2回に分けます
<故郷にてよめる> 1
樹々の青い彩が流れ落ちる
深い山峡を通して
黒い八ヶ岳の山容が
何時まで眺めても消えはしなかった
遠く異郷の街々に放浪ひ
そして今 故郷に向かへられた私・・・ ・・・
私の足の下には堅い大地がある
その土の感触のかそけさに
私の中にこみ上げて来るものがある
私の周りでは風が鳴った
栗の木の厚ぼったい葉が揺らぎ
薄の白い穂がさやさやと鳴った
その私の胸には
遙かな少年時代の夢が蘇って来る
私は 懐古主義者
未来はどうあろうと
私は ただ
過去を愛し思い出に幻を追ふ
聖らかな童話の世界
それは私の憧憬(ショウケイ)の光
自然の大きな懐の抱かれ
野兎のやうに気侭(きまま)だった私
清らかな星の瞳に憧れ
そのやうに純粋にならうとした私
-続-
1944年9月末某日
※この時期に生家に帰ってきたのか?
安心感と共に翻弄されている自らを
改めて みているようである・・・
かそけさ⇒(「幽し」)光・色や音などがかすかで、今にも消えそうなさま
憧憬(ショウケイ)⇒あこがれること。あこがれの気持ち
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