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知らないことや気になることをいろいろと調べて記録していきます
 




私は自分で絵を描くわけではないし、美術展に足を運ぶのは年1回程度と美術には疎い。従って、美術展の絵が全て贋作だったとしても、そのことに気づかずに鑑賞してしまうだろう。実際に本物(真作)と贋作の判別は難しく、美術館や収集家が贋作を見抜けずに購入してしまうケースも多い。

また、歴史上著名な贋作家も多い。
ハンガリー出身のエルミア・デ・ホーリー(Elmyr de Hory, 1906年 - 1976年)はルノワール、モディリアーニ、ドラン、デュフィ、マティス、ヴラマンクなどの贋作を1000点近く描き続け、それらを世界中の美術館やコレクターに売却した。青年期にはナチスの強制収容所に送られたことがあり、数奇な人生を送った。
オランダのハン・ファン・メーヘレン(Han van Meegeren、1889年 - 1947年)はフェルメールの贋作を制作したことで有名で、フェルメールの真作よりも巧みだったため贋作とわかってしまったと言われている。またナチス・ドイツの高官たちを騙して贋作を売ったということで英雄と評されている。
日本の瀧川太郎(1903年 - 1971年)は200点を超える西洋絵画の贋作を制作した。「俺の贋作には命がこもっている。原作以上の迫真力がある。」という言葉を残している。

著名な贋作家たちは、それぞれ特有の経歴や事情があり、残念ながらオリジナルの作品は売れなかったが、画家としての腕は疑いようがなく、歴史上の巨匠とも引けをとらない、という考えることができそうだ。
それでは多くの人に認められた美術の巨匠で、かつ贋作家でもある人物はいないかと調べてみたところ、2011年の世界の絵画競売市場でピカソを抜いて画家別の取引額でトップとなった台湾の近代書画家である張大千が贋作家としても著名であることを知った。

張大千
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BC%B5%E5%A4%A7%E5%8D%83

張大千(Chang Dai-chien, 1899年5月10日 - 1983年4月2日)は台湾、近代の書画家である。書、篆刻、詩の分野でも活躍した。彼はまた多くの専門家に贋作者の1人として知られている。

四川省に生まれ、若い頃より伝統的な中国画の技法の修行を積む。1917年に日本の京都へ留学し、京都芸術専門学校で3年間染色を学んだ。1920~30年代には上海等での個展で認められ、南張(南に張あり)とたたえられた。1933年には中央大学芸術専攻教授を務め1936年に上海中華書局が「張大千画集」を出版、徐悲鴻が序を書き500年に1人の画家と称賛される。

1940年から約2年7ヶ月に渡り敦煌の莫高窟に住み込み、壁画の模写に取り組む。模写は、芸術的で美しい作品となるように古ぼけた各時代の壁画の変色・剥落した部分を推定で補いながら制作された。1942年にその成果が発表されるが、それによって敦煌壁画の素晴らしさが大きく広まる事になった。

国共内戦が始まった後の1948年に香港に移り、以降はブラジル、アメリカなど国外に20年以上滞在する。1951年にアルゼンチンに移り、1953年にブラジルに移住している。海外で当時流行していた印象派や立体派などに触れ、中国画に西洋の技法を取り入れた作品を制作し始める。ピカソに面会しに行ったこともあり、写真が残っている。1957年、「秋海棠」という作品が評価され、ニューヨーク国際芸術学会において金賞を受賞。
1978年に台湾に移住。晩年は台北に住み、水墨画に専念。1982年、中華文化の特別芸術家として中正勲章受賞。1983年4月2日同地で心臓病により没。享年84。
代表作に「廬山図巻(台北国立故宮博物院所蔵)」「撥墨荷花図」「中郎授女図」「渓橋行船図」などがある。

いくつかの作品を動画で見ておこう。



また、没後に遺族が住居を台湾の国立故宮博物館に寄贈し、現在張大千紀念館となっている。
http://www.npm.gov.tw/exh96/dai-chien/jp01.html

張大千の贋作の対象は、石濤(せきとう、清代)や八大山人(はちだいさんじん、明代末期から清代初期)、巨然(きょねん、宋代)、関仝 (かんどう、五代後梁) と幅広い。大英博物館や、ボストン博物館にも張大千の贋作が確実といわれる作品があるそうで、その入手の経緯はわからないが、作品として確かなものということだろう。ボストン博物館にある関仝の贋作は以下のようなものだ。



張大千は1957年(58歳)以降は贋作制作は行っておらず、それは目を悪くしたという理由によるものだ。なるほど贋作は目を悪くしては制作できないな、と納得してしまった。

巨匠にして贋作者:張大千
http://reijiyamashina.sakura.ne.jp/daquin.htm

現在張大千の作品は非常に高値で取引をされており、そうなると張大千が制作した贋作は、オリジナルとはまた異なる高い評価を受けることがあるだろう。また張大千のオリジナル作品に対する贋作も当然制作されるわけで、その中にはオリジナルを凌ぐような贋作が現れるかもしれない。美術の世界では常に贋作の存在を意識しなければならないようだ。


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