内分泌代謝内科 備忘録

内分泌代謝内科臨床に関する論文のまとめ

2022/02/16

2022-02-16 07:49:11 | 日記
巨細胞性動脈炎の総説
Mo Med 2018; 115: 468-470

巨細胞性動脈炎 ( giant cell arteritis: GCA, 以前は側頭動脈炎と呼ばれていた ) は太い血管に起こる血管炎のうちで最も多い。ほとんどの場合で大動脈とその分枝に炎症を来たし、50歳以上で発症する。動脈炎は動脈の狭窄・閉塞・動脈瘤を来し、失明や四肢の酸素欠乏、脳梗塞の原因となり得る。

GCA は緊急性のある疾患であり、疑った場合は速やかに診断し、治療を開始する必要がある。

古典的な症状としては、頭痛、頭部の圧痛、視力低下、筋強直および筋痛がある。

治療の第一選択はステロイドだが、メトトレキサートを併用するとステロイドの量が減らせるかもしれない。トシリズマブは再発率を有意に低下させ、ステロイドの総投与量を減少させることが示されている。

1. 疫学

GCA は典型的には 50 歳以上で発症し、発症時の平均年齢は 70 歳である。女性は男性の 2.5 倍多く、生涯有病率は女性で 1%、男性で 0.5%である。北ヨーロッパで多く、罹患率は 20/10万・年である。南ヨーロッパでは罹患率はずっと低く、アフリカやアジアでは稀である。

ゲノムワイド関連解析 ( genome wide association study: GWAS ) で GCA との関連が認められたのは特定の HLA 遺伝子と、PTPN22、LRRC32、IL17A、IL33 である。ほとんどの遺伝子は血管内皮の機能、自然免疫系、サイトカインまたはサイトカイン受容体に関わる遺伝子である。

2. 臨床所見

GCA の急性の経過で発症することが多く、頭痛、頭部の圧痛、顎跛行が特徴的だが、全身倦怠感、体重減少、食思不振や微熱などの全身症状をしばしば認める。80-90% の患者では外頚動脈の障害に起因する症状、すなわち頭痛、頭部の圧痛、顎跛行、視力低下を認める。

頭痛は 70-80% で認め、片側性の場合も両側性の場合もあり得る。典型的には側頭部の激しい頭痛であり、鋭い、焼きつくような痛みと表現されることが多い。頭部の圧痛はふつう、頭痛に数週間先行する。頭痛と頭部の圧痛は視力低下に先行する傾向がある。視力低下は 30%で認め、10-15%では視力は回復しない。このため、GCA は緊急疾患であるとされており、可及的速やかに高用量ステロイドまたはステロイドパルスで治療を開始する必要がある。

GCA の 50%以上はリウマチ性多発筋痛症を( polymyalgia rheumatic: PMR ) を合併する。PMR は典型的には四肢近位部の筋痛と朝のこわばりを呈する。GCA の 40% で初期症状として顎跛行を認めるが、舌跛行は稀である。側頭動脈の圧痛や膨瘤を認めることがある。大動脈弓症候群や上下肢の跛行は一般的ではないが、大腿動脈や上腕動脈に病変が及ぶことはある。不明熱や体重減少の原因となることは稀だが、超高齢者ではあり得る。

血液検査では、赤血球沈降速度や CRP が高値となり、貧血を認めることが多い。

GCA の患者では同年齢の GCA ではない人と比較して心筋梗塞のリスクが 4 倍高い。脳梗塞のリスクは 2.5倍高く、動脈瘤や大動脈解離のリスクも 2.5 倍高い。

3. 病態生理

病態生理はよく分かっていないが、HLA-DR4-01 が GCA と関連するので、抗原選択と提示の異常が GCA の病態生理に関与するのかもしれない。

大動脈の外膜組織の樹状細胞は T 細胞を活性化させ、T 細胞をインターフェロンγ を産生する Th1、IL-17 を産生する Th17、IL-21 を産生する Th21 に分化させる。興味深いことにGCA では Th1 とインターフェロンγ が一貫して高値だが、いずれもステロイド治療では低下しない。一方、Th17 と IL-17 はステロイドに反応して低下するので、GCA の病態生理に関与しているのは Th17 なのかもしれない。

4. 診断

GCA は急性の経過で出現した激しい頭痛を契機に診断されることが多い。血液検査では、赤血球沈降速度と CRP を提出する。赤血球沈降速度は通常、50 mm 以上に上昇している。貧血と肝酵素の軽度上昇を認めることもある。

側頭動脈の生検がゴールドスタンダードの検査だが、GCA の 30%で陰性になる。生検はステロイド治療開始から 2週間以内に行った方が良い。病変は不均一に存在することが多いので、生検では大きく組織採取するように勧められている。病理所見では、断裂した内弾性板の近傍に巨細胞肉芽腫を認める。多核の細胞を認めることは診断に必須ではない。病変は動脈の外膜、中膜、内膜の三層に及ぶ。

MRI/MR アンギオグラフィーは動脈壁の浮腫が及んでいる範囲を確認するのに、非常に有用である。超音波は側頭動脈の病変を評価するのに利用できるが術者の技量によるところが大きい。CT アンギオグラフィーは大動脈の病変の検索には大変有用だが、解像度が高くないので細い動脈の評価には向かない。FDG-PET は大動脈の病変の評価に優れ、感度・再現性ともに優れるが、高価であり、脳動脈の評価には向かない。

5. 治療

第一選択はステロイド治療である。ステロイド治療への反応は早く、不可逆的な視力低下のリスクを低下させることができるからである。一般的には、最初の 1 ヶ月は 40-60 mg/day を投与し、その後は 1 週間から 1 ヶ月に 10% 以下の割合で減量していく。失明が差し迫っている場合のステロイドパルスの効果ははっきりしない。ステロイド以外の薬剤の治療効果も小規模な症例報告や臨床試験で検討されたが、現在までのところトシリズマブだけが再発率を低下させ、ステロイド投与量を減らす効果が認められており、GCA の治療薬として FDA に承認されている。

GCA に対するメトトレキサートの治療効果については 3 つの臨床試験で検討されたが、再発予防効果とステロイド投与量の削減効果については一貫した結果は得られなかった。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6205276/