この記事ではゆずソフト最新3作である『千恋*万花』『リドルジョーカー』『喫茶ステラと死神の蝶』からシナリオ分岐型ゲームのジレンマやその対策について素人なりに考えます。専門家ではないので用語の使い方はいい加減です。後半は結構ネタバレあります。
考察対象が3作だけなのはそれ以外のシナリオ分岐型のゲームをプレイしてないからです(笑)
(写真はうっかり買ってしまったグッズ、かわいい)
ステイホームをいいことに2か月強で上記の3作をやりました。楽しかったです。
こういうシナリオ分岐型のゲームは初めてプレイしたのですが、このシステム特有のストーリーの難しさが分かったので色々考えていきます。
1,シナリオ分岐型のゲームとは何か
ざっくりいうと下の図のような形式のゲームです。(かなり単純化しています)

最初は共通のストーリーで途中でストーリーが分岐します。共通ルートと分岐ルートのボリュームは同じくらいです。
共通ルートはで上の図のクロエと文緒と心実の3人ガールが出てきて、分岐ルートでそのガールと特に親密になるイメージです。共通ルートの中に選択肢がいくつかあって、その選択によって後半に分岐で進むルートが変わります。当然エンドも変わります。
共通ルートでは物語の骨格を示すと同時に分岐ルートに続く伏線も示されます。「なぜあの子は留年しているの?」「なぜ母親はすでに亡くなっているの?」「当たり前のように出てきたけど死神ってなんだよ?」みたいな感じです。その辺の謎を分岐ルートで解き明かします。
トゥルーエンドが1つだけのゲームもありますが、上記3作は基本どのルートもハッピーエンドです。
もう一つ大切な前提があり、こういうゲームの消費者には「a,気に入ったキャラの分岐ルートだけやる人」と「b,全キャラのルートをやる人」がいます。これはどちらがいい悪いの話ではありません。自分は後者(b)です。
2,シナリオ分岐型のゲームの苦悩
結論を先に書くと、シナリオ分岐型のゲームには下記2つのクオリティの確保(両立)が求められます。これが非常に難しいのです。
①分岐ルートのクオリティの確保
②ゲーム全体でのクオリティの確保
①は上の図でいうと3つのルート全てが面白いということです。言い換えれば上の図で文緒ルートだけやって残りのルートをやらなくても満足いく内容であるということです。クロエルートは凄く面白いけど、文緒ルートは設定ガバガバでつまらないのはダメです。当たり前の話に思えますが、この当たり前を実現するのがとても難しいのです。(その理由はこれから書きます)
②は上の図でいう3つのルートをクリアした時に1つの納得のいくストーリーが完成するということです。
少し単純化して言い換えれば、1つの分岐ルートでは回収しきれない伏線を残りのルートで回収しあうことでストーリーの消化不良をなくし、完成度を高めるということです。
共通ルートの伏線を1つの分岐ルートで完璧に回収するのは(あまりに長くなるので)困難です。だから3つのルートで補完しあう訳です。こうして伏線を全て回収し、全体でのクオリティを確保します。シナリオ分岐型ゲーム特有の手法です。
お分かりの方も多いと思いますが、①(分岐ルートのクオリティ)はa(気に入ったキャラの分岐ルートだけやる人)のニーズに応えるためで、②(ゲーム全体のクオリティ)はb(全ルートやる人)のニーズに応えるためですね。
ところが、この2つのクオリティの確保はかなりバッティングします。要するに全体最適と部分最適の問題です。たとえば以下のようなリスクがあります。(例えの名前は上図より)
・1つの分岐ルートで色んな伏線を回収したせいで、他ルートで回収する伏線が無くなってつまらなくなるリスク。
・他のルートと似た展開になるのを回避した結果、ストーリーに矛盾が生じるリスク。
例:クロエルートで真の黒幕のAさんが、文緒ルートでは普通の生徒として登場する。(文緒ルートでもAさんが黒幕だとオチが被るから意図的に変更している。共通ルートですでにAさんが黒幕と明らかな場合を除く)
・回収する伏線の分配の都合上、消化不良のルートが生まれるリスク
例:Bさんが心実を嫌いなのは先祖のトラブルせいだが、それは心実ルートでしか明かされない伏線。だから心実ルート以外でのBさんは「なぜか心実を毛嫌いしてる人」にしか見えない。
まとめると、シナリオ分岐型ゲームは共通ルートで示される伏線の中から各分岐ルートで回収する伏線を上手に調整・分担する必要があります。そのうえで、分岐ルートは単独でも一定のクオリティが確保(オチが被るのはダメ)されければなりません。そして伏線の分担・調整は時に分岐ルートのクオリティに悪影響を与えます。
シナリオ分岐型ゲームの難しさが分かってきました。要するに制作上の様々な制約があるわけです。
では3作はどのように上記の問題を解決しているのか見ていきましょう。
3,最新3作の分岐ルートの解決策(ネタバレあり)
◎千恋*万花
千恋*万花には「憑神」というラスボスみたいな存在がいます。5つの分岐ルートのうち3つはその憑神との最後の戦いになります。(残りの2ルートは割愛)
伏線回収は問題なさそうですが、同じ敵と戦えば同じオチになりそうです。どうしましょう?
