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直列☆ちょこれいつ

最近は神社や神道などの古い文書の解読をしています。
研究のまとめはカテゴリ『自作本』から。

レビュー:図書館戦争

2008年07月11日 | レビュー系


『図書館戦争』というタイトルのアニメと漫画を見ました。
ひとこと感想は、気持ち悪い です。

見ていたらすごく胸がむかむかしてきたのですが、
気持ち悪さはいきどおりと理解できなさが
まじりあったものみたいです。

あらすじ:
 現代日本より多少未来っぽい世界。
 主に文字本を検閲する特高のような部隊と、
 それを防ごうとする部隊とが、
 戦争ごっこを繰り広げていました。
 主役の女性は防ごうとする部隊で
 すったもんだします。


所感など:

とにかく意味がわかりません。
内容を適当に表すなら、こんな感じでしょうか。

 お昼に定食屋さんに入って、サケ定食を頼んだら、
 2時間待たされたあとでアメリカ大統領が出てきて、
 「ヘイジャップ! おまえみたいなスペイン人は
  自分の国、韓国に帰れ! なんちゃってなんちゃって」
 と一人爆笑しながら言われた――みたいな。

なにが面白いのかもわからず、話もかみ合わず、
意味もわからず、わけもわかりません。
そういうお話です。


まず重要な構図として、
・主に文字本を検閲し、奪い、焼こうとする組織
・それに対抗する組織
の二つがあり、それぞれ対立しています。
この組織は国に認められ、武器携帯も
殺し合いも認められています。
ここがミソです。

メディアの検閲に、武器が認められる意味がわかりません。
しかもこれ、かつての特高のように
思想犯をいたぶるために武器をつかうのではなく、
基本は本を奪うために使うのです。

この組織、どうやら公的に認められていて、
でも書店に勝手に入っては、基本的に本を
根こそぎ奪っては捨てようとするのですが……
その行為の、どこに武器を携帯する必然性があるのでしょうか?
なぜ本を奪うだけなのに、マシンガンまで持ち出すのでしょう?

ここで作者かだれかの変な意図を感じます。
「あれ? 図書館なんていう知的で高尚なものと、
戦争なんていう野蛮なものを掛け合わせたら、
そのミスマッチがチョーやばくね? マジやばくね?」
とでも考えたのでしょうか。
正直、プリンにしょうゆをかけたらウニの味じゃなくて、
『プリンにしょうゆをかけた味』にしかならなかった
という不和を感じます。どう考えても
ミスマッチはミスマッチです。


たかだかフィクションにリアルを持ち出すのは卑怯だと
言われるかもしれませんが、フィクションならフィクションらしく、
リアルとは違うのだという成分を通せばいいでしょう。
それもできていないのであえて比べます。
お話の舞台は、現代のこの世界とにかよりすぎているのが
つまらなくさせるさらに大きな要因です。

いっそ、神が世界を作り、神が世界を動かしていると
神の名を騙る為政者と、
神ではないものがこの世界をつくり動かしているのだと
啓蒙しようとする、中世あたりの物語にしたほうが
舞台に説得力はある気がします。

かつては政治は神の名を騙るのが自分の威信でしたし、
そこで実は神がいないなどと書物などで言われては
国民を動かせなくなるために自身の死活問題にすら
なってきます。だからこそ異端審議会などが
暗殺をもってして思想粛清にまで乗り出すのは
当然のこととも思えます。

でも、現代でそこまでする意義はなんでしょうか?

しかも見ていると、
お話では破壊集団は、基本的に文字本……
主に絵本や文章本など、図書館におさめられるような本を
奪っていこうとしています。
とくに絵本は世の中の矛盾をわかりやすく書いているので
やりだまにあげられやすいのだそうです。

……じゃあ、他の本は?

いまの世の中を見ても、むしろ問題は本離れの進んだ今、
コミックのほうでしょう。
成人指定の官能小説と、成人指定の官能漫画があったら、
どちらがより売れるでしょうか?

しかも本がそんなに頻繁に奪われていたら
書店経営はなりたちません。
書店で売れなければ、発行もできません。
出版社は、どうやって成り立っているのでしょうか?
本を検閲するなら、まず作者から、というのも
後の被害を拡大させない手順でしょう。
実際特高もそうしていました。
なのに、この世界ではどうでしょうか。

禁本の作者はどうやって書いて、
どうやってお金を得ているのか、
本を出す出版社はどうやってお金を得ているのか。
本屋さんは勝手に持っていかれた本の代金を
どうやって補ってどうやって生活しているのか。
そんな社会基盤は一切書かれません。想像もできません。

ただふわふわした『それっぽい』状況だけが
なんの意味もなくなんの必然性もなく、
ただその雰囲気を作るためだけにそこにあります。
これがなにより気持ち悪いです。


一方、漫画、『コミックマスターJ』の終わりのほうでは、
漫画家が検閲により漫画が描けなくなった世界がえがかれます。
悪影響をあたえるから出版はさせない、という
検閲集団に対し、漫画家たちは……
ただ描きたい、読んでもらいたい、という気持ちだけで
地下にもぐり、漫画を描き、印刷してはあたりにばらまくのです。
描きたいから、読んで欲しいから描く。
それは当然だし、当然だからこそ伝わる説得力があります。

なら、図書館戦争は?

