会社の近くで将棋の大会がありました。近所の人が参加する地元の小さな大会で、主催者はうどん屋さん。さすがはうどんの国、香川県ですね。2回参加しましたが、幸いにどちらも優勝できたので、それ以降は参加しなくなりました。
その後、会社の同僚で同期入社のF君が、自分の住んでいるマンションの一階が将棋道場になってるみたいだという情報をくれました。彼は会社のすぐそばのマンションに住んでいたので、私はそんな近くに道場があることに驚き、休みの日に早速行ってみました。
やや緊張しながらドアを開けると、中にいたお客さんたちの視線が私に向けられるのを感じました。それは「誰か新しい客が来たぞ」という感じではなく、「えっ⁉︎」という驚きの反応のように見えました。
マスターに話を聞くと、ここの常連さんの何人かがうどん屋さんの将棋大会に参加していたそうです。あの大会は、常連さんのうちの誰かがいつも優勝していたのに、私が参加した2回だけ私が優勝をさらったので、あいつはどこの誰だ?と噂になっていたそうなのです。そういうことでしたか、と少し遊んで帰りました。自分の名前は告げませんでしたが、近くの⬜︎⬜︎という会社で働いていること 、◯◯市から通勤していることなどを話しました。
それからしばらくして。ある日、会社の2階で仕事をしていると、1階で作業していたNさんが上がってきて「お客さんが来とるで」と教えてくれました。誰だろうと降りてみると、なんとマスターが来ていました。マスターは「◯◯市から来ている将棋の強い人がいるじゃろう」とNさんに聞いたらしく、それで私のことだとわかったNさんもすごい。マスターに用件を聞くと、「道場破りが来たから助けてくれ」と言います。
混乱した頭で次のように考えました。
・助けてくれと言うが、あの道場に行ったのは一回だけで、マスターともそんなに親しくなった覚えはないのに…
・道場破りとは大げさな。時代劇の見過ぎじゃないの? ちょっと強いお客さんが来て、マスターの手には余ったというだけでしょう。
・興味はそそられるが、仕事中なので行けるわけがない…
そこで、仕事があるから行けないと伝えると、「仕事なんかどうだっていいだろう」と無茶苦茶言われたのには閉口しました。
「仕事が終わったら行くから」と約束して、やっと帰ってもらいました。
その後、約束通り行ってみると、道場破り氏はとっくに帰っていませんでした。