洗い立ての車体を、小さな粒が連なるようにして転がり落ちていく。
こんな雨を何と呼ぶのだろう。
単に小雨──目を移ろう風情とは趣が少し違う。
やはり小糠雨か。こちらの方が似合いそうな気がする。

A4の紙に打ち込まれたゴシック体の文字の列。
僕のガールフレンド 君が書いて寄こした文面に
僕の胸は震えている。
「悩みは尽きぬ」というほど、君が悩んでいたとは……。
「10日、もしくは2週間ほどで退院できるはずです」
そう言って入院した君だったから、それほど心配もしていなかった。
ところが、予期せぬ腸閉塞の併発。
こちらの手術によって、食事も出来ず
点滴に繋がれたままの日が長く続いた。
腹部の手術とあれば、寝返りなぞ打てるはずもなく、
天井だけを見つめて、長い長い1日を過ごした。
ふと、「何のために生きているのか」
そんな悲しすぎる思いさえよぎったという。
そんな君を見られたご主人は「目に何の感情も見れない」と案じられた。
当然、筋肉は細り体重も減っていった。
やっと退院出来るまで、およそ2カ月間かかった。
退院後初めて会った君は、確かにほっそりとなっていた。
でも笑顔は以前と変わらず、
「さあ、これから体力回復だね」と励ましたつもりだった。
でも、その程度のことではなかったんだね。すまない。
女性にとっては大切なはずの髪、
その脱毛のひどさに苦しめられている。
栄養不足、ストレス等々……入院生活のさまざま要因が
重なってのことだという。
不意のトイレ事情、こんなことまで明かしてくれた。
そうであれば、体力回復のための散歩も、
好きなドライブもままならないことだろう。
そんなことまで文面に切々と書き連ねている。
僕のガールフレンド 「悩みが尽きぬ」ことはよく分かった。
でも、君にはいつも寄り添ってくれる最愛のご主人がいる。
そして、君をいつも温かく見つめている僕を含め6人の仲間たちがいる。
どう手を差し伸べればよいのか、具体的には分からない。
でも、抱える悩みをこうやって、皆に明かしてくれたように、
僕に、僕らに出来る手助けがあれば、遠慮なく言ってほしい。
ありきたりだが、とにかく「頑張ってほしい」。
僕のガールフレンド 「希望」がなくなったわけではない。
同じテーブルを囲む6人の仲間たちの目を見て欲しい。
皆、君の悩みが尽き果て、「希望」をつかむことを信じている。

車体を転げ落ちるのは、僕らの涙雨。
君の「悩み」をその中にしまい込み、一緒に流してしまいたい。