直列☆ちょこれいつ

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獲加多支鹵のワカタケル読みは正しい?

2018年02月25日 | ちょこのひとかけ


最近、何かの調べ物をしているうちに、
『獲加多支鹵』の文字を見ました。
昔埼玉に行ったときに、剣を見たような、見てないような
という程度のものでしたが、いろいろ学んだあとの今見ると、
なかなか面白いです。

そもそも『獲加多支鹵』の字、ほんとに『ワカタケル』なんて
読むのでしょうか?
『獲加多支鹵』なんて、『カク・カ・タ・シ・ロ』で、
どうやっても『ワカタケル』になんて見えないでしょう。

というのが、こどものころ、現代語に基づく考えでしたが、
散々中古代文を研究した後だと、読みが違うのだとわかります。

加はほぼカなので問題はありません。

多は他の読みもありますが、たぶんタでいいのでしょう。

支は現代語では『シ』ですが、たとえば邪馬台国の文章では
百支国とか支惟国とかが出てきます。
これは『シ』、もしくは『キ』に近い音になりそうです。

本当にそうかと言えば。
『支柱』『枝葉末節』は『シ』の音に属しますが、
『分岐』『歌舞伎』『芸妓』は『キ』の音に属します。

単語変化は元の音から派生するので、『支』の読みはもともと
『シ』『キ』の音を持っていたと考えることができるのです。

『鹵』は、この漢字かははっきりわかりませんが、
この漢字だとしたら、『ロ』です。

『獲』の字はくさかんむりがない形で、
『ウェ』もしくは『ウゥ』あたりでしょう。

これをつなげると、『獲加多支鹵』の発音は
『ウェカタキロ』です。
『ウェカタキロ』って、『ワカタケル』でしょうか?

というところに至って思い出して欲しいのは、
外国語の存在です。

たとえばわたしがどこかの外国人に、
「きりきあまねです」
なんて言ったところで、同じ音では発音してもらえないでしょう。
「ワ? クィリッキィ アメイネィ?」
などと聞き返されるかもしれません。

でも、その場合でも、
『きりきあまね』と『クィリッキィ アメイネィ』は
表記や発音が異なっているとは言え、同じものをさしています。
言葉や文字は、その文化にない発音を、
正しく表す手段を持っていないのです。

……そうか、では、本来の発音は『ウェカタキロ』で、
『ワカタケル』は現代語の発音なんだ!

という考えは間違っています。
そういう話ではありません。
『ワカタケル』は昔から『ワカタケル』と近い音の名前だったことでしょう。

じゃあ『ウェカタキロ』ってなに?
なんでそんな漢字使ってるの?
ワカタケルに相当する、発声漢字は別にあるでしょ?

という疑問が出るのはもっともです。
別の字を使って当然の場所に、違う字を使う理由。
それは、古今伝授などでも述べられています。

古今伝授の内容を詳述しても仕方ないので簡単に言えば、
 『獲加多支鹵』の漢字の意味が欲しかった
ということです。

われわれ漢字圏の人間は、他国漢字圏の文字を見て、
発音や文法はわからなくても、多少なりとも
そこに書かれた意味を受け取ることができます。
それは、漢字に意味が封入されているからです。

『獲加多支鹵』という漢字も、この字を見れば、
われわれ漢字圏の人間ならだいたいの意味がわかるでしょう?