コミックマスターJの、荒廃した未来の舞台とは違い、
現代日本の延長上で携帯も普通に使える時代。
別に出版できなくても、本にならなくても。
特に文字本なら……いくらだって書く手段も、
読んでもらう手段もあるでしょう?

本なんて文字の羅列です。
すなわち、テキストデータを具現化したものです。
ならば。書きたい作者はネットでも書いて表現できますし、
読む人だってそれを読めるでしょう。
実物の本が消されるのなら、それをテキストにしておけば
中身だけはいくらだって保てるでしょう。
そんな誰でもわかることもせず、
ただ本だけを後生大事に守って中身を守らない、
戦争ごっこには吐き気がします。
だって、そんなことで何人も死ぬ、なんてことが
描かれてしまうんですよ?

ネクロノミコンみたいに本自体に力があるものを
奪い合うという話ならわかります。

でも、普通の本で、作者の魂はどこにあるのでしょう。
一冊一冊の本にあるのでしょうか?
……わたしは、本自体にあるとは思いません。
わたしは、文を書く作者の魂とは『読む』『読まれる』という
行為の中にこそあるのだと思うのです。
たとえばわたしが文を書き、本になったとしましょう。
たとえばそれは、世界に一冊だけで、
ごてごてと高価な宝石にかざられた、特別な本だとします。
手にとって見られるのはどこかの国の王、ただ一人だけ。

……そんなの、なにもうれしくありません。

それよりも、たとえばコピー本だとしても、
一万人が手にして読んでくれて、
そのうち三十人がおもしろかったと思ってくれるなら、
言ってくれるなら、そのほうがどれだけ嬉しいか知れません。

もちろん、本自体になんの価値がないとはいいません。
でも、図書館戦争で守られるのは、現物としての本だけ。
そして奪われようとするのは、現物としての本だけ。
ネットを取り締まるようなことは何一つ言われません。
本が憎いなら、図書館自体を破壊し、焼いてしまえばいいのに
なぜか銃撃戦どまりのことしかしません。

『本気の破壊者の前では防衛者は被害を防ぐことはできない』
という事実があります。

たとえばわたしが人を殺したいと本気で思い、
殺そうとして外に出たとして。
だれかがそれを完全に防ぐことはできません。
すくなくとも止められるのは、
一人に怪我を負わせてからでしょう。
(※別にこれは殺人予告ではありません
  わたしは人殺しなんてしません)


図書館、なんていう固定物が、
破壊者と言う移動物に対して
防御できるわけがないのです。
破壊者グループのほうは、こっそり中に入って
時限着火装置でも置いてくれば
簡単に本なんて燃やせるでしょう。

なのに、だれもそんなことしません。
あるときに小競り合いが起きたら、それを防ぐ。
それがルールです。
それで人は死にますが、それはそれです。
それが図書館戦争の世界。

主役もそういう現場のそばにいて、
すぐ隣に死があるかもしれないのに、
なにも気にすることなく
周りも変な日常、変なギャグを入れながら
有事以外はのんびりと生活しています。

またそれが、すごく気持ち悪いです。
なぜそんなことができるのかも、
戦闘時とのギャップも、
見させられると胸がむかむかしてきます。

なんなんでしょうか、これ?

あんまり気持ち悪くなって、
アニメは5話で断念しました。

こういうのを見ると、思います。
わたしにとっては耐え難いほど醜悪なものでしたが、
コミックマスターJなら、どう思うんだろう、と。


見て損した、とはこういうときに言うのでしょうか。

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2 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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同感でした (むさ)
2013-08-17 22:05:16
今更ですが、コメントさせてください。

私もあなたと同じこの頃に読んだのですが。
やはり、同じような違和感を感じました。
面白そうなシチュエーションだけを掛け合わせた、
ミスマッチな舞台装置を持ってきた物語だなと。

そもそも同じ国家に認められた組織2つが武器を
とって戦うとか、国は何やってんだ、とか。
言論統制がやられてるようなデストピアなら、
もっと殺伐としているもんじゃね? とか。

その根本的な設定のあり方に疑問を感じました。

……のはずなんですが、なぜかこの作品、
妙に世に受けてるんですよね……。
なんとなくしっくりこないような……。
返信する
Unknown (あまね)
2013-08-20 21:46:55
確かにそうですねえ。
国が認めてるというのも気持ち悪さの大きな一端の気がしますね。

うけているとは知りませんでしたが、理由を考えたら
魚屋さんの話を思い出しました。

魚屋さんによると
「赤い着色たらこと無着色たらこがあったら、
たいていは赤い着色たらこを買っていく」のだそうです。
不自然な色で気持ち悪く、まったくおいしそうに見えない
着色たらこですが、そちらのほうがおいしそうに見える人は
すくなからずいるようです。

おそらくこれも、そういう類のものなのかなと思いました。
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