解決策:ルートごとに憑神の違う側面やエピソードを出してオチも変える。
要するに「憑神も過去に色々事情があった」という事にします。そして憑神の違った側面やエピソードを各ルートで小出しに披露してオチ被りを防ぎます。3ルートでは「純粋な悪の憑神」や「なんか妙に優しい?憑神」や「実はお姉さん的な人がいた憑神」と同じキャラとは思えないくらい色々な憑神が出ます。憑神の最期も変わっていて、普通に成敗されたり、和解したり、なぜか同意の上消えたりします。
この解決策は憑神へのストーリー上の負荷が大きかった感があります。憑神の印象がルートごとにちょっと変わりすぎです。
あと印象は変わっても同じキャラなので、伏線回収の分配の難しさがありました。茉子ルートの消化不良はレナルートに配慮して憑神の伏線を全部は回収できなかった(レナルートのネタバレを防ぐため)からだと思います。憑神の同じ伏線の回収が2つのルートで必要になり、バッティングしたので茉子ルートが折れたわけです。
◎リドルジョーカー
リドルジョーカーは全部で5ルートです。千恋*万花の憑神みたいな共通ルートから出てくるラスボスはいません。ただなんか全体的に胡散臭くて秘密や黒幕がいそうな雰囲気で分岐ルートに入ります。
あまり回収する伏線の見当たらないキャラもいます。伏線がないと分岐ルートのクオリティに差が付きそうな予感もします。どうしましょう?
解決策:「核心に迫るルート」と「キャラにフォーカスしたルート」を分ける。
ずばり「選択と集中」です。学園の謎や黒幕といったストーリーの真相に迫る話は2つのルートに集中させます。じつは黒幕は1つのルートでしか明らかになりません。
残りの3ルートではそのキャラの過去や家族の話などを多く入れて、伏線のバッティングを防止します。伏線が少ないところは、分岐ルートに入ってから新キャラを出すなどして上手く凌ぎました。
この解決策はかなり成功したと思います。真相に迫らない3つのルートはサブルートっぽくなりましたが、3つのルートも普通に面白かったので個人的には十分です。黒幕があやせルート以外ではどうなったのかは今もよく分かりません。多分知らぬうちに逮捕されたのでしょう(適当)
◎喫茶ステラと死神の蝶
喫茶ステラと死神の蝶は全部で5ルートです。日常系なので黒幕などのストーリーの真相はあまりありません。伏線はかなり少ないです。伏線回収は難しくなさそうですが、各ルートのオチをどうする確保するかが課題です。
伏線が少なければストーリーの矛盾や消化不良のリスクは減らせます。一方で分岐ルートのネタも減るので一長一短です。伏線が少ないならリドルジョーカー方式でメインとサブのルートに分けるべきでしょうか?
解決策:各キャラの秘密(関係性)にフォーカスしたルートにする。
これは解決策と言うよりは必然的にそうなるのかもしれません。ラスボスや世界の秘密など「大きな物語」の伏線がない以上、キャラの秘密(関係性)についてがメインのネタになります。
この解決策は2つのメリットがあります。
第一はリドルジョーカーでも書きましたが各キャラの個人的な話なので伏線のバッティングをかなり回避できる点です。
第ニは「大きな物語」があまりないので、サブルート感のあるルートが生まれるリスクを回避できる点です。※1
ただやはり、分岐ルートのネタに少しに苦慮した印象です。どのルートも 伏線回収+分岐ルートで新設定の追加 でやりくりしましたが、伏線が少ない分だけ追加設定が多くなります。追加設定が多いとどうしても取って付けた感が出ますね。希ルートと愛衣ルートは特にそうでした。
※1 「死神と蝶とは何か」という真相に迫っている点で栞那ルートがメインと解釈もできるが、死神は栞那だけなので個人的な秘密としました。ここは人によって解釈が分かれると思う。
4,まとめ~シナリオ分岐型ゲームの宿命と美~
ここまで色々分析しましたが、結論を言うとシナリオ分岐型ゲームはどうしてもストーリーの粗が出ます。
これは構造上仕方ないです。1つの大元から4~5つのストーリーを全て矛盾なく面白く作るのは現実的に困難と言わざるを得ません。
3作の分析では結構批判的なことを書きましたが、自分は3つとも本当に楽しかったです。みんなに自信をもってお勧めできます。
ここまで記事を書いてから言うのもなんですが、ゆすソフトはキャラの可愛さが最大の魅力です。ストーリーの整合性ももちろん大切ですが、そこを強みとするゲームではないと思います。実際この3作にはストーリーの粗を補って余りある他の魅力が大量にあります。
じゃあなぜストーリーの整合性をあれこれ書いたのかというと、宿命ともいえる難題に挑む姿に興味がある、もっというと心を動かされるからです。
現在人類は将棋ソフトに勝てません。しかしソフトに勝てないからといって人間が将棋を頑張るのは無意味ではありませんし、熱い人間同士の対局に感動することも多々あります。
シナリオ分岐型ゲームも同じです。完璧は不可能かもしれない、でも完璧に少しでも近づくためには何が必要か考える。それは本当に価値のある美しい試みです。そして自分はゲーム制作者ではありませんが、その試みがどのようなものだったのか、自分なりに考えて少しでも理解したいと思っています。
最後になりますが、日本には不完全なものの中に美しさを見出そうとする「わびさび」という精神があります。
これって凄くシナリオ分岐型ゲームに当てはまると思いませんか?
確かにストーリーの粗はあります。でもそれもひっくるめて面白いと感じられる、そうなればゲームをさらに楽しめるはずです。やっぱりエロゲは和の心なんですね。(謎結論)
長文失礼しました。最後まで読んでくだった方がいれば厚く御礼申し上げます。
ちなみにエロゲは和の心という謎結論は2回目の登場でした。
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