『多くのモノを鹵獲し、我がモノに加え、それを支配した』
との雰囲気が伝わります。

『多』くのモノを『鹵』『獲』し、
我が物に『加』え、それを『支』配した者。

すなわち、『獲』『加』『多』『支』『鹵』です。

『ワカタケル』に近い音を持つ漢字で、
多くのモノ(国・人・物など)を手に入れ、それを支配した
という業績をあらわそうとしたら、使える漢字は
『獲』『加』『多』『支』『鹵』くらいだったので、
それを使ったのでしょう。

この意味をもっと短くして言えば、
『武力で侵略しまくった男』や『侵略の雄』あたりになるでしょうか。
それらは二文字で表すと、『武略』や『雄略』などにできます。
あくまで言語上、ですが。

でもさすがに『ウェケタキロ』が『ワカタケル』にはならないだろう、
と思うなら、人の名、国の名をあらわすものは特に、
厳密な読みなんて求められていないし、書かなくてもいいというのが、
日本では記録上、すくなくとも1300年前から
明らかに続いてきた伝統だということを思い返してください。

たとえば日本で一・二を争う有名な神様イザナギは、
漢字だと伊邪那岐や伊耶那岐と書きます。
こんなの、『いじゃなき』や『いやなき』でしょう。
なのに今の人は、この漢字を『イザナギ』と読むわけです。

またたとえば、現代語の『比利時』という名。
漢字は『ヒリジ』『ヒリトキ』ですが、
なんと読むかわかるでしょうか?

さらにたとえば、『波蘭』はなんと読むかわかるでしょうか?
もちろん、『はらん』や『ばらん』などではありません。

……答えは、『比利時』が『ベルギー』。
『波蘭』が『ポーランド』です。

『ベルギー』が『ビリジ』なんておかしいでしょう?
『ポーランド』が『はらん』なんておかしいでしょう?

特に『ベルギー』なんて、発音は『ベォジェム』あたりですから
『辺於是務』くらいでも充分あてはまります。
なのに漢字は『比利時』。


というわけで、今のところの結論。

『獲加多支鹵』の単純読みは『ウェカタキロ』あたりで、
『ワカタケル』とは読みません。

ですが、音が『ワカタケル』とかなり近いため、
『ウェカタキロ』が『ワカタケル』の意味である、
という可能性はすくなからぬ確率で、あります。

なぜ『ワカタケル』に対して、正しく『ワカタケル』の音を持つ
漢字を当てず、『ウェカタキロ』音の漢字を当てたのか、
という問いには、『ワカタケル』にすこしでも近い音、かつ
『ワカタケル』が生涯で行った業績を意味として与えるため、
『獲加多支鹵』を選んだのだ、という説をここで述べておきます。


ただし。
もし将来どこかの墳墓から、
『我はサキタマの雄、柄方白(エカタシロ)につかえ、戦った』
というような文章がでてきたなら、
『獲加多支鹵』は実は『ウェカタシロ』と読んで、
その『柄方白』のことをあらわしているという可能性が高まります。

古代の人名や読み方なんて、そんなものです。
『今のところ』その読みでいいけれど、
本来は違うかもしれない、というのは常に考えておかなければいけません。

『獲加多支鹵』は、まず『ウェカタシロ』と読めるし、
『ワカタケル』とほぼ同じだから、これをさしていると考えて
90%くらいあってるだろうな、というのが現状です。

実はこれが、表意文字の一番の弱点なのです。
文字の中に意味を封入した表意文字は、基本的には絵です。
絵は意味を伝えやすいですが、発音を伝えられません。

一方で表音文字は、発音だけは正しく伝えられますが、
その意味をまったく伝えられないということが起こります。
たとえば、はかたではかたいものたべた と書かれても、
どこで何をしたのか断定できないことでしょう。

そもそもこの国だって、日本と書いて
『ニホン』と読むのか『ニッポン』と読むのか、
よくわからないという程度です。
でもわたしたちは、
「まあ『ニホン』でも『ニッポン』でも、
どっちも似てるし同じようなものだし、
意味しているものが同じなんだから別にどうでもいいや」
とかで流していることでしょう。

言語的に見れば、ジャパンやヤポン、ズィーベンと
呼ばれることになるのですから、元は『ポン』音が
使われていた可能性が高いです。
日本語では『ニポン』はとてもいいにくいので、
ポンにつながる音は『ニッ』か『ニャッ』として、
『ニッポン』『ニャポン』あたりだったかもしれません。


