ベッドに寝ている母が急に、「テレビの横にあるガラスに顔があるよ~」と言い始めました。
母もテレビを寝ながら見ていたはずで、自殺か他殺かと男性の転落現場で調べている画面だったのです。
テレビの横に小さな整理ダンスがあり、その上にガラス2枚の陳列ケースを載せてあります。
どうもそこのガラスのことを指差しているようなのです。
母のところに立っていき、同じ角度で見るのですが何も見えません。
「どんな顔なの~?」ときくと、
「男の顔・・・」というのです。
「何かお母さんに言いたそうなの?悲しそうなの?」というと、
「いいえ~、立派な顔だよ~
ほら、見えてるでしょ!」となおもいうのです。
気味が悪くなって、夜中にまでこれが続いたらどうしようと怖くなりました。
寝ている母にだけ見える顔って何なのかしら~??
「なにか言いたいことがありますか~?と、お母さんだけに見えるのなら聞いてみてよ~」
恨まれたり幽霊が出てきたりなんて、水子もいないし、さっぱり訳が分かりません。
「怖い顔なの?」
「いいや、大人の顔で真面目な立派な顔や~」
「変な話よねえ~
お母さんにははっきりと見えているんだものね~?」と独り言を言いながらガラスに反映しているのは反対側にある何かが映っているのだわ~と立ち上って調べ始めました。
ベッドの続きに、父が生前漢方薬の販売をしていた時に薬の陳列戸棚にして使っていた昔からの家具をおいてあります。
今は母の手芸品を並べてあります。
新築したので旅館に泊まっている錯覚を起こし、家に帰りたいと認知症の人は思うと聞き、旧い馴染み深い家具を目に見えるように置いてあります。
それが真向かいにありますから、顔の正体はここに在るに違いないと思ったのです。
5年前に壁飾りの仏面を掛ける場所がなく、柱などすべて壁になっていて釘を打てないし、諦めた飛鳥大仏をエアコンの下の戸棚の上に立てかけておいていたのです。
ほとんど天井に近くで、下からは見えません。
母のベッドの寝た位置から整理ダンスの上のガラスに、そして更に同じ角度で向かいの戸棚の奥の仏面が見えていたのでした。
奈良の飛鳥寺の飛鳥大仏の杏眼が好きだと義父が仏面にしたものでした。
美男子で立派な真面目な顔だという母の言葉はまさしくこのお顔だったのでした。
年末のキムタクの「武士の一分」という映画を見ているとき、母も見ていたのですが、蛍が出る頃ではないか~?と見えなくなった目のために妻に訊ねる場面のところで、
「おばあさんが青い着物を着てテレビの横に座っているがね~」と言った時も、怖い思いをしました。
窓辺にある椅子の上にブルーのイルカのぬいぐるみと白熊のぬいぐるみを乗せて座らせてあるのですが、それが映画の中の薄暗い場面と重なって人の座っている形に見えたのでしょうねえ。
慌てて明るい照明にして、正体を見せて安心させ、入り口のところに場所を移しました。
ときどきこんなサプライズがあるのですよ~

怖がりの私ですのにね~

やめて欲しいと思います
