受けられる。在庫の現金化の必要に迫られたのかもしれない。単行本から文庫本へのサイクルも速まっている。文庫本だけは定価の引き上げを図って売上の確保をしているようだ。少し待てば文庫本、新古書となると、出版社の売上は伸びない。本と出版は、文明社会の集合知を形成する場で、ネットワークだけでは補えないのではないと思う。出版という文化を育てるためにも、売り方そのものを変える時期にきたのではないか。三連休の間にそんなことを思った次第である。

ラノベ雑感 ラノベを読んでいる訳ではないけど

2023-01-06 18:22:27 | Weblog
角川文庫文庫版の涼宮ハルヒの憂鬱を読んでいたら、解説は筒井康隆だった。去年、氏の「旅のラゴス」の感想を書いて、その中で異世界ものの原点、と書いたのだが、氏は自身の著作でラノベを書いたのは、涼宮ハルヒを読んで、その文学的価値と、売れるジャンルと理解したためだと書いてあった。「旅の~」は、著者にとってはラノベ的ではないともとれるものだった。著者が何と言おうと読み手の自由もあるのだけれど、書き手である著者の意見は重い。ちなみに、異世界ものは漫画、アニメと氾濫してて、ゲーム世界ものとも言える様相だ。これはまた別に考察してみたいテーマである。

雨の休日

2022-10-07 12:04:30 | Weblog
子細があるわけではないが、昨日から休みを取っている。現代の出稼ぎの身なので、休みがまとまれば、懐は痛むし時間も取られるけれども自宅に戻る。家人は朝の4時過ぎから起きて、家事をこなしてから6時半には仕事に行く。巷で拘束時間も多いブラックな仕事と言われたりして、若い人のなり手が少ないらしく、また辞める人も多いらしい。愚痴を言いながら実は熱心に務めているのは、身内ながら頭が下がる。体は壊さないようにして欲しいものだ。雨の休日は、部屋で散らかった反故などを片付ける。捨てれば片付くものを捨てられない性格から、右に左にと詮なきことをする。これは贅沢な時間の過ごし方かもしれない。契約はしてるがほとんど使っていないPCのメンテやら、ソールだけが痛んだスニーカーの修理などをする。これも捨てて新しく買う方が合理であるが、捨てるのにストレスを感じる性格がそうさせる。反故紙をリサイクル場所に持って行って、代わりに古本をもらって来る。これは厳密には窃盗だろうが、活字を偏愛する性癖のなせるものと言い訳する。午後はその文庫本を読んで過ごすことにする。雨の休日にふさわしい、と自分を誤魔化してみる。

変貌する未来

2022-09-25 17:25:52 | Weblog
 少し前の本(22年7月初版)、COURRiER Japonによる講談社現代新書の表題で、14の世界企業の経営者へのインタビューをまとめたものである。国籍、人種も様々、欧米企業が多いが、台湾と中国も含まれる。記事は欧米の新聞や雑誌に基づくが、知らなかったことが多く、示唆に富むものであった。GAFAMは個性的な創業者だが、後継の経営者はインド系アメリカ人が多い。特に印象に残ったのは、マイクロソフトのサティアCEO。創業者よりも遙かに企業責任と遠望した戦略の経営が進められている。マイクロソフトはGAFAと同様、イノベーションの先端にいる。ドイツからはビオンテックが選ばれていたが、経営者は研究者を兼ねた移民二世のトルコ系ドイツ人夫妻で、本来はがんの免疫治療を目指している。高邁な理想を持ちつつ一方で、莫大な研究資金をEUやファイザーなどから調達して、mRNAワクチンでコロナ禍の収束を大幅に早めた。この本には、日本の会社は出てこない。日本に言及した箇所すら、片手に満たない。イノベーションを起こすだろう世界企業を取材した面白い本である、と同時に日本の存在感の薄さに暗澹たる気持ちになった。