このように、漢字を漢字ばかりで使っていたら
表意文字のために音の魂が抜けていき、
意味は伝わってもなんと読んでいたかが失われます。

一方で、音だけ正しい文字だけを使っていたら、
なんと読んでいたかがわかっても、
意味が失われます。

文字に意味を重視すると音が消え、
文字に音を重視すると意味が消えてしまう、という二律背反。
これを解消するものはあるのでしょうか。

と言えば、もちろん、あります。
表音文字を国語としてもちながら、
表意文字も国語として持つ言語……そう、わが日本語です!

漢字はもちろん表意文字で、音のロストが大きい文字ですが、
日本語にはカナという、
音のロストがほぼない表音文字が追加されました。

古代人もきっと、漢字の呪縛に苦しんだため、
カナ文字を生み出したのでしょう。
とは言え古代カナは表音がものすごくぶれるので
実用性にはかけましたが。

表意文字を表音文字として使ってしまえばいいんじゃないかと
思う向きもあるでしょうが、それはだめです。

たとえば、ボロブドゥールという言葉に、
表意文字を当ててみましょう。

――『幌葡萄流』

ここではボロブドゥールという音だけを
伝えようとしているはずなのに、
幌布で葡萄を搾って汁が流れ出てくるような、
ワイン作りっぽいイメージが漢字から伝わってきませんか?
表意文字は絵なので、見た人の頭に、
音だけでなく文字の持つイメージを勝手に叩き込んでしまうのです。

その点、表意文字と表音文字の二系統があれば、
グレープを意味したいときには葡萄と書けますし、
単なる外国の国名を表したいときにはブドウと書けるのです。

ひとつの文化の中で、はっきりしっかりと
表音文字と表意文字の二系統を同時に持っているなんて、
文化的にものすごいことだと思います。
もしかしたら日本語だけなんじゃないでしょうか。

日本は『言霊の幸はふ国』などと呼ばれました。
言葉の魂で幸せになっちゃう国、みたいな意味です。
表意文字で言葉の意味を保ちながら、
表音文字で言葉の音も保ててしまう、めずらしい言葉の国。
さもありなんという呼び名です。

そんな『言霊の幸はふ国』の、大切な書物などを焚書し、
歴史の意味も言葉も奪って行った藤原。
なんという外道でしょうか。


それはさておき、そんな日本なのですから、
漢字の横にふりがなを振ってあれば
のちの未来人が見たとき、漢字の読みと意味などを
研究して理解できるようになることでしょう。

よって、公式文書の記録では、
漢字の横に必ず振り仮名を振って、
未来の人への贈り物としてほしいものだと
個人的には思っています。


----

もし、『獲加多支鹵』の『ウェカタキロ』が『ワカタケル』の
発音を表す確率は0%である、
『獲加多支鹵』の『ウェカタキロ』が『ワカタケル』の
発音を表すとは、言語学、漢字学上納得するわけにはいかない
と思う人がいるのであれば、
まずは現旧言語学や漢字研究の成果を以って、
『比利時』の漢字が本当に『ベルギー』をあらわせるのか、
あらわしているのか、あらわしているとみなしていいのか、
『波蘭』の漢字が本当に『ポーランド』をあらわせるのか、
あらわしているのか、あらわしているとみなしていいのか、
について述べてみてください。
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2 コメント

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Unknown (茄)
2018-02-27 09:29:38
この記事を読んで思った事…

『いじゃなき』ってなんか可愛い( ̄∀ ̄)
Unknown (あまね)
2018-02-27 20:10:59
伊弉諾 ジャウ
伊邪那岐 ジャ
伊耶那 ジャ
と見ても、ジャ系の漢字を使っているので、
本来の発音は、イジャナキかイジャナギだと思われます。
ザじゃなくてジャでいいじゃないのと問いたいところです。

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