人間賛歌・もっちゃん4649

アホな事は止めて

不思議と10年に一度大きな学校の荒れの波が押し寄せてきます。

しかし、今度はシンナーや喫煙などと、仲間を集める形態の非行ですから、陰にこもり人目を避けて夜の暗闇を好む陰湿な気味の悪い集団へと変化していったのです。

一対一の根性比べのようなそんな生易しいものではありません。
仲間に入ってしまうと抜けられなくなってしまうのです。
気の弱い、それでいて適当に威張りたい小者が二人、大阪から来た転校生の使い走りの役で学級から浮き上がってしまいました。
一人はWでもう一人はYです。

出来るだけの手を尽くしてクラスから浮かび上がらないように守ってやろうとするのですが、魅力と引力に引きずられていくのです
今までの神通力が効かなくなってしまい、どうしてやりようもありません。

教室に入っていないと聞くと、すぐに探し回り連れ戻す毎日で空しい努力を繰り返しているだけでした。
「Yのおかちゃんがきたぞ~」と囃し立てたり、蜘蛛の子を散らすように八方に逃げていき、つかまえるのも一人がやっとで、体力のいる毎日でした。

でも担任が心配して探しに来てくれているということは心に響いているようでした。

授業を抜けては体育館の裏に集まり喫煙やシンナーの回し飲みをします。

2年のときのKは一切そこには顔を出していませんでした。
無邪気な笑顔を浮かべすっかり乱暴者の面影は落としていました~

かなり目立つ体格ですから誘いは度々あったようでしたが、親に認め褒めてもらえたことがいつまでも持続し安定できているのでした

集団化して何人か集まったら暴徒化し、他校まで乗り込んでいってヤクザの騒動を模倣するように激しさを増していくのです。

いったん上下関係で結ばれてしまうと立ち直ろうとしても、そこは足を抜くのに命がけの覚悟が必要になってきます。

養護施設での経験があるものですから、肉親が誰か一人でも応援して見守っている子どもには、非行はないものだと当時まで信じきっていましたからね~
肉親の力を過信していたと気づいた時でもありました。

YもWも両親は健在でした。

大工の父親で旧い大きな構えの家の次男がWでした。
Yは年のはなれた弟と両親の4人家族でアパートの2階の二部屋が住まいでした。
狭い間取りで居場所がないと言う感じでした。

どちらも自己表現の場所は家庭では見出せなかったのかもしれません。
転校生の荒れ荒んだ姿に救いを求め癒しを求めていたと思っていました。

Wはグループから抜けたいと2学期に思うようになります。
その思いが相手に分かるらしく、校門のところで帰りに待ち伏せされるようになったようです。

「先生、もうアホな事は止めて進学したいし、仲間から離れたいのだけど、どうしたらいいですか~」
と放課後相談されるようになりました。

どうやら気配を察して仲間の手下を連れて裏門のところで下校するのを待っているらしいのです。
自転車通学でしたから、自転車置き場は裏門にありました。
そこを避けては帰れないのです。

日を追うごとに怖くて帰れない~と震えてきます。

「Wくん、本当に仲間から抜けたいと願うならとことんボコボコにされてもかまわないと覚悟を決めてBに話をしなさい!
強い意思を見たときにBは分かってくれるよ~
こそこそと良い時だけ仲間の仮面をかぶり、必要なくなったら捨ててしまうから怒っているんだよ~
真正面からW君自身が当たるより他に道はないよ~」と話して聞かせました。

真顔で真剣に聞いていましたが、「わかりました!」と決意の眼差しになり帰って行きました。

Wを送り出した後、心配で心配で30分くらい後に見回りをしましたが、静かな秋の夕暮れはいつもどおりに裏門を包んでいました。
翌朝、Wに昨日のことを真っ先に尋ねました。
「分かった~と言ってくれて、なにもされへんかった~」と言う返事でした。

「もう大丈夫だよ~
悪い夢から覚めた気分でしょう!クラスに戻れてよかったね~」と握手してやりました。

それからのWは人が変わったように受験勉強に打ち込み、商業高校に無事合格できました。
高卒の時に美容の勉強をしたいからといってドイツに留学したと言ううわさを聞いていました。

それから10年後くらい経っていたかしら?
Wがカリスマ美容師になり、大型スーパー店の2階に2号店を出したそうだと同僚の教師に聞いた事がありました
私にも来て貰って下さいと伝言がありましたが、一度も行ってません。

編みこみのヘアースタイルは自分で出来るし、軽い曲毛なのでパーマは不要でしたからね~
美容院とは縁がなかったのです。

今はヘアマニのお世話になって毎月予約が必要になっています・・・
奈良に帰ったら一度覗いてみましょうか~?

明日に続く~

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