前回(将棋がつむいだ縁)はしんみりした話だったので、今回はうってかわって怖い思いをしたときの話を書きます。
たまたま見つけた将棋道場にふらっと飛び込んだ私。中はうす暗くて人の気配がありませんでした。「すみませーん」と何度か呼びかけて、やっと奥からマスターらしき人が出てきました。マスターは愛想がなくて素っ気ない感じ。「まだ他のお客さん来てないですか?」と聞くと、「こんな時間に来る客はおらん」とぴしゃり。早くも中に入ったことを後悔し始めた私でしたが、とりあえずマスターと一局指すことになりました。しかし力の差は歴然で、あっという間に吹っ飛ばされてしまいました。場違いな所に来てしまったという思いで、席料を払って帰ろうとしましたが、マスターはお金を受け取ろうとしません。そして「金はいいから早く帰りな」と言われる始末。私はほうほうの体(てい)でその場を後にしました。
ひどい目にあったと思いながら帰る道すがら、しかしだんだん考えが変わってきました。もしかして自分は助けられたのではないか…という思いが頭をもたげてきたのです。つまり、あの道場は夜になると人が集まってきて賭け将棋をしているのではないか? マスターは私の実力を見て、このままではいいカモにされてしまうと判断し、痛い目にあう前に帰らせてくれたのではないか、という考えです。
するとマスターが急にいい人に思えてきまきた。しかし、いや待てよ…とまた考えます。私を帰したのは優しさからではなく、賭け将棋の現場を見られては具合が悪いので、邪魔者を立ち去らせたのではないだろうか…と。
考えても真相はわかりませんでした。ただ単に愛想の悪い人というだけのことだったのかもしれません。みなさんはどう思いますか?