地理講義   

容量限界のため別ブログ「地理総合」に続く。https://blog.goo.ne.jp/morinoizumi777

136.日本の食料自給率は39%か68%か  農業政策の迷走

2014年02月17日 | 地理講義

2つの食料自給率
カロリーベースの自給率(39%)
3,000戸の平均的家庭からのアンケートをもとに、各食材の輸入割合をカロリーで計算したものである。1965年には73%の自給率であったが、2012年には39%に低下した。輸入食品の割合が急増した。2倍以上も輸入が増えたのは、牛肉・豚肉・植物油である。牛肉・豚肉の油炒めやフライが盛んに食べられている。
日本の食料自給率を下げた食品は、輸入の増加した牛肉・豚肉とそれを調理する植物油である。日本国内で育てられる高級和牛は、黒毛和牛・褐色和種・日本短角種・無角和種の4種類のブランド牛に限られる。一般の精肉店で売られる国産牛肉はホルスタインのオスである。
日本では飼料作物としてのとうもろこし・大豆・牧草などの生産量が少ない。国産飼料で育てられる和牛・国産牛・豚肉は16%である。残り84%は輸入飼料・輸入牛肉・輸入豚肉の合計である。
カロリーで計算すると、飼料作物・肉・植物油の輸入が多く、日本の食料自給率は39%である。
生産額ベースの自給率(68%)
輸入食品は国内産するよりも安価である。カロリーベースでは高カロリーだが、使用量も購入金額も小さいのが食用油である。輸入肉類・小麦も安い。
国内産の米・肉は高価であり、生産額ベースの自給率は高く、68%になる。日本農業の国内自給率は、先進国の中では高い。
また、衛生管理の行き過ぎから、パーティー・宴会後の食べ残しの全量廃棄、賞味期限切れによる廃棄、3分の1ルールによる廃棄、成分誤表示による廃棄、価格暴落時には畑に放置された野菜・果実、政府指定冷蔵倉庫で保管されたままの古米などを考慮すれば、日本の食料自給率は90%を越える。



※ 日本の平均的な食事の変化
自給率21

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



※ 日本の2つの食料自給率(カロリーベースと生産額ベース)自給2012

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 左図をクリックすると、大きな図になる。




戦後の農業政策
(1)  終戦後から農業基本法制定まで(1945~61年)
終戦後のめざましい経済成長のもと、農業と他産業との間の生産性と従事者の生活水準の格差是正を目的として、農業基本法が1961年に制定された。
(2)  農業基本法のもとでの農政展開(1961~80年)
農業基本法を法的根拠に、需要が見込まれる畜産や果樹、野菜等の生産の拡大や、農業従事者が他産業従事者と均衡する所得を確保できる規模拡大の推進等が展開された、
(3)  国際化の進展と食料・農業・農村基本法の制定(1980~99年)
急速な経済成長と国際化の著しい進展等により、農林水産物の輸入圧力が強まった。日本経済の急成長により、農業部門の占める経済割合が減り、農政をめぐる状況が大きく変化した。
(4) 2005年に新たな基本計画が策定された。2007年度からは新たな経営所得安定対策や米政策改革推進対策が実施され、農地・水・環境保全向上対策の農政改革三対策が開始された。
(5) 2018年に減反政策が廃止される予定である。米の輸入自由化により、安価な輸入米の流入が進むとともに、日本の米作中心の農業は衰え、国際競争力の強い農業が生き残ると予想される。

(付表)戦後農政の流れ


(付表)戦後農政の流れ

※ 2009年(民主党):農業者個別所得補償制度。米価引き下げによる農家の所得補償。
※ 2018年(自民党):経営所得安定対策。米の減反政策廃止と米市場の開放予定の損失を補償。環太平洋戦略的経済協定(TPP)交渉の進行次第であり、実施の可否も時期も流動的な状況である。
※ 民主党案も自民党案も、農家への所得補償金額は年1兆円を越える。食料としての米を国内産と輸入米で安定確保し、値下がりによる農家の損失を様々な名目で手厚く保護する。これは、選挙における農業者票の確保をねらった政策であり、食料の安定供給と農業者の将来を考えたの政策ではない。このような政治哲学のない政策を、日本の政治は与党・野党を問わず、戦後一貫してきた。その結果として日本の農村が過疎化が進みつつも、美しい景観を維持してきたのである。 

米生産推移


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

政府米低温倉庫
東京都江東区深川の埋め立て地に、土地建物160億円をかけ、1996年に政府米冷蔵倉庫がつくられた。
政府米としての古米と輸入米、最大55,000トンを、15℃で長期保管する。年間維持費5,000万円である。
輸入米は毎年30万㌧~50万㌧をミニマムアクセス米として輸入を義務づけられているが、民間倉庫の方が維持費は半分ですむ。
2010年、民主党政権は民間倉庫を利用した方が安いことから、政府米保管倉庫を廃止した。
取り壊し費用に130億円をかけ、跡地を大学などへ売却し、取り壊し費用を回収する予定。

深川倉庫


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。