5月27日、せんだい文学塾で行われた短歌講座に出席した。
アドバイザーに文芸評論家の池上冬樹先生、講師には、な、なんと、大ファンの穂村弘先生。
穂村先生の本との出会いは、育児に没頭していた頃、親友から『面白いから読んでみて、電車で読んじゃだめなやつ。』と『本当はちがうんだ日記』をプレゼントされたのがきっかけ。
育児ノイローゼ寸前の私を救ってくれた本だ。
親友と私しか共感できないだろう現実における『驚異=ワンダー』をこんなにも面白く表現できる作家さんがいるなんて。
衝撃を受けた。その後、彼の作品を読み漁り、大ファンに。
そんな憧れの穂村先生の講義を生で聞けて、し、しかも!私が作った短歌が採用され講評してくださることに!
まさか、あの穂村弘先生にお会いできて、しかも私の短歌を講評してくださるなんて。
講評してくださると決まった日から、約40年生きてきて、経験のないたぐいの緊張が。
過去あれだけ頑張っても成功しなかったダイエットが、何もしなくても3キロ痩せる事態に。
どれだけ頑張っても夕飯づくりと共に飲むビールがやめられなかったのに、あっさり禁酒成功。
これはただ事ではないぞ。
ただ事ではないとはいえ、私もいい大人。
いい大人どころか、太ったただのだらしないおばさん。穂村先生の前では、冷静沈着に、いち生徒として理性的に振舞おう。
とはいえ、穂村先生はモテると耳にしたことがある。生穂村先生がいくら素敵であろうとも、動じるなどハシタナイこと。心に鎧を纏わせ、いざ出陣。
何を隠そう、岩手のバスと、東京のバスしか乗ったことがなかった拙者。仙台のバスに乗ることがこんなにも恐ろしいとは。
まず、駅から乗り場が見えているのに、出れない。飛んでいく方法しか思いつかない。
なんとかバスに乗るも、思ったより遠く、本当にこのバスでよかったのか終始、ハカハカ。
無事、文学館前について降りようとしても、
おつりを入れるとこに料金をいれてしまい
小銭がじゃらんじゃらん落ちてきて、焦る焦る。
仙台のバスを甘く見ていたよ、まさに『驚異=ワンダー』
運転手さんに『仙台のバスに乗るのが初めてなんですが、どこに運賃を入れればいいですか。』と聞いて、やっと下車。
この年齢で『初めて』なんて言葉、久しぶりに使った。
穂村先生に会えるのが楽しみで3時間も早く着いて、仙台文学館の周りを散歩。
想像していたよりワイルドな公園、散歩というより、登山。さすが杜の都仙台。駅はあんなに都会なのにこんなにも自然にあふれている。
仙台文学館でいわさきちひろ展が開催されていて、見学しながら待つことに。
ちひろよ、ごめん。今日ばかりは、こんなに素晴らしい絵を見ても緊張でなにも頭に入らない。
わびとばかりに、カフェでちひろ展限定のドリンクを飲む。
のどを潤し、落ち着きを取り戻してお手洗いへ向かっていると
向こうから、ふわふわと不思議そうに歩く人影が。
きたーーーーーーー!!!!!
穂村先生だ!!!!
しかもこちらに向かって歩いてくる。
どうしよう、あこがれの人が目の前に。
予定通りトイレに入ってしまう。
一言話すチャンスだったかもしれないのに。
穂村先生に会えた衝撃で出るものもひっこみ、手だけ洗ってトイレを去ると、目の前を穂村先生が通過!!!!!
なんだか、心にすんごい衝撃が。
目の前を通っただけなのに、こんなにも衝撃をくらうなんて、二時間の講義もつのかな。
緊張で体調が悪くなった時のため、出口に一番近い席を確保!!!
ついに講義がはじまった。
終始穏やかにゆっくりと話されていてすぐに緊張が和らぐ。
声が、やさしくとろとろで、鼓膜を柔らかく整えてくれているようだ。
講義もとにかく面白い。池上先生の進行もお上手。生徒の皆さんの短歌も素晴らしく説明もお上手。
ついに、ついにラスト、私の短歌が発表される番だ。マイクをもって話すも、話したかったことの1割も話せず、しかもマイクのスイッチを入れ忘れる。
こんな説明でも、池上先生が世界観を十二分に理解してくださり、穂村先生からは『エロい』『アウト』と評価してもらえた。
よし、穂村先生を短歌で赤面させることができた。
『エロい』だなんて最高の誉め言葉。
上手く話せなかったけど、短歌で赤面してもらえて光栄だった。
しかも短歌のなかでわざと『主人』と表現したところを、一瞬で見抜いていた。
『看護師っていってんのに、主人っていってんだよ』と。
さすが穂村弘。
あなどるなかれ!!!
穂村弘は伊達じゃない。
短歌を詠む天才であるもはもちろんだけど、他人の短歌の心情を読む天才なのだ。
前日まで心に鎧をまとい、武装していたのに
一瞬で、心がはだかんぼうに。
講義後のサイン会では
あんなにふわふわと優しい声を出していたのに渋く鋭い声をだされていて、驚異。
しかもサインを書く動作がなんとなく荒くって、別人のよう。黒い用紙に黒いペンで書く動作をされて、私の口からこんな声出たんだと、本人も知らなかった類の声を出してしまった。
理性的にふるまうと誓って出陣したのに、惨敗。
こんなに魅力的な人いるんだな。
モテるなんて簡単な言葉では表現してはならない、壮絶な魅力を感じた。
5月27日の1日で、1年分相当の感情が突き動かされた日だった。
あの時も、あの時も、あの時も、死ななくてよかった。
死にたかったあの時の自分に
『憧れの穂村弘先生に、短歌をよんでもらえる日がくるよ』
と教えてあげたい。